草野華余子『カメレオンの憂鬱』全曲
解説インタビュー 「私はきっと、歌
っていた方がいいと心から思う」

シンガーソングライター・作曲・作詞家として活躍中の草野華余子が8月3日にアコースティックミニアルバム『カメレオンの憂鬱』をリリースした。「喪失」を描いたというアルバムに収録された7曲はどんなものなのか?長年の友人でもあるアニメ・ゲームジャンル編集長加東がその思いと制作秘話をじっくりと聞いた。超ロングインタビューでお送りする。

■ただマズイお酒飲んでライブハウスで踊り散らかしたい時もある
――アコースティックミニアルバム『カメレオンの憂鬱』リリースされましたが、今回はなぜアコースティック形式を選択されたのでしょうか?
草野華余子のことを楽曲提供で知ってくださってる人はたくさんいると思うんですけど、昔から知ってくれてる人からしたら、ライブハウスとか梅田の路上とかでアコギをかき鳴らして歌ってた姉ちゃん、っていうイメージが強い人も多いと思う。 で、カヨコ名義の時に2枚ほどアコースティックのミニアルバムを出させていただいたんですけど、草野華余子として改めてアコースティックを作ったらどうなるんだろう?という事で、このミニアルバムを作る事にしました。
――前回のアルバムもシングルの「断線」、そして今回のミニアルバムも溜まってきた知見を自分でアウトプットするっていうのは今のテーマなのかもしれないですね。
そうですね。作家をやった分アーティストに還元できて、アーティストをやった分はディレクターとして作家をやる時、他のアーティストさんやアイドルちゃんに反映できるっていう、いいループシステムが生まれているなと感じたので、それを今回のアルバムにも閉じ込められた気がしますね。
――駆け足になるかもしれませんが1曲ずつ聞いていければと思っています。まず表題曲の「カメレオンの憂鬱」ですが、今回はギターも全部自分で弾いているんですか?
そうですね。基本このアコースティックのアルバムの裏テーマとしては、ミックスとマスタリングはエンジニアさんに手伝ってもらったんですけど、一音も私以外の音は入っていないっていうのが大前提で。
――ギター上手いなって思ったんですよね。
ありがとうございます!素直に嬉しいです。シャッフルのビートを弾くのはレコーディングの弾き仕事でも自分がよく弾けるなと思うので、シンガーソングライターが弾く歌に寄り添ったバッキングギターっていうのは結構得意かもしれない。
――それに全体的にミキシングバランスがいいなと思っていて。
そこは大変だったんですよ。今回は全部、岸田教団&THE明星ロケッツの岸田さんがエンジニアを手がけてくれてるんですけど、アコギは岸田さんのスタジオで録って、そのアコギのレコーディングの為だけに福岡に行って(笑)。
――「カメレオンの憂鬱」は聴きやすいバランスになっていて、抜けのいい音のチョイスがいいなと思いました。
実は「カメレオンの憂鬱だけ」Martin D-18っていうヴィンテージギターを使っていて。それが結構指に負担がかかったので、それ以外の曲はMartin D-35っていう70年代のギターを使っています。
――「カメレオンの憂鬱」に凄くフォーキーなものを感じたのはそれもあるかもしれませんね、進行もちょっとフォークっぽいし。
そうですね、アルバム通して「歌謡曲を作ろう」っていうテーマだったので。今回は私の持っているスキルとか声のザラつきとか、質感とかでしか歌えない曲を書こうっていう。「カメレオンの憂鬱」は内容も踏まえると、私が世界一似合うんじゃないかなと思えます。
――カメレオンを使った比喩がやっぱり面白いなと思って。擬態しないと生きていけないっていうところとか。
世の中の流れに乗り続けている間に、実際に自分の色がわからなくなっていくことってあると思っていて。それに加えて、そもそも書こうと思っていたことに、私自身が“楽曲提供者である自分”に染まり始めていて、危ないなと思う瞬間があったんですよね。
――シンガーソングライター草野華余子が作家草野華余子に侵食される。
歌詞を読んだら分かってくれると思うんですけど、求められることでそこを居場所に感じてしまう、ということかな。丁度昨日がライブだったんですけど、凄いアウェイで私の曲を知らない方が1~2千人という状態で、でも歌っている間に凄い空気が変わっていったんです。それを見た時に、社会的に必要とされている場所と、自分が生きるために必要な場所は本当に違うと思ったんです。「カメレオンの憂鬱」はそういう内容になってますね。
――「歌は草野華余子にとって自分の切り売りなのか?」みたいな事を聴いていて思いましたね。これを表題曲にもってくるっていうのは、草野華余子のロック姉ちゃん感があっていいなと思いましたね。
今回の歌詞をマネージャーに送った時にも言われたんですけど、反骨心が凄い(笑)。
――本当に忙しいと思いますけど、流石に最近疲れている?
