Chilli Beans.、才能爆発の1stアルバ
ムが導く人生の解放区ーー「ポップス
に救われてきたので、自分たちもそう
いう居場所を作りたい」

昨年、一躍注目を浴びた「lemonade」から途切れることなく世に放ち続けた、どこかノスタルジーでポップな楽曲群で瞬く間に勢力を拡大。この1年で大躍進を遂げたMoto(Vo)、Maika(Ba.Vo)、Lily(Gt.Vo)によるスリーピースバンド、Chilli Beans.がキャリア初のフルアルバム『Chilli Beans.』を7月13日(水)にリリースした。さまざまなジャンルやトレンドをオリジナルになるまで煮詰める抜群のセンスとバランス感覚、全員がソングライティングを手掛ける底知れぬポテンシャルに打ちのめされる夢見心地の全14曲は、新たなポップアイコンの登場を大いに予感させる。この夏には念願の『SUMMER SONIC 2022』ほか各地のフェスに出演後、9月9日(金)には初のワンマンライブ『1st Oneman Live Chilli Beans. Room』を東京・LIQUIDROOM ebisuにて開催。そして、11月2日(水)大阪・BIGCATより初の全国ツアー『Hi, TOUR』もスタート。YUIや絢香Vaundyらを輩出した音楽塾ヴォイスで運命的に出会い、2019年に結成以降の刺激しかないバンド人生を、メンバーを代表してMaikaが語るインタビュー。SNSをはじめ、どこもかしこも人の振り見て我が振り直す、つじつま合わせの世界線。そんな日常からの解放区たる、Chilli Beans.の音楽の内部構造とは?
Chilli Beans. Maika
盛りだくさんの1年で、バンドとしての在り方も変わってきた
――Maikaさんの単独インタビューはなかなか珍しいですよね。ここ1年は本当に怒濤というか、濃い時間だったんじゃないですか?
ちょっと不思議な感じです。本当に「怒濤」という言葉が一番フィットする盛りだくさんの1年で、バンドとしての在り方も変わってきたのかなと思っていて。元々はシンガーソングライターを目指していた3人が集まったのもあって探り探りだったのが、3人で1つの曲を作ることもどんどん板についてきた。自分たちなりのやり方を、少しずつ見つけられてるんじゃないかと思います。
――シンガーソングライターなんて基本的に我が強い人がやりそうなものなのに、それが3人も集まるとなると(笑)。
アハハ!(笑) ただ、私の場合はシンガーソングライターを目指してはいたんですけど、音楽塾ヴォイスに通う間にユニットとかコーラスグループもやってみて、ちょっとずつ誰かと一緒に音楽をするのは楽しいなと感じ始めていたので、バンドのお話をいただいたときは純粋にやってみたいなと。実際に今、全員で曲を作っていく中でも、自分の気持ちを素直に相手に伝えるのが得意ではなかった3人が、ちゃんと話し合うことを学んだというか(笑)。大事なことは事あるごとにしっかり話せるようになってから、曲作りもスムーズになったし、曲によって核となる部分を持ってくる人がバラバラでも、モニ(=Moto)が柔軟に対応してくれるので。自分の表現が抑圧されて窮屈に思うことも全然なくて、いつもありがたいなと思ってます。
――最初に「この3人でバンドをやってみたら?」と提案してくれた音楽塾ヴォイスの先生の見る目はすごいですよね。
本当に。「一週間ぐらい考えて、お風呂でひらめいちゃったんだよね。点と点が線でつながった」みたいなことをおっしゃっていました(笑)。
「しっくりこないとイヤ」という3人の頑固さが功を奏してる

