INTERVIEW / Alfie Templeman & Mic
hael Kaneko 2人のSSWが語る、現代に
おけるメンタルヘルス問題、パンデミ
ック下の生活、コラボレーションにつ
いて

15歳の頃、放課後に制作した「Like an Animal」で注目を集めてからおよそ4年、英ベッドフォードシャー出身のAlfie Templemanが待望のデビュー・アルバム『Mellow Moon』を〈Chess Club Records / AWAL〉からリリースした。
2020年、私たちが彼に初めて取材をしたとき、ちょうどAlfieは今作に取り掛かり始めたばかりだったという。当時は「楽しい音楽を作ることだけを目指したい」と語っていた。しかしながら、予想もしていなかったパンデミックでの世の中の大きな変化と、ティーンから大人への過渡期を経て、本作は彼の精神的な成長を感じられる内省的な内容に仕上がった。
また、以前より公言しているシティポップの影響を感じさせる昭和の懐メロのようなメロディやサイケデリックとR&Bの要素に加え、さらにプログレッシブ・ロックにも触れており、キャッチーさは変わらないものの、さらに様々なジャンルを取り込んだポップ・サウンドへと進化した。この1枚のアルバムは、まるで彼のこの2年間の成長を記録した映画のサウンド・トラックのようだ。
10月には初の来日公演も控えるAlfie。今回はコラボレーション作を中心に収録したアルバム『The Neighborhood』をリリースしたMichael Kanekoを迎えてインタビューを実施。アルバムの話を中心に制作期間に向き合ってきたメンタルヘルスの問題、パンデミック下の生活、音楽制作についてなど、短い時間ながらも2人に語ってもらった。
Interview & Text by Aoi Kurihara
――デビュー・アルバム『Mellow Moon』は今までリリースされたEPやミニ・アルバムでは収録されていない曲ばかりで、ファンとしては嬉しい限りです! 2年前から制作を開始したようですが、これは全部この2年で書いたものですか? それとも昔に書いた曲もあるのでしょうか。
Alfie Templeman:いくつかの曲は2020年の前半頃に書きました。その年の夏、パンデミックの間に自宅で制作し、昨年完成させました。リリースに2年という長い期間がかかってしまったのですが、だからこそ様々なジャンルを取り込めた作品になったと思います。
――アルバムのタイトル『Mellow Moon』には不安から逃れる場所という意味が込められているそうですね。
Alfie Templeman:夜に自宅で音楽の作業するときに、部屋の窓から月が見えていました。毎日アルバムを制作するときに月の光を感じていたのがクールだと思って、このタイトルに決めました。
自分はまだ大人になりかけている段階で、将来やキャリアについて不安を感じています。このアルバムはティーンエイジャーから大人になるためのステップのようなもので、変化していく人生を記録したかったんです。
Michael Kaneko:自分もキャリアについてはしょっちゅう不安を感じます。ミュージシャンって常に波に乗っていて、調子がいいときはとても楽しいのですが、またすぐに不安に落ちての繰り返しで。みんなそうだと思いますね。
Alfie Templeman:そうそう、本当にサーフィンみたいですよね。自分が作品をリリースすると、評価されたり反応があったりで気持ちが上がりますが、すぐに周りのリリースに埋もれてしまう。とても展開が早くて、本当に波に乗っているようです。バズっているときはいいけれど、表立った動きがないときは静かで、そういったときに不安を感じます。
――そういった環境下において、自分の精神を安定させるために何か取り組んでいることはありますか?
Alfie Templeman:私の場合は、自宅で家族やパートナーと過ごすときが一番開放されていると感じます。ツアーやライブをしているときは楽しい反面、常に音楽のことを考えてストレスも溜まってしまいますが、家族や親しい人たちと一緒にいることで自分には音楽だけじゃないんだっていうことを認識することができます。
Michael Kaneko:僕も友だちと一緒に過ごすことが1番大きいですね。音楽業界にいると朝起きてからずっと音楽のことを考えてしまうので、特に音楽のコミュニティとは関係のない友だちと一緒にいることが大事だと思います。
――このアルバムではメンタルヘルスや自己認識が大きなテーマとなっているそうですが、そもそもそういった問題を認識して、向き合うようになったのはいつ頃なのでしょうか?