そうですね、私ちょっと最近働き過ぎだわ!(笑)。
――オーバーワーク気味だよね。
Twitterも告知しかできなくなってきちゃってて、本当に働くことしかしてない。でも、いつかの自分が望んでた未来ではあるんだよね。
――最近のインタビューは必ずそのテーマになるというか、望んでいたことではあるんだけどさ、っていう(笑)。
注目していただいて嬉しいんですけど、草野華余子ってアーティストの方が真骨頂だから。短いライブの中で5~6曲やって、MCでぎゅっと心を掴んで、圧倒的な演奏力と歌唱力をちゃんと見せる。これを本当にちゃんとやらないといけなかったんだなっていうのを、あらためて思ったんです。マネージャーも「華余子さんはアーティストだからライブしなくちゃいけないんですよ」って熱弁してくれて(笑)。
――凄くいいマネージャーさんじゃないですか(笑)。
私が作家仕事を凄い受けて、詰めまくっちゃってたのはあるんですけどね。もともとアーティスト活動をやるための命を繋ぐためにやり始めた楽曲提供、作家活動なのに、それのせいでアーティスト活動の時間がなくなるっていう状態って、健康的だけど超不健康だなって(笑)。
――健康的だけど超不健康(笑)。
ありがたい悲鳴ですけどね。こんな事言っていたら求められた事を十分にやれよって言う方もいると思うし。
――アーティストとしての自分の時間の確保や、どう人に聴かせるかとかは草野華余子の今のテーマのひとつなのかもしれないですね。では2曲目「無意味の意味」。個人的に1曲目と2曲目、3曲目と4曲目は対なのかなっていう印象があって。
まさにそうですね。急にぶったぎった7曲が連続するより、ちょっとした世界感、連動というか流れがあったほうがいいと思って。1曲目と2曲目はテーマが似通ったところはあります。
――「カメレオンの憂鬱」より少しこっちの方が力が抜けていて、流れとしての聴き心地の良さを感じました。
1曲目はヒリヒリしてて。胸にきますもんね。2曲目はレコーディングのミックスを20テイクくらいやり直してもらったんですよ。岸田さんのミックスはアコギがドラムみたいな音になるから(笑)。 
――岸田教団自体が爆音バンドですからね。
アコギアルバムの作り方の流儀というか。例えば秦基博さんのアコースティックのアルバムとか、ジェイソン・ムラーズ(アメリカのシンガーソングライター)とかはこういう感じで、ジェイムス・ブラウン(アメリカのソウル歌手)はこうです、とかっていうのを24時間遠隔でお伝えしてミックスしてたんですけど、説明しても岸田さん「まだつかめん、自分でもいいと思えないからやり直す」って言ってくれてて(笑)。
――そんな苦労した部分があったんですね。確かに凄くバランスいいなって思いました。
「カメレオンの憂鬱」はミックスに2時間半しかかかってないんですよ。D-18を岸田さんは「いつもやってるバンドの勝手でミックスできる!楽勝!」って言ってて。これはD-35で弾いているから、そういう違いがあったかもな。この曲のほうが音も多いしハモも多くて繊細なので、ミックスをこだわってもらったから、時間がかかったところはありました。
――歌詞に関しても、曲のメロの抜けのよさに近い、感情的な抜けもあって。この音で、この歌詞で、この内容だったら、この抜けのよさがわかるっていうのが感覚として納得できるというか。
自然に音と歌詞と歌い方のバランスが取れてるかどうかを肌で感じながら作ったんだなって思いますね。あと、この曲がこのアルバムで一番最初に歌詞を書いて、一番最初に歌ったんです。最初が「無意味の意味」で最後から2番目に書いたのが「カメレオンの憂鬱」なので、テーマは一緒なんですけど、捉え方がウェットかドライかっていうところがありますね。
――全体の調和の取り方の良さは草野華余子っぽいって凄く感じましたね。
