今、丈夫さを手に入れたハンバート
ハンバートが歌う、ポップでリアリテ
ィーのある前向きな歌

フォークやカントリーをルーツにした穏やかで牧歌的なデュオのイメージもあるふたり。だが、内に秘めたる熱き悶々とした想いを感じる曲にも魅力を感じていた。11枚目のアルバム『丈夫な私たち』は、その名の通り、丈夫な「私たち」が描かれている。ただ、内に秘めすぎることもなく、熱すぎることもなく、悶々ともしすぎていない。くよくよすることもなく、今の自分たちを受け止めている。当たり前だが、無理なポジティブの押し売りではなく、ナチュラルでリアリティーのある年相応な生き様が描かれている。だからこそ、僕たちも自然に感情移入ができる。サウンドもルーツに捉われすぎず、自由でスケール感を増している。オリジナル楽曲を作りながらも、タイアップなどの依頼楽曲も並行で作り続けられる、タフさを持ち合わせたのも大きい。丈夫なハンバート ハンバートが、僕たちに自然と寄り添ってくれるアルバムが完成した。
ハンバート ハンバート 佐藤良成
ーー今回、12曲収録されたアルバムの中で、約半分に近い5曲がタイアップ楽曲や提供依頼楽曲であることに驚きましたし、何だか嬉しかったです。
佐野遊穂:いっぱい依頼してもらえることはありがたいですね。
佐藤良成:アルバムは1年ぐらいで作ったんですけど、その間に断続的に曲を作って欲しいという依頼があったので、間で作っていましたね。お題があって曲作りするのも、お題がなくて曲作りするのもどっちも常に新鮮です。
佐野:依頼も、それぞれオーダーの仕方が違うんですよ。具体的に依頼して下さる人もいるしね。
佐藤:アニメ『プリンセスコネクト』に「旅立ちの季節」を楽曲提供したんですけど、以前に依頼してもらったアニメと同じ金崎貴臣監督で。今回も2シーズン目だし、劇場版やゲーム版でも御一緒してるから、この監督と作るのは5、6曲目になります。最初はレコード会社のディレクターから依頼がきていたけど、その内、監督自体から要望がくるようになって。前は、「OASISの「Don't Look Back in Anger」みたいな曲を作って下さい」という依頼がきたり。「俺も好きだよ」と(笑)。
佐野:そういう風に言われなかったら、いつもは好きでもそういう曲は作らないよね(笑)。
佐藤:まぁ、サビで「ウォー!」と言いたい曲なんだろうなと受け止めて、おもしろいなと。そういう依頼が意外と大丈夫なので、形が決まっていてその中で作るのは苦にもならない。こんなに依頼されて作ることが、向いてるとは思わなかったですね。始めはやりにくいかなと思ったんですけど、これは発見でした。
佐野:前にも、「あのミュージシャンのああいった曲が欲しい」と言われて、それっぽく聴こえるポイントを打ち込みで(佐藤が)入れ替えているのを見ていて楽しそうだったんだよね。好きなコスプレをしている感じというか(笑)。
佐藤:ハロウィンのコスプレみたいなね(笑)。バンドを始めた頃のコピーバンドをどうやったら同じ感じになるかをやっていた原点に近いです。ずっと若い頃はオリジナルでいないといけないし、何かを真似しちゃいけないと思っていたけど、良く考えたらみんな真似からモノを作っていますから。オリジナルというのは、もっと根源的な部分なんでしょうね。それに違う人がやったら、オリジナルになりたくてもなれないですから。

