自分と向き合う時間を届けたい 細貝
圭×久保田創『最後の医者は桜を見上
げて君を想う』インタビュー

本読み書店が選ぶ「感動小説」第一位となって続々重版、50万部を突破した二宮敦人による小説『最後の医者は桜を見上げて君を想う』。生に賭ける医者と死を肯定する医者の対立、さまざまな事情を抱える患者の最後の日を描いた医療ドラマが舞台化される。稽古が始まったタイミングで、「生」を諦めない医者・福原雅和を演じる細貝圭と、脚本を手掛け、自らも出演する久保田創にインタビューを行った。
■出演はいつの間にか決まっていた?
――まずは本作への出演が決まった時の思いを教えていただけますか。
細貝:やんわりとしか原作を知らない状態で決まったんです。創くんが脚本を書くということは聞いていて。
久保田:そうだね。年末くらいに僕が「ちょっと考えてくれないか」と言われて、年明けから書き始めて。それからずっと(細貝と)現場が一緒だったので、「舞台化するんだ」と言う話をしていました。3月くらいに演出の岡村(俊一)さんから医者のイメージが圭ちゃんだと聞いて、そうなんだと。
細貝:勝手に決まってました(笑)。ふわーって(笑)。
久保田:決まる前に、書いたものを送ったもんね。
――珍しいパターンですね。
久保田:あまりないことだと思うんですが、(細貝から)どんな話か聞かれて「書いてるけど読む?」って。
細貝:だから、やると決まった時も自然体というか。岡村さん(構成・演出の岡村俊一)の作品で創くんとも出会って、気心知れたメンバーが揃っています。ただ、岡村さんの作品で僕の名前が一番上にあるのは初めてのこと。そういう意味では、責任を持ってやらないといけないという思いはあります。
久保田:僕は舞台化するとは聞いたけど、いつ上演するかなどを教えてもらっていなかったんです。周りの方が詳しいみたいな(笑)。以前、岡村さんに『修羅雪姫』の脚本を任されたときは、映画を舞台化したいということで、残っているセリフが少ないところから作っていく作業がメインでした。今回は小説が元なので、逆に削っていく作業が必要になって、そこが大変でしたね。それが終わると2時間程度の舞台で小説1冊分の満足度に持っていくためにどういうラインで物語を作るかを考え、ようやく大筋ができてスタートラインに立ったところです。
――脚本を書いている途中で細貝さんに見せたということですが、細貝さんをイメージしながら書いたんでしょうか?
久保田:岡村さんから「圭ちゃんで考えている」とは言われましたが、書いているときは全く寄せていませんでした。ただ、稽古に入って本読みをした時点から圭ちゃんを意識して書き換えていますね。僕の頭の中にある圭ちゃんと実際の圭ちゃんは役に対する取り組みが違うので、今回はこういう感じで来るんだ、それなら台詞はこうした方がいいなと。これだけ知っていても実際目の前で読んでくれると印象が変わるので、稽古の中で寄せていっています。
>(NEXT)この作品は“人”を描いた医療ドラマ
■この作品は“人”を描いた医療ドラマ
――つかこうへい作品などでも共演の多いお二人です。改めてお互いの印象を教えてください。
細貝:(笑)。
久保田:何笑ってるの(笑)。
細貝:初めて出会ったのは2009年に岡村さんが演出した『女信長』。その頃僕はデビューしたてで、創くんがすごく優しくしてくれたんです。そこから何年かして共演した時も、昔の関係性のままというか変わらず優しくて。岡村さんの現場=創くんみたいな安心感がありますね。
久保田:いることは多いね。最近だとつかさん作品を一緒にやらせてもらうことが多くてありがたい話だよね。
細貝:創くんはつかさんのもとでやっていたのもあって、すごく頼りになります。
久保田:最初は『飛龍伝』のネズミとか下働きみたいな役をやっていたのに、今では『銀ちゃんが逝く』の中村屋とか、偉い役が増えたね。だから逆に、つかさん以外の作品で一人の医者を演じる圭ちゃんを見られるのが個人的にすごく楽しみです。
――今回細貝さんが演じる福原雅和は、院長の息子で副院長を務める天才外科医です。今まで演じてきた偉いキャラクターたちと似た部分もあるんでしょうか。
細貝:でも、福原って偉ぶってはいないんですよね。親父から権力をもぎ取って病院全体を変えてやるっていう思いがあって。自分が持っている権力がどうこうという印象はないです。
久保田:どちらかというと下の人ってイメージ。経歴だけ見ると偉くて力を持っている天才だけど、いろんなものに潰されながらも理想を追いかけてもがいて進んでいく人。そういう意味では、“人”を描いているつかさん作品に似ている部分もあります。ただ、ガワや台詞はつかさんじゃないので。普通の台詞を圭ちゃんがどう表現してくれるのか楽しみです。
――細貝さんは、役作りについてどう考えていますか?