Alfie Templeman:アルバムではメンタルヘルスについてわかりやすく歌詞で表現したというわけではありません。サイド・プロジェクト、Ariel Daysの方がメンタルヘルスの問題により強くフィーチャーしています。今回のアルバムでは自虐的でふざけた感じで綴っていますが、これは自分が強くなったからこそできた表現だと思います。その一方で、私は自分のことにスポットライトを当てることに少しまだ不安を感じていて、この作品では内密に、でも率直に自分を語っています。
――自分を自虐的に扱えるように強くなれたのはなぜだと思いますか?
Alfie Templeman:ティーンエイジャー故の悩みを振り返ってみて、「自分ってこんな馬鹿なことで悩んでいたんだ」と思えるようになったからです。あとは元々Frank Zappaなどの皮肉な歌詞が好きということもあります。自分についてシリアスに考え込み過ぎないように気をつけています。今は大人になったので、より大きなスケールで物事を考えたり見たりすることができるようになりました。
――アーティストのメンタルヘルスの問題は世界的なトピックにもなっているかと思いますが、お2人はセラピーなどを受けたことはありますか。
Michael Kaneko:自分は経験ありませんね。
Alfie Templeman:2年前からセラピーに通っています。ただ、自分に合うセラピストを見つけるのは苦労しました。人によって考えは様々ですし、もちろん相性もあるので、自分と上手くマッチしたセラピストを探すことが大事だと思います。渡しの場合は人の紹介で自分に合うセラピストに出会えました。
セラピーに通う理由となったのはツアー中のストレスから。例えばオーストラリアに行って、それ自体は素晴らい体験なんだけど、時差ボケや疲れもあるのに次の日にはショーが控えていて、体力的に辛かったです。最近、アーティストがメンタルヘルスの問題でツアーやショーをキャンセルしているのを多く見かけますが、ツアーは本当にダメージを受けやすいんです。
――ロックダウンのとき、通常の人たちは外に出れないストレスを感じていたと思います。しかし、最近他のアーティストへの取材で、あなたたちが言ってたようにツアーは体力的にも精神的にも過酷だから、ロックダウンで自宅での時間を過ごせたことは逆にいい期間であったというような話を聞きました。お2人はいかがでしたか?
Alfie Templeman:最初の2週間はよかったのですが、その後すぐに飽きてしまって、気が狂いそうでした(笑)。同じことの繰り返しでどんどん怠け者のようになって、例えば午後の3時に起きちゃったり。
でも、パンデミック中にAriel Daysというサイド・プロジェクトを始めて、自分で演奏、録音まで全て手がけたことも挑戦的でフレッシュな出来事だったし、日本でミニ・アルバムをリリースできたこともよかったです。パンデミックの期間が長すぎて、どちらかというと早く外に行きたいって思うことの方が多かったですね。
Michael Kaneko:自分も最初の頃はコロナが何かわからなかったので、色々と不安で仕事のこともあまり考えられなかったのですが、1ヶ月後には早く外に出たい、ライブしたい、人と会いたいって感じでしたね。
Alfie Templeman:ツアーにいることもストレスだし、家にずっといるのもストレスですね(笑)。やはりバランスが大事です。少し話は変わりますが、今年の夏はオーストラリアに行って、向こうは季節が逆なのでとても寒くて、かと思ったら昨日のイギリスは40度くらいあってありえないぐらい暑くて! バランスが取れず頭がごちゃごちゃになっています(笑)。
――Alfieのファンは若い層が多くて、同じように大人になっていく複雑な時期やパンデミックの影響でメンタルの問題を抱えている人も多いのではないかと思うのですが、そのようなあなたたちのファンにどういったアドバイスできるでしょうか。
Alfie Templeman:自分もまだ色々な問題を抱えていて、アドバイスができる立場ではないですね。でも1番は問題から逃げないことだと思います。パンデミックが始まった2年前、自分は17歳で若くて多感な時期でした。その間、常に「なんで自分がこういう気持ちになるのだろう」と、自問自答を繰り返し続けたり、自分のことをもっと深く知るように務めました。また、色々な人に会って話を聞くことも大事だと思います。
――Alfieの今作では自分のネガティブなことに向き合った内容となっていますが、今までの作品はティーンエイジャーらしい率直なラブソングが多かったですよね。今後はどういった曲を書いていくと思いますか? 以前に戻って、ラブソングを書くことはありますか?
