ハッピーバースデイ、ピーターラビッ
ト™ーー日本初公開の絵手紙や原画が
揃う『出版120年 ピーターラビット™
展』で祝祭の夏を

出版120年 ピーターラビット™ 展 2022.7.2(SAT)〜9.4(SUN) あべのハルカス美術館
ピーターラビット™。きっと誰もがその名を聞いたことがあるだろう。世界中で多くの人々に愛される、いたずら好きのウサギだ。7月2日(土)から9月4日(日)まで、あべのハルカス美術館にて『出版120年 ピーターラビット™ 展』が開催されている。
『出版120年 ピーターラビット™ 展』
今年は、1902年に絵本『ピーターラビットのおはなし』が出版されて120周年の年となる。それを記念して行われる同展覧会では、『ピーターラビットのおはなし』に焦点を当て、ピーターラビットの誕生以前から今日に至るまでの歩みを紹介する。作者であるビアトリクス・ポター™が描いた原画や絵本の草稿をはじめ、約170点の展示物が並ぶ。また、ピーターラビットの絵本が生まれるキッカケとなったノエル少年への絵手紙の原本が初来日。大人は子どもに戻ったように、子どもはピーターラビットの冒険へと一緒に出かけることができる、誕生日パーティのような展覧会となっている。
あべのハルカス美術館 浅野秀剛館長
プレス向け内覧会では、最初にあべのハルカス美術館の浅野秀剛館長が挨拶。「あべのハルカス美術館では、夏は小さいお子さん向けの企画をすることが多く、今年は『ピーターラビット展』を開催いたします。結構「おっ」と驚く内容になっています」と述べた。
大東文化大学 英米文学科 河野芳英教授
続けて同展監修の大東文化大学の河野芳英教授が開催までの経緯や見どころを紹介。『ピーターラビットのおはなし』は100周年を迎えた2002年に、出版元のフレデリック・ウォーン社が、ビアトリクスが当初構想していた全ての挿絵を収録したものが出版された。今回はその全挿絵が展示されているとも話した。大阪会場の前に行われた東京の世田谷美術館では子どもがたくさん訪れたそうだ。「子どもたちに本物を見せるのは本当に大事なことだと思います」と、多くの子供たちが来場することを願った。
展示内容を解説する、あべのハルカス美術館 横山志野学芸員
続いては、あべのハルカス美術館の横山志野学芸員による展覧会解説が行われた。全4章で構成された同展の内容と見どころを、横山学芸員の言葉を交えながら紹介しよう。
第1章 ピーターラビット誕生以前
第1章展示風景 
HAPPY BIRTHDAY! PETER RABBIT™」と彩られたエントランスの先にある第1章では、ピーターラビットの作者であるビアトリクス・ポターの生い立ちや、ペットとして飼っていたウサギのスケッチ、挿絵画家としての仕事などが展示されている。
ビアトリクス・ポターは1866年にイギリス・ロンドンの高級住宅街に生まれた。産業革命で一気に工業化が進み、イギリスは世界の工場となり繁栄を謳歌していた時代。ビアトリクスの祖父は、キャラコ染の生地を扱う会社で成功を収めたエドマンド・ポターで、非常に裕福な家庭だった。ちなみに第1章では、祖父の会社で扱っていたパンジーの壁紙があしらわれている。のちに絵本の装丁にも使われる柄で、要注目のポイントだ。
第1章展示風景
厳格な母に育てられ、学校には通わず外出も禁止で、1日の大半を乳母や家庭教師と過ごした子ども時代。絵を描くことが好きだった彼女は、窮屈な生活の中でも喜びを見出していく。4階の子ども部屋で6歳下の弟バートラムと、ハツカネズミやカエルを飼って生態を観察したり、スケッチするのが楽しみだった。夏には家族で3ヶ月間イギリスの北部にバカンスに出かけ、湖水地方の美しく豊かな自然に触れ、その地に生息する動物や植物をスケッチすることで、想像力を育んでいった。
ビアトリクスはペットショップで雄のウサギを飼い、ベンジャミン・バウンサーと名付けて可愛がった。様々な角度から描かれたウサギの頭部のスケッチは確かなデッサン力で、非常に細かく描かれている。彼女の叔父が絵を高く評価し、1890年にはベンジャミンをモデルに6枚のグリーティングカードのデザインを制作。その後弟の協力で出版社に売り込み、詩集絵本に収録されることになる。これが挿絵画家としてのデビュー作となる。
第1章展示風景 リアルとファンタジーが融合したイラスト
他には、幼い頃に読んだ『不思議の国のアリス』や『リーマスじいやの物語』のシーンを緻密に描いた作品などが展示されている。横山学芸員は「第1章の作品は、ウサギはリアルに描かれている。そのウサギが二本足で立って服を着るという、リアルとファンタジーの融合で独特の世界観が展開される。こうして物語の主人公が生まれていった誕生の軌跡を辿ることができると思います」と述べた。
第2章 ピーターラビットのおはなし
