勅使川原三郎&佐東利穂子が記者会見
~愛知県芸術劇場でダンス『風の又三
郎』、チェリストのヨナタン・ローゼ
マンと共演する『天上の庭』を上演

愛知県芸術劇場が2022年9月、芸術監督の勅使川原三郎プロデュース公演を上演する。9月3日(土)~4日(日)に宮沢賢治原作「ダンス『風の又三郎』」(以下『風の又三郎』)、9月16日(金)~17日(土)にチェリストのヨナタン・ローゼマンと共演する「ダンス・コンサート 勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』」(以下『天上の庭』)を披露。勅使川原とアーティスティック・コラボレーターの佐東利穂子がオンライン記者会見に出席した。
国際的評価の高い振付家・ダンサーの勅使川原は、本年4月から自身のダンスカンパニーKARASの海外公演を再開し、7月にヴェネツィア・ビエンナーレ2022にて金獅子功労賞を受賞。また5月に新国立劇場オペラ『オルフェオとエウリディーチェ』の演出を手がけ多方面で話題となった。その波にのって愛知県芸術劇場から発信するプロデュース公演にも注目が集まる。
(左から)オンライン記者会見中の勅使川原三郎(愛知県芸術劇場芸術監督)と佐東利穂子
■昨年の好評を受けて早々に再演が実現!~ダンス『風の又三郎』
『風の又三郎』(勅使川原が演出・振付・美術・衣装・照明デザイン・音楽編集)は、昨年7月、「愛知県芸術劇場ファミリープログラム2021」にて初演された。愛知県のダンスのさらなる活性化と、地元バレエ団のダンサーたちの交流促進を図るプロジェクトだ。好評を受けて本年の再演が決定し、一部新規募集ダンサーが加わる。
ダンス『風の又三郎』チラシ
勅使川原は「『風の又三郎』の再演はとても大事だと思っています」と切り出し、「地元の愛知県のグループ・研究所・バレエ団の中から選ばれたダンサーたちが結集し、去年以上の作品にする意気込みでリハーサル中です」と抱負を述べる。
宮沢賢治の小説「風の又三郎」の舞台は東北の小さな谷あいの村。そこに転校生がやってきて、夏休みの終わりから新学期の始まりの数日間が描かれる。勅使川原はダンス化にあたって佐東の朗読を加えた。「佐東利穂子の朗読が重要です。彼女の朗読によって音楽構成と共に内容が進行していきます」と勅使川原は説明。そして再演に際して「一人ひとりのダンサーの成長は1年のなかで大きなものがあるでしょうし、新しく参加するダンサーたちも生き生きとした風を吹かせてくれるだろうと思っています」と期待を寄せる。
ダンス『風の又三郎』 (c)Naoshi Hatori
ダンス『風の又三郎』 (c)Naoshi Hatori

