【観劇レポート】美しき秘密が絡み合
う密室劇『8人の女たち』がオール宝
塚OGという豪華キャストで開幕

ストリートプレイ版の『8人の女たち』(上演台本・演出:板垣恭一)が、オール宝塚OGという豪華キャストで開幕した(2022年8月27日、東京・池袋・サンシャイン劇場)。
本作は、劇作家ロベール・トマの戯曲が原作。2002年にフランソワ・オゾン監督によるミュージカル映画版『8人の女たち』が有名。カトリーヌ・ドヌーヴ含む8人の名女優たちの共演で彩られ、ベルリン国際映画祭では金熊賞(最優秀芸術貢献賞)の受賞により世界的に喝采を受け、フランソワ・オゾン監督の出世作ともなった。
今回はストリートプレイ版として上演。出演は、殺されたマルセルの妻ギャビー役に湖月わたる、ギャビーの妹であるオーギュスティーヌに水夏希、マルセルの妹ピエレットは珠城りょう、新人メイド役の夢咲ねね、マルセルとギャビーの長女のシュゾンは蘭乃はな、次女のカトリーヌに花乃まりあ。ギャビーたち姉妹の母マミーは真琴つばさ、もうひとりのメイドシャネルに久世星佳が扮する。
8月25日、東京・サンシャイン劇場で行われた公開ゲネプロをレポートする。
(左から)久世星佳、花乃まりあ、夢咲ねね、水夏希、湖月わたる、珠城りょう、蘭乃はな、真琴つばさ
さて、全員があやしく、全員が疑わしく、とても美しい。彼女たちの描く極上のミステリー劇の幕開けである。
舞台上のセットは、クリスマスを迎えるマルセル邸。山のなかにあり、深い雪に閉ざされ、テレビもなければ娯楽もない、そんな邸宅だ。
開演後、軽やかなタンゴと赤いライトアップのなか、8人の女たちが姿を現す。全員、表情なく、さまざまなポーズをとりながら、視線はそれぞれ含みを持ちながら絡み合う。セットはブルーの書棚やアイボリー調の調度品で彩られているなかで、女たちの衣装は全員深い赤。とても印象的な対比を織りなしている。
彼女たちは、起きてこないマルセルを起こすことにする。何度ノックしても返事がなく──背中を刺されて殺されたマルセルを発見する。
通報しよう! と電話をかけるも、犯人によって電話線はすでに切られていた。車を出そうにもエンジンも細工され、門から歩いて行こうにも門は鎖で閉鎖されている。
「犯人は家の中にいる侵入者かもしれない」というところから、「この中の7人の女たちに犯人がいるかもしれない」とそれぞれが疑い始める。
(左から)花乃まりあ、夢咲ねね、湖月わたる、久世星佳、真琴つばさ、珠城りょう、水夏希、蘭乃はな
まず、秘密が露呈するのは、家に居候する車椅子の老婆、マミー。長女であるギャビーのおかげでいい暮らしができているのだからと、次女のオーギュスティーヌがギャビーと言い合いをするたびに仲裁に入る優しい老婆のように見えるが、実際は一番の守銭奴で、意地汚い。隠し戸棚までこしらえて、ワインをしこたま飲んでいる。なにより、実は歩ける、本当にすたすた歩く。真琴が演じるマミーには独特の愛嬌があり、その仕草に思わず笑ってしまうシーンも多かった。
そして、オーギュスティーヌ。彼女は心臓を患っており、性格も悲観的。貞淑さを非常に重んじる彼女は、姪のカトリーヌの奔放さにいつもイヤミを言っている。だが、彼女にも秘密がある。まず、ゴシップが大好きで、どこでも立ち聞きしている。次に、義理の兄であるマルセルに恋をしていた。彼女は全く相手にされないが、マルセルを「優しくて素晴らしい存在だ」と心酔し、恋愛感情を抱いている。水はそんなオーギュスティーヌの生真面目さや潔癖さ、抑圧された彼女の性格をコミカルに演じる。『悲劇のヒロインになりたいだけ』と家族に指摘される通り、彼女の秘密が暴露される時、不思議とオーギュスティーヌだけは嬉しそうにスポットライトを浴びていた。
新人メイドのルイーズ。彼女は、自分が金髪でチャーミングな美女であることを理解している、「一生メイドでいるつもりはないですから~~~」と、シャネルにはっきり明言する女性。事件に関係ないかと思いきや、彼女は深夜、ハーブティーをマルセルに言われて部屋に差し入れた人物。様々な屋敷の事情にも通じており、「告げ口は嫌いだから」とはじめは黙っていたが、自分が疑わしい状況になるとカードを切るように次々と家族の秘密をぶちまけていく。夢咲ねねの人形のような容姿とメイド姿が非常にコケティッシュ。時折見せる影のある表情も、またルイーズに多面的な魅力を与えていた。
招かれざる客は、どこにでもひとりは存在する。ミステリー作品には絶対に。マルセルが殺されたという一報を聞き、街から訪ねてきたピエレットは、そもそも存在が「秘密」。元ヌードダンサーで、夜の街で暮らしていた「あばずれ」とされ、マルセルやギャビーから距離を置かれている。最近、近くの街に引っ越してきた彼女だが、マルセルの部屋に真っ直ぐに向かう姿を見て、ギャビーに「あなた、家に来たことがあるの?」と詰問されてしまう。家の女主人である貞淑な妻ギャビーと対極にいるような存在の彼女。未婚で、男性たちを渡り歩き、女一人で身を立てる。扮する珠城はストリートプレイに初挑戦。ギャビーにはっきりと意見する姿や、胸元の大きくあいたドレスなど、奔放でありながら、芯の強い女性をうまく演じ切っていた。
長女シュゾンの帰宅を心待ちにしていたばあやでもあるメイドのシャネル。彼女は15年も屋敷に仕える女性だ。「素晴らしいご家族」と言ってはいるものの、この家のメンバーの持つ瑕疵には気づいてフォローしている。愛の溢れる女性だが、彼女にも問題がある。屋敷の敷地の外れにある小屋で生活しているが、そこでポーカーに興じているのだ。賭博が好きで、金も賭けている。その相手をはじめは黙っていたが、ルイーズに暴露される──マルセルの妹・ピエレットだ。久世の演じるシャネルからは、メイドとしてのわきまえた振る舞いや、家を切り盛りする階下の人間としてのプライドを感じた。彼女は忠実なメイドとして勤務して、様々な問題のある家を支え続けている。
マルセルの死の真相を探るため、探偵役を買って出て、時系列の整理や、それぞれの秘密を暴く立場にたつのは、長女のシュゾン。彼女の帰宅を喜ぶムードはすべて吹き飛んでしまうほどの大事件のなか、父の死の真相を探り始める。蘭乃はなは純真ながらも賢くしっかりとしたシュゾンを愛らしく、時にはパワフルに演じる。今朝到着したばかりで、『事件には関係のないはず』のシュゾンだが、実は朝方マルセルの部屋を訪ねていたことが露見する。最後に生きているマルセルに会ったのは、彼女だったのだ。
そして、最後、次女のカトリーヌ。少年のような風貌で、煙草も吸えば、冒険小説なども読み、令嬢らしらかぬ破天荒な16歳。父の死を受けて、「誰も現場に入っちゃいけない」と推理小説から得た知識で現場を立ち入り禁止にするなどの機転をきかせる。ただ、神経質な叔母オーギュスティーヌを、からかってきゃらきゃら笑っている。花乃まりがステージを所狭しと駆け回り、カトリーヌのトリックスターさをひき立てた。少年のような風貌でありながらも、花乃の高く愛らしい声が少女のあやうさを演出する。
8人の女たちの秘密と欺瞞が暴かれる時、この悲劇の深層がベールを脱ぐ。
『8人の女たち』は、東京・サンシャイン劇場で2022年8月27日から9月4日まで、大阪・梅田芸術劇場では9月9日から9月12日まで上演される。9月3日17:00公演はライブ配信も実施される。是非、美しい女性たちの密室劇をお楽しみにいただきたい。
(左から)湖月わたる、花乃まりあ、珠城りょう、蘭乃はな、夢咲ねね、久世星佳、水夏希、真琴つばさ

