第32回発表会『Louvre』を開催するエ
レキコミックにインタビュー ~「発
表会は、お笑いを続けるうえで一番幸
せな形態」

今年で結成25周年を迎えたお笑いコンビ、エレキコミック(やついいちろう、今立進)。ボケ役のやついは、以前から交流の深かった曽我部恵一の勧めでDJをしたり、「やついフェス」なる音楽フェスを主催したりと、ジャンル横断的な活動で知られている。一方で、芸人活動の軸となる「発表会」という単独ライヴを定期的に続けており、今年9月22日から25日まで池袋のあうるすぽっとで32回目となる『Louvre』を上演する。やつい、今立に話を訊いた。

――発表会は22年間、31回やってきましたね。続けてこられた最大のモチベーションは何でしょうか。
やつい これだけがはっきりと芸人活動だと言える唯一のものだからですね。発表会以外に新ネタを書き下ろしていないので。寄席に出るみたいに定期的に芸を披露しているわけじゃないから、これを続けなくなったら、コンビ解散ってことになると思います。お笑いを続けるうえで一番幸せな形態が発表会ですね。
――毎回、すべて新作のネタを披露するのは、やる側も観る側も新鮮だと思います。
やつい 新ネタを大体、1カ月に1本は作っています。同じコントをやり続けるっていう形も素敵だと思うんですけど、僕らは最近作ったばかりのネタをなるべく多く観てもらいたいですね。テレビでそういう場がある人はいるんでしょうけど、僕らにはないもので。その意味でも貴重な場だと思います。
――過去の発表会を観るとタイムリーなネタを入れ込んでくるなという印象があります。メダルをかむ名古屋の河村市長とか、マッチングアプリ、サウナ、マリトッツオなど。その時々の流行に沿った言葉を使っていますね。すぐに誰も使わなくなってしまうような言葉もあえて入れ込む、というスタンスなのでしょうか?
やつい まさにそうですね。言葉が時代遅れになっていくのをあまり怖れていなくて。これは後々まで残らない言葉だから使うのをやめようっていう発想がないんです。例えば「新宿」っていう言葉から連想するイメージも、60年代から2010年代までで全く違いますよね。言葉の含むニュアンスも世代によって絶対ずれが生まれるじゃないですか。だからそこはあんまりおびえず、どんどん使っていこうと。どうせ流行り廃りがあるなら、その瞬間においしそうな言葉を使ったほうがいいかなって。
――コントのネタに繋がるようなことって日常生活で何かありますか?
やつい なるべく人と深く関わるようにするっていうのはあります。それも、特に面倒くさそうな人と話すとかですかね。「この人、危なそうだな」って思うと、なるべく長くしゃべったりしますね(笑)。自分の話よりも、他人の話すことが面白いことが多いんですよ。
今立 僕は普段全然行かない場所に行ってみて、そこで見た人について空想したりすることが多いですかね。都内だけどまだ行ったことのない場所に行くとか。下町もそうですし、練馬とか秋葉原に行って、そこからわざわざ歩いて上野や浅草の方面まで歩こうかとか。そういうのが刺激になりますね。
やつい 興味を持ったことをとりあえずやってみる、というのは僕もありますね。行きたいと思ったところに行ってみるとか、やりたいと思ったことをすぐにやってみる。ちょっと乗り気じゃないけど、旅行に行ってみるかとかもありますし。自分が欲しがっている物だけを手に入れていると、必ず飽きてくるので。
――今立さんから見てやついさんの書くネタって変わってきていますか?
今立 そんなに大きく変わった感じはしないですかね。でも、僕も彼の横にずっといるから気付いていないのかもしれないです。ただ、ばかばかしさみたいなものが根幹にあるのは変わってないと思います。だからこそ長年一緒にやれているんだろうなって。
――良い意味でのばかばかしさ。
今立 そうですね。ちょっと記憶にも残らないぐらいばかばかしいことをやっていますね。発表会って「あとに何も残らない」っていうお客さんからの感想がすごく多いんです。で、それはそれで、すごくいいなと僕は思っていて。内容はそれほど覚えていなくても、ただ笑ったなっていう印象や記憶だけが残ったというのも、すごくいいなって。
――やついさんが『ほぼ日刊イトイ新聞』のインタビューで、 <とにかく残らないものにお金や時間を使うようになりました>とおっしゃってましたけれど、それは今の、今立さんの話ともつながってきますか。
やつい はい。そうですね。その都度その都度、面白い物を観ては忘れていくって感じがいいと思います。観る側もやる側も、後々までものとして残るものは、最初から求めてなかったので。
――消えもの、生ものだからこそ、体験としてコントを見ることが面白いと。
やつい まさに体験してほしいっていうことですね。例えば、食事でも、自分で料理したという体験が伴うと、大したことない料理でもうまくなったりもするじゃないですか。で、その後に市販のパッケージングされている料理を食べても、しっくりこなかったりする。自分たちの発表会も、長く食べられるようには作ってないと思っています。それはコントに限らず、あらゆるライヴに言えることだと思いますけど。
――体験を買う、ということでしょうね。
やつい そうですね。だから、ものという形で残そうと思っていなくて。要するに、保存料が入ってないのがいいんじゃないかってことです。例えば、ウニを食べたいと思った時、ウニの缶詰より、保存料なしのとれたての生のウニが食べたいじゃないですか。それと似ていると思います。手元に残ることはないけど、お腹の中には残っているとも言えるし。
――お笑い好きだけど、ライヴに行ったことない人も結構いると思うんですよ。生のネタは観たことないっていう人が。そういう人に発表会をどう勧めますか?
やつい まず、お笑いは生で体験するのが一番面白いですからね。自分と比べるのはおこがましいんですけど、ご存命の時に立川談志さんの落語を観に行ったことがあるんです。で、やっぱり観てほんとに良かったなってしみじみ思うわけですよ。何度か観に行かせてもらったんですけど、もう、完全にライヴでしたね。その時はもう、落語をやってなかったです。漫談みたいな話だったんですけど、「おれ、談志さん観たな」っていう体験の記憶は残っていて。じっくり落語を観たかったら、DVDのほうがいいわけじゃないですか。だけど、別に談志さんのDVDを観ても体験というのとは、ちょっと違うと思うんですよ。今だったら、お笑いもいくらでもYouTubeやテレビでも観れると思うけど、生のライヴであの時にあれを観に行ったっていうのって、やっぱ特別だなと思っていて。
――ちなみに、池袋のあうるすぽっとも大きさ的にぴったりですね。お笑いを体感してもらえるのにちょうどいいのでは?
やつい まさに、お笑いの会場的にキャパシティがぴったりなんですよね。300席ぐらいで、アクセス的には東池袋の駅から直結だし。ステージの大きさも、客席との近さも、自分たちのお笑いにぴったりな会場だなと思ってます。それこそ生で体験してもらうのに、絶好の会場だと思いますね。
取材・文=土佐有明
写真撮影=鈴木久美子

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