「ちょっとおしゃれな気持ちで19世紀
のイギリスにタイムスリップしてくだ
さい」~ノサカラボ 音楽朗読劇『シ
ャーロック・ホームズ#2』山寺宏一
・水島裕・野坂実インタビュー

ホームズシリーズの短編を上質な朗読劇として展開する、ノサカラボ 音楽朗読劇​『シャーロック・ホームズ』の第2作上演が決定! 国境を越え、時代を超えて愛され続ける原作の強靭さを借り、朗読劇の新たな可能性を追求する本シリーズで、昨年の初演に続きシャーロックを演じる山寺宏一とワトスンを演じる水島裕、そして突然の閃きから本作を世に生み出した演出の野坂実が都内某所に集結。本番に向け、作品創りの面白さを語り合った。
ーーシリーズ第2弾をやるというお話が出た時のお気持ちはいかがでしたか?
山寺:懲りないな、と。
野坂:(笑)。
山寺:あ、そんなことないです。冗談です(笑)。
水島:(笑)。確か、1回目の時から「2回目があるよ」みたいな話だったような気がする。
山寺:うん。「毎年やりたい」というふうに言ってたよね。だからこうしてまたお話をいただけて嬉しかったです。
野坂:そうですそうです。ホームズの短編は50数本あるんですけど、それを10年ちょっとぐらいの企画でやりたいんだよなという話を二人にはそろっと伝えて……2回目、3回目、4回目と続けていきたいですね、と最初からそこをセットで考えていました。シャーロック・ホームズの短編をずっと朗読劇でやっている企画ってなかなかないですし、僕はこの2人の掛け合いがずっとコンビで見られたらいいなと思っていて。それで、閃いたんです。六本木の駐車場で。「ホームズは山寺さん、ワトスンは水島さん。日本の『シャーロック』はこの二人だな」ってビビビビッてきて、うわーってなって(笑)、お二人にはその場で電話して「なんか面白そうだね」って言ってもらいました。また、僕ら長年仲良くやってますけど、ちゃんとした本で、ちゃんとお客さんに恥じないものを作りたいなって話にもなって、そこに関しても「僕が演出なんで、しっかりしたものを創ります。ぜひぜひよろしくお願いします」「じゃあ、まず一回やってみよう」と。そういうスタートでした。
(左から)水島裕、山寺宏一、野坂実
ーー長期的展望の企画だったんですね!
野坂:だからそこでワトスンとホームズをこのお二人の組み合わせで……日本でたぶん一番でいけるはずだっていうキャスティングを実現できているのが、すごい僕の中で今、快進撃なところです!
山寺:もうずっと一緒に三人でやっててこんな近くにいるんだから、そこはもっと早く気づくか、気づいてもそんなに感動しなくてもいいんじゃないかなっていう気もするけど。
水島:アハハッ。ほんと、僕ら身内みたいなものだから、野坂さんに「やれ」って言われたらもう「はい」っていう感じです。
野坂:(笑)。
山寺:今年に関しては本当は僕らのユニット「ラフィングライブ」の公演もやりたかったんですけど、感染状況的にそっちは諦めて。そういう意味ではこの作品でね、またこの三人で朗読劇というスタイルで舞台をやれるっていうのは嬉しいことですよね。
山寺宏一
水島:うん。新しくお迎えするゲストのみなさんも、もう身内みたいなもんですし。
山寺:そうそう。
ーー前回公演の手応えなどは。
山寺:やる前はこの名作中の名作と言える古典を、しかも世界一有名なミステリーを朗読劇でできるのか? と。そもそも原作はそんなに会話劇にはなっていないし、世界中に長年にわたりシャーロキアンと呼ばれるほどのファンが多い作品ということでハードルが高過ぎるなとか、僕はずっと弱気なことばっかり言ってたんですけど……やってみたら「あ、やれるし、ちゃんと伝わるんだ」ということがわかった。もちろん裕さんとのコンビはずっとラフィングでやらせていただいてて、常に巻き込む感じのテイストはどこか通じる部分もありましたね。ゲストも素晴らしい方々でしたし、本当にやってよかったなって思いました。
ーーシャーロック・ホームズというキャラクターを作るにあたっては?
