ピアニスト石井琢磨、アルバムリリー
ス&記念コンサートの開催が決定!
「充実感と幸せな気持ちが詰まってい
る」

2022年8月、クラシック界にうれしいニュースが飛び込んできた。自らのYouTubeチャンネル「TAKU音-TV」がフォロワー数20万人に達し、秋のコンサートツアーも完売御礼の中、ピアニスト石井琢磨初のメジャー流通CD『TANZ』がイープラス・ミュージックから9月21日(水)にリリース決定となり、さらにチケットが取れないことでファンをやきもきさせていたリサイタル・コンサートがアルバムリリース記念コンサートの形で9月24日(土)に浜離宮朝日ホールで開催されることまで発表された。今、日本のクラシック音楽シーンでも、新しい存在感を放ち、反田恭平や角野隼斗につづき、台風の目となっているピアニスト=石井琢磨に、CDへの思いを聞いた。
石井琢磨『TANZ』ジャケット
――石井さん、まずはCDのリリース決定おめでとうございます。
ありがとうございます。ここ半年ずっと準備してきたことをやっと皆さんにお伝えすることができて、とても嬉しい気持ちでいっぱいです。
――アルバムのタイトルは「TANZ」(タンツと読む)、ドイツ語で「踊り」を意味する言葉だとうかがいましたが、タイトルに込めた石井さんの思いや狙いを教えてください。
10年ほどウィーンで暮らし、音楽を学んできたのですが、皆さんご存知の、お正月に日本でも毎年生中継されるウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートで見るように、ウィーンでは「ワルツ」という踊りの音楽スタイルが自然に息づいています。僕もコンサートでよくワルツを好んで弾くのですが、そんなこともあって「踊り」を意味するドイツ語「TANZ」が思い浮かんで、この言葉を軸に選曲してみたら、自分らしくて皆さんにも楽しんでもらえるアルバムにできるのではないかと考えました。
――とはいえ、ワルツにとどまらない、幅広い「踊りの音楽」が、国境も越えて選ばれていて、とても楽しくアルバム一枚を聴けました。
そんな風に言ってもらえると嬉しいです。自分にとっては新しい挑戦だった、バルトークの「ルーマニア民俗舞曲」やスペイン近代の作曲家ファリャの「火祭りの踊り」、同じスペインでも少し静謐な空気を湛えた、知る人ぞ知るというタイプの作曲家モンポウの「歌と踊り第6番」など、ピアノで表現できるいろいろな踊りのスタイルを体験してもらえるようになっています。また、ワルツも、ショパンの「猫のワルツ」などワルツだけでも国や作曲家が変わると少し雰囲気が違ってくることを楽しんでもらえるように仕上げられたと思います。
――ボーナス・トラック的な感じで、フランスの作曲家エリック・サティの「ピカデリー」も収録されていますね。
タイトルのうしろにマーチと表記されていますが、実はアメリカの黒人音楽などの影響を受けたケークウォークという、19世紀末パリのカフェ・コンセールで流行したダンス音楽のスタイルなんですよ。また、この曲は今某自動車のテレビCMの音楽としてものすごくオンエアされていて、「あっあの曲だ!」と思ってくれる人もとても多いと思います。普段の生活の中でクラシック音楽が息づいていること、身近なものであることを感じてもらいたくて、急遽選曲して録音することに決めました。
――そうだったんですね。楽しくてポップスのように気軽に聞ける一曲ですよね。そういう意味ではバルトークの「ルーマニア民俗舞曲」でもお馴染みの旋律が聞けますよね。
そうなんです。バルトークというと少し難しい現代音楽に近いものを想像される方もいるかもしれませんが、この曲集はバルトークがハンガリーやルーマニアで民謡を採集して研究したものから編み出したもので、とてもフォーキーで親しみやすい音楽で、かつ東欧のアジア的な雰囲気や中東的な雰囲気も少し感じさせてくれるおもしろい音楽です。しかも、この中の一曲が、有名なテレビ番組の「劇的改造ビフォーアフター」では引越しシーンの音楽に使われているので、これもまた「あれ?どこかで聞いたような気が……」という風に発見してもらえるのではないかと思います。バルトークが生まれた国・ハンガリーはオーストリアのとなりの国で、ウィーンから目と鼻の先の場所ですが、こんなにも中東やアジアのテイストが音楽に入って来るのが、ヨーロッパの地勢のおもしろいところですよね。
――シューベルトは、12のドイツ舞曲(レントラー)という、少し珍しい曲を取り上げているように感じましたが。
“ウィーンのワルツ” という流れで考えると、シューベルト「12のレントラー」 は、ワルツの先駆的な音楽であるという意味もあります。また僕が以前に住んでいた建物が、かつてシューベルトが練習しに来ていたアパートで、しかもそこから徒歩数分のところには彼が最後に住んでいた家もありました。ですから、シューベルトにはとても親近感をもっていて、いずれアルバムのどこかに作品を入れたいと思っていたのですが、実現しました。
――ワルツと言えば、今回アルバム録音前にウィーンのダンス学校で本格的にワルツのレッスンを受けたと聞いたのですが、本当ですか?