よかった。「無意味の意味」って言っているけど、1行だけ英語の歌詞入ってるんです。「"Nothing is wasteful for our lives."」これは「我々が生きる上で無駄なものなど1つもない」って意味なんですけど、意味が無い事を嫌う、怯える人が凄く多い気がしていて。「それはなんで書いたんですか?」とか「それはなんで買ったんですか?」とか聞かれることも多いし。
――確かに……何にでも意味を求めるというか。
いやいや、ただマズイお酒飲んでライブハウスで踊り散らかしたい時もあるだろ!?って(笑)。それは好きか嫌いか、必要かそうじゃないかだから、意味があるかないかじゃないんだよ、っていう。そういうのを書けてよかったなって思いましたね。
――無駄のない世界はただのディストピア(反理想郷、『ユートピア』の対義語として扱われる世界観)でつまらないですからね。
そうですよ。私たちの真価はどれだけ無駄を愛してるかですよ(笑)。「カーテンコール」って曲でも歌っていますけど「ガラクタ集めるからキラキラするんだぞ」って事をずっと歌っていきたい。
■やっと自分で「作詞家」って名乗っていいスタートラインに立てた
――この2曲でアルバムのコンセプトも見えやすいし、今の草野華余子が抱えている個人に対しても社会に対しても憂いみたいなものが色濃く見えました。では3曲目「白いリコリスの咲く頃に」。
アコースティックアルバムは前回、前々回はアコースティックギターだけで構成したんですけど、ちょっとどうしてもピアノを入れたい曲っていうのが出てきたので、今回はその楽器の制限は取り払おうと。そういう一曲ですね。
――一聴すると爽やかな印象の楽曲ですが……。
って思うじゃん(笑)。リコリスって彼岸花のことなんですけど、白いリコリスの花言葉は「いつかまた会いましょう」なんですよ。歌詞を読んだらわかってもらえると思うんですけど、タイトルにもある「憂鬱」って私からみたら、今凄く幸せなのに失っていく事が怖いとか、自分がそもそも持っていた感情が消えてしまうことへの畏怖とか恐怖なんです。私は執着心が強いし、情も深いから、だからこそ失うのが本当に本当に怖い。そういうものを創作に充てるとどうなるかっていうのが改めてのテーマだったと思いますね。
――そういう部分がこの曲には現れている。
この曲はそういう大事な人を失ってしまった後の、凪のような日々をどういうふうに捉えていくんだろうっていうのを、想像して泣きながら書いた曲です。
――でもサビのメロディが凄く気持ちよかったです。
この曲のレコーディングから歌い方が変わったんですよ。ひとりで閉じこもって自分の歌と向かいあってたら急に自分の歌に飽きた瞬間があって。
――制作中に飽きた、ですか(笑)。
そう、なんで飽きるんだろうと思ったら、ずっと同じ声色で歌う場所が多くて。だから環境から変えてみようと思って、照明変えたりとか、違う室温にしたりとか、本当に色んな事を試したんですね。暗めの間接照明で、自分の好きなお香をたいてレコーディングした時のテイクを使っているんですけど、凄いリラックスした声で歌っている。全く喉を閉めてないですね。「カメレオンの憂鬱」は全部喉を閉めて歌っていたのに。
――あれは草野華余子の歌唱って感じですもんね。
そうそう、従来の自分の状態を更に突き詰めたのが「カメレオンの憂鬱」だとしたら、個性を削った没個性でシンプルに内容だけ聞こえたり、音階だけが聞こえる歌にしたい、と思ったのがこれだったので、聞きやすくはなったのかな。無理やり「聴いて!」って思って歌っていた曲が昔は多かったと改めて思いましたね。加東さんも演者やっているからその気持ちはわかってくれるはず(笑)。
――わかりますよ(笑)。単純にメロディも凄い気持ちいいのは、日本人が気持ちよく感じるラインを踏んでるからなのかな?