第2章展示風景 絵本の中に入ったような空間が広がる
第2章では絵本『ピーターラビットのおはなし』が出版されるまでを紹介。
仲良しだった元家庭教師のアニーの息子、ノエル少年に宛てた絵手紙が展示されているが、この絵手紙が『ピーターラビットのおはなし』の原点となる。直筆オリジナルが展示されるのは日本が初めて。この手紙は1893年9月4日、ノエル少年が病気になった時に、彼を励ますためにピーターを主人公にした物語を送ったもの。
第2章展示風景 ノエル少年に宛てた実際の手紙
上下2枚、両面が見られるように展示されているが、2枚を重ねて半分に折ると、絵本のようにして読むことができるそう。絵手紙には「なんて書いたらよいのかわからないので、4匹の可愛い小ウサギの話をしましょう」と書かれている。
こうしてピーターラビットの主人公が誕生するが、絵本として出版されるのは約10年後。当時ビアトリクスはきのこの研究に興味を持っており、権威ある学会に論文を提出するほど没頭していた。しかし当時の女性の地位は低く、不当な扱いを受けたことで、情熱が少しずつ絵本を創作することにシフトする。
第2章展示風景 私家版『ピーターラビットのおはなし』
1900年、アニーの勧めで絵手紙を絵本にすることにしたビアトリクス。絵手紙に描かれているものだけでは文章が少なく、挿絵が足りないと思った彼女は、ノートの片方に文章、片方に挿絵を描くことで物語をわかりやすくした。6社の出版社に送るが良い返事をもらえず、1901年12月に私家版『ピーターラビットのおはなし』を発行する。表紙と43点の挿絵を収録した初版250部は評判となりたちまち完売、200部を増刷した。
第2章展示風景
そして今後の全シリーズを出版することになるフレデリック・ウォーン社から、全ての挿絵に着彩すること、文章の量を減らすことを条件に出版を持ちかけられる。広く子どもに本を手に取ってほしかったビアトリクスは。出版社に対し「子どもが手にとって読める小さいタイプであること」、「子どものお小遣いでも買える安価な値段」、「挿絵の表現に妥協しないこと」の3つの条件を提示し、1902年に初版本の『ピーターラビットのおはなし』が誕生。初版8,000部が即完売し、ビアトリクスはベストセラー作家の仲間入りを果たす。
この章には、『ピーターラビットのおはなし』の全ての彩色画が展示されている。フレデリック・ウォーン社から出版されるにあたり採用されなかった2点と、5刷の段階で削除された4点の挿絵は、出版100周年の際に彼女の想いを尊重して、英語版の絵本では全ての挿絵が掲載されるようになった。
第2章展示風景 日本初公開の原画も
ピーターがマグレガーさんに追いかけられて木の下に逃げ込むシーンは、1902年の段階で採用されなかった挿絵のうちの1点。体をすぼめて毛が逆立つ様子は、動物本来の姿が忠実に描き出された作品で、日本初公開となる。
音声ガイド
ここで挿絵の鑑賞のお供にオススメしたいのが音声ガイド。音声ガイドナビゲーターは、俳優でシンガーソングライターの松下洸平が担当し、同作のあらすじを朗読している。まるで絵本の読み聞かせのように物語が語られていく。ガイドのスピードに合わせて臨場感を感じるのも良し、一時停止ボタンを押しながらじっくり見とれるのも良しの必須アイテムである。
第2章展示風景
また、『ピーターラビットのおはなし』の場面を立体で再現したフォトスポットが登場。写真撮影も可能だ。
「ピーターは洋服を着て二本足で走る擬人化した姿ですが、表情はあまりデフォルメされることなく、動物の自然な表情が描かれています。ビアトリクスという人は、ピーターの喜怒哀楽の表情を、動物が本来持っている仕草や動きで巧みに描き分けています」と横山学芸員。わずか10cm平方の大きさの中で、生き生きと表現されるピーターラビットの冒険の様子をじっくり堪能してほしい。
第3章 ピーターラビットと仲間たち
第3章展示風景 『きつねのトッドのおはなし』
『ピーターラビットのおはなし』以降も、ピーターと仲間たちの物語を発表したビアトリクス。第3章では、この『ピーターラビット』シリーズ全23作品の中で、『ベンジャミン・バニーのおはなし』や『きつねのトッドのおはなし』など、ピーターが登場するものを中心に絵本や草稿本などを展示している。
第3章展示風景
『ピーターラビットのおはなし』は世界累計4,600万部を超えたベストセラーになり、海外でも翻訳本が出版された。日本語を含む48の言語で親しまれ、同展ではその一部を紹介している。語学に長けていたビアトリクスは、海外で出版される時には、その国で馴染みのある名前に変えてくれとお願いしたそう。フランス語版ではピーターラビットがピエールラパンに、マグレガーおじさんはムッシュー・マクレゴとされている。
第4章 広がるピーターラビットの世界
第4章展示風景

