【7月版】デヴィッド・ボウイの写真
展や岡本太郎展、絵本作家のヨシタケ
シンスケ展が関西にーー美の巨匠たち
による必見の展覧会も紹介

もうすっかり夏真っ盛りの7月。日差しの強さがキツいため、外に出るのもおっくうになってしまうが、関西では素敵な展覧会が開催されている。先日は『ポンペイ展』と『没後50年​鏑木清方展』に足を運んだ筆者。クーラーのきいた家にいるだけでは感じられないリアルな感動をもらってきたのあった。そんなパワーを持つ展覧会を5つ、今月も独断と偏見で吟味して紹介する。
今回紹介する展示会はこちら
・日本初出展作品75点! 『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』
・現代アートの原点とも言える作品がズラリ 『兵庫県立美術館開館20周年 関西の80年代』
・人気絵本作家の頭の中を覗き見 『ヨシタケシンスケかもしれない展』
・音声ガイドは阿部サダヲに決定 『展覧会 岡本太郎』
デヴィッド・ボウイが京都に 『時間~TIME BOWIE✕KYOTO✕SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展』
『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』/神戸市立博物館
『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』
まずは絶対に見逃したくない展覧会をご紹介しよう。神戸市立博物館にて7月16日(土)から9月25日(日)まで行われる、『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』。東京会場を経て、神戸に巡回する。
スコットランド国立美術館は、イギリスの北部の古都エディンバラの中心に位置し、毎年230万人以上が訪れるヨーロッパでも屈指の規模の美術館。中世から現代に至るまでの西洋美術史をカバーしつつ、英国や地元スコットランドの芸術家の作品において、唯一無二のコレクションを形成してきた。
同展では、スコットランドが誇る至宝の中から、ラファエロ、エル・グレコ、ベラスケス、レンブラント、ブーシェ、ルノワールなど、ルネサンス期から19世紀後半までの西洋絵画史を彩る巨匠たちの作品を展示する。
またゲインズバラ、レノルズ、ブレイク、コンスタブル、ターナー、ミレイといったイギリス出身の画家と、レイバーン、ラムジー、ウィルキー、ダイスなど、日本ではなかなか観ることのできないスコットランド出身の代表的な画家の珠玉の作品も多数出品。油彩画、水彩画、素描約90点のうち、なんと75点が日本初出品(1991年以降のスコットランド国立美術館の記録による)。神戸会場の展示は東京とは変わり、プロローグと4つのチャプターから構成される。
プロローグ スコットランド国立美術館
フレデリック・エドウィン・チャーチ「アメリカ側から見たナイアガラの滝」
ヨーロッパで絵画を学び、各地を旅行して大成したアメリカの風景画家、チャーチ。圧倒的で記念碑的な「アメリカ側から見たナイアガラの滝」は、スコットランドのつつましい家庭に生まれ、アメリカに渡って財を成した実業家が、母国スコットランドへの感謝の気持ちを込めてスコットランド国立美術館に寄贈した大作である。
Chapter1 ルネサンス
アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)「幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)」
フィレンツェ、ヴェネツィア、ローマを中心に芸術文化が花開いた、ルネサンス。本章では著名な絵画と素描を通して、この偉大な時代を振り返る。宗教画だけでなく世俗的な作品も描かれ、芸術家に求められた役割の幅広さやパトロンの興味や嗜好の多様性を感じられる。
エル・グレコ「祝福するキリスト(「世界の救い主」)」
19世紀の高名な批評家で画家のジョン・ラスキンが所有していたことから、「ラスキンの聖母」という名で知られるアンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)の「幼児キリストを礼拝する聖母(「ラスキンの聖母」)」や、芸術の国際的な繋がりを表す作品として紹介されるエル・グレコ「祝福するキリスト(「世界の救い主」)」などが展示される。
Chapter2 バロック
ディエゴ・ベラスケス「卵を料理する老婆」