Chilli Beans. Maika

――個人的に、今年上半期に聴いた楽曲の中でとりわけ衝撃を受けたのが、今回のアルバムにも収録されている「Vacance」で。YouTubeでランダム再生されたときに初めて聴いて、「何このバンド? え、Chilli Beans.!? こんな曲もあるんだ!」と驚いて。
ありがとうございます! 「Vacance」というところが何だかすごくうれしい!
――Chilli Beans.が持っているある種のダークさがこれまでの表題曲より現れていて。MVのザラついた質感とか画角も完璧で、まさに総合芸術だなと。
いつもタツさん(=仲原達彦)という監督が親身になってチリビ(=Chilli Beans.)のMVを作ってくださるんですけど、めっちゃかわいいですよね。「Vacance」は結構頭を使って作った記憶があり、それまではいわゆる「ザ・盛り上がる曲」を意識して作ってきたけど、ちょっとクラブっぽいというか、「歌い上げないけど盛り上がる曲」を作りたいねとみんなでずっと話していて。だからサビは、3音しか使わないとか、音域で言うとオクターブが上がったり飛躍するメロディじゃなくて、ドレミファぐらいの中にサビを収めるけどノリがいい曲。実際に完成したとき、すごくワクワクしたのを覚えてますね。
――3人のキャリア的にも年齢的にもまだまだ衝動的に曲を書いてもいいところを、意外と理論に基づいて緻密に作られてもいるんですね。
それはやっぱり音楽塾ヴォイスの影響が大きいと思います。コードの理論もそうだし、メロディの要素の分析方法とかも教えてくださるので、それを参考にしながら考えてますね。
――今作では「lemonade」や「アンドロン」の編曲に携わった同塾生のVaundyもそうですけど、さまざまなジャンルやトレンドを、ちゃんと自分たちのオリジナルになるまで煮詰めるセンスとバランス感覚が素晴らしいなと。
うれしいです。多分、「しっくりこないとイヤ」という3人の頑固さが功を奏してる感じが(笑)。
――昨年、「lemonade」が話題になってから、本当に目まぐるしい日々でしたね。
コロナ禍というのもあるんですけど、MVの再生回数がどんどん回っても実感するタイミングがなかったんですよ。2021年の5月に初ライブをして、最初はお客さんも3人とかで(笑)。でも、「lemonade」を発表したその次の次ぐらいのライブぐらいから、ちょっとずつお客さんが増えてきて……あとはきっと、ワンマンライブをやったりフェスに出たときに、また実感できるんじゃないかと思ってます。
――まだワンマンすらしてないのが驚異だし、バンドで最初に書いた曲が「lemonade」なのは……オシャレ過ぎるし「わびさび」が分かり過ぎてる(笑)。スタート地点にしてさすがのクオリティですね。
「忘れたくないな」と思う気持ちを曲にしたい
Chilli Beans. Maika
――バンドとして今に通じる手応えを感じた曲はあります?
「Tremolo」ですね。例えば「lemonade」は、「とりあえず作ってみよう。できた! よっしゃ、次いこう!」みたいな感じでポンポン進めてたし、アレンジとか作曲でVaundyに入ってもらったりもしたけど、「Tremolo」は初めてアレンジから簡単なラフミックスまで全部自力でやったので。自分にとって大事な歌詞も書かせてもらったし。
――Maikaさんのなかなか自分に自信が持てなかったところを、すくい上げてくれたのが音楽だった。「Tremolo」みたいなメッセージを世に出せたのは、Maikaさんの人生においても大きかったんじゃないですか?
大きかったですね。「いつかこういう曲を書きたい」と思っていたものを実現させてもらえたし、私たちは全員、等身大の歌詞を書くのが好きで。「これからも頑張るぞ〜!」みたいに背伸びしたものより、「しんどい」という気持ちだったりを素直に落とし込む方が落ち着く3人なので(笑)。そういう歌詞の魅力もChilli Beans.にはあるんじゃないかなと、自負する部分はありますね。
――モヤモヤした現状、自分からの解放みたいな願いがどの曲の根底からも感じられます。2020年にいち早くYouTubeにアップされていた「It's ME」もそうですし、「This Way」はこの先、道に迷ったときに原点に立ち返れるような曲じゃないですか?
それはありますね。自分の中で「忘れたくないな」と思う気持ちを曲にしたいという衝動が私は強くて。「It's ME」も「This Way」も今、見返すと「うわ〜あのときは怒ってたな。でも忘れたくないよな」と思い出させてくれます。「It's ME」はかなり初期に、「lemonade」の次に作った曲だと思いますね。
――ちなみにですけど、「It's ME」にある<⾔われた通りやればいい>の一節は誰に言われたの?(笑)
アハハ!(笑) 。そこはもう、ビッグシークレットで!
音楽がガソリンというか、音楽で自分を守ってる
Chilli Beans. Maika
――既発の曲も結構ありながら、いよいよフルアルバムを作ろうとなったとき、3人の中にビジョンみたいなものはありました?
