髙橋ひかる・熊谷彩春・石井杏奈・伊
藤理々杏ら出演のミュージカル『リト
ル・ゾンビガール』 開幕レポートが
公開

NHKみんなのうたミュージカル『リトル・ゾンビガール』が8月20日(土)、東京・日生劇場で開幕した。1961年に放送開始、これまでに1500曲以上の名曲を送り出してきたNHK「みんなのうた」の名曲を使用したオリジナルミュージカル。脚本家・徳野有美が紡ぐキュートで心温まる物語に、おなじみの名曲たちが自然と溶け合い、子どもから大人まで楽しめる傑作ミュージカルが誕生した。
ショウ:伊藤理々杏
(右奥)ノノ:熊谷彩春
物語はとある街と、隣接する森が舞台。森の奥深くには、200年前の人間との戦争で滅ぼされたと思われていたゾンビたちがひっそりと、だが楽しく平和に暮らしている。しかしある日、突然人間たちがやってきて、森の木々を倒していった。どうやらこの場所に「ショッピングモール」を作るらしい……。事情をさぐるため、新米ゾンビの小さな女の子・ノノが人間の街へスパイに行くことに。一方で人間の男の子・ショウは、父親の仕事の関係で新しい学校に転校してきたばかり、新しい友だちに馴染めず悩んでいる。ショウと仲良くなったノノは、恐ろしい敵だと教えられてきた人間にも優しい人たちがいることを知るのだが……。
ショウ:石井杏奈
(上段左から)ノノ:髙橋ひかる、親分:コング桑田、リリィ:大和悠河
分断されたふたつの社会を超えて生まれたノノとショウの友情を軸に、多分に現代的テーマが内包された奥深い物語だ。かつての戦争で負った苦しみを忘れられず、お互い歩み寄ることをやめ「近寄らない」という選択をした大人たちの姿は、このコロナ禍やウクライナの戦争で分断が進む現代社会の写し鏡のよう。とはいえ、子ども目線の「なぜ? なんで?」でぐいぐい進んでいく物語は、純粋にワクワク、ハラハラ。イケているゾンビたちはカッコいいし、人間の子どもたちの元気いっぱいの悪ガキっぷりは微笑ましい。客席からは子どもたちの楽し気な笑い声が絶えなかったが、休憩時間や終演後に、目をうるませている大人たちの姿も。子どもたちには楽しめ、大人には突き刺さる物語である。
(左から)ノノ:熊谷彩春・ショウ:伊藤理々杏
ショウ:伊藤理々杏
(左から)ノノ:熊谷彩春、リリィ:大和悠河
キャストはノノ役を髙橋ひかると熊谷彩春、ショウ役を石井杏奈と伊藤理々杏(乃木坂46)がダブルキャストで務めている。ドラマにバラエティ、YouTubeにと若い世代に圧倒的人気を誇る髙橋が演じるノノは、透明感ある外見に反し、元気が有り余った猪突猛進型。今回が舞台初挑戦とのことだが、抜群の間合いでちょっとした笑いを生む芝居センスが光る。センターが似合う華もあり、今後もぜひ舞台への出演を期待したくなった。『レ・ミゼラブル』など数々の大型作品に出演しているミュージカル界のニュー・ヒロイン熊谷は、おてんばで可愛らしいノノだ。いたずらっ子のような笑顔、可憐な歌声が劇場を包む。それぞれノノの素直さ、明るさがそのまま作品の明るさに直結するかのような、見ていて楽しいチャーミングなノノを作り上げている。ショウ役の石井と伊藤もまた、少年らしさをナチュラルに表現。石井のショウは寂し気な雰囲気の中に利発さがあり、しかし踊ると一気に笑顔が弾けるのがいい。伊藤のショウは心優しい優等生といった雰囲気。優しいがゆえに我慢をしてしまっているような姿に胸を打たれる。彼らを見守る大人たち——美しきゾンビの長老・リリィ役の大和悠河、ショウの父親クルス役のエハラマサヒロ、ハル先生役の石田佳名子、ゾンビの親分役のコング桑田も軽快で楽しそう。さらに、脇を固めるのは数々のミュージカルで活躍中の俳優たち。フレッシュなノノ&ショウが伸びやかに舞台上で躍動するのを、実力派たちがしっかり支えている。