たぶんMr.Childrenさんやスピッツさん、BUMP OF CHICKENさんみたいなシンプルで美しいストレートな展開なんですよ。ちゃんとポップスをやろうという意識で、ライティングもしてコーラスも組んで、コーラスもオートメーションで音のバランスを取ってもらう時に、岸田さんが「そういう繊細な部分はわからないから全部言ってくれ」って言うから20項目ぐらい注文したんです。そうしたら「日本人のこの四季折々の清い心がわからん」って言いながらも、死ぬ気で良いミックスしてくれた(笑)。
――作家としてポップスを書いてきてる経験が効いてきてる感じはしましたね。
この曲を書く直前に親友とコーヒーを飲みに行ったんですよ。そうしたら「夏って全ての終わりの季節だから」って言ったんですね。私はそんな事考えた事もなかったからちょっと驚きで。「夏って次の始まりに向けての終わりだけど、その瞬間は世界の全部が終わるような季節に感じる」って言っていたんですよ。私の中では終わりの季節は秋なんだけど、夏を終わりの季節と捉えたらどういう曲になるんだろうって思って書いたので、そういう喪失の歌ですね。
――SF好きな人は夏が世界の終わりって人多いと思うので、僕はちょっと理解できちゃうな……(笑)。
そうそう。そうかも(笑)。
――では次「夏と肉じゃが」は。
アルバムの中で一番フォークな一曲ですね。
――僕はアルバムでこの曲が一番好きです。今の草野華余子がこの四畳半フォークを書くことに意味があると思うというか。
以前、スーパーからの帰り道に、凄い元気そうなおっちゃんがチャリンコで「じゃがいも買うのを忘れた〜」って歌ってたんですよ。おっちゃん、めっちゃいいメロディ歌うな、それパクらせてってレベルで歌い上げてて(笑)。これおっちゃんだから可愛くて笑ったけど、じゃがいも買うのを忘れてなんで急いで戻るんだろうって、私の悪い癖でそこから妄想が始まっちゃって(笑)。ひとりの男の子がじゃがいもを買い忘れてスーパーに戻っているところから物語を始めてみようと思って書いたんです。
――この情感というか相手が見える感じは、素晴らしいですね。
この感じは楽曲提供では書いた事はないですね。サビが無いパターンの曲だし、どっちかって言うとメロディの良さ云々よりも内容じゃないですか。流れていく世界観というか。
――ミニマムな情景がここまで浮かぶ曲って実は今まで無いと思ったんです。例えばアパートで西日が差し込む窓の前で、肉じゃがを作ってる彼女が曲から見えてくる、うんちく語ってる時も西日で顔が見えないような印象を受けたり。
その子が作ってるのを思い出しながら、男の子が作っているっていう感じなんですよね。私のイメージは。
――この男の情けないメランコリックを描いているのは最高にいいなと。
私の友達に多いんですよ、そういう男が(笑)。私はひとつ恋愛が終わってしまうと、「最後のページは開かずに」じゃないけど、絶対に振り返らないですから。男の子っていちいち本棚からその本を持ち出して読み直すじゃないですか。
