RAZOR、D、The THIRTEENらが出演、ヴ
ィジュアル系の魅力とそのメッセージ
を届けたV系新イベント『V-IBES MAN
IA』をレポート

V-IBES MANIA

2022.7.17 EX THEATER ROPPONGI
新たに立ち上げられたヴィジュアル系イベント『V-IBES MANIA』の第1回が、7月17日にEX THEATER ROPPONGIで開催された。若手から中堅、結成15年を超えるベテランまでキャリアは様々なれど、いずれも己のポリシーをガッチリ持つ5組+オープニングアクトが出演し、色とりどりの饗宴を繰り広げたが、このイベントの特色はステージの上のみにあらず。鑑賞チケットが細かく区分けされ、前方エリア6列以内のVIPに1階一般、2階一般のほか、注目すべきが“1階後方地蔵”なる条件付きシートだ。こちらのチケットは1階後方の“地蔵エリア”指定で、フリ禁止、拳禁止、腕組み禁止、たぬき投稿禁止、匂わせ禁止、アイテム使用禁止、声出し禁止、いなりを喰うの禁止と、数多くの禁止事項が設定。その代わり価格は一般チケットの半額以下に抑えられており、ヴィジュアル系ならではのノリや振り付けに疎い初心者や、暴れずにライブを観覧したいオーディエンスにとって、これ以上ない“安心安全チケット”になっている。当日の会場には、なんと地蔵用の被り笠まで用意されるという徹底ぶり。未だかつてない挑戦的な試みのもと、約4時間に及ぶステージの幕は切って落とされた。
地蔵エリア
Rides In ReVellion
ダンサブルでコズミックなSEからトップバッターを飾ったのは、オープニングアクトのRides In ReVellion。「全員で飛ばしていこうぜ、東京!」と黎(Vo)が一喝すると、吹き荒れるシャウトとヘッドバンギングにツインリードのギターソロがトドメを刺す「MIRAGE」で、ウォーミングアップというには激しすぎる轟音を初っ端から叩きつけていく。なるほど、攻めに振り切るアグレッションが持ち味かと思いきや、一転「Eternal~渇望の空~」でメロウな表情を見せ、最後はアッパーな「カレタソレイユ」で希望にあふれた眩い情景を演出。「たった15分、しかしその15分に命を賭けます!」という呼びかけからは誠実さが、拳を振り上げる客席に「Thank you Tokyo!」と繰り返す様からは関西を拠点に活動する彼ららしさも覗き、幕開きに相応しい爽やかな印象を残した。
Rides In ReVellion
■零[Hz]
零[Hz]
2番手の零[Hz]は“東京ミクスチャー・ロック”というコンセプトの通り、とにかく洗練された音世界が魅力の5人組。まずはキャッチーな旋律と疾走するデジタルサウンドが巧みに融合した「DISTURBO」、メディアミックスプロジェクト『マガツノート』とのコラボ曲で、武将・秀吉の不遜な生き様を不穏に落とし込んだ「惡鬼招雷」と色の違う、かつクオリティの高いパフォーマンスで客席を沸騰させる。「枠に囚われず、さまざまないジャンルを歌で、曲で表現する」とバンドコンセプトを説明するROYのボーカルも終始パンチの利いたもので、「今日はたくさんの人の心に刺さる曲を用意してきた」と伝えたあとは高速ドラムが牽引するハードな「BAKEMONO carnival」、オーディエンスのクラップが迎える全英詞のグルーヴィーな「DarthHerz」を立て続けに投下。中でも、お立ち台に立ったTEIKAの極低音ベースから、エモーショナルなRio&テクニカルなLeoとタイプの違うツインギターが弾き継ぎ、最後はRYOGAのドラムが弾けるというソロ繋ぎで、一人ひとりの高い力量を存分に見せつけた「DarthHerz」は見応え満点だった。ラストは人気曲「VENOM」で爆発力の高さを証明し、歌詞にもある“まだ見ぬ明日”への輝かしいヴィジョンを体現してみせる。