Alfie Templeman:とてもいい質問だと思います。一般的に、多くの有名なポップ・ソングはラブソングです。確かに最初のミニ・アルバムはもっとシンプルで愛について歌った歌詞が多かったですよね。でも、自分は常に成長していて、当時よりも深く考えられるようになっています。もちろんラブソングも歌えるけれど、今回はメンタルヘルスの問題についても扱えるようになって、音楽でもっと色々な側面を表現できる気がしています。今はより多くのことを学んでいるところなので、次の作品は間違いなく主題があるような内容になるだろうと予想しています。
――Alfieの今作にはJustin Young(The Vaccines)など、過去作品でも参加していたアーティストが今作でも参加していますよね。Michael Kanekoさんは6月にコラボ作を中心としたアルバム『The Neighborhood』をリリースしましたが、“他のアーティストとの共作”という行為は自身にとってどのような作用/効果があると思いますか。
Alfie Templeman:Justinは音楽制作の上でとても助けてくれました。こういう歌詞のがいいよとか自分に思いつかない言い回しを教えてくれることは共作する上での素晴らしいメリットです。また、私の両親はとても支援的で、父はギターについてのアドバイスをくれることもあります。私は不思議な音色とか変わったアイディアを出すことが好きなので、共に仕事をする人が同じようにクレイジーな人だといいのですが、型にハマったような人だと、意見するのに遠慮してしまったり、デメリットを感じる点もあります。今回のプロデューサーや共作者は自分に合う人だったので、お互い信頼関係を築けたしとても上手くいきました。
Michael Kaneko:僕も自分が思いつかないアイディアを出してくれることがコラボレーションの一番のメリットだと思います。ひとりで曲とずっと向き合っていると、悪い言い方をすればその曲を知りすぎてしまうんです。作業しているうちに「この曲はこう仕上げる」というイメージが自分の頭の中で固まってしまうのですが、そこに他のアーティスト/クリエイターが入ることによって、自分が思いつかない方面からのアドバイスをもらえたりする。そうすることで新しい景色が見えることもありますね。
Michael Kaneko:今回のコラボレーション・アルバムでも実際にそのような経験がありました。ソロ・アーティストとして活動しているので、自分の作品でここまで多くのコラボレーションを取り入れたのは初めての体験だったのですが、頑固になりすぎず人の意見を聞くというのが大事なんだなと思いました。最初は少し不安もありましたが、いざやってみるとどのプロジェクトも上手くいって。でも、自分がもっと若いときだったら変なこだわりがあって上手くいかなかったかもしれませんね。もちろん、今もこだわりを持って制作しているけど、より視野も広くなったというか。成長して、大人になったんだなと感じました。
――アーティスト、特にあなたたちのようにソロで活動しているアーティストは自己を表現/主張するという目的があるわけで、その自己表現と他者と協業するための協調性のバランスを取るのが難しそうですね。
Alfie Templeman:そうですね。正直、過去の作品では他の人が関わって、イメージ通りに仕上げられず後悔しているような作品もあるんです。誰も関わらなかったバージョンの方が気に入っている曲もあります。昔は納得がいってなくてもレーベルからの意見を受け入れてしまうこともあったのですが、今は自分が嫌なことは嫌だと言えるようになりました。最終的には自分の名前でリリースするわけですし、ファンは私が完全に納得したものを聴きたいはずですよね。なので、そこの舵取りは大事だと思います。
――ちなみに、Alfieは先ほどお父さんの話をしていましたが、彼はあなたのツアー・マネージャーとして働いているそうですね。そもそも音楽を始めたのもお父さんからの影響だと伺いました。現在、お父さんとはどのような関係だと言えますか。
Alfie Templeman:その通り。彼は自分の父であり仕事のパートナーでもあるので、その切り替えは少し難しいです。これもバランスなのだと思います。ツアー・マネージャーは寝る時間も惜しむぐらいとてもタフな仕事ですが、父はとても頑張ってくれて、同時に楽しんでいます。ただ、一生ツアー・マネージャーをやるつもりはなくて、以前は建築関係の仕事をしていたので、いずれは戻りたいみたいです。
――昨年、Alfieがライブ会場をもっと安全な場にするためにハラスメントに関するステートメントを投稿していて、前回の取材でもあなたの意見を聞くことができました。その後まだ1年しか経っておらず、根強い問題かと思うので改善されたとは思わないですが、パンデミックの後でギグを再会してみて現在の状況はどうなっていると感じていますか。
Alfie Templeman:自分のライブとかインディ・コミュニティについてはそこまで頻繁に起きているという感じではないと思います。しかし、クラブとかでは横行していてUKで社会問題になるぐらい問題になっていてそれで昨年SNSで発信しました。それから良くなったかというと、ハラスメント行為を行った人への罰は少し厳しくなったようですが、残念ながら状況そのものはあまり改善されていないです。
――最後に今年は日本への来日も決まっているので日本のファンに一言お願いします!