――男の失恋は別ファイル、女の失恋は上書き保存って言うのを聞いたことありますね。
何冊も何冊も違う女の読み返すじゃん、何してんのよ馬鹿!(笑)。って思うんだけど、女々しいって男の子のためにある言葉だなって、愛情を込めて思うんですよね。女に女々しいって言わないじゃないですか。その男の風情ある女々しさって書いたことないなと思って。
――「白いリコリスの咲く頃に」とこれは共に別れの曲で、もちろん次元もレベルも違う別れだけど、あえて後ろの方にこれをもってくるっていう。
「白いリコリスの咲く頃に」の方が内容は重たかったけど、メロディの力でライトに聞こえると思うんです。あれは達観してるっていうか、受け入れなくちゃいけない所に立てた人の歌なんですけど、こっちの男の子は受け入れきれてないから。
――肉じゃがって秋とか冬とかいう雰囲気があるけど、夏に肉じゃが作ってるって、お前いつ思い出してるんだよ! って思っちゃいましたもん(笑)。
そう! そこまでわかる!?すごい(笑)。
――この情けないセンチメンタリズムを売れっ子作家の草野華余子が自分で歌うってのは、たまらない所がありますね。
ありがとうございます。主人公の設定は一応したけれど、私にとって過去の恋愛の時に感じた、自分の感情を、女性側として描いたのはちょっとあるかもしれないですね。それに今までの私の曲ってカロリーが高いと思うんですけど、今回はパッと思いついた時に聴きたいアルバムにしたかったんですよね。思いや考えを押し付けてないっていうところは今回一貫しているかもしれない。
――単純に歌詞を書く能力のレベルの高さを感じましたね。
これは今こそ私を発掘してくれた前のマネージャーに褒められたいですね。ずっと怒られてきたから(笑)。やっと本当に自分でも作詞家って名乗っていいなっていうスタートラインに立てたかなと思います。
草野華余子
――では次「Rub-a-dub-dub」。
「ごしごし(洗う)」って意味ですね。
――怒りというか吐き出している草野華余子が出てきた感じの一曲ですけど、韻の踏み方が今の草野華余子っぽいなって思いました。
超歌いにくかったですね。難しい。
――他の曲と比べてもちゃんとしっかり韻を踏んでるますしね。
そうですね、これはどちらかというと口で歌った時に気持いいとか、耳で聞いていて気持ちいい歌詞の乗せに着眼が置かれているので、内容はしっかりあるんですけど、内容は二の次でもいいから言葉の響きのいいものを並べていこう、っていうのはありました。
――アルバムとしてバラエティに富んでいるし、流れの中でもインパクトのある曲だなと思いましたね。
今回は不思議と曲順は悩まなかったですね、湿った感じの情けない男の子の物語の後は、爆ギレしてる女の歌でいいんじゃないかって。
――これはご自身の中ではどういう曲?