17世紀のヨーロッパでは、革新的な画家たちが従来の世界観を覆そうとした。オランダではレンブラントが聖書や神話の登場人物に深い人間性を与えて共感を誘い、スペインでは20歳前の若きベラスケスが、日常のささやかな題材を偉大な芸術の域にまで高め、かつてないリアリズム絵画を制作した。また、ルーベンスの習作からは、この時代の芸術家らの制作過程を垣間見ることができる。
レンブラント・ファン・レイン「ベッドの中の女性」
17世紀スペインを代表する画家、ディエゴ・ベラスケスが10代の頃に描いた「卵を料理する老婆」は日本初公開。また、レンブラント・ファン・レインの「ベッドの中の女性」は、主題の解釈やモデルが謎に包まれている。レンブラントの巧みな感情表現は必見。
Chapter3 グランド・ツアーの時代
18世紀のパリでは、幻想的な理想郷を描いた絵画が好まれた。フランス・ロココの代表的な画家であるフランソワ・ブーシェによる華々しくも牧歌的な大作「田園の情景」は、この時代のフランス絵画を象徴する作品のひとつ。英国では肖像画が発展し、三大画家と呼ばれるゲインズバラ、レノルズ、ラムジーが活躍した。また、英国のコレクターたちが、美術品の購入や文化的教養を深めるため「グランド・ツアー」と呼ばれる大規模なヨーロッパ旅行をした時代。グアルディによるヴェネツィアの美しい風景画などが、熱心に収集された。
ジョシュア・レノルズ「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」
英国絵画史上最も重要な画家のひとりである、ロイヤル・アカデミー初代会長のジョシュア・レノルズの代表作「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」は、3人の女性が並ぶ構図は「三美神」という伝統的な主題を想起させ、歴史画の様式を取り入れて肖像画の地位を高めようとしたレノルズを象徴する。
Chapter4 19世紀の開拓者たち
フランシス・グラント「アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)」
19世紀は肖像画や風景画などが好まれる一方で、19世紀半ばに活躍した外光派や、その後の印象派、ポスト印象派など、美術界に大きな変革をもたらした時代でもあった。華麗で伝統的な「グランド・マナー」の肖像画、文学や物語をテーマにしたミレイの感傷的な魅力を持つ作品、コンスタブルらによる革新的な風景画などの英国絵画に加え、フランスのコロー、ルノワール、スーラらの印象的な絵画を展示する。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「古来比類なき甘美な瞳」
ヴィクトリア朝の社交界で活躍したスコットランド出身の肖像画家のフランシス・グラントが結婚直前の娘を描いた「アン・エミリー・ソフィア・グラント(“デイジー”・グラント)、ウィリアム・マーカム夫人(1836-1880)」や、ラファエル前派のジョン・エヴァレット・ミレイが子役俳優のベアトリス・バックストンをモデルに描いた「古来比類なき甘美な瞳」など、極上の名品が並ぶ。
ジョン・コンスタブル「デダムの谷」
また、本人が「おそらく私の最高傑作」と評したジョン・コンスタブルの「デダムの谷」の自然表現は必見。
日本初公開の作品の多さ、西洋美術の流れを巨匠の名品を通して感じ、英国美術が育まれた様子を堪能できる貴重な機会。ぜひ足を運んでほしい。
『兵庫県立美術館開館20周年 関西の80年代』/兵庫県立美術館
北辻良央「WORK-RR2」1982年 和歌山県立近代美術館蔵
兵庫県立美術館の開館20周年を記念して8月21日(日)まで行われるのは『関西の80年代』。
1980年代は、バブル景気とポストモダンの華やかな時代。兵庫県立美術館の前身である兵庫県立近代美術館では、かつて「アート・ナウ」というシリーズ展が開催されていた。当時目覚ましい活躍をみせた作家を紹介し、関西アート・シーンの今を伝える名物展覧会として親しまれていた。20代の若い作家が競うように大作を発表し、やがて「関西ニューウェーブ」として注目を集めることになる。
杉山知子「the drift fish」(部分)1984年ギャラリー手での展示風景 作家蔵 撮影:成田弘
同展は「プロローグ 林檎と薔薇」「I フレームを超えて」「II インスタレーション―ニューウェーブの冒険」「III 「私」のリアリティ―イメージ、身体、物語」「IV 「私」の延長に」の5章で構成。今では国内外で活躍する現在作家たちが、大いに悩んで作り上げた若き日の作品を中心に、現代アートの原点とも言える80年代関西の現代美術の変遷を辿る。
