ドラマストア 「より濃いドラマスト
アを知ってほしい」と語る2ndフルア
ルバム『LAST DAY(S) LAST』を紐解く

ドラマストアが3年振りとなるフルアルバム『LAST DAY(S) LAST』を2022年7月27日(水)にリリースした。

アルバムには、リード曲「月と旅人」、セカンドリード曲「ピクトグラム」に加え、今年3月に日比谷野外音楽堂で開催した自主企画『DRAMA FESTA 2022』にも出演したBIGMAMAの東出真緒がバイオリンでゲスト参加した「夕立の唄」など、全12曲が収録されている。
「今作は「今できる全力を出そう」という思いが強くて。それは妥協しているわけではなく、より濃いドラマストアを知ってほしいという想いがこめられています」と語る『LAST DAY(S) LAST』完成に至るまで、そして9月から行われるワンマンツアーに向けて話を聞いた。
――1stフルアルバム『DRAMA STORE』のリリースから約3年を経て、2ndフルアルバム『LAST DAY(S) LAST』が完成しましたね。
長谷川:1stフルアルバムは、全力投球やったと思うんですよね。1イニングしっかり投げ切ろう、45分しっかりプレイしようっていうスタイル。一方で今作は、この2〜3年間で他の人のポジショニングやプレイがわかってきて、「自分だけががんばらなアカン」という感じから抜けた気がします。疲れたらちゃんと控えがおるし、そこまでプレッシャーをかけにいく必要はないなって。チームプレイができるようになった結果、『LAST DAY(S) LAST』は肩の力が抜けた作品になりました。
――『Invitations』では“一緒に楽しむ”、『DRAMA STORE』では“挑戦と回顧”など、作品ごとにテーマを設けられていましたが、ズバリ今作のテーマはなんでしょうか。
松本:それが、ないんです(笑)。
長谷川:毎作品「テーマがあります」という感じで語ってますが、結局のところどれも後乗せで(笑)。僕らは書きたいものがあったりコンセプトを立てて制作したりするバンドじゃないので、全部ができあがってから振り返って「こんな作品になったよね」ってテーマを決める。それで今回は『LAST DAY(S) LAST』というタイトルになりました。しいていうなら、やりたいことがやれている作品になったかな。
――別のインタビューで、今作は「自分たちの音楽とは何かに焦点を絞って制作することができた」とお話しされていましたね。
松本:いつもと比べて、海君が作ってきてくれたものを広げることが、セッションで狙って作ることよりも多くて。「ええ曲やな」って思いながら、順番に曲ができていったんです。
高橋:4人で曲を磨きあげていく時間が多かったと思います。
松本:「海君のやりたいことがメンバーのやりたいことなんやな」と再認識したというか。
――ちなみに、『LAST DAY(S) LAST』の起点となったのはどの曲ですか?
長谷川:「ピクトグラム」じゃない?