明確に何かに対して怒っているっていう訳ではなくて、私は怒ると笑えてきちゃうタイプなんです。そういう怒りを楽しめる曲にしたいというのがあって。最近凄いウザイ言い回しをする人がいて、直接文句言ってきたらいいのに、なんやねんお前! っていう事があったんですよ。そこから陰口を叩いたりする奴に対するイラつきを書こうかなと思ったら、生活に埋もれてた怒りっていうのが無限に出てきたから、全部書いてやるぞみたいな(笑)。ちょっと私のダークサイドというか、ネガティブに捉える部分をどうやったら笑えるかっていう曲ですね。
――自分の中の不平不満を出すだけ出して、後は洗って掃除機で吸って全部捨てちゃいますっていうのは。いいですよね。
最後「もういっそ全部 棄てられたらいいのに」で曲終わるじゃないですか。どうせ捨てられないから、この断捨離を人生終わるまでずっとやっていかなくちゃいけないんだよっていう諦めと決意の曲でもあります。「しゃーないよなぁ、これは!」っていうか。
――なんとなく、昔に比べて怒りに囚われている時間がないというか、人生のプライオリティの高いものがどんどん生まれてるんだろうなっていう印象がありますね。
言い方あれですけど、くだらないもの、人生で必要ないものを捨てられるようになりましたね、やっぱり時間は限られているし。40代手前に差し掛かって思うのは、本当にやりたい事を本当に関わりたい人と丁寧にやるだけの時間を確保するには、負の感情と付き合っている時間なんてないんですよ。
――やりたくない事もしないと生きていけないんだけど、できればしたくないですよね(笑)。
私わりと潔癖なところがあるので、裏で手回しをしたりとか、政治的な動きとかを嫌っちゃうんです。そういうものに対して、「解せん あっちもこっちも不潔」って歌っている曲ですね。
――では次「ドミノ倒し」これは前のアルバムからのアコースティックカバーっていう形でいいんですかね。
前回はcadodeというユニットのkoshi君をゲストで呼んだんですけど、女性の声だけで演奏してみた時にどういうものになるのかというところがあって。もう1つ、この曲はアコギで作ったものを打ち込んで、それを土台でアレンジしたっていう形だったので、最初の状態をみんなに聴いて欲しくて。
――アコギで作ったままの形ってことですね。
今までは逆バターンだったんです。アコギのアルバムで人気だったやつをバンドアレンジにしてたんですけど、今回は逆にデモ音源の時の「ドミノ倒し」がどうだったかというのをみなさんに聴いて欲しくて。
――なるほどこういうアレンジかって思いましたね。あらためて楽曲のよさが際立った感じというか。
フルアルバム『Life is like a rolling stone』に収録されているバージョンだと、結構バスドラに引きずってもらって後ろめで歌っているんですけど、アコギだと前へ前へって歌った方がかっこよかったので、結構タイム感的にも前のめりになっていますね。こっちの方が体感早く感じるかもしれない。
――サビの歌い方もちょっと前のめりな感じは凄く感じたし、やっぱりこれはギターで作った曲なんだなって。
宇多田ヒカルさんとか、私が普段聴いているビービー・レクサ(アメリカのシンガーソングライター)さんやデュア・リパ(UKの2010年代後半を代表するポップシンガー)さんだったり、彼女達UK、USのシンガーソングライターの女性達がやっているようなアプローチの曲を作るために、アコギを持って作ったっていう感じです。やっぱりアコギで作るから海外のダンスミュージック的なものよりメロウな感じになるんですよ。それをちゃんと届けてみたくて。
――なるほど。
「ドミノ倒し」自体が本当にお気に入りの曲だったので、何年も前からずっと録っていて、カヨコ時代に書いた曲だったので、いつか大事なタイミングで入れたいなと思って何回も書き直して置いていたので、今回は自分の想いで入れました。
――草野華余子っていうフィルターを通すと、自分の好きなものがろ過されると同時に足されるものあるじゃないですか。それを凄く感じる。
そうですね、きっといつまでも歌謡曲をやりたいんですよね、私は。歌謡曲ってメロディが強いから、余計なアレンジが無い。本当にシンプルで音がよくて演者も上手くて。日本の真骨頂の音楽だと思うんです。ちょっと音が進化したとはいえ、根っこは80年代後半から日本の音楽って全く変わってない。
――日本の音楽はガラパゴス化してるって話も聞きますしね。
日本の音楽でずっといいものって何? って話になると、たぶんメロディなんですよ。もちろんリズム解釈が間違っていない前提ですが。それは歌謡曲がもたらしてるものだと思うので、私はそこを体現出来るアーティストになりたいなと思います。
■私は作家業だけではなく、歌っていた方がいいって本当に思う
――そして最後は「Room305」。
これは2016年か2017年ぐらいに、上京前に大阪から引っ越す時に書いて、配信はしてないんですけどリリースした事がある曲なんです。今回その時の出来なかった表現のリベンジをしたくて。
――そうだったんですね。
今回のアルバムのテーマが「憂鬱」だったり「失いそうなもの」について書いたんですけど、それで言うとやっぱり失ってしまった感情を凄く端的に表しているかな。
――当時を思い出しながら歌ってどうでした?