Alfie Templeman:10月に日本に行けることをとても楽しみにしています。来日が実現できるなんて信じられない! みんなライブでお会いましょう!
【イベント情報】
問い合わせ:SMASH 03-3444-6751
チケット一般発売:6月25日(土)10:00~
ぴあ(Pコード:219-168)/ローソンチケット(Lコード:71440)/e+
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[Guests]

チケット一般発売:7月16日(土)10:00〜 ぴあ(https://w.pia.jp/t/michaelkaneko-t/)  / e+(https://eplus.jp/sf/detail/3639480001-P0030001P021001) / ローチケ(https://l-tike.com/order/?gLcode=73445)
【リリース情報】
■ Alfie Templeman オフィシャル・サイト(https://www.alfietempleman.com/www.alfietempleman.com/)
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Michael Kaneko 『Sounds From The Den EP vol.3: City Pop Covers』

Tracklist:
1. DOWN TOWN (シュガー・ベイブ)
2. 風をあつめて (はっぴいえんど)
3. SUMMER BLUE (ブレッド&バター)
4. ひこうき雲 (荒井由実)
5. Midnight Pretenders (亜蘭知子)
※2CD限定版のみに付属
■ Michael Kaneko オフィシャル・サイト(https://michaelkaneko.com/)
15歳の頃、放課後に制作した「Like an Animal」で注目を集めてからおよそ4年、英ベッドフォードシャー出身のAlfie Templemanが待望のデビュー・アルバム『Mellow Moon』を〈Chess Club Records / AWAL〉からリリースした。
2020年、私たちが彼に初めて取材をしたとき、ちょうどAlfieは今作に取り掛かり始めたばかりだったという。当時は「楽しい音楽を作ることだけを目指したい」と語っていた。しかしながら、予想もしていなかったパンデミックでの世の中の大きな変化と、ティーンから大人への過渡期を経て、本作は彼の精神的な成長を感じられる内省的な内容に仕上がった。
また、以前より公言しているシティポップの影響を感じさせる昭和の懐メロのようなメロディやサイケデリックとR&Bの要素に加え、さらにプログレッシブ・ロックにも触れており、キャッチーさは変わらないものの、さらに様々なジャンルを取り込んだポップ・サウンドへと進化した。この1枚のアルバムは、まるで彼のこの2年間の成長を記録した映画のサウンド・トラックのようだ。
10月には初の来日公演も控えるAlfie。今回はコラボレーション作を中心に収録したアルバム『The Neighborhood』をリリースしたMichael Kanekoを迎えてインタビューを実施。アルバムの話を中心に制作期間に向き合ってきたメンタルヘルスの問題、パンデミック下の生活、音楽制作についてなど、短い時間ながらも2人に語ってもらった。
Interview & Text by Aoi Kurihara
――デビュー・アルバム『Mellow Moon』は今までリリースされたEPやミニ・アルバムでは収録されていない曲ばかりで、ファンとしては嬉しい限りです! 2年前から制作を開始したようですが、これは全部この2年で書いたものですか? それとも昔に書いた曲もあるのでしょうか。
Alfie Templeman:いくつかの曲は2020年の前半頃に書きました。その年の夏、パンデミックの間に自宅で制作し、昨年完成させました。リリースに2年という長い期間がかかってしまったのですが、だからこそ様々なジャンルを取り込めた作品になったと思います。
――アルバムのタイトル『Mellow Moon』には不安から逃れる場所という意味が込められているそうですね。
Alfie Templeman:夜に自宅で音楽の作業するときに、部屋の窓から月が見えていました。毎日アルバムを制作するときに月の光を感じていたのがクールだと思って、このタイトルに決めました。
自分はまだ大人になりかけている段階で、将来やキャリアについて不安を感じています。このアルバムはティーンエイジャーから大人になるためのステップのようなもので、変化していく人生を記録したかったんです。
Michael Kaneko:自分もキャリアについてはしょっちゅう不安を感じます。ミュージシャンって常に波に乗っていて、調子がいいときはとても楽しいのですが、またすぐに不安に落ちての繰り返しで。みんなそうだと思いますね。
Alfie Templeman:そうそう、本当にサーフィンみたいですよね。自分が作品をリリースすると、評価されたり反応があったりで気持ちが上がりますが、すぐに周りのリリースに埋もれてしまう。とても展開が早くて、本当に波に乗っているようです。バズっているときはいいけれど、表立った動きがないときは静かで、そういったときに不安を感じます。
――そういった環境下において、自分の精神を安定させるために何か取り組んでいることはありますか?