松本:そうね。やっぱりMVは、そういうポジションになりがちだとは思うので。作った時期だけでいえば「ダ・ヴィンチ・ブルー」が早かったんですけど。
長谷川:正直なところ、「ピクトグラム」の制作中は「書かなければならない」が最大限だったんですよ。MVの「仲のいいカップルがTikTokをやってる日常を切り取りました」っていう情景描写は、物語としてなんの面白みもないし、ちょっと気恥ずかしい。僕が18歳でこの曲を作ってるんやったらわかるんですけど、純に相手を想えるわけではないほどに酸いも甘いも知っている。そうなったとき、ちょっとでも「やりたい」と思えるエッセンスをいれようとしたら、たどり着いたのがMVやったんですよね。
――ドラマストアが「ピクトグラム」のような曲をやるようになったのは、ここ数年で大きな変化のような気がします。
松本:たしかに。全然気取らなくなったもんな。
長谷川:さすがに実体験が元の歌詞ではないですけどね。30歳で「ハイ、チーズ」は言わないです(笑)。
――こういう可愛らしい曲が書けるようになったのは、長谷川さんがアイドルソングを聴き始めたことも関係していますか。
長谷川:それは絶対にありますね。TikTokで使われるような曲とも、向き合うことができるようになってきました。
松本:大人になってきましたね。
長谷川:なりたくないですけどね(笑)。
――今作は全体を通して長谷川さんの気持ちが乗っているような印象を受けます。ドラマストアってストーリーテラー然したところも魅力ですけど、いつもより主人公側に立っているというか。
長谷川:その感覚は間違いないですね。僕は、けっこう妄想で曲を書くことが多いんですけど、『LAST DAY(S) LAST』はコロナや「しんどいな」って時期を経たからこそ書けた曲が多くて。結果的に、自分目線に聴こえる曲もあったんじゃないかな。純度というか、長谷川度が高いんでしょうね(笑)。
――作品に重心が乗った理由は、コロナで思うように活動できなかったことが大きいと。
長谷川:それもありますし、上京で環境が変化したことも関係あります。この1年で「こういうことが書きたいんだろうな」「こういうことを書きたくないんだろうな」というようなものが、自分のなかでわりと確立されてきたんですよ。やっぱり僕は「面白いな」と思えることを書きたい。曲としてはもちろん、特に詩の面で面白さを追求するようになりました。日本だからわかること、日本語だから言えること、日本語だから伝わることに注力したいという想いが日に日に増していて。わかりやすいことをわかりやすくいうことには、正直辟易してます。だからラブソングがすごく苦手やし、「ピクトグラム」もめっちゃしんどかったです(笑)。
――たしかに詩が洗練された印象あります。<愛の意味も知らないくせに ラブソングで泣いてみたりする>(「月と旅人」)のように、エッジな歌詞も際立っていますよね。
長谷川:そもそも口や性格がいいほうでもないですし、皮肉や「あれが嫌」「これが嫌」は言うタイプなんです(笑)。ただ僕がそういう人間だからエッジの効いたことを言いたくなったわけではなく、同じ内容をずっと歌っている詩にしないことが作品にとって良いホップ・ステップ・ジャンプになると思ったからなんですよね。1番も2番も3番も「夢はう」「お前のことが好き」って言い続ける曲って、全く面白くない。たった3分や5分のなかにも、絶対に起承転結はあるべきなんです。僕がエッジの効いた言い回しを選ぶようになったのは、楽曲のなかで描かれるドラマの撮れ高をあげるため。かねてから夢のあることを歌うタイプではなかったですけど、『swallowtail』を作っていた頃は用いらなかったアプローチかもしれませんね。
――メンバーのみなさんは、今作における長谷川さんの歌詞にはどのような印象を受けましたか。
松本:過去一筆が進んでるな、ノリに乗ってるなって。
長谷川:そんなイメージあった?
