赤堀雅秋インタビュー~舞台『パラダ
イス』主演の丸山隆平に求めるのは「
いかに生々しい登場人物であるか」

2022年9月25日(日)~10月3日(月)大阪・森ノ宮ピロティホール、10月7日(金)~11月3日(木・祝)東京・Bunkamuraシアターコクーンにて、COCOON PRODUCTION 2022『パラダイス』が上演される。
シアターコクーン初登場となる関ジャニ∞の丸山隆平を主演に迎え、無味乾燥な⽇常を⽣きる男たちの繁栄と没落、焦燥と絶望を描くという今作の作・演出を務めるのは劇作家、演出家、映画監督、俳優として活躍する⾚堀雅秋。シアターコクーンではこれまで14年に『殺風景』、15年に『大逆走』、17年に『世界』、19年に『美しく青く』を手掛けていて、今回が5回目の登場となる。
2020年の5~7月の上演中止を乗り越えて待望の上演となる今作について、赤堀に話を聞いた。
【ストーリー】
舞台は東京、新宿。表層的には豊かに⾒える平和ぼけしたこの街で、 虚無感を抱え、底辺で蠢く⼈間たちの不⽑な戦いと裏切り、つかの間の栄枯盛衰の物語。
巷に蔓延る⾼齢者を狙った詐欺グループのリーダーの男は、ある⽇、懇意にしているヤクザのひとりに呼び出され、組織拡⼤という無理難題をふっかけられる。断ることもできず、グループの腹⼼らと⾔われるがまま⼿を広げていく。
被害にあい、ズタボロにされていく⽼⼈たち、その家族を尻⽬に、彼らは⼀時隆盛を極めるが、やがて暗雲が⽴ち込め……。
鬱屈とした今の世の中をベースに描いていく
――2年前の上演時は、丸山さん演じる高齢者を狙う詐欺グループのリーダーを中心に、東京オリンピックを背景にした物語を描く構想だったとうかがいました。当初考えていたプロットからは変わってくるのでしょうか。
そうですね、そこは今新たにプロットを練り直しているところです。詐欺集団だったり、いわゆるやくざと言われている人たちの争いだったりというところは描きたいと思っています、今のところは。このインタビューが公開になった後で、実際に幕が開いたら全然違うことになっているかもしれないですけど(笑)。
――東京オリンピックは1年延期されて昨年開催されましたが、コロナ禍は現在もまだ終わりが見えてません。4~5月に赤堀雅秋プロデュースで上演された『ケダモノ』は、コロナ禍の今を背景にした作品でした。今作においても、やはり現状を反映させたものになりますか。
それで困っているんですよね。数か月前に上演した新作とどういう差異をつけるのか、今描くべき作品を世の中に提示できるのか、というところが難しいなと。引き続き、鬱屈とした今の世の中をベースに描いていくしかないかなと思ってはいるのですが。
――コロナ禍含め、良くも悪くも世の中の状況があまり変わっていないというか、停滞している感じがしています。
2011年の東日本大震災のときから、自分の中で劇作家として変化するものが確かにあって、それが何なのかと言われるとなかなか言語化できない部分ではあるんですけど。昨年オリンピックがあり、引き続きのコロナ禍があり、と蓄積してきたものが飽和しているような感覚があって、カッコつけた言い方ですけど、人間としてのあり方だったりとか、幸せの在り方だったりとか、豊かさの在り方だったりという問題がコロナ禍で顕著になったのかもしれないですね。そうした鬱積した、うまく自分の中で言語化できないモヤモヤとしたものを表現できたらいいなと思っています。
>(NEXT)問題のなさそうな多数派の人たちの中にこそ闇が潜んでいる
問題のなさそうな多数派の人たちの中にこそ闇が潜んでいる
――今作で詐欺グループを題材に選ばれたのにはどのような思いがあるのでしょうか。
自分が知らないだけかもしれませんが、これだけ昭和の頃と犯罪の形態なんかが著しく変わってきているのは、抽象的な物言いですけど何に幸せを見出すとか、どういう風に営むべきか、といった人間の根底にあるものが行き詰って膿のように出てきているような感覚がありまして、その象徴として詐欺グループを題材にしたら、今という世の中を描きやすいんじゃないかなということですね。
――被害に遭う老人など、高齢化社会といった現状も反映されているのかなと思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
