草なぎ剛

草なぎ剛

草なぎ剛「お父ちゃんとお母ちゃんが
、子どもを抱き締めてさえいれば、子
どもは強く大きく育っていくんだと思
いました」 映画『サバカン SABAKA
N』【インタビュー】

 1986年の長崎を舞台に、“イルカを見るため”に冒険に出る2人の少年(久田と竹本)のひと夏の友情を描いた『サバカン SABAKAN』が8月19日から公開される。本作で、大人になった久田を演じた草なぎ剛に話を聞いた。
-この映画に出演することになった経緯を教えてください。ラジオドラマがきっかけだったとか。
 そうなんです。そのラジオドラマは、5年ぐらい前に、事務所を退所して「新しい地図」を立ち上げてからの初めての仕事だったので、すごく気合を入れてやりました。しかも、台本を読んだら、とてもいい作品でした。全員のキャラクターを、僕が一人でやったんですが、ブースの中でも、涙があふれてきました。それで金沢(知樹)監督に「ちょっと待って、感動し過ぎてこれ言えない」と。そんなことがありながらも全てやり切ったのですが、そうしたら何かボツになってしまって…。まあ、いろいろと事情もあるので、しょうがないかなと。
 それで忘れかけた頃に、「映画化が決まった」ということで声が掛かりました。ラジオドラマで読んだときにとても良かったので、これが映像になったらどうなるのかなと思って、それなら、一度自分が読んでいるし、もちろんやりたいと。実は、映画での僕の役はラジオドラマのときはなかったんです。監督が、僕に読ませてボツになったので、悪かったという気持ちで役を作ってくれたみたいです。
-映画の脚本を最初に読んだときの印象は?
 脚本を読んだときは泣きませんでした(笑)。でも、すごくいいなあと思いました。監督とはほぼ同年代なので、何か80年代に子ども時代を過ごした気持ちがよく分かりました。とはいえ、実はそこのところをピックアップしている場面はそれほどなくて、じっくりと読んでいくと、じんわりとした人情が、こんなにも伝わるものなのかと感じました。リアリティーがあるし、そういう時代だったなという思いもあるし、僕自身もそうですが、世間の方でも、あの時代が基盤になっている人は多いのではないかと思いました。
-映画の時代設定が1986年。草なぎさんは74年生まれなので、映画の子どもたちと同い年ぐらいですね。
 だから本当に彼らの気持ちがよく分かるし、それが故に、ラジオドラマのときにジンときたのでしょう。今、大人になっても、この時代はよかったんだなと思います。
-その頃は、もう芸能活動はしていたのですか。
 僕は13、14歳ぐらいから始めたので、この映画の久ちゃん(番家一路)と竹ちゃん(原田琥之佑)の、1、2年後には仕事をし始めている感じです。ちょうどこの世界に入る前だったので、その頃のことはとても鮮明に覚えているし、僕も田舎で育ったので、自転車を乗り回して、毎日友だちと一緒に泥だらけになって遊んだことをすぐに思い出すことができます。その頃に触れたもので、今も生きているという感じがします。
-この映画は、作家の主人公が少年時代を振り返り、その時代だけが持つ濃密な友情やちょっとした冒険が描かれます。何か『スタンド・バイ・ミー』(86)の日本(長崎)版という感じもしましたが。
 そうですね。和製の『スタンド・バイ・ミー』みたいなところはあるなと僕も思いました。『スタンド・バイ・ミー』もリバー・フェニックスたちが線路を行ったり来たりするところがあって、彼らたちにしか出せないような雰囲気がありましたが、それをこの映画では久ちゃんと竹ちゃんが出していて、すごくいいなあと思いました。演技をしたことのない2人にとっては、大挑戦だったと思います。
-その子役たちの演技を見て、どう思いましたか。
