『MONSTER baSH』3年ぶりの開催に向
けて、プロデューサーであるデューク
・定家崇嗣氏に開催に向けての思いと
展望を訊いた【インタビュー連載・エ
ンタメの未来を訊く!】

2022年8月20日(土)・21日(日)、香川県・国営讃岐まんのう公園にて『MONSTER baSH 2022』が開催される。今年で23年目を迎えるMONSTER baSH(モンスターバッシュ)は中四国最大級の野外ロックフェス。2020年、2021年は中止となったため、2022年は3年ぶりの開催に向けて準備が進んでいる。

フェスのプロデューサーである株式会社デュークの定家崇嗣氏へのインタビュー取材が実現。直前の中止となりクラウドファンディングで多数の支援が集まった昨年の振り返りから、今年の開催に向けた思い、そして地元のお祭りとして根付いていくことを目指す未来の展望まで、話を伺った。
――MONSTER baSHは今年8月20、21日に3年ぶりの開催に向けて準備が進んでいます。まずはこれまでを振り返っていただけますでしょうか。
2020年は3月からコンサート自体がほぼない状況に陥ってしまって。僕たちイベンターだけでなく、アーティストも、ステージを作るスタッフも、全員の仕事が一気になくなってしまったところからのスタートでした。正直、2020年のMONSTER baSHに関しては、打つ手もなく、アーティストも稼働していなかったので、今年は無理だろうと、右も左もわからないまま中止してしまった形でした。ただ、8月の2日間を年間行事に組み込んでくださっている方がたくさんいらっしゃるので、何もしないのはちょっと違うだろうと思ったので『モンバス!オンライン』として1日限りの配信フェスをやらせてもらいました。
――2021年はどういう状況でしたか?
その後2020年の秋口から半分の集客ではありながら少しずつコンサートが復活してきて、その頃から2021年にはどうにかモンバスを開催しようとブッキングや会場の手配を進めていきました。いろんなところと協議を重ねて進めていく中で「これは開催できそうだ」という手応えがあって。2020年にごめんなさいをしたアーティストが沢山いたので、なるべく2021年に出てもらいたいという強い気持ちもあって、8月21、22、28日の2週間にわたる3日間開催にしていたんです。ただ、8月に入って感染者が増えてきて、次第に香川県さんや会場のまんのう公園や弊社デュークに「こんなタイミングで他県からも沢山の人を呼ぶイベントをやるべきではない」という電話がかなりかかってくるようになりました。それでも僕たちとしては来てくれるアーティストとお客さん、そして従事するスタッフみんなの生活もかかっているわけですし、なんとか国や地方自治体が定めたガイドラインをきちんと守って開催するという方向で直前まで進めていたんですが、開催4日前の8月17日に香川県から「今回の日程での開催をやめてください」という要請のお手紙をいただきました。やるのであれば、まん延防止エリアと緊急事態宣言エリアからの客を香川県に入れないというのが県からの要望でした。正直なところそれは不可能ですし、県の要望はこれ以上守れないというところで中止を決断しました。僕はプロデューサーとして“夏祭り”というコンセプトを目指しているんですけど、徳島の阿波おどりとか高知のよさこい祭りとか、モンバスの前にある全国的にも有名なお祭も中止になっていて。そういったことも重なり、地元の方の意見も含めて判断した結果、2021年は中止という形にさせていただきました。
■クラウドファンディングをやってみて、ロックフェスの未来をファンが救ってくれたと思いました
――中止後にはクラウドファンディングを立ち上げていましたが、そのいきさつは?
実は、モンバスが一番中止の判断に時間がかかってしまったんです。他のフェスは開催のひと月前とか、準備に入る前のタイミングで中止を発表していたんですけれど、自分たちはずっとやる気だったので4日前になってしまいました。2週間連続でやる大型のフェスを4日前に中止すると何が起こるかというと、まず用意した数万人のお客さんのためのグッズがまんのう公園にたまってしまうんですね。1週目でさばくはずのもので一杯になってしまって2週目の分を送れないということになってしまった。「それが残念です」という話をしていたら、沢山の方から「クラウドファンディングをやってみたらどうですか」と言っていただいた。調べてみると、これはなんとか前を向けるような材料だとも思いましたし、来れなかったお客さんからもメッセージやお手紙をいただいていましたので、「よし、やってみよう」と思って、すぐにクラウドファンディングを立ち上げました。「来年以降のモンバスを守るためにみなさん助けてください」というコンセプトで始めたら、当初の目標の1千万円を数時間で達成して、結果的には4千720万円の支援金が集まった。CAMPFIREというクラウドファンディングサイトで「CAMPFIREクラウドファンディングアワード2021 中国・四国エリア賞」をいただいたり、「開催直前で中止になったロックフェスの未来をファンが救った」という言葉でポスターにしていただいたりして。それは大きな糧になりました。
――フェスが応援されているのを実感した、と。
そうですね。単に支援金が集まったというより、僕ら社員やスタッフが勇気をもらえたこと、「来年こそは頑張らなきゃな」という気持ちになれたということが、とても大きかったです。なにしろ「フェスを開催するな」という電話がたびたびかかってきてスタッフが疲弊していたこともあって。中止を迫る声に埋もれていたけれど、「応援してます」という声がこんなにも沢山あったんだということを実感しましたし、2022年こそは絶対にやらなきゃという気持ちにもなりました。僕たち主催者や携わっているスタッフも含めて、本当にロックフェスの未来をファンが救ってくれたと思います。今後MONSTER baSHが何年も続いていく上で、とても大事な糧になりました。
――おそらくクラウドファンディングの結果は、毎年来ていたオーディエンスにとってフェスというものが単にアーティストのライブを観に行くためのものではなく、その場所自体に価値を感じるし、それが失われるのは嫌だという思いを持っていたということが大きいと思います。これはモンバスがずっと積み重ねてきたことが大きいと思うんですが、その実感はありましたか?
そうですね。地方のフェスですけれど、今年で23年目を迎えるフェスなので「昔行ってました」とか「今年はできなくて残念です、頑張ってください」という声も多かった。長い時間をかけて地方に根付いていったんだなという実感もありました。
――クラウドファンディングのページではアーティストからのメッセージも沢山ありました。アーティストからも愛される場になっていたと思いますが、そのあたりはどうでしたか。
きっと、クラウドファンディングをやるにあたってメッセージを出しにくいっていう人もいると思うんですけど、ほんとに沢山のアーティストからメッセージをいただきました。自分たちで言うのもなんですけど、モンバスを本当に応援してくれているんだな、愛してくれているんだなっていうのを、こちらも実感しました。

