思わずステップを踏みたくなる、ハッ
ピーミュージカル! 『モダン・ミリ
ー』 ゲネプロレポート

ミュージカル『モダン・ミリー』が、2022年9月7日(水)、東京・日比谷のシアタークリエにて開幕した。(東京公演は9月26日まで。10月1日~2日には大阪・新歌舞伎座にて上演)

本作は1967年公開のミュージカル映画『モダン・ミリー』をもとに、公開から30年の時を経て舞台化され、2002年にブロードウェイで初演。トニー賞6部門を受賞したヒット作で、心おどるナンバーと華やかなダンスに満ちたコメディ・ミュージカルだ。
今回上演する日本版は、近年数々の話題作を手掛ける小林香の演出のもと、ミリー役の朝夏まなとをはじめ、華と実力を兼ね備えたキャスト陣が集結。約2年半前、コロナ禍により開幕直前で中止となった公演の、待望のリベンジ上演となる。
ここでは、初日公演前日に行われた公開ゲネプロの模様をお届けしよう。
【STORY】
1920年代のニューヨーク。「大切なのはロマンスよりも理性!」をモットーに、モダンガールに憧れて田舎町から出てきたミリー(朝夏まなと)は、下宿先で知り合ったドロシー(実咲凛音)や偶然の出会いを繰り返すジミー(中河内雅貴)と仲良くなったり、玉の輿を狙って就職した会社の社長・グレイドン(廣瀬友祐)に猛アプローチをかけたり、世界的歌手マジー(保坂知寿)のパーティーに参加したりと新しい生活を楽しむ。
そんな時、ドロシーが行方不明に……! 下宿先の女主人ミセス・ミアーズ(一路真輝)が、下宿にきた身寄りのない女性たちを誘拐していると知ったミリーたちは、ドロシー救出作戦を決行。果たしてミリーたちの運命は!? そして、ミリーが見つけた本当に大切なものとは――。

舞台セットの2階に配置された生バンドが演奏する軽快なジャズのオーバーチュアから、物語は幕を開ける。
モダンガールを目指して田舎からニューヨークへやってきたミリーは、地味な服装と髪型を脱ぎ捨て、垢抜けたおしゃれな服を着こなす“フラッパー”に華麗に転身。ミリーを演じる朝夏まなとのすらりと長い手足が、フラッパースタイルの魅力をより一層引き立たせる。モダンガール、モダンボーイと共に歌い踊る華やかなオープニングナンバー「とびきりモダンなミリー」で、観客は一気に100年前のニューヨーク、狂騒の時代へと誘われていく。
朝夏のミリーは、好奇心旺盛で野心家、じっとしていることがなくエネルギーに満ち溢れ、くるくる変わる表情と、すべてを映し採ろうとする大きな瞳が印象的だ。
「玉の輿に乗りたい」という願望はあるものの、仕事に就くとタイピストとしての才能を発揮。時代が時代なら、きっと起業していたのでは? と思わせるバイタリティを持ち合わせた女性だ。
そんなミリーと出会い、惹かれていく青年・ジミーを演じるのは中河内雅貴。出自が見えず謎めいた部分のある人物だが、自分の目標や夢に一直線なミリーに、めげずに誠実にアプローチし続ける姿がいじらしく、その人間味のあるキャラクター像には親しみが湧く。一方で、ふとしたときに、ミリーを気遣う仕草をナチュラルにする姿にはときめきを感じさせられ、一言では言い表せない魅力を放っている。
中河内といえば、なんといってもダンス巧者である。劇中ではそのキレのあるダンスを堪能でき、朝夏と組んで踊るシーンも迫力と優美さがあり、本作の見どころにもなっている。そして力強く伸びやかな歌声が耳に残る、ミリーを想い歌うナンバー「角を曲がって」は、あたたかい気持ちになり、聴き応えのある一曲だ。
実咲凜音扮するドロシーはミリーと同じ下宿先に住む女優志望の女の子で、金髪の長いブロンドヘアーに、ロマンティックで可愛らしいワンピースに身を包む。ミリーとはまた少しタイプが違い、「読んでる雑誌が違いそう」な二人だけれど、意気投合し親友同士に。どの場面もそうだが、宝塚時代のトップコンビの二人を観ている人には、きっと新鮮に映るだろう。朝夏との息の合ったタップシーンも見どころだ。
ミリーが玉の輿を狙って近づく社長・グレイドンを演じるのは、廣瀬友祐。個性的な人物ばかりが登場する本作の中でも、いちばん“クセ強め”なキャラクター。芝居がかった一挙手一投足がおもしろく、基本的に常に「様子がおかしい」(笑)。とりわけ、ドロシーと出会い、一瞬で恋に落ちる場面での常軌を逸した高揚ぶりは、笑わないでいるほうが難しく、喜劇俳優としての魅力も存分に開花させている。実咲とのアクロバティックなダンスも見応えがあり、劇中でも必見の場面と言えるだろう。