零[Hz]
零[Hz]
■ZOMBIE
ZOMBIE
続いて、軋む扉の音からゆっくりと幕が開き、真っ赤に染まったステージに微動だにしない"ゾンビ"が浮かび上がってくるという、実にオカルティックなムードの中で現れたのはZOMBIEの4人だ。「楽しみたいヤツは両手を上に!」という奏多(Vo)の煽りと、お立ち台に立った青井ミドリのベースソロから「腐り姫」が始まるや、一斉に客席が踊り出す様は圧巻。続く「気絶ダンシングガール」でもオーディエンスは奏多と共に振りを繰り出して、観る者を瞬く間にZOMIBIEワールドへと引き込んでいく。メロディアスなサウンドにネガティヴなリリックを乗せた楽曲で、楽しむことに特化したステージを作り上げるというギャップこそ彼らの魅力であり、「暴れる曲、踊れる曲、楽しめる曲たくさん持ってきました。新曲です」と贈られた「ウルトラムシケラボーイ」も、タイトルからして自虐の極み。一気に跳ねる客席に「いいじゃん」と奏多。ステージ上を青井ミドリが縦横無尽に走り回れば、izuna(Gt)も大きく身体を振ってオーディエンスと“楽しさ”を共有する。「EX THEATER ROPPONGIに絶望を!」とドロップされたゴリゴリにアグレッシヴな「午前五時、絶望」も拳からヘドバン、両腕を前に出すゾンビ風ダンスのあげくタオルを振りたくるフルコースぶり。自らギターを抱えた奏多が「自分が生きていく上で邪魔するヤツは全員抹殺せよ!」とシャウトする爆速チューン「抹殺せよ!!」を挟み、ラストの「だいっきらい東京」では歌謡風のメロディでヘッドバンギングが巻き起こるという不思議な光景も。「溜まってるもの吐き出そうぜ!」と曲中で奏多が放った言葉の通り、ネガティヴな動機をポジティヴに昇華するという彼らならではのポリシーを魅せつけられた25分だった。
ZOMBIE
ZOMBIE
■D
D
そして予想外のセットリストで独特すぎる世界観を創り上げ、観る者をあっと言わせたのがD。場内に流れる「組曲『狂王』」という低音ボイスから静かに幕が開くと、スポットライトのなか豪奢な革張りの玉座に座り、朗々と「組曲『狂王』第一番 ~灯火(とうか)の雄馬~」を歌い上げるASAGI(Vo)の姿が目に飛び込んでくる。曲がクライマックスに至ると真っ赤な光が舞台を包み、楽器隊が重厚なリズムを奏でたところで、彼が翻したマントを合図に始まったのは「組曲『狂王』第二番 ~死の影を運ぶ鳥~」。以降、D史上初となる組曲全5曲を立て続けに披露し、約20分にわたり彼らにしか為しえない濃密な神話世界を紡ぎ上げていったのだ。ドラマティックなバンドサウンドと鳴り響く男声合唱が荘厳な空気を作り上げる「第二番」に続き、「組曲『狂王』第三番 ~美醜なる不死の獣~」では「頭振れ!」というASAGIの号令で、フロアは一面ヘッドバンギングの海となる。それをコンダクトするかのような彼の滑らかな身振りは、まさしく狂王・ドライツェンのごとし。バンド黎明期からDが一貫して描き続けているヴァンパイアストーリーの中でも、最重要人物の一人と言えるドライツェンの壮絶な物語を描き出す彼らのパフォーマンスに、客席は魅入られるばかりだ。
D
D
「飛ばしていくぞ!」というASAGIの号令で弦楽器隊が左右に展開した「組曲『狂王』第四番 ~黒羊は忠誠の夢を見る~」でも、「さぁ、拳あげてこい!」の言葉に魔法をかけられたかのように腕を振り上げ、HIROKI(Dr)の凄まじいブラストビートや胸掻きむしるようなRUIZAのギターソロ、突然リリカルに展開する劇的な曲構成に、ただ圧倒されるばかり。「組曲『狂王』第五番 ~落陽に哭(な)く蝙蝠~」でお立ち台に立ち、両手を広げるASAGIに手を伸ばすオーディエンスの姿に至っては、まるで神に救いを求める民衆の群れのようにすら映る。破滅へと向かうドライツェンの生き様を語るリリックに、メロディアスな主旋律を奏でるHIDE-ZOU(Gt)、裾を翻してくるくると回るTsunehito(Ba)と、五感総動員で高揚感を高め、最後は跪いたASAGIが《神に背く私は許されはしない》とビブラートを響かせるという息を呑むような幕切れへ。呆然とする中で耳に届いた「どうもありがとう」という彼の艶声に現実へと引き戻されると、満場の拍手のなか幕が閉じられていく。まさにDにしか生み出しえない幻想叙事詩に、心を鷲掴みにされたのは筆者だけではないだろう。