■音楽活動をがんばっている四国のアーティストに夢を持ってもらいたい

――では、2022年の開催に向けては、どんな風に準備を進めていきましたか?
2020年、2021年とそういうことがあったので、2022年はまず開催を大前提にして進めていきました。2年間お客さんが来れなかったわけですし、また中止になるんじゃないか、フェスが無くなるんじゃないかと思われてはならない。香川県ともまんのう公園とも協議して、まずは感染対策をしっかりやって開催するということを第一条件で進めています。
――ラインナップに関してはどうでしょう?
それに関しても、2020年にご出演予定だった皆さんに「来年お願いします」と言いつつ2021年に再び申し訳ないことをしたので、基本的には、2020年と2021年にお願いしていた皆さんからお声をかけさせていただいています。ただ、ツアーがあったり、今年は夏フェスに出ない予定だったり、2日間になったので枠の関係で出演できない方もいらっしゃいます。それに加えて、デュークには『サヌキロックコロシアム』という高松市内の商店街でやっているライブサーキットがありますので、2022年のサヌキロックに出演いただいたアーティストからの昇格組も含めたラインナップになっています。
――今回のヘッドライナーは1日目がWANIMAMONGOL800、2日目はSUPER BEAVERとなっています。このセレクトは?
まず初日については、少し前にMONGOL800とWANIMAがスプリット盤でCDを出すという話があって。で、たまたまブッキングのタイミングでは同じ日に出るフェスがMONSTER baSHしかなかったので、うちのステージのトリでコラボをやってみてはどうかというお話をしたところ、ぜひやりましょうということになりました。なので、この日はMONGOL800、WANIMA、その後に両バンドがコラボという形になっています。で、21日は、2021年の時点でSUPER BEAVERにトリをお願いしたいと言っていたんです。うちのフェスではいつも、今トリをとってもらいたい方と、3年後や5年後に主役になってもらいたい方にトリをとってもらっているんですけれど、SUPER BEAVERは彼らがライブハウスで苦労している時から見ていますし、コロナ禍に成長してほしいという気持ちを込めて2021年の大トリをお願いしたんですね。でも、気づいたらすっかりそのポジションがハマるようなバンドになっていた。そういった意味で、僕の想像よりもかなりステップアップして2022年を象徴するアーティストになっていると思うので、しっかりトリを務め上げてほしいなと思います。
――モンバスの特徴として、今年に出演する小田和正さんのようにベテランのアーティストを積極的にブッキングする流れもあるかと思います。このあたりはどうでしょうか。
モンバスは単にロックフェスとして成功するだけじゃなく、アーティストが四国に来る足掛かりになったらいいなとも思っているんですね。なので、今見せたいアーティストと、これから頑張って未来を担ってくれるアーティスト、それから僕たちがレジェンドと呼んでいる、そういったロックの客層とは違うアーティスト、その3つの軸で選定しているつもりです。マカロニえんぴつVaundyを観たい今どきの若い子たちでも小田和正さんの存在や歌は知っていると思うんですけど、きっとライブを観たことはないと思うんです。そういう子たちに小田さんの歌声が生で届いたらいいなという思いもありますし、そこから「小田さんすごかったよ」って家でお父さんやお母さんに話してもらうことで、そこから家族の会話が生まれたらいいなという思いもあって。そういうことを考えて、毎年レジェンドの大物アーティストの方に声をかけさせていただいています。
――これから未来を担うであろう新進気鋭のアーティストや、モンバスがプッシュしているアーティストについてはどうでしょうか。