保坂知寿演じる世界的歌手のマジーは、登場の歌唱シーンから、女神のような神々しさとオーラが眩しく、その劇場全体を包み込むような歌声と姿は、ちょっと拝みたくなるほど。大切なものを見失いそうになっているミリーを優しく悟し、人生の先輩としてあたたかく励ます姿、マジ―の言葉に感化されミリーが変わっていく様子は、観ていて胸が熱くなる。

ミリーたちの下宿先の女主人ミセス・ミアーズを演じるのは、一路真輝。『アニー』でいうところのハニガン先生のような立ち位置の女性だが、ミセス・ミアーズの、怪しくもどこか憎めないチャーミングさがおもしろく、個性的なビジュアル含め、作中で良いスパイスになっている。
実は裏で、入居してきた身寄りのない女性を誘拐し「人身売買」していた、という黒幕的存在の彼女。ドロシーを誘拐した際、ミリーらの思索で“新入り”としてマジ―が宿に入所する場面では、互いに一歩も譲らないぞ、という落ち着きや凄みを纏ったベテラン二人の絶妙な間合いややり取りは、見応えたっぷりだ。

他にも、ミリーと同じ職場で働くミス・フラナリー(入絵加奈子)、宿の従業員のバン・フー(安倍康律)とチン・ホー(小野健斗)ら個性的でコミカルなキャラクターが物語を彩る。劇中で大活躍のアンサンブルキャストも多彩な魅力を放ち、一人ひとりのパフォーマンスにぜひ注目してほしい。

終盤に向け、ミリー、ジミー、ドロシー、グレイドンそれぞれの「恋」が一気に走り出す。玉の輿を目指し、割り切った考えを持つことが現代的な生き方、と思い込んでいたミリーが、マジ―やジミーらと出会い、次第に「自分にとって何が一番大切なのか」と気付き、自己を見出していく姿は、時代を越えた普遍的なテーマとして、胸に響くものがあるだろう。
そして最後には、ジミーやドロシーの隠された「真実」も明かされる。ある意味、とても“ベタ”な展開ではあるのだけれど、ベタだからこそもたらすことができる幸福感というのは必ずあるのだ、と作品を通して改めて教えられたような思いがした。
良質な音楽とダンス、テンポよく進む芝居と数々の笑いに満ちた本作。世情もあり、なかなか前向きになれない日もあるけれど、この作品が上演する3時間は、一切の現実を忘れさせてくれるパワーと愛に溢れている。その束の間の時間に癒され、観終わって劇場を出る頃には、あたたかな気持ちと、ステップを踏みたくなるような足取りの軽さを感じられるはずだ。

朝夏まなと(ミリー・ディルモント役) コメント
2年と5ヶ月前、立つことができなかったセットの中に立てていることが幸せです。
稽古中から新キャストを含めての2022モダンミリーカンパニーが、前回よりもさらにパワーアップしようと演出の小林香さんのもと、ひとつにまとまって、この作品を楽しく元気に! お届けしたいと盛り上がっています。
ご覧になったお客様が少しでも「前を向いて歩こう」とか「明日も頑張ろう」と思って下さるようにやるっきゃない!精神で頑張ります。

取材・文・撮影=古内かほ

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