山寺:資料をいろいろ読ませていただいたり、映像作品も出ているのでそういうものも参考にしましたけど、でも結局はみんなで一緒にやるときの感じです。実際世の中にはいろんなタイプのシャーロックがいるので……原作に書かれているイメージは自分の中で構築しつつですけど、一緒に掛け合いしている中で「こうやりたくなる」っていうか、相手にもお客さんにも楽しんでもらいたいっていう気持ちが芽生えてくる。観ている人によっては「え、こんな感じなの?」って思うかもしれませんが、それがこのノサカラボ版のホームズになればいいなと思って自由にやっています。でも、今回でまたちょっと前回とは変わるかもしれません。まだ、自分としてはこのシャーロックが出来上がっているとは思っていないんで……いや、もちろんそうそう「出来上がる」なんてことはないと思うんで。長く育てていける役どころだなと思います。
水島:基本、ラフィングでは、山ちゃんが言ったように巻き込む側・巻き込まれる側というスタンスはずっと変わらないんです。でも作品が違うとお互いに役柄は変わるんですね。でも『シャーロック・ホームズ』に関しては、シャーロックとワトスン、初めてそれぞれの役柄が固定されたので、毎年少しずつ味わいが深くなっていくような感覚もあるんですよ。去年は山路(和弘)さんと(島﨑)信長くんと琴ちゃん……三石琴乃さんっていう三人をお迎えしてやったんですけど、本番を頂点にね、みんなすごく変化していくんです。それが面白くてねぇ。面白いし、楽しいし、刺激されるし! そうやって自分も相手との関わりでどんどん変わっていける楽しさを味わいました。で、たぶんシャーロックもそうでしょうけど、ワトスンも回を追うごとに深みみたいなのが増していかんとあかんぞ、と思っています。続けていく中で“それ”を見つけるのが楽しみでもあるんです。
水島裕
ーーご自身のワトスン像はいかがでしょう。
水島:僕は常にあたふたしてる(笑)。シャーロックって、まず尋常でないところが面白いでしょ。ワトスンはやっぱりシャーロックに振り回されるのがいいんですよね。で、本人を目の前にしてなんですけど、横で聞いてて気持ちいいんですよ、シャーロックのセリフ。僕の右耳は常に気持ちいい。それは役得だなと思ってます。
山寺:僕も掛け合いしててほんと楽しい。やっぱり互いに自分にないものを持っているというところでコンビとして成立するんでしょうけど……それは、ホームズとワトスンとしても、裕さんと僕としてもね。裕さんはもう大先輩ですから、人生経験とかいろんな役をやってきた蓄積がおのずとワトスンとなって出てくるので……。
水島:大先輩じゃないし〜。培ってないし〜(笑)。
山寺:いやいや。大大先輩ですよ(笑)。
野坂:二人は稽古から掛け合いの中でものすごく変化していくんですよ。演技って能動的じゃなくて受動的なんですよね。相手の芝居を受けて、で、どう出していくか。この二人は確実に相手のお芝居を受けながら出していく。要は、演技が上手……って言い方になっちゃうんだけど、お芝居の上手な人たちはほんとに全員そう。特に二人は凄まじく相手をキャッチする範囲が広いんですよ。だから何かあるとスッとキャッチしてはポンポンと返してく。「山ちゃん、ああ来ると思わなかったよ」とか「裕さんもこう来ましたよね」とかって稽古中よく話してるし、シャーロック、ワトスンというキャラクターを持ちながらも自在にキャッチボールしている感じ。去年もたいがい二人で遊ぶとこ、遊んでましたもんね。押さえるところはちゃん押さえてますけど、「僕ら、もうちょっとこれでよかったね」とかって言いながら、タタタって掛け合いで遊んだりとか、そういうのはものすごくある。芝居が群を抜いて上手な人たちなので、僕も見ていてとても面白いです。
野坂実
山寺:そうでした?