第4章展示風景 これまで展開されてきたグッズの一部
同展の最後を飾る第4章は、絵本の世界を飛び出して活躍するピーターラビットについての展示。ぬいぐるみやボードゲーム、ラバー人形など、著作権の保護や商品開発に積極的に関わっていたビアトリクスが監修したグッズや、彼女の没後に作られたグッズがずらり並ぶ。
第4章展示風景
第4章展示風景

同展の目玉のひとつである、出版120年を記念してイギリス本国で制作された巨大なバースデイケーキ。もちろん撮影OKだ。
第4章展示風景

そして最後には、日本とピーターラビットの繋がりを紹介。1971年に石井桃子の翻訳で福音館書店から正式に出版された翻訳本は、我々にとって馴染みのあるものだ。ここでは石井桃子の手製ダミー本や、翻訳のためのノートなどが展示されている。
出版120周年を記念して刊行された、川上未映子による新訳版
なお、今年は出版120年を記念して、川上未映子訳による新訳シリーズが刊行を開始。2年かけて全シリーズが順次発行されていくとのことで、ミュージアムショップでも購入可能だ。
ミュージアムショップ
最後に横山学芸員は「120年経ってもピーターラビットの記憶が色褪せないのは、物語を描いたビアトリクス自身がすごく魅力的な女性だったから。彼女の人生は色々なことがあったが、自ら運命を切り開いた彼女の生き方は、今を生きる私たちに、現状から一歩踏み出す勇気を与えてくれているように感じます。原画や作品を見ていただくと、ピーターラビットが永遠に愛されていくものだと実感していただけると思います。昔読んだ方も今から読まれる方も、展覧会をじっくりご覧いただいて、ビアトリクスが紡ぎ出したピーターラビットの世界をそれぞれに楽しんでいただけたら」と語った。
第2章展示風景
『出版120年 ピーターラビット™ 展』は9月4日(日)まで、あべのハルカス美術館にて開催中。

取材・文=ERI KUBOTA

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