THE MAD CAPSULE MARKET'Sが
ロックの十分条件を
満たしていたことを証明する
中期の傑作『SPEAK!!!!』

デジタルを注入した先鋭性、革新性

続いて、『SPEAK!!!!』におけるMADのサウンドについて記す。[基本的には前作『カプセル・スープ』を踏襲し、ザ・スターリン調のパンク・ロック色の強い曲にインダストリアルなどのノイズミュージックのようなアレンジが施された曲によって構成されているが、前作に増してその傾向が高まっている]という説明が端的で分かりやすいと思う([]はWikipediaからの引用)。また、その辺を含めて、MADがそののちに『4 PLUGS』という傑作を産み出したこと、MADがシーンに与えた影響などについては、2014年の当コラムで荒金良介さんが仰っておられるのでそちらも是非ご参考いただきたい。
■THE MAD CAPSULE MARKETSが1996年に発表した、国内ラウドシーンを触発、牽引した誉れ高き名盤『4 PLUGS』
https://okmusic.jp/news/45762
こちらに寄るまでもなく、『SPEAK!!!!』はMAD過渡期の作品と言っていいわけだが、むしろ過渡期だからこそ、当時のMADの取り組み方や臨み方の先鋭性、革新性といったものがうかがえるのではなかろうか。上記引用の通り、インダストリアル傾向がより強くなっていることは、これもまたM1「マスメディア」からして明らかだ。同楽曲はフィードバックノイズのような電子音から始まり、それを下地に8ビートのドラムが重なるというイントロである。ボーカル、ギターはもちろんのこと、ドラムもベースもアウトロまでの間、終始、鳴っているわけではないけれども、電子音はずっと鳴り続けている。デジタルノイズを取り込んでいるのではなく、バンドサウンドに融合させている、いや、デジタルに生音を融合させていると言ったほうがよかろう。こうしたサウンドは当時のメジャーシーンにおいてはBUCK-TICKやSOFT BALLET辺りが先駆者であったと記憶しているが、MADもその一役を担っていたと言える(SOFT BALLETに関しては、2015年の当コラムで山本純子さんが『愛と平和』についてお書きになっていらっしゃるので、是非こちらをご参照ください)。
■才気あふれるSOFT BALLETの名盤『愛と平和』
https://okmusic.jp/news/83054
M3「システム・エラー」辺りも無機質なデジタル音を上手くバンドサウンドと融合させたものだが、極め付けはやはりM6「SOLID STATE SURVIVOR」で間違いないだろう。YMOの存在を世界に知らしめたと言っても過言ではない名盤、そのタイトルチューンのカバー曲である。個人的にも、リアルタイムで聴いた時に相当驚いたことをはっきりと覚えている。バンドサウンドにデジタルを取り入れることもまだ新しい手法であった当時。シンセサイザーとコンピュータを駆使した“テクノポップ”を代表するグループの楽曲を、バンドでカバーする。“よくそんなことをよく思い付いたな!”という感心しかなかった。まさにソリッドかつ疾走感のあるアレンジのカッコ良さに痺れたことは事実だが、単にシンセの主旋律をギターに置き換えただけとか、テンポを速くしただけとか、そういうことでなく、YMO並びに原曲に対するリスペクトを失ってないところにもかなり好感を持った。リズミカルに楽曲全体を引っ張る、原曲でも印象的なデジタル音(♪ピョンピョン♪と聴こえるアレ)をMAD版は忘れていない。悪戯にカバーしたのではないことがよく分かる。

また、同曲をカバーするという行為そのものに、MADの心意気も見て取れる。YMOのアルバム『SOLID STATE SURVIVOR』には、The Beatles「DAY TRIPPER」のカバーが収録されていることをご存知の方もいらっしゃるだろう。ポピュラー音楽そのものを変革したと言われる史上最高のロックバンド、The Beatles。1970年代後半からのニューウェイブの流れの中、それまでのロックバンドとは異なる方法でそのThe Beatlesの楽曲をカバーしたYMO。そして、そのYMOをカバーしたMAD。ロックの系譜が連なっている。しかも、重要なのは、YMOにしてもMADにしても、あるいはThe Beatlesにしてもそうなのだろうが、先達の模倣ではなく、独自の解釈を加えたカバーとして、言わばロックミュージックを進化させたと言える。彼らの先鋭性、革新性こそがロックそのものではないかと思う。

OKMusic編集部

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