D
The THIRTEEN
Dに負けじと、濃厚な世界観を展開したのがThe THIRTEEN。静から動、ポップからダーク、怒りから哀しみと多彩な引き出しを持つ彼らだが、この日は陰と陽で言うなら“陰”の色が濃いセットリストで勝負に出た。予告もなく幕が開くと、真緒(Vo)の高音ファルセットを皮切りに“苦しみ”“孤独”“自傷”といったワードをドイツ語で散りばめた「アリア-Aria-」が、ヘヴィな高速ビートを伴って激走する。しかし、単に激しいだけではないのが彼らのミソ。パイプオルガンの音色が神秘的に響き、美月(Gt)が艶めかしく舞って衆目の目を引きつければ、ファルセットからクリアボイス、シャウトにスクリーモと凄まじい勢いで声音を切り替える真緒のボーカルがトドメを刺す。讃美歌のような神々しさと欲深い人間の醜い嘆き――その双方を感じさせる空気から一転、「いくぞ東京!」と放たれた「瞳孔」では、凶悪なギタープレイが牽引する歪んだサウンドとキャッチーなメロディに客席から拳が。相反するベクトルを併せ持つのが、どうやら彼らの音楽の特色らしい。ギターとベースの掛け合いから軽快にスタートした「Rapsody in blue」でも、切ないメロディと心地よい疾走感で徐々に高まる感情のうねりが、着実にオーディエンスを巻き込んで、場内を心沸き立つような躍動感で満たしていく。「かかってこい!」と真緒がアジテートしてのギターソロでは美月も前方へと躍り出し、サポートを務めるkazu(Ba)、Ryo(Dr)との息もピッタリ。始動時から共に活動してきた彼らとのアンサンブルは、もはや4人組バンドと言われても全く遜色のないレベルにまで仕上がっている。
The THIRTEEN
The THIRTEEN
その上で特筆すべきが4曲目の「Lament」。アコースティックの物悲しい調べから、美しさと激しさを沸々と煮詰めていくうち、真緒のボーカルからは愛する人への堪えきれないエモーションがあふれ出して、もはや歌の域を越えて魂の叫びへと昇華する。これほどまでに曲世界に没入し、感情を露わにして哀しみを表現できる歌い手はそうはいないだろう。ラストの「memento mori」でもスピード感とメロディ感を両立させながら、ダメ押しとばかり「生きてるか、東京!」と客席にコール。ジャケットから覗く素肌の胸にマイクをドンドンと叩きつけ、息が詰まるほどの高音で《死にたい生きたいじゃない》と歌い上げて究極まで生と死を突き詰める彼の姿と、“memento mori=死を想え”という言葉の裏にある“今を生きろ”というメッセージに、フロアからは次々に腕が突き上がる。ステージ前方ギリギリまで迫り出してコーラスを入れていた美月は、去り際「RAZOR楽しんで帰ってください!」と一言。大トリを務める盟友へとバトンを繋いだのが熱い。
The THIRTEEN
■RAZOR
RAZOR