(左から)ハル:石田佳名子、ショウ:石井杏奈
ノノ:髙橋ひかる

それにしても、「みんなのうた」の音楽の力の凄さよ。知っている曲も、知らなかった曲も、すぐに口ずさめてしまう耳馴染みのよさ、インパクトの強さ、メロディの美しさ。登場するナンバーは『手のひらを太陽に』『コンピューターおばあちゃん』『アップル パップル プリンセス』『赤鬼と青鬼のタンゴ』といった昭和期の名曲から、『ベスト・フレンド ~Best Friend~』『WAになっておどろう ~イレ アイエ~』『おしりかじり虫』などの平成時代の人気曲まで多彩で、どの世代の人も懐かしく思う曲があるに違いない。このバラエティに富んだ曲たちが、ひとつの作品として違和感なくまとまっている構成もカタログ・ミュージカルとして見事だし、“曲ありき”であるにも関わらず、ドラマの中に歌詞が自然と馴染み、キャラクターたちの心情と溶け合っている。改めて「みんなのうた」の楽曲は、私たちが日常で抱く様々な感情に寄り添っているのだなあと思った。本作品の主題歌である、いきものがかりの水野良樹による『夜明けをくちずさめたら』も心にしみる素敵なバラードナンバーで、優しい気持ちが広がっていく。
ノノ:髙橋ひかる・ショウ:石井杏奈
多彩でありながら調和した楽曲群は、「みんながそれぞれ違っていていいんだ」という作品メッセージにも繋がっている。ほかにも、前を向いて一歩踏み出すことの大切さ、他者を偏見で決めつけず、知ることの大切さ……描かれていることはとてもシンプルながら、私たちにとってとても大切なこと。その当たり前の大切さを改めて気付かせてくれる、たからもののようなミュージカル。子どもはもちろん、ちょっと日々の生活に疲れている人、元気になりたい人、子ども時代の純粋さを取り戻したい人にも観て欲しい一作だ。
ショウ:伊藤理々杏

ノノ:熊谷彩春
初日前日には、髙橋・熊谷・石井・伊藤・大和による囲み取材会も。「老若男女問わず、楽しんでいただける素敵なミュージカル。難しいことは考えず、会場に来てくださったら、必ずや私たちが皆さんを楽しませます!」(髙橋)、「ついに念願の幕が上がりました。全国へこの作品をお届けできることが本当に嬉しい。この舞台を観て、ミュージカルって楽しいなと思ってくれる子どもたちが全国にたくさんいたら嬉しいですし、私自身、ハッとさせられる部分がとても多いので、大人の方にも楽しんでほしい。ぜひ親子揃って観に来ていただけたら」(熊谷)、「タイトルに“ゾンビ”という言葉が入っていますが、怖い話ではありません(笑)。劇場を出た時に晴れやかな気持ちになれるような、パワーのある作品。子どもだけでなく大人にも響く作品になっているので多くの方々に観に来ていただけたら」(石井)、「背中をポンと押してくれるような温かい作品になっています。皆さんに元気と勇気をたくさん与えられるように精いっぱいがんばりたいです」(伊藤)、「音楽の力って本当に凄い。一瞬にして心を動かす力がある。お子様には舞台を観る、ミュージカルを観るという経験を楽しみ、好きになってもらえたら嬉しい。大人の方には、この作品は今の世界に必要なことを直球で提示しているので、みんなで話し合う場を設けるきっかけになってもらえたら」(大和)とそれぞれアピールした。公演はこの後、9月4日(日)の千葉県南総文化ホール(館山市)での上演を皮切りに、10月10日(月・祝)まで全国各地で上演される。

取材・文:平野祥恵
NHKみんなのうたミュージカル「リトル・ゾンビガール」公開舞台稽古
写真提供:日生劇場

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