細貝:取材の度に聞かれるんですけど、分かんないですよね。役作りってみんなどうやってるんだろう(笑)。
久保田:ガワをあんまり作らないってこと? 一番大事にしているものは?
細貝:ストーリーの中で一本筋が通ること。今回は特に福原がメインになっているから、なおさら筋が通っていないと難しいと思う。そのためにすごく話し合いはしますね。
久保田:細かいところに重きを置いてないんだね。全体を作って、あとは相手とやりとりしながら作っていくタイプなのかも。
細貝:今回はオペのシーンが多いわけでもなく、内面がすごく大事。
久保田:実際にその場でオペをするわけじゃないから、心が今どこにあるかに重きを置いているのかもしれないですね。でも、見ていると(細貝と山本涼介の)2人はすごくバランスがいい。お互いが違うものを持っていることがワンシーン見ただけですぐ分かる。現段階で期待値はすごく高いです。
>(NEXT)気心知れたメンバーとの作品づくり
■気心知れたメンバーとの作品づくり
――稽古は始まったばかりとのことですが、共演者の皆さんの印象はいかがでしょう。
久保田:まだ会えていないキャストもいますが、ずーみん(今泉佑唯)も気心知れていますし、元々裏表のない人間ですからね。どんどん成長している彼女が、子供をみごもっている奥さんの役をどう演じるのが楽しみです。芝居にはどうしてもその人自身・人間性が出ると思うんです。そういう意味でも、今までやったことのない役を通して、ずーみんの新たな一面がお客さんに届くといいなと思っています。
細貝:鳥越くんは何年か前に共演して、涼介は19歳くらいの時に共演して久しぶり。非常に大人になって、地に足がついている印象ですね。
久保田:自分の考えをしっかり持っている人だよね。他のメンバーは共演経験があるのもあって、涼介くんがどういう人なのか、自然と目がいくんです。「この言葉はこうがいいですよね」とか「ここでこう動くとスムーズに台詞に繋がる」とか、ちゃんと自分の中で論理性を持っている印象です。
細貝:普段から桐子みたいな状態だよね。一見何を考えているか分からないけど、話を振ると面白いことを言う。
久保田:ふと笑った時に「あ、いいな」って思うんですよね。あの笑顔がなんとも可愛らしいというか。作中でも、笑わなかった桐子が最後にちょっと笑うみたいなシーンがあるといいなと思ってト書に付け加えたりしました。あとは馴染みのメンバーや大先輩など、いろんな人間が集まってくれたのが作品にとってプラスだと思っています。
――演出の岡村さんの印象も教えてください。
久保田:ずっと一緒にいるもんね。圭ちゃんは親戚みたいって言ってたっけ?