松本:え、あるよ(笑)。ほんま天才やと思うんで、今作もめっちゃいいです。
鳥山:「桜の咲かない春」や「花風」は、ちょっと日本民謡っぽいメロディーラインなんですけど、それ以外でも日本の自然の美しさを感じている節はありますよね。ジャパンにハマってるというか。
高橋:いつもより海君の人間っぽいところが、けっこう多く見える感じかな。海君節が効いてる。
――歌詞が磨かれていることはもちろん、サウンドも進化してますよね。“ポップ”の固定観念から抜け出たような。
松本:たしかに。
鳥山:意識的に「ポップにしよう」とは全然考えてませんでしたね。
――以前は「ロックは思想でポップは共有」とインタビューでお話しされていましたが、“ポップ”に対する向き合い方は変わってきましたか。
松本:そういうジャンルへのこだわりはなくなってきたのかな。
長谷川:「ポップやと思って作ったらポップなんよな」って思ってるよね。難しく考えなくなりましたし、今思えば「こういうものがポップや」って色分けすること自体がナンセンスやったんかもしれないです。
松本:大人になった~(笑)。
長谷川:僕は自分の書く曲は、全部ポップだと思ってます。いまだに「こういうものがロックで、こういうものがポップ」っていう思想はありますけど、「AはBじゃなくてAやろ!」って伝えたいと思ったとして、押し付けるような言い方は絶対にしいひん。それこそ「むすんで、ひらいて」は、自問自答するように共感を求める歌詞になりましたし。
高橋:サウンドの落としどころは各々であると思いますけど、ドラマストアが作る楽曲はポップ。過去から積み上げてきたものが、勝手にポップになりあがったというか。
長谷川:ポップをやりたい人間が曲を書いたら、ポップになるんじゃないかな。それに、以前はインタビューしてもらえることに慣れていなくて「いいことをしゃべらな!」みたいに意識しすぎてた(笑)。「今が決めポーズじゃ!」って。
松本:きっとそれですわ(笑)。
――なるほど(笑)。総じて、今作はどのようなアルバムになりましたか。
長谷川:やれることを全部やったうえでやりたいことも兼ねている美味しさは、絶対にあると思うんですよね。
松本:このアルバムを経てどうこうなりたいというより、今の僕たちが1番ワクワクできて、みんなにワクワクしてもらえる施策が『LAST DAY(S) LAST』を作ることやった。ミニアルバムでは「三文芝居」や「Dancing Dead」のように、無理をしていると捉えられない挑戦をしてきたんですけど、今作は「今できる全力を出そう」という思いが強くて。それは妥協しているわけではなく、より濃いドラマストアを知ってほしいという想いがこめられています。
長谷川:めちゃくちゃ緻密に計算をしすぎたわけでもなく、苦しかった思い出が先に立つわけでもない。ほんまにドラマストアという人たちらしい作品になりました。
――“大団円”ともいえる「むすんで、ひらいて」で『LAST DAY(S) LAST』が締めくくられるのは特徴的ですよね。
松本:最初は勢いのある曲でベーンって終わろうとしていたんですが、単純に「なんかちゃうな」って感覚がずっとあったんです。「三月のマーチ」のような曲で終わると『DRAMA STORE』から成長できていない感じもするし、だったらみんなで肩を組んで歌って終わってもいいんじゃないかなって。バラードで終わりにしたくはなかったんですけど、海君が作ってきてくれた「むすんで、ひらいて」はすごくいい塩梅の曲やった。バラードに聴こえへんからズーンとなって終わらないですしね。
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――では、『LAST DAY(S) LAST』でこだわったところをお一人ずつお伺いできますか。
鳥山:「桜の咲かない春」のアウトロのピアノは頑張って作りました。ちょっとかぶいている感じにしたかったので、サビメロを繰り返して終わるのではなくジャズっぽさを足していますね。
高橋:僕は「アリストテレスは斯く語りき」の間奏パートかな。10分くらいでポンッてできたベースラインなんですけど、けっこう自分好みな出来になりましたし、みんなで曲に落としこんだときにもマッチしていたので愛着が沸いています。
松本:好きなシーンは「knock you , knock me」の頭の四声。作った本人ですら、ふいにパッと耳に入ってくると「よき」ってなるので、さぞいい出来なんやろうなと。むちゃくちゃ話し合ったゆえに印象深いのは「ダ・ヴィンチ・ブルー」です。
長谷川:大モメしたな(笑)。
松本:疾走感のまま突き抜けたい海君と味変したい私で、大サビのリードをハーフにするかしないかで意見が割れて。
長谷川:2〜3回くらい横に置いたよな。
松本:3年前に生まれてる曲やから、めちゃくちゃ丁寧に用意しました。
――長谷川さんはいかがですか。
長谷川:なんだかんだ「むすんで、ひらいて」ですね。僕としては、自分の居場所への想いをサラッと書いたから、「いい曲を書いたったぜ!」というより「書けてよかったな」という感じやったんですけど、大人の方がこぞって「いい曲やんな」と言ってくださって「そんなに響くんや」と。けっこう難しい曲なので、レコーディングの前日は「終わらんかもー!」って言ってたんです。でも、実際は過去最速で歌録り終了。ほんまに神がかってたし、「歌うのが楽しい」と思えたのはこの曲かもしれないですね。初めて出す高いキーに折れへんかったのはもちろん、自分が思っていた以上に評価をしてくださったチームに安心感を覚えたのも思い出深いポイントでした。ライブでセットリストの終盤に入ってきたとき、俺の体力が持つのかという問題はツアーを回りながら向き合っていかなアカンねんけど(笑)。
鳥山:たしかにな。
松本:みんなに歌ってもらって解決しよ(笑)。
――こういった高音の曲は今後も増やしていくんですか?