さっきも「等身大」という言葉を使いましたけど、何かテーマがあるというよりは今の自分たちにできることを、とにかく全力で詰め込んでみるのが1stアルバムとしてはいいんじゃないかという話になりました。だからこそ、タイトルも『Chilli Beans.』なんですけど、全曲のジャンルがバラバラな感じも自分たちらしいし、その時々に感じたことを切り取って曲にする、自分たちの在り方からできていったアルバムだと思いますね。
――今回のレコーディングのために書き下ろした曲は?
直近で書き下ろしたのは「HAPPY END」と「blue berry」で、他の曲は1番だけできてるけど、そこから詰める作業はまだとか、だいたい原型はありました。
――前述した「Vacance」と共に、「HAPPY END」が今作の中では好きな曲でしたね。
え〜! めっちゃうれしいです。
――サビで展開がガラッと変わるじゃないですか。普通、A、Bメロは切なく、サビで明るく突き抜けることはあっても、この曲のアプローチは逆という。しかもサビのメロディがとてもいい。
ありがとうございます。この曲も「It's ME​」とか「This Way」と似た部分はあるなと。やっぱり「自分らしくいたいよね」みたいなところは変わらない思いで、そこにちょっとした砂埃が舞っていそうな土臭い感じの曲を書いてみたくて。
――今作の中では割と王道のリフロックみたいなニュアンスですもんね。
あと、「HAPPY END」を書いた時期はすごく忙しくて、基本的にタスクが多くても平気なタイプなんですけど、そんな自分でも頭が回り切ってないのが分かったとき、「ヤバい、このままだったら爆発する」と思ったんです(笑)。そうなる前に、「いやいや落ち着け。忙しいけど人それぞれ感じ方はバラバラだし、自分なりの考え方で大丈夫だ」と、自分に言い聞かせたくてできた曲でしたね。
Chilli Beans. Maika
――Maikaさんにとっては本当に音楽=解放装置ですね。そして、「blue berry」はちょっと和のテイストも感じるサウンドで。
これはMotoが大元を持ってきて、途中のダンスフロアみたいな展開をLilyが付け足したり、2人でいろいろともみながら作ってくれた曲なんです。Motoは和っぽいメロディも好きだから作る曲にもそういう要素が含まれるのと、Lilyのアレンジに対する探求心がうまくぶつかった曲なのかなと。
――メンバー間の印象として、Lilyさん=職人肌という意見が出るのも納得ですね。Maikaさんへの印象は、2人とも口をそろえて「包容力」でしたけど(笑)。
アハハ!(笑)。 それはもう、ありがたいということにしておきたい。
――でも、言葉の端々から時折、影を感じるというか……音楽に一番救われてるのがMaikaさんでもある気がします。
音楽がないとヤバいです。人生に支障をきたします(笑)。音楽がガソリンというか、音楽で自分を守ってるところはありますね。
3人とも共通してポップスがすごく好きなんですよ
Chilli Beans. Maika
――最後の「call my name」はアコースティックなアレンジというのも含めて、この曲で描かれている人はすごくパーソナルで大切であることが伝わってきます。
この曲も割と初期にできた曲で、「Tremolo」の後ぐらいだったかな? 音楽塾の小さいスタジオみたいなところでLilyがアコギを弾いてて、それにメロディを乗せて……「何かめっちゃいい感じじゃない?」みたいなことからデモができたんです。そのとき、「この人に宛てて何か書きたいな」とずっと思っていた人への歌詞を、この歌を乗せられたらすごく幸せだなと思って、「すごくパーソナルな内容なんだけど、私が歌詞を書いてもいい?」とメンバーに聞いて。
――シンガーソングライターならまさにという曲の書き方ですけど、それをバンドでも実現できる環境はいいですね。
いや~めちゃめちゃうれしかったです。メンバーが快く「いいよ」と言ってくれたのも、この曲を好きでいてくれてるのも、本当にありがたいなと思いましたね。
――こういうパーソナルな思いでも、ちゃんとポップスに昇華できる。Chilli Beans.の「とっつきやすいメロディやアレンジは音楽で人に何かを伝える上で重要な要素で、曲を媒介にしていろんな人とつながれるものこそポップス」という意識は、最初から持っている人は少ないように思います。
自分たちで曲を作るようになって、改めて気付いたんですけど、3人とも共通してポップスがすごく好きなんですよ。そこが始まりだし、全員がポップスの歌詞や世界観に救われてきたので、自分たちもそういう居場所を作りたいと思ったとき、必然的にそうなっていったのかなと。
――このアルバムで描いたそれは、その思いを限りなく実現できてるんじゃないですか?
そう言っていただけるとうれしいです、このアルバムは本当に自分たちの等身大を描いてるから。今の時代、取り繕わないのは意外と難しいじゃないですか。だからこそ、取り繕ってない自分たちの音楽を聴いて、共感して落ち着ける部分があるんじゃないかなと思います。
――SNSとかが顕著ですけど、今って人の振り見て我が振り直し過ぎる世界線だから、そうなっちゃいがちなムードをChilli Beans.の音楽で自由にできたら最高ですよね。
自分たちらしいステージで爆発できたら

