安蘭けい、舞台『血の婚礼』は「取り
組むにはハードな作品」~剥き出しの
感情、抑えきれない愛を描く

スペインを舞台にした愛の悲劇『血の婚礼』が、2022年9・10月に東京・シアターコクーンにて上演される。演出を手掛けるのは杉原邦生、上演台本は田尻陽一が新たに翻訳する。出演は木村達成、須賀健太、早見あかり安蘭けいほか。
本作は、スペインの伝説的劇作家フェデリコ・ガルシーア・ロルカが、実際に起きた事件を元に1932年に執筆し、翌年にロルカ自身の演出によりスペインで初演された、ロルカの三大悲劇の一作。スペインのアンダルシア地方を舞台に、婚約した花婿(須賀健太)と花嫁(早見あかり)が互いの家族の期待を背負いながら結婚式を迎えようとするが、そこに花嫁の昔の恋人レオナルド(木村達成)が現れ、すべてを変えてしまう抑えきれない愛を描く。
花婿の母親役を演じる安蘭けいに話を聞いた。

『血の婚礼』チラシ表面  衣裳提供:TSUMORI CHISATO

よりリアルな感情が伝えられるストレートプレイ
――出演が決まったときはどう思われたましたか?
以前、演出・蜷川幸雄さん、主演・窪塚洋介さんの『血の婚礼』(’ 11年)を拝見しました。私が蜷川さんのファンというのもあって観に行ったのですが、客席で受け取るものがズドーンとして、「なんでこの作品を観たんだろう」という気持ちになったのを覚えています(笑)。蜷川さんの世界観、演出も素晴らしかったけど、「重く救いようがない」お話だった印象が強く残っています。なので今回、お話をいただいたときに、「あの『血の婚礼』か」と思って。プロデューサーにも「なぜ今この時代にこの作品を?」と聞いたくらい。そのくらい、自分が取り組むにはハードな作品だなと思いました。
――プロデューサーさんに聞いて、納得されることがあったのでしょうか。
今はみんながコロナやいろんなことで我慢して生きていますよね。この作品も土地の因習などに縛られた中で生きている人たちの話で、だけどその中で精一杯生きている登場人物たちの姿を見て「これほど感情を出してもいいんだ」と思い出せるし、「人間ってそういうものでしょ」ってことが少しでも伝わればいい、というお話があって。私もそれはすごく納得がいって、ぜひやらせてほしいと思いました。
――安蘭さんはミュージカル作品にたくさん出演されていますが、ストレートプレイに出演することにはどんな楽しみがありますか?
私は、客席と舞台の間にはベールがかかっているような感覚があるのですが、そのベールの厚さがストレートプレイは薄い気がします。だから演者の感情がよりリアルに伝わる。そこがストレートプレイの好きなところです。さらに、シアターコクーンの距離感だと、細かいところまで客席に届くので、デフォルメせずに感情を出すことができると思っています。
>(NEXT)”母親”は、根本が傷ついている人
”母親”は、根本が傷ついている人
――演出の杉原邦生さんとは初ですが、どんなところが楽しみですか?
先日『パンドラの鐘』を観に行ったんですよ。蜷川さんのオマージュもありつつ、新しさを感じました。独特の世界観がある方なんだろうなって。杉原さんのような若い方と仕事をすると、自分が持っていない新しいものを受け取ることができます。なので一緒に仕事をするときはちょっと違うテンションになるんですよ。なんかこう、宇宙に連れて行ってくれるみたいな感覚がある。だから今回、杉原さんがどんなところに連れて行ってくれるんだろうな、という楽しみはすごくあります。そしてこの『血の婚礼』という作品が、どんなふうにできあがるのか、杉原さんがどんなふうに考えていらっしゃるのかお話をうかがうのも楽しみです。
――脚本を読まれる中で、どうなるんだろうと気になるシーンはありますか?
終盤の花嫁と母親のシーンは気になります。あのシーンって、もし自分だったらそこにいたくないような場面なので。だからこそ(母親役である)自分の気持ちも含め、どうなるのかなというのは興味があります。花嫁側もどんな顔をするんだろうと思うし。
――そのシーンは私も、もしかすると日本人にはあまりない感覚なのかもという感じがしました。安蘭さんは海外戯曲もたくさんやられていますが、そういう感覚にはどうやって近づいていかれるのですか?