 彼らのような、演技をしたことがない子たちが、画面から漂わせる雰囲気とかを見ていると、演技って経験じゃないなと。いい意味で、いろんな可能性を秘めていると思いました。だから僕も、何も考えなくてもいいんだなと。だって、演技をしたことがないあの2人が、あんなにできるのだから、何もしなくてもいいじゃないかと。それが演技なんだなと思いました。逆に、いくら経験を積んでやっても、そんなものは関係ない。そういうことなんだなと思いました。
-よく、子役には勝てないといいますね。
 そうですね。動物と子役には勝てないと。だから、これからは、僕はもう台本を読み込まなくてもいいかなと。読み込んでもしょうがないなと。改めてそんな気持ちになりました(笑)。
-前回の『ミッドナイトスワン』(20)とは180度違う役でしたが、いろいろな役をやることには、どんな思いがありますか。
 役は、やっぱり出会いというか、神様から頂くプレゼントみたいな感じがします。実際にその役をやると、長いものなら半年とか付き合うわけで、自分自身の人生においても、大きな影響が起きるので、役との出会いは、人生のタイミングだなと思います。いいきっかけになってくれるというか、前に進めてくれるような役もあり、楽しませてくれる。そんな感覚ですかね。
 どういう経緯で僕にその役が来るのかは定かではありませんが、やっぱり何か縁があって、もしかしたら他の人が断って僕のところに来たのかもしれませんが、でもそんなことは関係ないわけで、頂く役というのは、とても楽しみだし、人生における出会いでもあるので、これからも、いい役に巡り合えたらと思います。
-金沢知樹監督との仕事のきっかけは?
 マネジャーさんから、「面白い人がいるから、脚本を読んでみて」と言われたのがきっかけです。僕はいつもマネジメントされるだけなので、来るものは拒まずです。今回も、実際にやってみたら最高でした。世代も一緒だったので、感じていることや好きな物が一緒だったり、同じ背景を見てきているので、必要以外のことは話さなくても分かり合えているような感じがしました。だからとても楽でした。監督には、この映画を当てて大監督になるという野望があるみたいですが(笑)。僕も同世代として応援したいと思います。
-挿入曲の「自転車に乗って」(西岡恭蔵)と「酒と泪と男と女」(河島英五)がとても効果的だったと思いますが。
 音楽の効果はとても大切だと思います。竹原ピストルさんが自転車を漕ぎながら「酒と泪と男と女」を歌うシーンは本当にいいですよね。お芝居をしながらアカペラで歌うのは結構難しいんですけど、さすが竹原さんだなと思いました。実は、ギターを弾き始めたときに最初に覚えた曲が「スタンド・バイ・ミー」なので、いつか竹原さんとギターでセッションをしたいというのが僕の夢になりました。
-完成した映画を見た感想を。
 ストーリーテラーみたいな感じの、おいしい役だったなと思いました(笑)。コロナ禍でどこにも行けないときに、東京を飛び出して長崎まで行けたし、本当にいい思い出しかないです。子どもたちは1カ月ぐらい長崎にいたので、本当にそこの子にしか見えないような感じがしました。僕は、みんなの撮影が終わった頃に入ったので、どうかなと思いましたが、完成作を見たら、ちゃんとつながっていたのでよかったです。何より子どもたちと(尾野)真千子ちゃんと竹原さんの家族の愛が、あふれんばかりで、子どもを抱き締める親の姿にジンとしました。お父ちゃんとお母ちゃんが、子どもを抱き締めてさえいれば、子どもは強く大きく育っていくんだと思いました。
-最後に、この映画の見どころをお願いします。
 見どころは、それぞれの方によっても違うと思いますが、やっぱり真千子ちゃんと竹原さんの居間での掛け合いと、そこにいる子どもたちとのやり取りが最高だと思います。あとは、久ちゃんと竹ちゃんのピュアな心や、2人が自転車に乗っている姿とか、そういうところを見てほしいと思います。
(取材・文・写真/田中雄二)

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