Alfie Templeman:私の場合は、自宅で家族やパートナーと過ごすときが一番開放されていると感じます。ツアーやライブをしているときは楽しい反面、常に音楽のことを考えてストレスも溜まってしまいますが、家族や親しい人たちと一緒にいることで自分には音楽だけじゃないんだっていうことを認識することができます。
Michael Kaneko:僕も友だちと一緒に過ごすことが1番大きいですね。音楽業界にいると朝起きてからずっと音楽のことを考えてしまうので、特に音楽のコミュニティとは関係のない友だちと一緒にいることが大事だと思います。
――このアルバムではメンタルヘルスや自己認識が大きなテーマとなっているそうですが、そもそもそういった問題を認識して、向き合うようになったのはいつ頃なのでしょうか?
Alfie Templeman:アルバムではメンタルヘルスについてわかりやすく歌詞で表現したというわけではありません。サイド・プロジェクト、Ariel Daysの方がメンタルヘルスの問題により強くフィーチャーしています。今回のアルバムでは自虐的でふざけた感じで綴っていますが、これは自分が強くなったからこそできた表現だと思います。その一方で、私は自分のことにスポットライトを当てることに少しまだ不安を感じていて、この作品では内密に、でも率直に自分を語っています。
――自分を自虐的に扱えるように強くなれたのはなぜだと思いますか?
Alfie Templeman:ティーンエイジャー故の悩みを振り返ってみて、「自分ってこんな馬鹿なことで悩んでいたんだ」と思えるようになったからです。あとは元々Frank Zappaなどの皮肉な歌詞が好きということもあります。自分についてシリアスに考え込み過ぎないように気をつけています。今は大人になったので、より大きなスケールで物事を考えたり見たりすることができるようになりました。
――アーティストのメンタルヘルスの問題は世界的なトピックにもなっているかと思いますが、お2人はセラピーなどを受けたことはありますか。
Michael Kaneko:自分は経験ありませんね。
Alfie Templeman:2年前からセラピーに通っています。ただ、自分に合うセラピストを見つけるのは苦労しました。人によって考えは様々ですし、もちろん相性もあるので、自分と上手くマッチしたセラピストを探すことが大事だと思います。渡しの場合は人の紹介で自分に合うセラピストに出会えました。
セラピーに通う理由となったのはツアー中のストレスから。例えばオーストラリアに行って、それ自体は素晴らい体験なんだけど、時差ボケや疲れもあるのに次の日にはショーが控えていて、体力的に辛かったです。最近、アーティストがメンタルヘルスの問題でツアーやショーをキャンセルしているのを多く見かけますが、ツアーは本当にダメージを受けやすいんです。
――ロックダウンのとき、通常の人たちは外に出れないストレスを感じていたと思います。しかし、最近他のアーティストへの取材で、あなたたちが言ってたようにツアーは体力的にも精神的にも過酷だから、ロックダウンで自宅での時間を過ごせたことは逆にいい期間であったというような話を聞きました。お2人はいかがでしたか?