吉原英里「M氏の部屋」(部分)1986年番画廊での展示風景 作家蔵 撮影:濱田弘明
田嶋悦子「Hip Island」1987年 2017年西宮市大谷記念美術館での展示風景 岐阜県現代陶芸美術館蔵 撮影:高嶋清俊
現代にまで引き継がれた、心踊る色やイメージにあふれた作品群は関西ならでは。前例にとらわれない個性的な表現からは、困難な今をより良く生きるためのヒントをもらえる。現代アートに詳しくなくても、ポジティブな空気を浴びに行ってみてほしい。
『ヨシタケシンスケかもしれない展』/市立伊丹ミュージアム
『ヨシタケシンスケ展かもしれない』のイメージ (c)Shinsuke Yoshitake
7月15日(金)~8月28日(日)の夏休み期間に市立伊丹ミュージアムで行われるのは、子どもから大人まで人気の絵本作家であるヨシタケシンスケ初の大規模展覧会『ヨシタケシンスケかもしれない展』。
デビュー作『りんごかもしれない』(2013年)以降、老若男女問わず大ブームを巻き起こしている、売れっ子作家だ。子どもは共感しつつ楽しみながら読め、大人は「こんな着眼点があったんだ!」と真理をついた見方に衝撃を与えてされる作品たちは魅力たっぷり。
同展では、ヨシタケシンスケの発想の源である小さなスケッチや絵本原画、同展のために考案した立体物や愛蔵コレクションなど約400点以上を展示、作家の「頭のなか」を覗くことができる。見どころは以下だ。
『つまんない つまんない』白泉社 2017 年 (c)Shinsuke Yoshitake
『つまんない つまんない』原画 (c)Shinsuke Yoshitake
見どころ1「発想の源を探るスケッチ約2,000枚を大公開」
デビュー以前から、手帳に日々描きためてきたスケッチの数々。ヨシタケシンスケの発想の源ともいえる妄想やアイデア、世界の見方がつまっている。同展では、1万枚を超える膨大なスケッチの中から約2,000枚を複製して一挙公開。
見どころ2「絵本の世界を体感できる仕掛けが盛り沢山」
デビュー作『りんごかもしれない』をはじめ、『つまんない つまんない』、『なつみはなんにでもなれる』など約20作の絵本から、原画や構想段階のアイデアスケッチなどを多数紹介。本人のアイデアから生まれた、作品の世界に入り込んだような体験型の展示もあるため、大人も子どもも体と心を動かして楽しめる。
見どころ3「出品数400点以上! ヨシタケシンスケの謎を解き明かそう」
以前からイラストレーターや造形作家として活躍してきた経歴を持つヨシタケシンスケ。学生時代の立体作品やアトリエに保管されていた貴重な私物コレクションから、独自の発想やインスピレーションの源を探る。
カブリモノシリーズ「ACcess100」 撮影:三橋純 (c)Shinsuke Yoshitake

また、公式図録『こっちだったかもしれない』には、描き下ろしコンテンツを豊富に収録。絵本のためのラフやアイデア、原画をはじめ、展覧会のために描いた未公開スケッチなどを1,000点以上収録。さらに、展覧会オリジナルグッズを自ら考案したスケッチ、展覧会の裏話を含むインタビュー、専門家による絵本論も収録され、ファンにはたまらない内容となっている。しかもグラフィックデザインを手がけたのは、映画界で大人気のデザイナーの大島依提亜。世界観を閉じ込めることに長けた大島の装丁も必見だ。もちろん、ヨシタケ自ら考案したオリジナルグッズも会場で販売される。ぜひ家族で出かけたい。
『展覧会 岡本太郎』/大阪中之島美術館
(c)岡本太郎記念現代芸術振興財団
言わずと知れた日本の芸術家、岡本太郎。その芸術人生を振り返る大回顧展が、7月23日(土)から10月2日(日)まで大阪中之島美術館にて開催される。
1929年に18歳でフランスに渡った岡本太郎は、抽象表現に影響を受けながら画家としてのアイデンティティを確立。帰国後、自らの芸術理念の核となる「対極主義」を提唱し、制作のみならず『今日の芸術』、『日本の伝統』などの著作において文化や芸術論を展開した。
岡本太郎 「傷ましき腕」 1936/49年 川崎市岡本太郎美術館蔵 (c)岡本太郎記念現代芸術振興財団
同展では、岡本のパリ時代から『大阪万博』の「太陽の塔」を経て、1996年にこの世を去るまで孤独に続けたダイナミックな芸術活動を、「第1章 “岡本太郎”誕生ーパリ時代ー」、「第2章 創造の孤独ー日本の文化を挑発するー」、「第3章 人間の根源ー呪力の魅惑ー」、「第4章 大衆の中の芸術」、「第5章 ふたつの太陽ー《太陽の塔》と《明日の神話》ー」「第6章 黒い眼の深淵ーつき抜けた孤独ー」の6章で網羅する。