僕らが子どもの頃はわかりやすく経済的にも成長期と言われる時代で、バブル景気などもあって、車とか高級マンションといった物質的なものに夢を抱いて、そこをモチベ―ションに頑張るところがあったと思います。今の世の中は、何をモチベーションに生きて行ったらいいのかっていうことが判然としないというか、すごく心もとない感じで生活している人が多いと思うんです。そういう思いを抱えて刹那的に生きるしかない人、詐欺グループの人間もそうだし、例えば万引きする高齢者が増えていると言われていますが、それも一瞬のスリルを求めたり、何か承認欲求に駆り立てられたりして、犯罪だとわかっていても、そういうことをしないと生きている実感が保てない世の中なのかな、と思うんですよね。
――赤堀さんの作品では、犯罪などの悪とされる部分を描かれることが多いと思うのですが、これは悪人だけの話ではなくて、悪とは縁遠く生きているつもりの自分のすぐ隣にそういうものが潜んでいるかもしれないんだよ、ということに気づかされます。
例えばいわゆる“不良”と言われている人たちは、わかりやすく何かが漏れ出しているじゃないですか。だから意外と対処しやすいような気がするんですけど、逆にそうやって表出できない人たち、一見問題のなさそうないわゆる多数派の人たちの中にこそもっと深刻な闇みたいなものが潜んでいるはずなんですよね。だから作品を作るときには、わかりやすい悪い人たちの何かを見せたいということじゃなくて、まだ表面化していない人たちの内面でうごめいているものをどういうふうに感じさせたいか、ということは考えていますね。
>(NEXT)丸山隆平の印象は?「すごい気遣いの人」
丸山隆平の印象は?「すごい気遣いの人」
――丸山さんとのお仕事は今回が初めてだと思うのですが、何か抱いている印象などあれば教えてください。
すごい気遣いの人で、そこはとても愛おしく感じるところではあるのですが、気づかいし過ぎなんじゃないかと逆に心配になるときがあります(笑)。まだ一緒に仕事はしていませんが、既に一回仕事したんじゃないかというくらい仲良くさせてもらっています。
――今回丸山さんが演じる詐欺グループのリーダーがどんな役になるのかとても楽しみです。
いわゆる“悪人”という風に描くつもりはさらさらなくて、日常で隣にいるような人が実はこんなことしている、みたいな描き方になるような気がしています。だから丸山くんに対しては、彼の内包していないものを求めるのではなく、いかに生々しい登場人物であるかということを追求していくつもりです。でもそれが逆に丸山くんファンからすると、今まで見たことのない丸山隆平になるんじゃないかなというふうに思っています。
――『ケダモノ』を拝見した時に、赤堀さんの若い世代に対する希望や、未来を託したいという思いを強く感じました。
そんなおこがましいものでもないんですけど、演劇の観客層ってどうしても上の年代が多いので、やっぱり若い人に見てもらって、何か感じてもらえたらなという思いはあります。何かを理解してもらうとか啓蒙したいということではなくて、本人が無自覚のうちに種がまかれて、それが5年後10年後に発芽して何かの活力になったら嬉しいなというぐらいのことなんですけど。僕自身も20代の頃に見た映画で、そのときは面白いと思えなかったけれども何か心の中にひっかかっていて、何年も経ってから改めて見たときに初めて「こんなに面白い映画だったんだ」と思った経験が数多くあるんです。だから、一回見て面白かったとかつまらなかったとかではなくて、何かざらついたものが残せるような作品の作り方をしたいなと思ってはいるんですけどね。
――多くの人が鬱屈した空気を感じながら生きている中で、特に若い世代にとっては先が見えない不安が大きいのではないかと思います。
この国で年間三万人も自殺者が出ていて、しかも若年層の自殺率が高いというのは異常なことだと僕は思っていて、なぜそうなってしまっているのかということに対して、劇作家として自分なりに向き合っているつもりではあります。だからって何ができるということでもないんですけど、生のコミュニケーションができる舞台というものを若い人たちに見てもらって、少しでもカタルシスがあったら嬉しいなという思いでいます。とにかく若い人に見に来てもらいたくて、特に今回は丸山くんが主役なので、多分いつもの僕の作品の客層とは違って、あまり演劇を見慣れていない方々も来てくれるんじゃないでしょうか。そういう人たちに何か少しでも感じていただける作品を届けられたら、という思いはあります。
――赤堀さんの作品は明確な答えを提示しているわけではないので、何を感じ取るかを観客にゆだねてくださっているなと感じます。
そうですね、例えば「夢を持ちなさい」とか明確なメッセージ性を帯びてしまうと逆に危険だと僕は思っているので、わかりやすい希望とかはないですけど、それぞれに何か持ち帰っていただけたらと思います。
取材・文=久田絢子 撮影=池上夢貢

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