そうなのです。完璧にマスターしちゃいましたよ(笑)。やはりワルツを弾くのにも踊れた方が表現も深まるかもしれないなあという思いあり、かつYouTubeチャンネル的にも面白い企画になるかなと思いまして。近々公開しますから、そちらも楽しみしていただきたいと思います。
――そこまで突き詰めてしまうなんて凄いですね。ワルツと言えば、リストによる歌劇「ファウスト」のワルツは、アルバムの後半の白眉と言いますか、とても華やかで美しい石井さんらしい表現だと感じました。
ありがとうございます。華麗で美しい分、この曲は、リストの曲の中でも技巧的で表現も難しいところがたくさんある曲です。この曲をレコーディングして、皆様に披露できたのは自分でも大きな喜びでしたし、フランスの作曲家グノーが生んだ華やかなオーケストラ表現を、ピアノでそれ以上に派手で大ぶりな作品に作り変えたリストという作曲家の才能には本当に舌を巻きますし、そんな先人の挑戦を自分でもなぞりながら、自分のものにしていく醍醐味は、クラシック音楽の演奏家でいて本当に良かったと思える瞬間でした。
――お話をきいていて、コンサートの方もますます楽しみになりました。
ありがたいことにツアーが売切れになって、そのことは大変嬉しいことだったのですが、チケットが取れなかったという方の声もたくさん耳にしていて、今回なんとか皆様にもおいでいただきやすい日程で、音の響きの素晴らしい浜離宮朝日ホールを空けていただけたので、急遽アルバムリリース記念コンサートとして発表させていただくことになりました。是非ご覧いただければと思います。
――春以降は、『NEO PIANO FAR BEYOND』や『クラシカル・レジェンド‼ストーリーコンサート』、『『takt op.Destiny』オーケストラコンサート』などクラシックの枠にとどまらない企画イベントにも積極的に参加されて、『行列のできる相談所』のような地上波のテレビにまで出演され、そしてつい先日『のだめクラシック・コンサート』にも出演されることも発表されましたね。
YouTubeチャンネルをやりながら、クラシックのピアニストとしてもしっかり活動をし続けるという自分のスタンスを、いろんな方に認めていただいて、応援していただけていることを実感できる幸せな半年間でした。どのイベントに出演しても、テレビに出演しても、「石井さんのピアノが好きになりました」「クラシックが初めて好きになりました」といった自分がこうあったら良いなあと思い続けていた、リスナーさんの声を直接間接に聞かせていただいて、自分が目標としていたことは間違っていなかったのだと感じさせてもらえました。のだめのコンサートでもきっとまた新しい観客のみなさんと出会うことができるかと思うと、興奮しますね。11月3日に発表した『躍るクラシック・コンサート』も、仲良くしてもらっているピアニスト菊池亮太さんと、二人でオーケストラも一緒にいる中で何をやれると楽しいのか?いろんなことをキャッチボールしながら、企画を楽しんでいます。もちろん様々なYouTubeの企画を考えて実行しアップロードし、さまざまなタイプのイベントに出演していくのは、本当に目の回るような忙しさでしたし、大変でもありましたが、同時にとても充実した時間であったことも確かです。このアルバムと今度のコンサートには、そんな充実感と幸せな気持ちが自然と詰まったものとなったような気がしています。
秋や冬にはさらに皆さんが驚き楽しめる企画を準備していますから、そちらも楽しみにしていてください。
取材・文=神山薫

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