「このままじゃ いつまで経っても ただ生きているだけだ」ってサビで歌っているんですけど、今「ただ生きてるだけでいいんだよ」って感じてるんですよね。何であの頃、その瞬間を楽しめなかったんだろうって思ったのと、もう1つは「色んなものを失いながらも あの日々の想いを胸に ただ生きていたいだけだ」って最後のサビにあるんですけど、「色んなものを失うし あの日々の想いを胸には出来なくなっていくよ」とも思いましたね。また新しい思いを胸に生きていけるよって。
――青春との決別じゃないですか。
辛いよね(笑)。
――草野華余子のライブって、お客さんとの感情の共有だったり、共感が凄く強いものだと思っていて、その草野華余子が今これを歌うって、チープな言い方になりますけど、エモですよね。
お手軽なエモかもしれないですが(笑)。
――変な話、お手軽なエモって結構生きていく上のフレイバーで大事だと思ったりもするんですよね。
そうかも。この曲の存在っていうか、書いたときの感情とかちょっと忘れていたんですよ。再録したり再発する気は全然無かったんだけど、ちょっと前にファンの人で「Room305ってなんでサブスクないんだろう」って書いてくれてる人がいて、それでパッと思い出して。
――ファン発信で気づいたんですね。
そう、みんなこういう感情持っているけどあんまりこの部分書く人いないなと思って。自分が変わっていく様とか、決別とか自分の内側に矢印向けるより、夢に向かってっていう事を描く人が多いから。
――確かにあまり書かれるテーマではないかもしれないですね。
どこか外に向かうものだけじゃ1枚のアルバム成り立たないと思って。本当にミニマムな世界で自分の内側に矢印が向いているものを1つ入れたくなったんです。この曲はそこに対して適役だったんじゃないかな。
――もうとっくに外を向いて仕事している側の人間が、もう1回これを歌うって面白いですよね。
改めて歌ってみて、この主人公苦しそうだなって。年齢関係なく人って思春期と決別するタイミングが来ると私は思っていて。
――そうですね、ずっと子供でいたいけど、それはなかなかね。
私がこれを書いた時、それこそ加東さんと出逢ったばかりの2015~16年っていうのは、急に事務所に入って、周りが大人で自分が凄く子供に感じてたんですよ。今見てみると実はそんな事はなかったんだけど、その時に持っていた感情やスキルのお陰で今ここにいるのに、それを全てを否定して大人になろうとしてたんだよね。
――僕も40過ぎていても、周りは大人ばっかりだなって思う時ありますよ(笑)。
本当にね(笑)。なんかその時の私自身の絶妙なバランスを思い出さなくちゃって。改めて思い出したというか。
――それを聞いて人が生きるってエモーショナルな瞬間の連続だなって思ったんですけど、僕らの人生ってシンプルなエモを拾い集めて日々を過ごしているような気がしてきました。
シンプルなエモをおにぎりにして、大きなエモに変えているからね(笑)。スタバのマグカップに「今日も頑張って」と書いてもらっているだけで、頑張っている時、涙出る事あるじゃん?