以下、演出家およびキャストから届いたコメントを紹介する。
■上演台本・演出/板垣恭一
ありそうでなかったお芝居が生まれたかも知れません。そのチャンスを与えてくれた梅田芸術劇場に感謝。演出家の要望に身体を張って応えてくれたキャストたちに感謝。様々なアイディアを提案してくれたスタッフたちに感謝。何よりこの演目を楽しみにしてくださっている観客のみなさまに感謝。ご来場ご視聴、どちらもお待ちしております。
■湖月わたる/ギャビー役
今回のギャピー役は私にとって、とても大きな挑戦です。妻・母・娘・姉・義姉としてのプライドを、秘密を、必死に守ろうとする彼女…… 演出の板垣さんが、ここまで来たらとにかく楽しんで!と仰ってくださったので、カンパニーの皆さんと楽しみながら、思い切って演じたいと思います。劇場で、配信で、お楽しみいただけたら嬉しいです!
■水夏希/オーギュスティーヌ役
宝塚OGのみのストレートプレイ。初の試みに精一杯挑みます! とは言え、そんな事関係なく一人の俳優として、人間味溢れたオーギュスティーヌを演じきりたいと思います。
■珠城りょう/ピエレット役
まずはマスコミ関係の皆様、お忙しい中公開ゲネプロにお越し頂きありがとうございます。無事に初日を迎える事が出来て嬉しく思います。私にとって初挑戦のストレートプレイ。個性溢れるキャストの皆さんとハラハラドキドキする時間をお届けしたいてす! 皆様に心から楽しんでいただけます様に。
■夢咲ねね/ルイーズ役
いよいよ稽古期間を終えて初日を迎えられます。早く皆さまに観ていただきたい! 8人の女たちのどの目線でも楽しめますし愛おしい8人です。どうか劇場にこの閉ざされたお屋敷を体験しにいらしてください。
■蘭乃はな/シュゾン役
ついに初日の幕があがります。奇跡のような時間を過ごせることに感謝し、お稽古で積み上げたものを本番で昇華していきたいです。お客様に楽しんで頂けましたらこれ以上の幸せはありません。『8人の女たち』をどうぞよろしくお願いします。
■花乃まりあ/カトリーヌ役
熱く刺激的なお稽古期間を経て、今はただただ無事に初日を迎えられることを祈っています。演じている私自身も楽しくてたまらないこの作品。劇場で一緒に推理していただける日が待ち遠しいです!
■真琴つばさ/マミー役
衣装とセットと演出家の板垣さんの斬新なアイデア! いままでの舞台でも映画でもない、宝塚OGならではの『8人の女たち』を堪能していただけたらと思います!
■久世星佳/シャネル役
本日は『8人の女たち』、公開GPにお越し頂きありがとうございます。宝塚で育った年代バラバラの卒業生8人。果たしてそれぞれがどんな色を舞台上で紡ぎ出すのか、お楽しみ頂ければ幸いです。

(取材・文=森きいこ)

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