黒地に白字で“RAZOR”と大きく染め抜かれたバックドロップを背に、クラップが湧き起こる中で「Are you ready?」と猟牙(Vo)が吠えた瞬間、オーディエンスは手を止めて頭を振りたくる。おなじみの「KNOT INVISIBLE」で会場を温めると、「お待たせしました六本木! 皆様のことブッタ斬らせてもらいますんでよろしく!」という宣言から、ほら貝と太鼓の音で幕開けたのは最新曲「存在証明」だ。『マガツノート』に登場する織田信長の生き様を、もはやRAZOR節とも言えるメロディックな旋律と満点の疾走感で描くナンバーは観る者を血沸き肉躍らせ、アドレナリンも大放出。前に進み出た剣&衍龍のギター隊によるスリリングなツインリードでも手に汗握らせるが、ここまでフィクションの物語を自分たちのものとして消化し、ここまで《我が第六天魔王》という歌詞をカッコよくキメられるバンドが果たして他にいるだろうか? 序盤から場内のテンションを頂点まで押し上げて、さらに「LIQUID VAIN」でも日本人の情緒を抉るキャッチーなメロディと激しいバンドサウンドの巧みな共存という“RAZORらしさ”を提示していくのだから容赦ない。ジャケットを投げ捨てて「ほら手上げろ!」と鼓舞する猟牙に応え、手拍子を贈るオーディエンスは剣のギターソロで沸騰。その様を見つめていたIZA(Ba)は歌謡調のサビメロに合わせて激しく頭を振り、NIKKYもバチバチのドラミングを轟かせるという循環は、ライブにおける理想的な相乗効果だろう。一方で「RAZOR舐めんなよ、バカ野郎!」と煽っての「DISRESPECT」では、洋楽色の濃いノリを押し出して「Put your Hands up!」と客席と共にグルーヴ。MCでは前方席に陣取る人々に「戦士の皆さん」と敬意を表しながら、後方に向けて「後ろにいる地蔵! 反応しちゃいけないのか。でも、見えてるよ地蔵たち。どうにかこうにか掟を破って、地蔵のことも揺らせるように頑張ります」と決意表明してくれるのが嬉しい。
RAZOR
猟牙が「ヴィジュアル系Yeah! バンギャルYeah!」と狼煙をあげての後半戦でも、キラーチューン「千年ノ色彩」でいきなりヘドバンをかまし、地蔵に向かって「揺らせ、おら!」と実力行使。ギター隊が掛け合うサビの威力は満場の拳を導くが、それでも足りずに「お前ら寝てんのか? 身も心もズタボロにしませんか!」と投下されたのは「ブルータルモダン」だ。タイトルの通り“ブルータル=凶悪”な衍龍のリフから、猟牙は憎しみに満ちたリリックをマシンガンのようにブッ放し、ヘドバンしながら歌うという高等技能まで披露。その周りでは弦楽器隊が自由に動き、NIKKYもあふれるエモーションのままビートを刻んで、クライマックスへと駆け上がる。
RAZOR
RAZOR
「楽しかったか? 初の試みだったけど“また明日から生きてやろう”という糧になるイベントになったらいいんじゃないかと思います。我々も文句ナシに楽しかったです。ありがとう! いつかデッカい声で飛び跳ねながら歌うために作った曲です」
そんな猟牙の台詞に続いて、最後に贈られたのは5月にリリースされた最新シングル「UNION」。冒頭に流れるコーラスは明らかにオーディエンスが歌うことを想定して作られたもので、その想いを受け取ったオーディエンスは頭から会場を揺らす。《この声が届くのなら悪魔にでも染まってやる》《誰かを憎むのなら ここで叫び散らせよ》――彼らが歌うところの“素晴らしき理解者”へと送られたメッセージに、声の代わりに拳で感謝と賛同を示すフロア。その光景は2階席から見下ろすだけでも胸熱くなるものだった。
RAZOR
RAZOR
より多くの人々にヴィジュアル系の魅力を、そのメッセージを届けるために――。そんな想いのもと新たな試みで始まった『V-IBES MANIA』の意義は、誰もが想像しなかった混沌の時代だからこそ大きいだろう。興味を持ちながら足を踏み入れることに躊躇する人々とシーンを繋ぐ窓口の役割を、本イベントが果たすことを願ってやまない。
取材・文=清水素子
撮影=Anastasia
写真提供=FANTASISTA
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