Chilli Beans. Maika

――今作にはMBSドラマ特区『モトカレ←リトライ』のオープニング主題歌「マイボーイ」も収録されています。これまでは自分たちの思いを曲にしてきた3人が、ある種のお題に向かって曲を作るという経験はどうでした?
初めてだったからこそ純粋に楽しかったですね。でも、自分たちはやっぱり頑固なので、お題があってもそれをいかに自分たち風に昇華するかを考えて。3人で何曲か提出して、採用していただいたのがLilyが作った「マイボーイ」だったんですけど、ポップで明るいメロディにMotoが乗せたちょっと気持ち悪くて真っすぐな歌詞が組み合わさったとき、「やっぱりチリビっぽいよね」となったのも発見でした。どれだけ明るいことをやろうとしてもダークさを含んじゃう(笑)。
――そして、今作の幕を開けるリード曲「School」は本当にオープニングにふさわしい、アルバムにいざなうのにうってつけの曲ですね。
これは初めて3人で一緒にスタジオに入って遊びながら0→1で作ったんです。私が適当にベースリフを弾いてたら「何かかわいくない?」ってなって、「じゃあそれ発展させよう!」ってLilyのギターが入ってきて、メロディを乗せて、「めっちゃいいじゃん!」みたいな。
――まさにバンドっぽい作り方ですね。
今までは誰かが元のデータを作って、メンバーに送って、それを肉付けしてまた送り返してという作業だったので。バンドとして曲を作る初期衝動は初経験だったし、だからこそみんなで歌うことによる感動がたくさんありました。
――この曲ではボーカルが次々とスイッチしていきますもんね。
最後の方で「みんなで盛り上がろう! ワイワイやろうぜ!」みたいな感じになったのも、3人で作ったからかもしれないですね。
――今作の制作を通じて、本当にいろんな音楽的経験ができましたね。「L.I.B」も、かわいくないことをかわいく歌っていて面白い(と。
もう間違いないです!(笑)。 まさにそういうことをやりたくて。ギャップが好きなので。
――今作が出来上がったときに何か思うところはありました?
まずは達成感がすごかった。あとはやっぱり、今まではずっとデジタル配信だったから、自分たちが作った音楽がモノとして皆さんの手元に届くのがすごくうれしくて。CDショップに並んでいるのを早く見に行きたいな。
――今後の予定としては、8月にMaikaさん念願の『SUMMER SONIC 2022』への出演も決まり、9月には初のワンマンライブ『1st Oneman Live Chilli Beans. Room』、11~12月はリリースツアー『Hi, TOUR』とめじろ押しですね。
めちゃめちゃ楽しいライブをやりたいです。ヘンに気張るよりは、自分たちらしいステージで爆発できたらなと思います。みんなで踊れたらうれしいですね! 自分たちも救われるようなアルバムが、聴いてくれた人の心のよりどころになったらと思うし、実際にライブでお会いして、何も考えずに踊れたら幸せだなと。いっぱい聴いて、いっぱい楽しんでほしいです。
――いろいろ考えずに済む時間や空間は、案外なかったりしますもんね。家にいても考えちゃうし。
そうなんですよね。Chilli Beans.がみんなのそういう場になりたい。本当に何も考えなくていい場に。

Chilli Beans. Maika

取材・文:奥“ボウイ”昌史 撮影:ヨシモリユウナ

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