細貝:親戚のおじさんです。
久保田:僕はそんなことないですよ。劇団に入って僕が研究生の頃、岡村さんがクロムハーツをジャラジャラつけていた頃から知っているので、親戚のおじさんなんてとても言えない(笑)。
細貝:演劇好きおじさん(笑)。
久保田:(笑)。つかさんのことはみんな好きだけど、岡村さんは本当につかさんのことが大好きな人です。あと、『修羅雪姫』でも思ったけど、新作をやるのが向いている人ですね。すごくエネルギーがあるから。
細貝:作品や人物像の捉え方が僕と全然違う。「?」になることも多いけど、話をしながら擦り合わせてお互いが納得する形になると気持ちいいんですよね。
久保田:擦り合わせの作業を絶対諦めないよね。今回はいい感じになってると思うし、岡村さんと圭ちゃんのすごくいい相乗効果があると思う。岡村さんの想いが溢れちゃうと理解できなくなるところもあるけど、圭ちゃんは話し合いができるし、分からない人がいたら僕らが橋渡しできるから。
細貝:創くんは岡村さんの思いを噛み砕いて説明するのうまいよね。
久保田:僕もめちゃくちゃディスカッションしますよ。稽古をして夜中もメールして、みたいな(笑)。こうやって劇団公演みたいに作っていけるプロデュース公演は中々ない。
細貝:僕らは(岡村演出を)分かるからいいけど、カルチャーショックを受けるかも(笑)。
久保田:そういう意味では、涼介くんが新しいカラーを持ち込んでくれて、すごくいいなと思いますね。
>(NEXT)作品を通して自分自身と改めて向き合ってもらえたら
■作品を通して自分自身と改めて向き合ってもらえたら
舞台『最後の医者は桜を見上げて君を想う』
――登場人物たちにそれぞれのスタンスがあります。お二人が共感する・気になるキャラクターは誰でしょうか。
細貝:やっぱりまりえちゃんが気になります。彼女が向き合ったことって、想像を絶するじゃないですか。読んでいても苦しい状況を21歳の子が受け入れて進んでいく。すごいよね。
久保田:2つの軸があって、福原先生は「生きることを諦めない」、桐子先生は「諦めることで見えてくるものもある」。すごく分かりやすい2軸に見えるのに、ALSという生きるのも死ぬのも辛い逃げ道のない病気が提示される。自分事として考えた時、誰もすぐには答えを出せないと思うんです。
細貝:しかも、彼女のバックグラウンドがね。医大に入学してこれからたくさんの人を救う立場になるという夢があって、両親も医者。その状況も相まってすごく印象に残っています。終活をしながら「生きている人間たちにこの姿を見せつける」っていうのが印象的で。
久保田:「辛いところも悲しいところも醜いところも見せつけるのが私の仕事」っていうね。どうやったらそこまでいけるんだろう。僕が印象的だったのは、福原が助けた患者さんは笑顔でありがとうございますと言ってくれる、それは太陽のような笑顔だと。ただ、死を目前にして色々なことを整理して自分の人生にけりをつけていくと、すごく無垢な存在になっていく、生まれる前のような状態になっていくというくだりがすごく響きました。生きていると欲も夢もあるけど、実際問題、本当にやりたいことってなんだろうと考えたんです。お客さんにとってこの作品がシンプルに「自分が一番やりたいこと」を見つめるきっかけになったらと思いますね。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
細貝:センシティブなお話ですし、目を背けたくなってしまうテーマかもしれませんが、登場人物全員にドラマがあり、それぞれ背負っているものがあります。その目線で見ていただけるとよりこの作品の深さが伝わりますし、自分と向き合える時間になると思います。ぜひ劇場に足をお運びください。
久保田:『最後の医者は桜を見上げて君を思う』というタイトルから、悲しいイメージを受けると思います。確かに命を題材にした話ですが、見終わった時に自分と向き合う時間が持てる作品だと思いますし、こちら側からは希望を届けられるようなお話を作っていきます。僕たちが色々話しても、観に来てもらえないと舞台自体が完成しません。お客さんが入って空間ができるものなので、ぜひ僕らと共有して、前向きな思いを受け取ってもらえたらと思います。ぜひ遊びに来てください。
本作は9月8日(木)より、CBGK シブゲキ!!にて上演される。
取材・文=吉田沙奈 撮影=池上夢貢

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