ハンバート ハンバート 佐野遊穂

ーー僕が驚いて嬉しかったのは、約半分がタイアップ曲や依頼曲なのに、アルバムとして聴いた時に何の違和感も無く統一感があったんですね。
佐藤:最初は統一感が無くなるかなと思ったんですけど、いざ進めてみたら、どれもハンバート ハンバートだし、今のハンバート ハンバートとして呼応していたんです。同じ人の頭で作っていると、なんの違和感も無い。自分の気に入った曲を録音しているだけだしね。別に人の尺度で決めているわけじゃないので、どんなに縛りがあっても可能性は山ほどある。どれも同じ好きな曲です。
ーー昔は良い意味で寡作タイプと思っていたので、気が付くと今回みたいに多作タイプになられているのも、とても嬉しかったです。
佐藤:昔は確かに寡作で、いつか曲ができなくなるんじゃないかと思ってましたよ。いつか輝きが失われていくと思っていましたから。天才は27歳で死ぬんじゃないかとも思ってましたけど、あれも都市伝説みたいなもので。こういうものだという幻想が作られていて、その幻想のドラマを消費者としては楽しみますが、ミュージシャンとしては関係ないなと。
佐野:本当にドラマチックな人だっているけど、破天荒芸術家だけがミュージシャンじゃないしね。今日、朝ラジオ聴いてて、ある曲を聴いた時に良成が衝撃を受けていて!
佐藤:そうそう! 自分と全く違うから(笑)。
佐野:目から鱗だったんだよね!
佐藤:そうなんだよ! どっちが正解とかじゃなくて、同じ音楽でも色々と違うものがあることに驚いたんだよね。
佐野:私たちが若い時は、今の私たちみたいなモデルがなくてね。
佐藤:だからなにかに寄せようとしていたんだよ。
佐野:自転車で言うと、最初は補助輪が無しだから押さえといてもらっていたけど、気付いたら押さえられて無かったのに走れていたという感覚だよね。
佐藤:最初の頃は寄せてもいけないという思いも同時にあったし、不安だったんです。人を見ないと正しいかどうかわからなかったけど、本当は正しさなんてどうでもよくて。でも自信が無いと、そんなことは言えない。曲は降って湧いたものじゃないといけないとか、セッションで作らないといけないとか、色々思い込んでいたから……。コンピューターで最初から作る音楽もあるけど、ボブディランが好きだったので人里離れた場所でずっとセッションで作るものだと思い込んでいて。そういう時もあったけど、でも、それはロックの幻想・伝説だった。結果、どう聴こえるかが大事だし、自分には自分にあったやり方をやるしかない。そういうことを歳と共に気付けたし、クライアントがいて仕事する良さにも気付けた。と、昔は今思っている様なことは言えなかったと思います。
ハンバート ハンバート
ーー7曲目の「黄金のふたり」が大好きで、最後の<むかしなら絶対こんなこと言わなかった でも今思うよ 今の方がいい>という歌詞を、インタビューしながら思い出していました。
佐野:詞の内容は今の自分そのまま度が高いよね。
佐藤:そのまんまの感じがおもしろい、身も蓋も無くておもしろいなと。昔だったら思いつかなかった歌詞ですよ。しょうもないことを切り口にして、しょうがないことこそ感動すると思うんです。そういうつもりで昔に「虎」を作ったんですけど、あれは熱いんですよね。でも、「虎」に通じるのかな? 自分じゃわからないかも……。詞にならないようなことの方が、やっぱりおもしろいですね。
佐野:ストーリーになってる歌詞もあるけど、どうやって出てくるかはわからないし。
佐藤:マエケン(前野健太)は詞が先だけどね。
ーー良成さんはメロディーが先ですもんね。
佐野:それに最初は(歌詞に)「君」と「僕」しか出てこなかったし。
佐藤:他の表現方法が思いつかなかったからね。
佐野:「君」と「僕」だけなら、いつか曲ができなくなるよねと言っていたから、視界がグッと広げられたのは大きかった。
佐藤:「君」と「僕」は、すぐに尽きて、2枚目のアルバムくらいから他の歌詞も出てきたけど、要素の可能性は本当に増えてきたね。
佐野:わりと最初は自然と色々な歌詞が出てきたというよりは、「君」と「僕」以外の曲を作らなきゃみたいな感じだったんじゃない?
佐藤:そうするとまた「君」と「僕」の歌詞もできるんだよね。同じ食物ばっかりの連作だと畑も痩せるけど、色々なことにチャレンジすると土もフレッシュでいられるから。
ハンバート ハンバート
ーー「黄金のふたり」も或る意味、「君」と「僕」の歌詞の世界観ですけど、初期の「君」と「僕」とはまた違いますもんね。
佐藤:そうですね。あと、詞も曲調も手グセが出てくると、「ハンバートのこの曲みたいなのを作って下さい」と依頼が来るのも新鮮だったね。それでもこれまでとは違う角度で作らないと新鮮じゃないし。
佐野:人に「この曲を歌ってみて」と言った時、AさんとBさんで、それぞれ歌うパートが違ったりするんですよ。メインじゃない部分を歌う人もいたり。そういう意味では、同じ曲でも取り出す部分が違うから結局は自分らしさが出てくる。
佐藤:同じ曲でも見え方は違ってきますからね。これも昔だったら、そんな風には考えられなかったけど。
ーー今回、「手紙」という歌詞がとても出てくるんですけど、さっき、ちらっと聞いたんですけど無意識なんですよね。
佐藤:無意識ですね。
佐野:逆に気付いたら避けちゃうもんね。
佐藤:次のアルバムでは「手紙」と、こないだ多いとわかった「洗濯物」は避けるかもね(笑)。
佐野:自分のことはわからないもんね。
佐藤:「手紙」はなんで出てきたのだろう? 小説を書く人も言いますもんね、勝手に物語が変わっていくと。登場人物が勝手に話し出していく、そういうのもあるのかもしれないですね。
ーー聴き手は勝手なもので良いアルバムを聴くと、次はどんなアルバムなんだろうと期待しちゃうのですが、もう今は燃え尽きて何も考えられない感じなのか、それとも次はこんなことをやってみたいという感じなのか。良成さんはどちらですか?
佐藤:今はもちろん、このアルバムを気に入っているけど、次やるならば多分こうやりたいというイメージがあるから、早く作りたいという気持ちですね。
ーーむちゃくちゃ楽しみです。ありがとうございました。
ハンバート ハンバート
取材・文=鈴木淳史 撮影=河上良

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