植村花菜

植村花菜

植村花菜、コロナ禍で考えた“生きる
”意味 「死ぬまでずっと学び続けて
、成長し続けて暮らしたい」【インタ
ビュー】

 2010年にリリースした「トイレの神様」がラジオでのオンエアを皮切りに各方面で驚異的な反響を呼び、ロングランヒットを記録。その後もシンガーソングライターとして活躍を続ける植村花菜。現在は米ニューヨークに拠点を移し、日米で活動する植村が、新作オリジナルミュージカル「COLOR」で初めてミュージカルの音楽を担当する。「COLOR」の楽曲について、さらにはミュージカルへの思いなどを聞いた。
-ミュージカルの音楽のオファーを受けたときの心境を教えてください。
 そもそも歌手になろうと思ったきっかけが、8歳のときに『サウンド・オブ・ミュージック』という映画を見て感動したからだったんです。なので、もともとミュージカルは大好きで、いつかミュージカルに携わる仕事ができたらいいなとずっと思っていました。私は、今、ニューヨークに拠点を移しましたが、それも最高峰のハイレベルなミュージカルをいつでも身近に見られるというのも理由の一つでした。もちろん、それ以外にも理由はたくさんありますが。なので、今回、お話を頂き、しかもそれが「作曲をお願いしたい」というご依頼だったので、クリエーターとしてミュージカルに携われることがすごく光栄でとてもうれしかったです。
-本作は、草木染作家・坪倉優介さんが自身の体験をつづったノンフィクション『記憶喪失になったぼくが見た世界』をベースにしたミュージカルで、ある事故で記憶を失くした主人公が「新しい過去」をつかみ取っていく姿を描いています。原作や脚本を読んでどんな感想を抱きましたか。
 日々の忙しさや、追われなくてもいいものに追われて、必要のないものを欲しがったり、必要なものを捨て去ったり…。そうした日常の中で、大切なものが何なのかを教えてくれる本だと感じました。このコロナ禍で、みんなが「本当に大切なものって何なんだろう」と考えたと思います。そんな今だからこそ、より心に響くと思いますし、忘れてしまった大事なものを呼び起こしてくれると感じました。
-楽曲を制作するに当たってはどんなところを意識しましたか。
 (インタビュー時は)まだ制作段階なのですが、まずは何も考えずに、原作や台本の言葉が持っている音を純粋に形にしようと心掛けて制作しています。私の普段の歌の作り方も同じなのですが、言葉にはもともとメロディーがあるので、自然と歌詞が歌ってくれるんですよ。私はただそれを形にするだけ。そうしたやり方が(本作でうたわれている)「語るような歌で構成される本作の音楽」と捉えられているんだと思います。とにかく、言葉を大事にしています。
-アーティストとして作る楽曲との違いを感じることはありましたか。
 普段は、私が歌うための楽曲を作りますが、今作では“お母さん”が歌うシーンもあるし、“お母さんと“息子”が一緒に歌うシーンもあります。なので、男性と女性のキーの違いもありますし、考えなければいけないところはより多いとは思います。それから、歌詞に関しても、ミュージカルでは舞台の装置やセットがあり、演出もなされた上で歌われるので、見える景色や情景を説明する必要がないというのも違うところでした。“説明文”は省けるんです。そうした違いは難しいなというところでもありましたし、面白いなと思うところでもありました。
-今回、ミュージカルの音楽制作に携わったことで、シンガーソングライターとしての今後の活動にもよい影響や変化がありそうですか。
 出てくると思います。今まで知らなかった世界を知れることで、自分の中の引き出しが増え、幅が広がりますし、同時に、私がミュージカルを見に行くときもこれまでとは見方が変わってくると思うので、そういう意味でも新たな発見が得られると思います。
-ところで、この作品は「生きる」ことを描いた物語ですが、植村さんにとって「生きる」こととは?
 これはコロナ禍でずっと考えていたことですが、「命があるっていうことだけでありがたい、生きているっていうことだけでありがたいことなんだ」と思います。人間は欲深いので、「あれも欲しい、これも欲しい」と次々と欲が出てくるのですが、コロナによってそうしたものがそぎ落とされて、“今”を生きることが大事になんだと、改めて気付かされたように思います。
 私の個人的な思いで言えば、「生きる」とは、成長することです。死ぬまでずっと学び続けて、成長し続けて暮らしたいと思っています。80歳になっても90歳になっても、どれだけおばあちゃんになっても、ずっと成長し続けて、進化を止めない。それが「生きる」ということではないかなと思っています。
-コロナ禍でエンターテインメント界全体が厳しい状況ですが、その中でも“今を生きる”“進化を止めない”という前向きな考え方はすてきですね。
 どうすればこの状況を楽しいものに変えられるかということを考えるのが得意なんですよ(笑)。コロナ禍でなかなかステージに立つのも難しい状況でしたし、ニューヨークに帰ることができない日々もありましたし、どうしたらいいんだろうと思うときもありましたが、逆にこの状況下の今しかできないことはなんだろうと考えたんです。不安なことを挙げても切りがないし、考えたところでコロナが終息するわけでもない。なので、そんなことを考えているだけ時間がもったいないじゃないですか。全てが八方ふさがりのような状況で、どうすれば楽しいことを見いだせるのか。同じ考えに固執していると見えてこないものも、いろいろな視点から見れば、絶対に新たな道があるんです。なので、それを見つけようと私は思っていますし、毎日楽しく、平和に、幸せに生きたいんです。
-その「楽しく生きる」という考え方が、今回のように、初めての挑戦をいとわないところにつながっているのかなと感じました。
 そうですね。常に挑戦していたいです。やったことがないことをやりたいし、とにかく成長したい。そのマインドは、私がいうのもおこがましいですが、本作の原作を書かれた坪倉さんと似ているところがあるのかなと思いました。坪倉さんは、私が想像もできないほどの苦労や苦悩があったと思いますが、それでも常にチャレンジされてきた。そんな素晴らしい方が書かれた本がミュージカルとなり、その音楽を担当させていただけるのは本当にありがたいですし、うれしいです。きっと希望をもらえる作品になると思いますし、普段は忘れがちな大切なことを改めて考えるきっかけになると思っています。
(取材・文/嶋田真己)
 新作ミュージカル「COLOR」は、9月5日~25日に、都内・新国立劇場 小劇場で上演。
公式サイト https://horipro-stage.jp/stage/color2022/

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