【この2.5次元がすごい】刀ミュ最新
作、鶴丸国永と大倶利伽羅の2振りが
見せた歴史ドラマ

　毎公演、大きな注目を浴び、人気を集めている“刀ミュ”ことミュージカル「刀剣乱舞」シリーズの新作で、9月4日に大千秋楽を迎えた「ミュージカル『刀剣乱舞』 鶴丸国永 大倶利伽羅 双騎出陣 ～春風桃李巵～」。鶴丸国永と大倶利伽羅が2振りで出陣する今作は、2振りにとって縁のある、伊達政宗の人生に寄り添う物語でした。そこで大千秋楽を迎えたばかりの今作について、1部のミュージカルパートを紹介します。

物語に観客を惹きつける豊かな表現力

(c)NITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会　伊達政宗といえば戦国武将の中でも人気が高く、一説では伊達男の由来にもなったと言われている人物です。高い教養があり筆まめでもあったため、現代でも数多くの書状が残されています。そんな“文”がキーワードとなり展開される物語。舞台への没入感はさまざまな演出や構成が作用しますが、今作では観客が鶴丸国永や大倶利伽羅とともに伊達政宗の文を読んでいくことがその役割を果たし、客席で見ていても、徐々に伊達政宗の心に触れていくようでした。

　鶴丸国永を演じる岡宮来夢さんと大倶利伽羅を演じる牧島輝さん。そこへ伊達政宗を演じる岡幸二郎さん、虎哉宗乙と支倉常長の2役を演じる唐橋充さんが加わり、政宗がしたためた文にまつわる出来事を軸に進んでいく物語を立体的に表現してくれます。虎哉宗乙は伊達政宗の教育係であった僧で、任務のため政宗の幼少期へと向かった鶴丸国永と大倶利伽羅は、幼い政宗と共に虎哉宗乙の教えを受けることに。その教えの1つである、文字や言葉だけではなく体験によって伝えることを真髄とする“不立文字”を実践すべく、2振りは豊臣秀吉や片倉小十郎になりきって歴史上の出来事を再現していきます。この不立文字を通して時代背景や状況を説明してくれるのですが、それだけでなく、様々な人物を演じる芝居での演技力の高さも大きな見どころになっていました。

(c)NITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会　岡宮来夢さんは、どこか達観したような視点を持ちながらも、驚きを求めお茶目な姿を見せる姿、儚げな表情やからりとした笑顔など、さまざまな表現で鶴丸国永を魅力的に演じていました。また、何気なく口ずさむ歌に意味の深さを感じさせたり、伊達政宗の正室である愛姫の手紙を読む歌では柔らかく繊細な響きを聞かせるなど、歌の技術力と表現力の高さに感動させられる場面がいくつもありました。

歴史のなかで生きる人々の思いが温かく劇場に広がる

(c)NITRO PLUS・EXNOA LLC/ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会　伊達政宗の言葉や思いが書き残された手紙。中にはたわいもないものもあると言われますが、書き残さなければ埋もれてしまう思いもあったのかもしれません。伊達政宗から大切な書状を託された支倉常長らの「慶長遣欧使節」は残念ながら失敗し、失意の中で帰国したと知られています。ですが本作で描かれるのは、海を渡るべきその書状を無事出帆するまで時間遡行軍から守り切るという使命。伊達政宗が思い描き、支倉常長が託された希望に舞台を通して想いを馳せることができ、優しく温かい気持ちが劇場に広がっていくようでした。また、この任務の中で鶴丸国永と大倶利伽羅の関係性も変化していきます。牧島輝さんは、この本丸に顕現したばかりの大倶利伽羅が、人の営みに触れ、仲間と共に戦うことで徐々に心情を変化させていく様子を繊細に表現し、これまでミュージカル「刀剣乱舞」シリーズの作品で描かれてきた“その後”へとつながる物語を丁寧に演じていました。

　あと10年早く生まれていれば天下がとれていたかもしれない、と言われることもある伊達政宗。歴史にもしもはありませんが、過去に生きた人々の思いやそれぞれの人生を、遺された文をテーマとして教えてくれた「ミュージカル『刀剣乱舞』 鶴丸国永 大倶利伽羅 双騎出陣 ～春風桃李巵～」は、2振りの刀剣男士の成長物語というだけではない、味わい深い物語だったのではないでしょうか。