『吉野大作ランプ製造工場』は
“幻の名盤”にしてはならない

ドライヴ感のあるバンドサウンド

M1「風の街から」はフォークブルースといった印象。Aメロはいかにもブルースといった雰囲気ではあるが、サビでポップに展開。展開というより転調に近いかもしれない。歌もサウンドもコロッと変わる。とりわけバッキングはフレンチポップにも似た軽快さがあり、ここは随分と親しみやすいと思う。それでいて、そのサビに重なるギターとベースのアンサンブルがとても良く、単なる歌ものになっていないこともはっきりと示されている。《君は風に乗って/空に舞い上がるよ》と歌われる歌詞もさわやか。個人的に注目したのは、LPの裏ジャケに掲載された歌詞とは若干異なること。とある部分が《そっと微笑んで》と歌われている。(見間違え、聴き間違えかもしれないので、そうだとしたら先に謝っておきます)レコーディングの時に勢い余ってそう歌われたのか。何か意図があっての改変なのか。それとも、もともとこの仕様なのか。ちょっと興味深い。

M2「掘っ立て小屋のある街」もフォークに分類されるであろうが、M1に比べるとファニーな感じ。メロディー、サウンドにはアメリカンがありつつ、個人的には、どこかバンカラや労働歌の匂いを感じた。それは歌詞に関係しているのだろう。
《住み慣れた街だけど/心のどこかに/しみついているだろう/山並みの緑/安酒をくらって/飲み明かした日々が/やけに懐かしく/思い出されるぜ》《汽車の汽笛が/聞こえてくる/鎌倉の眺めも/これが最後さ/いつまでも一緒に/暮らしたかったが/やけに目の前が/ぼやけてくるぜ》(M2「掘っ立て小屋のある街」)。
土着性の注入というとかなり大袈裟な物言いになるが、こういうところに米国発祥の音楽を日本のもの、吉野大作ならではのものにしている秘訣を感じる。M2以外の楽曲にも“街”というワードをチラホラ耳にする。聞けば、氏は横浜国立大学出身で、今も横浜を中心にライヴ活動を続けているという。暮らしてきた街のことが、まさに染み付いているのだろうか。

M3「六月の空」もポップで、ビートも効いていて、これは完全にロック寄りだろう。ギターリフはThe WhoやThe Clashに近いんじゃないかと思うし、シンコペーションで喰い気味に進む演奏はパンク的ですらあるように感じる。とにかく演奏がいい。とりわけギターのメロディアスさ、軽快さ、疾走感が気持ちいい。アウトロでのバンドサウンドも実にカッコ良い。グルービーかつドライヴ感がある。歌詞は《君を愛してるって》と言っているくらいだから、所謂ラブソングかと思いきや、こんなフレーズが飛び出してくるから油断ならない。
《一度だけ君を抱こうとしたことが/あったね/その時君はいったけ/「アタシノカラダヲ買ッテ」って/おれは君のそんなところが/たまらなく好きだった》(M3「六月の空」)。
それでタイトルが「六月の空」なのだから、余計に頭の中には“?”が浮かぶ。文芸的と言うか、何と言うか。本作を一聴してポップだ、難解ではないとは思ったものの、やはりと言うべきか、この辺りには吉野大作作品の奥深さが垣間見える。

M4「朝陽のように」はマイナー調でややダーク。こちらもロックに分類してよかろう。個人的にはモッブスに近い雰囲気を感じたのだけれど、ということは、サイケデリックロック寄りのアシッドフォーク…ということなのかもしれない。相変わらずサビはキャッチーだし、そこに寄り添うギターもかなり秀逸。M3はパンクに近いと言ったが、M4はハードロックに通じる疾走感があるように思う。厚めのサウンドがとにかくカッコ良い。印象的なのは、やや長めのアウトロが一旦フェードアウトして再びフェードインするところ。これは文字通り、朝陽を表現しているのだろうか。

OKMusic編集部

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