――そうですね、そういうの結構ある。全部通して小さなことを描いているけど、思いが詰まり倒した一枚になりましたね。
本当に今回一貫して「好きって思ってくれたら聴いてください」っていう感覚なんですよ。勿論めちゃくちゃ聴いて欲しいけど(笑)。楽曲を「私はこう思ってるねん!」って押し付けるんじゃなくて、好きに解釈してもらいたい。たぶん自信が付いたんだと思うんですけど。
――やっぱり草野華余子は歌っていた方がいいと思いますね、改めてですけど。
そこぜひ太字でお願いします(笑)。私自身、昨日歌っていた方がいいって本当に心の底から思ったところだったんですよ。マネージャーが、ずっと華余子さんは歌わなきゃだめだって言ってくれてたのも嬉しかったし。
――ここからはシンガーソングライター草野華余子から、作家・草野華余子に対するリファレンスが増えていく気がしましたね。ライブでやったことによる気付きとか多くなりそう。
それはあるかも、実は今回レコーディング中最初1~2曲歌ってる時に、自分の歌に絶望して全部一回録ったものを消したんですよ。
――歌を?全部?
そう、色んな仕事を経て、自分の耳が良くなり過ぎてて、自分が頭で分かっていることに歌唱力が追いつかなくて。ヤバイってなって岸田さんに電話して「歌めちゃくちゃ下手や、どないしよ、自分の思ってる曲にならん」って言ったら「ついにそういう次元まで達しましたか」って。何目線やねんって(笑)。
――岸田さんらしい(笑)。
どうしよう! って思って色々考えていたら「プロデュースやる時の目線で、もう1回やってみたら?」って言われて。だから今回は何度も歌い直すというより、良いテイクを選ぶ事に時間をかけたんです。いろんな表情で歌うテイクをしっかり選べるようになったっていうのは、自分の歌でプロデューサーの自分が成長できた部分かもしれないですね。
――それを持ってライブをやって、そこで受け取るものがまた創作に対してプラスになることがこれから増えていく気がしますね。
正直、私のアーティスト活動より、作家活動の方が意味があって、アーティスト活動なんて意味が無いんじゃないかって言う人もいるんです。じゃあ、全部意味のある金銭的価値のある事だけをやっていたら、人間の心も豊かになるんですか? っていうのは今回凄い思ったことですね。そこには、自分だけが感じられる、本当に大切な"生きる意味"があると思ってる。
――体に悪いけどトンカツ食いたい時もありますよね。
マクドナルドで終わりたい1日もあるし、内容の無い会話で盛り上がりたい日もあるじゃん(笑)。作家としての私だけが必要ですっていう人が、今後関わってくる仕事先にいるんだったら、アーティスト活動と作家活動はセットなので、片方だけお渡しできないので結構ですって言うつもりです。
――そうだよね。セットパック片方だけ売ってくれはダメだよって話だ。
そうそう、私が私であるためのガソリンの部分だから、ヘッドアンプとキャビネットをばらばらに売っても音は出ないから。
――僕はもう少しで10年近い付き合いですけど、正直、作家華余子よりもシンガー草野華余子の方が好きなんですよね、初めて言うけど。
めっちゃ嬉しいなそれ。作家の私はクレバーで計画性が凄い高いと思っているんですよ。自分に向いているものばっかり集められないからそうならざるを得なかった。でもシンガーの私はやりたいことやっちゃうから。どっちも私だけど、やりたいことを好きって言ってもらえるのは正直嬉しい。
――では最後に、これからの草野華余子をどう見て欲しいか、教えてもらえたら。
楽曲提供やメディアに出させていただく事で、名前を覚えてくださった方が増えて、やっとスタートラインに立ったと思っているんです。ここから、どこかでアーティストとしての草野華余子がしっかり反旗を翻すターンが来るぞ!と虎視眈々と狙っています。まあ38歳のキャリアも積みに積んで、経験を重ねに重ねたおばちゃんかもしれないけど、カメレオンの色みたいに何にでもなれると信じているし、色んな可能性が無限に広がっているなって今音楽人生で一番思っているので、懲りずに付いてきていただけると幸いです。今日が人生で一番若いですから。
インタビュー・文=加東岳史

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • SUPER★DRAGON / 「楽楽★PAINT」
  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」

新着