Alfie Templeman:最初の2週間はよかったのですが、その後すぐに飽きてしまって、気が狂いそうでした(笑)。同じことの繰り返しでどんどん怠け者のようになって、例えば午後の3時に起きちゃったり。
でも、パンデミック中にAriel Daysというサイド・プロジェクトを始めて、自分で演奏、録音まで全て手がけたことも挑戦的でフレッシュな出来事だったし、日本でミニ・アルバムをリリースできたこともよかったです。パンデミックの期間が長すぎて、どちらかというと早く外に行きたいって思うことの方が多かったですね。
Michael Kaneko:自分も最初の頃はコロナが何かわからなかったので、色々と不安で仕事のこともあまり考えられなかったのですが、1ヶ月後には早く外に出たい、ライブしたい、人と会いたいって感じでしたね。
Alfie Templeman:ツアーにいることもストレスだし、家にずっといるのもストレスですね(笑)。やはりバランスが大事です。少し話は変わりますが、今年の夏はオーストラリアに行って、向こうは季節が逆なのでとても寒くて、かと思ったら昨日のイギリスは40度くらいあってありえないぐらい暑くて! バランスが取れず頭がごちゃごちゃになっています(笑)。
――Alfieのファンは若い層が多くて、同じように大人になっていく複雑な時期やパンデミックの影響でメンタルの問題を抱えている人も多いのではないかと思うのですが、そのようなあなたたちのファンにどういったアドバイスできるでしょうか。
Alfie Templeman:自分もまだ色々な問題を抱えていて、アドバイスができる立場ではないですね。でも1番は問題から逃げないことだと思います。パンデミックが始まった2年前、自分は17歳で若くて多感な時期でした。その間、常に「なんで自分がこういう気持ちになるのだろう」と、自問自答を繰り返し続けたり、自分のことをもっと深く知るように務めました。また、色々な人に会って話を聞くことも大事だと思います。
――Alfieの今作では自分のネガティブなことに向き合った内容となっていますが、今までの作品はティーンエイジャーらしい率直なラブソングが多かったですよね。今後はどういった曲を書いていくと思いますか? 以前に戻って、ラブソングを書くことはありますか?
Alfie Templeman:とてもいい質問だと思います。一般的に、多くの有名なポップ・ソングはラブソングです。確かに最初のミニ・アルバムはもっとシンプルで愛について歌った歌詞が多かったですよね。でも、自分は常に成長していて、当時よりも深く考えられるようになっています。もちろんラブソングも歌えるけれど、今回はメンタルヘルスの問題についても扱えるようになって、音楽でもっと色々な側面を表現できる気がしています。今はより多くのことを学んでいるところなので、次の作品は間違いなく主題があるような内容になるだろうと予想しています。
――Alfieの今作にはJustin Young(The Vaccines)など、過去作品でも参加していたアーティストが今作でも参加していますよね。Michael Kanekoさんは6月にコラボ作を中心としたアルバム『The Neighborhood』をリリースしましたが、“他のアーティストとの共作”という行為は自身にとってどのような作用/効果があると思いますか。
Alfie Templeman:Justinは音楽制作の上でとても助けてくれました。こういう歌詞のがいいよとか自分に思いつかない言い回しを教えてくれることは共作する上での素晴らしいメリットです。また、私の両親はとても支援的で、父はギターについてのアドバイスをくれることもあります。私は不思議な音色とか変わったアイディアを出すことが好きなので、共に仕事をする人が同じようにクレイジーな人だといいのですが、型にハマったような人だと、意見するのに遠慮してしまったり、デメリットを感じる点もあります。今回のプロデューサーや共作者は自分に合う人だったので、お互い信頼関係を築けたしとても上手くいきました。
Michael Kaneko:僕も自分が思いつかないアイディアを出してくれることがコラボレーションの一番のメリットだと思います。ひとりで曲とずっと向き合っていると、悪い言い方をすればその曲を知りすぎてしまうんです。作業しているうちに「この曲はこう仕上げる」というイメージが自分の頭の中で固まってしまうのですが、そこに他のアーティスト/クリエイターが入ることによって、自分が思いつかない方面からのアドバイスをもらえたりする。そうすることで新しい景色が見えることもありますね。