水島:そうでした?? いや、演出に忠実ですよ。
山寺:そう、僕らはいつもそうです。厳しいダメ出しにしっかりついていってます。
野坂:(笑)。
ーー“声”のプロフェッショナルであるお二人にとって、朗読劇はどんな位置付けになるのでしょうか。
山寺:面白いもので、朗読劇=声優の仕事に近いといっても、別に何か絵に合わせたり、決められた分数にはめ込んでセリフを喋るわけじゃなく、自由なわけですよ。他の演劇のように自分たちで覚えてやる演技とも違うし、朗読劇なんだけども、すごく自由。だからどう役を作るかとか、やっぱりすごく難しいけど、でも楽しいですね。ホームズだったら立て板に水のようにとか、セリフをどんなスピードでやろうかとか、どんなトーンにしようかとか、身を以て演じているわけじゃないけど、いくらでもやりようがあるので。
水島:洋画とかアニメの吹き替えは、映像に合わせなきゃいけないってよく言われますが、実はそれ「ヒント」なんですね。絵の表情とか、キャラクターが喋る速さ、トーン、洋画に至っては声の質まで、まずはそれがありきで僕らも合わせますけど、でもそれは「制約」じゃなくて「ヒント」。「こうしなきゃいけない」ではなく、「こうすればいい」と教えてくれているわけじゃないですか。でも今、山ちゃんが言ったみたいに朗読劇ってまったくノーヒントなんですね。全部、自分達で造らなければいけない。なので、面白くはありますが、大変だし、コンビのどっちかが変わっただけでそれはまったく違ったものになるだろうし。制約もヒントもないのは大変ですが、でもそれがもう最大の面白さでもある。
山寺:そうですね。なんか力量を試されるみたいなとこあるから、朗読劇は怖いんですよ。怖いけど、楽しい。これを覚えて舞台でやろうと思っても、役者としての容姿とか表情とかいろいろ支障が出てきて自分ではなかなか演じられないことも多いけど、声だけだったら、朗読劇だったらできるんですよ。例えば今回もありますけど、ホームズはよく変装しますよね。変装して演じるってそれはそれで楽しいんですが、なかなか演劇の舞台で簡単にパッとチェンジできない。でもそれを声だけでやるんだったら……ね?
(左から)水島裕、山寺宏一、野坂実
ーー耳からの想像で姿形も伝わってきます。
山寺:声だからこそいろんなことができるという可能性がすごくあるのが朗読劇。しかも、本当にいい舞台かどうかはこういう作品だと特によくわかります。「朗読劇ってどうなの?」なんて言わせない面白さがね。
水島:場面転換ひとつとっても、舞台だとセットをガラッと変えなくちゃいけなかったりしますけど、朗読劇はそれがもう声や音楽、照明などでトン! と場所も時間も変わっちゃう。でも制約はないと言ってもダメ出しはしてもらったほうがいいですね。朗読劇の唯一の「制約」は演出ですから。
ーー「ヒント」ですね。
水島:うん。演出に「いいね」「いいね」だけ言われると、もうほんと分かんなくなっちゃう。でも……あんまり言い過ぎないでね(笑)。
野坂:僕、朗読劇ではあんまり言わないですよ(笑)。楽しんでます。
山寺:(笑)。
野坂:今のお話にあったように、舞台や映像のお芝居だと動きがあるから想像が少なくても肉体の表現で伝えられる。でも朗読劇の場合は肉体が使えないのですごく想像力が必要になります。しかもその想像も独りよがりじゃ駄目で、お客さんからどう見えているのかっていうのを俯瞰で捉えてコントロールしていく感じがあって、それがまたこのお二人は圧倒的な想像力がある。前回も「ここは声だけだとちょっと分かりにくいんじゃない?」とか「ここに関してはスムーズにいけそうだね」っていうのを僕が教えてもらったりしながら演出を変更したりと、チームで作っていくのはとても面白いです。一見すると朗読劇って演劇の舞台より楽にやれるみたいな感覚があったりするものだと思うんです。でもいざこういう人たちと一緒にやると、違うんですよ! なんかまた違う独特のジャンルを味わっているような感じ。演劇の難しいところの別ジャンルを作っている感覚になるんです。
野坂実
ーー新しいジャンルを生み出してしまった、と。
野坂:そうなんです。面白いくらい難しい。そこをお客さんが観て感じてもらえると、より楽しいよなって考えています。