もともとモンバスは四国出身のアーティストを推しますと公言していますので、今年注目してもらいたいのは、8月20日の四星球と8月21日のLONGMANですね。四星球は徳島に、LONGMANは愛媛県に住みつつメジャーデビューをして全国ツアーをしている。こういうアーティストを応援したいと思っています。そして今年の大抜擢は8月20日に出る古墳シスターズですね。彼らは香川県高松市に住んでいて、高松を拠点に活動をしていて、とてもいいライブをするバンドです。古墳シスターズ自体をみんなに観てもらいたい気持ちもあるし、今、音楽活動をがんばっている四国のアーティストにとっても「古墳シスターズがモンバスに出るということは、俺らもがんばったらモンバスに出たりプロのミュージシャンになれるんじゃないか」っていう夢を持ってもらいたいという思いもあります。どうすれば音楽で飯を食っていけるのかわからない人たちへ、少しでも音楽活動の目標になればいいという意味も含めて古墳シスターズさんを選ばせてもらいました。
――四星球やLONGMANのように、四国に拠点を置いたまま全国規模で活動を広げるバンドや、そういう存在に続こうとするバンドにとっても、コロナ禍で活動に制限がかかった状況は非常に厳しいものがあったと思います。なので、古墳シスターズのようなバンドがモンバスに出ることには、単に注目の新人というだけではない意味があると思いました。
そうですね。それで、四国から羽ばたいていったということになったとしても、彼らも四国出身なんだよっていうのが語り継がれたらいいなと思います。
■許される限りは野外のフェスにこだわっていきたい
――すでに21日のチケットはソールドアウトしていますが、反響に関してはどう感じていますか?
やっぱり「待ってました!」っていうのがひしひしと伝わってくる感じはありますね。決めた枚数で止めないといくらでもチケットが売れちゃうぐらいの勢いがありました。ただ、この2年でフェスの形態自体も変わってきたとは思っていて。屋外でやる夏フェスが減ってきているかなとも思うんで、僕らは野外のロックフェスということにこだわっていきたいと少し思っていたりします。やっぱりフェスの醍醐味のひとつに青空の下で好きな音楽を聴くこと、自由に楽しめることがあると思うので。会場のまんのう公園は国営公園でいろいろルールがあったりするんですが、「まんのう公園が好き」「モンバスが好き」ということで来てくれている方がたくさんいると思うので、許される限りは野外のフェスにこだわっていきたいなと思います。
――モンバスだけでなく、四国でのライブエンターテインメントについて、定家さんとしては先行きをどう見てらっしゃいますか?
やはり回復はしてきていると思うんですが、この2年のうちにコンサートに行かなくなった人もいらっしゃると思います。でも、生の音楽を体験してもらうのはとても貴重なことですし、MONSTER baSHだけじゃなく、僕たちの日頃のコンサートでクラスターは発生していません。2022年、2023年は、そういった人たちにコンサートに戻ってきてもらうと共に、最新の感染対策をして、コロナを恐れずにエンターテインメントを楽しんでいいんですよっていうことを発信し続けていかなきゃいけないなと思います。安心してみんなが来れるエンタメの環境を作って四国を盛り上げていこうという気持ちが強くあります。
――長期的には、コロナを経てより地域とフェスの結びつきの重要性がクローズアップされていく気がしています。そのあたりはどうでしょう?
僕たちとしても、もちろんモンバスが音楽フェスとして認められたい気持ちもありますけど、それよりは四国にあるよさこいや阿波おどりのように、地元のお祭りとして認識してもらいたいと思っているんですね。行く人だけでなく、行かない人も含めて「8月のお盆の次の週にはモンバスがある」という認識を四国の皆さんに根付かせていきたい。2020年と2021年我慢した分、それが5年後、10年後にはプラスになったと思えるように、さらに大きなものにしていきたいと思っています。地域や住民の皆さんに根付くというのが、僕らの目標なので。地元に根付いたお祭りのひとつになっていったらと思います。
取材・文=柴那典
※この取材は7月12日に行われました。

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