そこはお客様が日本人なので、私は日本人の感情に寄り添おうと思っています。いま話したシーンも、スペイン人だったらもしかしたらすんなり理解できるかもしれないんですけど、日本でやるとそうはならないので。であればやっぱり日本人の感覚で演じないといけないなと思っています。
――日本人が観て納得できるように、ということでしょうか。
そうですね。あとは、むしろ「これは感覚が日本人じゃないよね」とか「外国だからこうなるんだよね」と思えるくらいまでいけばいいんだと思います。あまりにも「?」が飛ぶようなことにはしないように、と思います。
――今作では、剥き出しの感情がたくさん出てくるのかなと思うのですが、現時点で、“母親”役として出さなきゃいけない感情ってなんだと思われますか?
悲しみが一番大きいのかなと思います。私が演じる“母親”には、自分が大切に育てた息子(役名:花婿/須賀健太)が結婚する、という喜びもあるんですけど、前提として、夫も長男も殺されている、というところから始まるので。根本が傷ついている人だから、例えば笑っていても深く刻まれた皺は消えない、みたいな。そういう人なんじゃないかなと思っていてます。だから“傷ついた感情”は常にあると思いますね。
>(NEXT)生きている限り新しいものに出会いたい
生きている限り新しいものに出会いたい
――今回のような新しい作品に挑まれるときはどんなことを考えますか?
新しい作品に取り組むのは本当に楽しいです。私は毎回新しい作品をやりたいくらいなんですよ。……って言うと語弊があるな。再演は再演で楽しみはあるんですけど(笑)。でも本当に、生きている限り新しいものに出会いたいっていう欲があるので。だから新しい作品はまず楽しみです。ただ、つくっていく段階は辛い。「ああ、辛いのが待ってるな。台詞覚えるのが大変だ」と思うと、はあ~ってなるので(笑)、そこへの心構えは必要ですね。人間関係もそう。稽古と上演期間を含めると2~3ヶ月、キャストやスタッフの皆さんとの人間関係を築いていくので。人見知りなんて言っていられないから、朝起きたら「よし、今日もがんばろう」みたいな心構えをいつもしています。
――安蘭さんはカンパニーの中でどんな位置にいらっしゃることが多いですか?
主演とそうじゃない時で違いますね。主演の時はやっぱり、作品もだし、カンパニーを背負っている、という気持ちがあるから。なんとかいい空気感の中でみんなで稽古したいなと思うし、その稽古場を作るのは自分なのかなと思うので、どうしても「がんばろう」となります。逆に主演じゃない時はちょっと客観的に見ることができるんですよ。ただ、空気を読むタイプなので、嫌な空気とかをすぐ察知してしまって、変に気を揉んじゃうところがあって。そこがいいところでもあり、しんどいところでもありますね。
――今回はどんな居方になりそうですか?
今回は若者たちが主演なので、どこか子供たちを見るような、親のような気持ちでいられるかなと思います。吉見一豊さんは舞台『幽霊』(’ 14年)でご一緒して以来の共演なので、一緒に大人グループとして子供たちを見ながら(笑)、やっていきたいです。
――実際に息子役となる須賀健太さんはどんな印象ですか?
須賀くんとは一度、『でーれーガールズ』(’ 15年)という映画でご一緒したことがあって、役としての絡みはなかったのですが、当時はまだ子供の印象がありました。でも先日お会いしたら青年になっていて。もうね、叔母みたいに「……おおきなったな」って(笑)。
――(笑)。共演、楽しみですね。
須賀くんは子役からやられているので、キャリアで言うと数年しかかわらないんですよ。でも私は限られたところでしか生きてないから、芸能界というところの荒波をくぐっている時間は彼のほうが長いと思う(笑)。そういう意味では先輩です。須賀くんのほうが酸いも甘いも知ってるかもしれないから、ちょっと教えていただこうと思います!
取材・文=中川實穗 撮影=池上夢貢

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