ーー今回は『唇のねじれた男』、『技師の親指』、『独身の貴族』の3つのエピソードがチョイスされました。
野坂:朗読劇としてはあまり向かないだろうな、ということで選んでみました。なので原作真っ向勝負だけじゃなくて、それプラス、もうちょっとドラマを立たせようと思っています。前回はかなり原作のほうに寄せた作りでそれはそれで面白かったんですけど、1回目をやってみて、少し調整を。今後も朗読劇にふさわしくドラマ部分を膨らませつつ、ホームズとワトスンが推理して物語を乗り越えていく王道ライン、みたいな感じの面白さに落ち着けられたらなと。
山寺:なるほどね。僕は原作を読んで「このひとりの説明がすごく長いやつをどうやって会話にしたら楽しいんだろう」って考えていたので、野坂さんがどう脚色するかが本当に楽しみです。あとはゲストのみなさん。僕らはホームズとワトスンをやるだけだけど、ゲスト陣は3本やって全部違う役をやらなきゃいけないから、大変なんですよ。
水島:大変ですけど、そこもすごく見どころになりますね。
水島裕
野坂:深みのあるお芝居ができる方々にお願いしました。生音楽も今回クラリネットがひとり増えます……っていうふうに、できれば楽器も毎年ひとりずつ増やしていきたいなと。おそらく来年はまたもうひとりビオラかなにかを増やして、それで最終的にはちょっと大人数の楽団を入れられたらということも考えています。
ーーそれは素敵!
野坂:はい。「楽しいから」とか「人気があるから」というだけで観に来るのではなく、「ここには上質なものがあるんだ」と思っていただける場所、上質な作品に触れていただくのが僕らの変わらぬ狙いなので。
山寺:初回に来てくださった方はもちろん、「シャーロックの朗読なんて面白いの?」って思いながらインタビューを読んでいくださっているみなさん。これがまた意外と言うか、とっても面白いんです! なんと言っても今回ゲストで出てくださる3人も素晴らしい方々で、僕にとっては家族のようなメンバー。大塚明夫さん、山口勝平さん、そしてイギリス帰りの寿美菜子さん。彼女はこのためにイギリスに留学したと言っても過言ではないと、勝手に我々は言い続けようかと思うくらい(笑)、本当に素晴らしいメンバーなので、そこからどんなものが生み出されるのか。まだこの状況ではありますか、ぜひ劇場に足を運んで、ちょっとその……19世紀のイギリスにタイムスリップしたみたいな。
山寺宏一
野坂:ビクトリア朝時代にね。
山寺:そう。そんな気分を味わっていただければと思います。
水島:去年やって感じた一言が「贅沢な時間」。ピアノと弦とね、今度クラリネットが入るのか。そういう本当の生の音楽があって、彼らも実はセリフと合わせるのは初めてだっておっしゃってたんですよ。だから、僕らもやっているうちに相乗効果でガーって上がっていった部分もあったし、劇場も雰囲気が良かったなぁ。なんか全体で贅沢な時間を共有しているんだなと思ったのがとても頭に残っているので、今度もぜひお客様にはそれを一緒に味わってほしいなと思います。配信でもね、見ていただけたらありがたいですが、できたらやっぱり同じ空間で、あの空気感を味わってもらえたら嬉しいですね。
ーーちょっとドレスアップしてして行きたくなりますね。
水島:でもそう言っちゃうとね、ちょっと敷居が高くなるじゃないですか(笑)。ここはもう気持ちのおしゃれでいいんじゃないですか? ちょっと背すじを伸ばすような、それでもリラックスして楽しめる作品になると思いますよ。「あっという間だったね」って感じてもらえるように、山ちゃん筆頭に頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
山寺:はい。
ーーシリーズで10年、みなさんで実現していただけることも楽しみにしています。
野坂:ありがとうございます。ぜひ楽しみにしていてください。

(左から)水島裕、山寺宏一、野坂実
取材・文=横澤由香    撮影=荒川 潤

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