長谷川:生み出した子どもに1番ベストなキーとメロディーをつけてあげたいので、その曲を書いた時の気分と色次第ですね。気持ちがよければ、やりたいと思います。これから曲を作るとき「「むすんで、ひらいて」ができたから、もう1つキーをあげれるやろ」と言われたら、さすがにムッとするかもしれないですけど(笑)。
――『LAST DAY(S) LAST』を経て、新たに「こういうアプローチで曲を作りたい」など見えてきたりしましたか。
高橋:やれることをやりきった実感が強くて、今は作りあげた喜びを味わってますね。「作ったな」という余韻に浸っているというか。
長谷川:僕は今までと違うアプローチを試したいという思いがあります。コンセプトアルバムもやってみたいし、めちゃくちゃコラボもしまくりたいし、映像作品との曲作りもしたい。あと、1番はアイドルの曲を書きたいです! 昨今だとJazzin'parkさんがすごくて、めちゃくちゃ尊敬しています。なにわ男子King & Princeの曲は本当に勉強になりますね。弾き語りの先輩やサイダーガールもジャニーズのアーティストに楽曲提供をしてるので、僕もいつかやりたいです。
――松本さんはいかがですか。
松本:僕はいったん全部出し切ったので、今は夏休みをしてます。
長谷川:大野君なん!?(嵐の大野さんが無期限活動休止に入ったことをファンが“夏休み”と称している)
松本:現実に目を向けると「次はどんなん作ろう」ってなるのかもしれないですけど、結局なるようにしかならないので。今は「どんなツアーにしたいか」って考えてるかな。
――9月からは『2nd Full Album Releaseワンマンツアー “LAST DAY(S) LAST TOUR”』が開催されますね。
松本:前回の『3rd Single Releaseワンマンツアー“pop you , pop me Tour”』はシングル3曲のツアーだったこともあり、セットリストを『4tn Mini Album『Invitations』リリースツアー“可愛い子にはワンマンさせよツアー”』とそんなに変えることができなくて。コロナの影響で『Invitations』のツアーが大阪と東京の2公演だけだったからこそ、新鮮な気持ちでツアーを回れたような気もしています。でも、今回の『LAST DAY(S) LAST』は12曲で1枚の作品なので。既存曲の出番が少なめなセットリストになるんじゃないかな。今は「どう楽しんでセットリストを作ろうかな」って考えてるところです。
――ツアーファイナルはKT Zepp YOKOHAMAですが、お気持ちはいかがですか。
松本:悪い意味じゃなく、ドキドキしてないです。「KT Zepp YOKOHAMAやから」っていうのは特にないですね。
長谷川:さすがにもう「でかい~!」っていうようなのはなくなりました(笑)。
松本:それこそ今月は大阪城音楽堂でもライブをさせてもらいますし。
長谷川:これはこれ、それはそれ。ライブを楽しみにしてくれている人としっかり向き合って、1日1日を全然違う内容にできたらいいなと思います。

取材・文=坂井彩花 撮影=大橋祐希
※取材は解散発表前に実施

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