岡本太郎「夜」 1947年 川崎市岡本太郎美術館蔵 (c)岡本太郎記念現代芸術振興財団
見どころ1.最初期から晩年までの代表作・重要作を綱羅
岡本作品のほぼ全てを所蔵する川崎市岡本太郎美術館と岡本太郎記念館が主催者として参画。両館の全面協力のもと、主要な代表作、重要作が勢揃いするほか、国内各地の美術館からの出品作品を加え、岡本芸術の全容に迫る。
見どころ2.最大規模のスケールで大阪、東京、愛知を巡回
大阪と愛知では初めての回顧展実現の機会となるだけでなく、没後開催された回顧展の中で最大規模といえるスケールの大回顧展。
見どころ3.岡本芸術と人間・岡本太郎を体感
いまなお人々を惹きつけ、世代を超えて共感を広げる岡本太郎。岡本芸術の特質と本質、さらにはその底流にある人間、岡本太郎を、展覧会場の空間体験を通して一人ひとりが感知する体感型の展覧会である。
岡本太郎「愛撫」 1964年 川崎市岡本太郎美術館蔵 (c)岡本太郎記念現代芸術振興財団
岡本太郎「犬の植木鉢」 1955年 川崎市岡本太郎美術館蔵 (c)岡本太郎記念現代芸術振興財団
また、初期の作品「露店」(1937/49年、ソロモン・R・グッゲンハイム美術館蔵)が、グッケンハイム美術館から里帰りを果たす。1930年代のパリ在住時の作品は戦災により焼失してしまったため、今回は約40年ぶりに日本に帰ってくる「露店」、「空間」、「傷ましき腕」、「コントルポアン」といった、現存する初期作品全4点をまとめて鑑賞できる貴重な機会。さらに、音声ガイドのナビゲーターは俳優の阿部サダヲに決定した。代表作はもちろん、これまであまり注目されてこなかった岡本の晩年の作品なども紹介しながら生涯を辿り、彼の全貌を知ることができる大規模展覧会。ファンならずとも必見だ。
岡本太郎「明日の神話」 1968年 川崎市岡本太郎美術館蔵 (c)岡本太郎記念現代芸術振興財団
『時間~TIME BOWIE✕KYOTO✕SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展』/美術館「えき」KYOTO
時間~ TIME BOWIE × KYOTO × SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展
美術館「えき」KYOTOで7月24日(日)まで開催中なのは、『時間~TIME BOWIE✕KYOTO✕SUKITA リターンズ 鋤田正義写真展』。
実は2021年4月に同会場で同タイトルの写真展が開催されたが、新型コロナウイルス感染拡大により会期途中で中止せざるを得なくなってしまった。その後寄せられたアンコールの声と、2022年がデヴィッド・ボウイ生誕75年、名盤『ジギー・スターダスト』誕生50年でもあることから、「リターンズ」として再び開催されることとなった。
(c)sukita
1972年のロンドンで、世界的ミュージシャンのデヴィッド。ボウイと出会った写真家の鋤田正義。写真を通した二人の交流は、ボウイがこの世を去った2016年までの40数年間に及ぶ。同展は、1980年3月29日に京都に滞在していたボウイを鋤田が撮影したプライベートショットと、鋤田が2019年から3回にわたりボウイとの足跡をたどりながら京都を撮影した作品のコラボレーションで構成された写真展。
(c)sukita
出展数は約200点で、前回から追加、変更された作品もある。展示は「1980年3月29日、京都で撮影したボウイ」、「2020~2021年に京都で撮りおろした作品」、「その他、ボウイとの仕事など」の3セクションで構成されており、今回は『ジギー・スターダスト』関連の作品も展示されている。岸健太がデザインした会場の雰囲気は、京都の路地を歩いているようで、どっぷりと時空の旅に浸ることができる。また土曜日の17:00〜18:30は「Saturday Music Time」と題し、立川直樹のセットリストでボウイの曲(10曲)を聴きながら鑑賞できる。
(c)Mark Higashino
大の親日家であり、京都を愛するボウイに誘われ、ただ街を歩き、人と出会い、たわいもない時間を共有した二人。信頼関係のある2人だからこそ見せるボウイの表情や佇まい、そして京都の街の風情を感じてみよう。
他にもSPICEではこの夏に続々と開催する展覧会をレポートやニュースで追っていくので、是非楽しみにしていてほしい。
文=ERI KUBOTA
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