【she9 インタビュー】
配信というかたちで
she9の世界観の広さを見てもらえる
「Flyway」は葛藤しながら
作った思い出がある
3曲目の「Flyway」はエモーショナルかつ煌びやかなナンバーで、シリアスなshe9の魅力を味わえますね。
じゅり
「Flyway」は本当に葛藤しながら作った思い出があるので、どの曲も思い入れは強いですけど、特にこの曲は作った時のことを鮮明に覚えています。“いい音楽って何だろう?”“いい歌って何だろう?”というふうに分からなくなって、もう何も作れないんじゃないかってくらいに思い詰めていた時期があったんです。そういう中で、自分を慰めるような気持ちと、自分と同じように“独りぼっちだな”とか“うまくいかないな”と思っている人に向けて曲を作りたい気持ちの両方があって、その時の苦しい気持ちを隠さずに、素直に、シンプルに届けたいと思って作りました。中でも、《ため息飲み込んで苦しいくらいなら/いっそ全部吐き出して思いきり泣けばいい》というAメロの歌詞は、本当に実践していたんです。つらいんですよね、ため息を飲み込んで我慢するというのは。なので、当時はため息をつかないようにしていました。あと、ちょうどその時は周りのアーティストとかと比べてしまって、自分は全然ダメだと感じたりしていたんです。そういうことも歌詞に書いていて、この曲を歌ったり、聴いたりすると、当時の状況が思い出されますね。「Flyway」は、そういう曲です。
プレイ面ではどうですか?
苑
この曲のドラムはハイハットの音にすごくこだわりがあって、最初のAメロはがっちりと閉めているけど、折り返しからちょっと開けて厚みを出すようにしました。でも、この曲で一番注目してほしいのは間奏なんです。間奏のドラムはパターンを叩かずに間を埋めるようなアプローチで、個人的にすごく好きなんですよ。タンッ・タッタッ・タンという休符の部分とかもこだわったし、流れるようなアクセント感ということも気をつけました。間奏のどんどん駆け上がっていく楽器隊というところが気に入っています。
聴いていると気持ちを引き上げられるし、サビのゆったりしたサンバビートも心地良さにあふれていますね。
苑
サビは1番とラスサビは一緒だけど、2回目だけちょっとパターンが違っていたりするんです。1番とラスサビはハイハットが裏にいるツッタ・ツッタというパターンだけど、2番だけツッタカ・ツッタン・ツッタカ・ツッタンになっていて。1番は聴かせる感じでいって、2番はちょっと疾走感を加えたかったんです。
なんとなくパターンを変えたりするのではなくて、そこにはちゃんと意味があるんですね。
苑
はい。私は最初に打ち込みでドラムを作るんですけど、その時にドラム単体でもちゃんとストーリー性とか、抑揚感が見えるようにするということを大事にしているんです。同じようなパターンをずっと叩いていても合間のフィルを変えたり、ちょっとハイハットの開け具合を変えたりとか。そういうことはすごく気にします。
他のパートはいかがですか?
yuzu
「Flyway」は最初にじゅりから聴かせてもらった時に本当に感動して、この曲はテクニックとかじゃなくて、いかに感情をベースに込められるかということをすごく意識してレコーディングしました。ただ、サビのノリというのは大事にしたかったので、そこは気をつけましたね。あと、苑も言ったように間奏にもこだわりました。ギターもドラムもめちゃくちゃカッコ良いのでベースはそれを邪魔しないように、でも存在感がなくならいようなフレーズを弾いています。この曲は全体的にいかにエモく弾けるかということを意識しているので、そういうベースになっていると思いますね。
AMI
この曲は私的には自分たちが大きいステージに立っているイメージで作っていって、広がるギターだったり、空間を演出するようなギターを入れました。私はギターで埋めていくタイプで、この曲も最初は埋めていったけど、“いや、これは違うかも”と思ってどんどん引き算していったんです。サビもピアノの間を埋めるようなメロディーを弾いていて、いつもの自分とはだいぶ違う印象です。
苦労して考えたフレーズなども楽曲を俯瞰で見て、迷わず捨てられるのは大きな強みと言えますね。「Flyway」はエモーショナルなギターソロも聴きどころです。
AMI
ギターソロは“痛みや苦しみをそこで全部吐き出して次に進む!”みたいなことを音で表現できるといいなという想いで弾きました。この曲はドラムのフレーズもベースのフレーズも歌えるんですよ、もう好きすぎて(笑)。そうやってみんな際立っているんだけど、それがちゃんとひとつになるというのが、この曲のすごく好きなところです。それに「Flyway」は大きい場所で演奏したいという気持ちが本当に強いので、それを実現できるように頑張ろうと思っています。
じゅり
この曲の歌は本当にひと言ひと言の表情とか、息の吐き方とかを細かく選びながら歌っています。Aメロはつらいのですが、つらそうに歌うというよりは自分のつらさを淡々と受け入れているイメージで歌いましたね。痛みを持った曲だけど、サビでは希望の風が、さわやかな風が心の中に吹いている感じで、たぶん歌っている時の表情はちょっと笑っていたと思います。ブースが小さいから手を広げられないんですけど、さわやかな風を浴びながら大きく手を広げているようなイメージで歌いました。特に《君を独りになんてしないよ》と音を伸ばすところとかは、歌いながら泣きそうになってしまうくらい、もう全ての希望を込める気持ちで歌っています。
良質な楽曲とプレイが相まって「Flyway」は強く響く曲になっています。冒頭にも言いましたが、今回の3ヵ月連続配信は3曲ともに上質ですし、she9の新たな顔に触れられることも含めて必聴と言えますね。
じゅり
ありがとうございます。「チェケラダンス」と「Flyway」は全然違うことを歌っているのですが、同じ人間だなと思うんですよね。人というのはいろんな感情になる日があって、「Flyway」みたいなつらい日があるからこそ、「チェケラダンス」みたいに“今日は思い切りはっちゃけよう”と思ったりする。でも、そこで思いきりハメを外している人たちも、きっと次の日からまた地道に進んでいくんですよ。今回の3曲を聴いて、そういうことも感じてもらえると嬉しいですね。3曲とも自信作なので、より多くの人に届くといいなと思っています。
取材:村上孝之