ダンス・朗読の佐東は、宮沢賢治の文章を音読すると「なおさら生き生きしてくる感じがあります」と語る。「ただ目に見えている風景ではなくて、そこに動いている風といったものまでも言葉のリズムによって運ばれてきます。『風の又三郎』もまさにそうで、子供の頃感じた独特の寂しさとか不安のようなもの、もしかしたら明日になったら天気のように忘れ去ってしまうかもしれないようなひょんな気持ちとか、そんなものがある瞬間、深くじっくり感じられます。そうした描写とダンスの構成がとても合っていて、非常に生き生きとした作品です」と話す。
また佐東は「今年もやることにとても大きな意味があります」と話し、勅使川原同様に再演の意義を強調。「ダンスは踊って初めて作品として成長していく。『風の又三郎』も、もっともっと大きく豊かになっていってほしいし、ずっと続けていけるといいなと感じています」と語る。
2021年5月の稽古より
2022年3月の稽古より
■注目のチェリスト、ヨナタン・ローゼマンとの至高の共演!~ダンス・コンサート 勅使川原三郎 ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』
『天上の庭』(勅使川原が演出・照明・衣装・選曲・ダンス)は、"世界トップクラスの「ダンス」と「音楽」がコンサートホールでコラボレーションする"「ダンス・コンサート」シリーズの最新公演。勅使川原、佐東それにフィンランド出身で、2013年にパウロおよびガスパール・カサド両国際チェロ・コンクール特別賞受賞したチェリストであるローゼマンの協同作業だ。
ダンスコンサート 勅使川原三郎ライヴミュージック&ダンス『天上の庭』チラシ
勅使川原は初めに「天上とは天の上、空といってもいいですが、空の庭というよりも天上の庭。浮世、世間の今の日常を離れた世界、純粋音楽の世界を描きたい。『風の又三郎』とは異なり、文学的解釈・メッセージは一切なくて、純粋音楽と身体によるダンス。ダンサー2人、チェリスト1人の共演が中心となる、コンサート形式のダンス作品になります」と話した。
勅使川原&佐東はローゼマンと初共演だが、先だってヴェネツィア・ビエンナーレ2022金獅子功労賞受賞記念公演などのために訪れたイタリアでリハーサルを実施。最終的な選曲も実際に顔を合わせて決めたという。勅使川原は「ヨナタンはヨーロッパでとても高く評価され、今後ますます期待されるチェリストです。リハーサルの雰囲気はとてもよかったです。彼の音楽に対する穏やかで真剣な態度、本質的人間性がそのまま現れていました。目指すべき音楽性がとても高い域に達していると感じました」と手ごたえを語る。
ヨナタン・ローゼマン photo by Heikki Tuuli
演奏曲目は上演順にJ.S.バッハ「無伴奏チェロ組曲」より、カサド「無伴奏チェロ組曲」より、コダーイ「無伴奏チェロ・ソナタ Op.8」。勅使川原は「天と地を結ぶ音楽構成を考えました。まさに天上の音楽のようなバッハ。遊戯性のあるのびのびとしたカサドの音楽。重厚であると同時に浮力というか浮き立つようなエネルギーを持ったコダーイ」と選曲理由を述べた。
「まるで重力から開放されるような人智を超えたものが音楽の中から湧き出てくる。それを感じることがダンスになるならば、音楽の力はとても大きなものだと思います」と勅使川原は語る。「『天上の庭』とは、純粋に音楽とダンスが出会う場所という意味です。庭で何をするのかといえば、遊ぶ・戯れるということ。英語で音楽を演奏することをPlayといいますね。それと遊ぶこともPlay。要するに遊戯性というか、より面白い音楽と人間の体の絡み方をすること、あるいは空間と音楽の音調が絡んで新たな響きを創ることです」とテーマ・内容をより深く話す。そして「コンサートホールはそういうことに適しているので、観客の皆さんはストーリーがある『風の又三郎』とは別な遊び方・楽しみ方ができます」とアピールした。
(左から)勅使川原三郎 佐東利穂子 photo by Bengt Wanselius
佐東はチェロの曲を生演奏で踊るのは初めてで、ローゼマンとのリハーサルから大いに刺激を受けたという。「ヨナタンがどのように音楽を捉えているかについて触れることができたし、プログラムを決める時、"何が今ここで私たちがやろうとすることとしてあり得るか"について真剣に、そして音楽的に、とてもニュートラルに考えて話ができました。リハーサルといっても、踊るようなことをしたというよりも、彼の音楽を体で感じて、そこに居るということがどうあり得るのかを行っていました。全身で彼の音楽を聴くことが、ある意味彼を知ること、あるいは選んだ音楽をまた新たに知ることになっていくんだなと感じました」と振り返る。
ヨナタン・ローゼマン photo by Tuomas Tenkane
佐東はローゼマンから届いたばかりだというメッセージを訳しながら読み上げた。
ヨナタン・ローゼマンからのメッセージ
こんにちは。私の名前はヨナタン・ローゼマンです。私はフィンランドのチェリストです。ここ数か月の間で私は勅使川原三郎と佐東利穂子と会って、彼らと知り合う光栄に授かりました。この二人の素晴らしいアーティストとは、最初の出会い以来とても多くのインスピレーションを得ています。勅使川原さんの芸術に対する考えはとても啓示的であり、自分自身の芸術に対する考えをますます活気づけてくれました。最初に会ってから、私はこのプロジェクトの未来を思うと、とても感動します。そして、それ以来、とてもユニークで特別なものを一緒に創りたいという気持ちが日々大きくなるばかりです。
コラボレーションをする際に、このように感じられることはとても稀であり、このプロジェクトに関われることをとても楽しみにしています。そして、このために、選んだ曲目として、我われはさまざまなチェロのための組曲を選びました。バッハのチェロ組曲、それからガスパール・カサドのチェロ組曲、そしてコダーイのソロソナタなどです。コダーイは全楽章を弾く予定なので、中心的存在になるかもしれません。チェリストとして、とても厳しい作品ではありますが、素晴らしいレパートリーです。これらの作品はどれも自分のチェリストとしての人生の中で、常に近しいものとしてありました。その理由ゆえに、これらの作品を勅使川原さん、佐東さんとともに演奏するということが楽しみでなりません。
いろいろなコラボレーションをした経験はありますが、このような思いでプロジェクトに臨むのは初めてです。とても幸せで、日本の観客の皆さんとこのコラボレーションをシェアできることをうれしく思っております。皆さんにもインスピレーションをあたえられますように。どうもありがとうございます。
メッセージを受けて勅使川原はこう述べた。「唯一無二、他に類のない、そこで初めて起こることを創るのが第一の目的。それは今生きている証でもあるわけです。そこで初めて行われることによって、クラシック音楽に新たに命を吹き込むことができる。今同時に生きている人たちと価値観を共有することができる。その価値観は新たに見い出すべきもので、その時に必要だと思われる強い精神をもって課題に立ち向かいましょう、そして一緒に喜びましょうということを彼も語っているんだと思います。そういう意味で、とても大事なメッセージです」。
取材・文=高橋森彦

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