Michael Kaneko:今回のコラボレーション・アルバムでも実際にそのような経験がありました。ソロ・アーティストとして活動しているので、自分の作品でここまで多くのコラボレーションを取り入れたのは初めての体験だったのですが、頑固になりすぎず人の意見を聞くというのが大事なんだなと思いました。最初は少し不安もありましたが、いざやってみるとどのプロジェクトも上手くいって。でも、自分がもっと若いときだったら変なこだわりがあって上手くいかなかったかもしれませんね。もちろん、今もこだわりを持って制作しているけど、より視野も広くなったというか。成長して、大人になったんだなと感じました。
――アーティスト、特にあなたたちのようにソロで活動しているアーティストは自己を表現/主張するという目的があるわけで、その自己表現と他者と協業するための協調性のバランスを取るのが難しそうですね。
Alfie Templeman:そうですね。正直、過去の作品では他の人が関わって、イメージ通りに仕上げられず後悔しているような作品もあるんです。誰も関わらなかったバージョンの方が気に入っている曲もあります。昔は納得がいってなくてもレーベルからの意見を受け入れてしまうこともあったのですが、今は自分が嫌なことは嫌だと言えるようになりました。最終的には自分の名前でリリースするわけですし、ファンは私が完全に納得したものを聴きたいはずですよね。なので、そこの舵取りは大事だと思います。
――ちなみに、Alfieは先ほどお父さんの話をしていましたが、彼はあなたのツアー・マネージャーとして働いているそうですね。そもそも音楽を始めたのもお父さんからの影響だと伺いました。現在、お父さんとはどのような関係だと言えますか。
Alfie Templeman:その通り。彼は自分の父であり仕事のパートナーでもあるので、その切り替えは少し難しいです。これもバランスなのだと思います。ツアー・マネージャーは寝る時間も惜しむぐらいとてもタフな仕事ですが、父はとても頑張ってくれて、同時に楽しんでいます。ただ、一生ツアー・マネージャーをやるつもりはなくて、以前は建築関係の仕事をしていたので、いずれは戻りたいみたいです。
――昨年、Alfieがライブ会場をもっと安全な場にするためにハラスメントに関するステートメントを投稿していて、前回の取材でもあなたの意見を聞くことができました。その後まだ1年しか経っておらず、根強い問題かと思うので改善されたとは思わないですが、パンデミックの後でギグを再会してみて現在の状況はどうなっていると感じていますか。
Alfie Templeman:自分のライブとかインディ・コミュニティについてはそこまで頻繁に起きているという感じではないと思います。しかし、クラブとかでは横行していてUKで社会問題になるぐらい問題になっていてそれで昨年SNSで発信しました。それから良くなったかというと、ハラスメント行為を行った人への罰は少し厳しくなったようですが、残念ながら状況そのものはあまり改善されていないです。
――最後に今年は日本への来日も決まっているので日本のファンに一言お願いします!
Alfie Templeman:10月に日本に行けることをとても楽しみにしています。来日が実現できるなんて信じられない! みんなライブでお会いましょう!
【イベント情報】
問い合わせ:SMASH 03-3444-6751
チケット一般発売:6月25日(土)10:00~
ぴあ(Pコード:219-168)/ローソンチケット(Lコード:71440)/e+
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[Guests]

藤原さくら
さかいゆう
さらさ(BAND)
チケット一般発売:7月16日(土)10:00〜 ぴあ(https://w.pia.jp/t/michaelkaneko-t/)  / e+(https://eplus.jp/sf/detail/3639480001-P0030001P021001) / ローチケ(https://l-tike.com/order/?gLcode=73445)
【リリース情報】
■ Alfie Templeman オフィシャル・サイト(https://www.alfietempleman.com/www.alfietempleman.com/)
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Michael Kaneko 『Sounds From The Den EP vol.3: City Pop Covers』

Tracklist:
1. DOWN TOWN (シュガー・ベイブ)
2. 風をあつめて (はっぴいえんど)
3. SUMMER BLUE (ブレッド&バター)
4. ひこうき雲 (荒井由実)
5. Midnight Pretenders (亜蘭知子)
※2CD限定版のみに付属
■ Michael Kaneko オフィシャル・サイト(https://michaelkaneko.com/)

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