後世にまで伝えられるべき
才能を今再び!
薄幸のシンガーソングライター、
ジュディ・シルが遺した2枚の名作

紛れもない名盤。
だが、悲運のうちに葬られたアルバム

1972年末になってようやくセカンド作のレコーディングが始まる。約一年かけて完成した『Heart food』(‘73)と題される2作目も、ジュディの才気煥発というべき、完璧な仕上がりで、彼女はパフォーマーであるだけでなく、オーケストラの指揮、アルバムの全曲のアレンジも自ら行なっている。音楽的にもより凝ったものになり、前作に続き、ヴォーカルの多重録音は高度なものになっている。たとえようもない美しい名曲「The Kiss」「The Vigilante」に聴かれるようなペダルスティールやバンジョー、フィドル、ハーモニカなどを加えるなどし、少しカントリー寄りになったアンサンブルもいい。「The Phoenix」、荘厳な「The Donor」ほか、このアルバムも月並みな曲がひとつもない。これが注目されなかったら、他の誰のアルバムならいいと言うのだと噛みつきたくなるのだが、これがどうしたことか、前作以上に無視されてしまうのだ。原因はアサイラムがアルバムのプロモーション、宣伝・広報活動を一切行なわなかったのだ。理由のひとつにはアルバム完成後のメディアのインタビューを受けたジュディがデヴィッド・ゲフィンがホモセクシュアルであることを暴露し、それに激怒したゲフィンの仕打ちだとされている。この話が本当だとして、当時、ゲイ、ホモセクシュアルであることが公になることがいかに大きな痛手だったとしても、それならアサイラムからアルバムリリースしないという手だってあったのではないか。真相は分からないが、とにかく2ndアルバム『Heart food』も傑作であるにもかかわらず、まったく売れなかったというか、リリースされたことさえ一般には知られていなかったという。そして、非情にもデヴィッド・ゲフィンはジュディをレーベルから解雇する。
※ゲフィンがゲイであることはジュディが言及する以前から周知の事実で、ニューヨークのゲイ・クラブで夜な夜な派手に遊ぶ様もメディアに取り上げられていた。とすると、ふたりの間の確執の理由は別にあるのではないだろうか?

その後、ジュディの消息はまったく聞かれなくなる。そして、1979年11月にコカインの過剰摂取で死亡するのである。

OKMusic編集部

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