黒木渚「諦めないことが黒木渚の使命
なんだと思う」 デビュー前からのフ
ァンとの約束でもあるロマンを語った
“100周年”記念ワンマン

黒木渚 ONEMAN LIVE 2022「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる」〜100周年記念ワンマン〜

2022.7.8 東京国際フォーラム ホールC
今年デビュー10周年を迎えた黒木渚。4月にはベストアルバム『予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる』を発表し、6月にはアルバムと同名の小説を上梓。ベスト盤と青春小説という、どちらもキャリア初の作品を持って、7月8日に東京国際フォーラム ホールCにて、7月10日に福岡・DRUM LOGOSにて、『黒木渚 ONEMAN LIVE 2022「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる」〜100周年記念ワンマン〜』を開催した。このレポートは東京公演についてまとめたものだ。
ライブタイトルに“100周年”と入っているが、もちろん誤字ではない。今回のライブにおいて重要なコンセプトだ。しかし、なぜ100周年なのか。その理由をMCで黒木が説明していた。
以前より、尊敬している人物から「天国にお金は持っていけない」と言われていたという黒木。それは、自分が感じている価値をしっかりと理解して、生きている時間を楽しみなさいという意味だと理解していたのだが、デビュー10周年を迎えたとき、いま彼女がこの世で最も価値を感じている「黒木渚のファン」は、天国に持っていくことができないことに気付いてしまった。普段はそういった感覚にはあまりならないのに、そのとき、無性に寂しくなってしまったという。
黒木渚
黒木「この会場を、このままモロゾフの缶々にぎゅうぎゅうに詰め込んで、みんなを生き埋めにできたらいいのになんて(苦笑)、すごく自分勝手なことを考えてしまいました。それはできないから、私はステージにタイムカプセルを作ることにしました。美しい光と、心の篭った音と、みんなの想像力があれば、時空なんて簡単に飛び越えられると思っているので、今日は100年先も色褪せない一晩を作る気持ちでよろしくお願いします」
定刻を少し過ぎた頃、場内にSF映画に出てきそうな警報音が鳴り響いた。赤と青の照明がぐるぐると回り始めると、ゆっくりと客席の電気が落ちていく。すると、その警報音をリズムに、儚げなピアノの音色が流れ始め、ロボットの声が聞こえてきた。「ただいまより、故 黒木渚100周年記念式典を執り行います。御参列の皆様、ご来賓の皆様は、肉体の復元、意識の同期をお願いいたします。一同、覚醒──」。

黒木渚

黒木渚
続けて、黒木の声が聞こえる。「誰にも話したことがないけれど、私は光と共に生きてきた」「私は光の正体も、その意味も分からぬまま成長した」。そんな語りの後、黒木は未発表曲「どん底から愛を込めて」をアカペラで披露。白いドレスをまとい、スポットライトを浴びながら、のびやかな歌声を響かせる彼女の姿を、会場全体が息を呑んで見つめていると、突然「君が私をダメにする」のイントロが力強く弾けた。「みなさんこんばんは! 黒木渚です!」と快活な声で叫んだ彼女は、ステージに置かれていた白い演説台を前に、井手上誠、宮川トモユキ、柏倉隆史、多畠幸良といったお馴染みのバンドメンバー達とパワフルに歌を届けると、ノンストップで「ふざけんな世界、ふざけろよ」へ。「ここで会ったが100年目! この先の1秒間だけで構いません。黒木渚をあなたの本命にしてください、どうぞよろしく!」とお馴染みの口上も飛び出した。黒木は真っ白な光に包まれながら、オーディエンスと一緒に拳をあげたり、ステージ上をくるくると回ったり、演説台に寄りかかったりと、満面の笑みを浮かべながらこの瞬間を楽しんでいる。そのまま「大予言」に繋げると、場内は序盤にも関わらず、圧倒的な幸福感とポジティブな空気で満ち満ちていた。
黒木渚
演説台を横に倒したその上で、「檸檬の棘」を伸びやかに歌いあげると、そのアウトロから途切れなく未発表曲の「ポニーテール」が始まったのだが、ここで会場の空気が一変。サイケデリックな照明と、ボコーダーを通した機械的な歌声と、黒木の肉声が入り混じった静謐なサウンドからこぼれ落ちてくる孤独が、客席を一気に侵食していく。続けて披露されたのは、美しくも儚いアンビエントR&B風にアレンジされた「灯台」。スポットライトが水平に回り、まさに灯台が真っ暗な海を照らす光のように見える。黒木は台の上で横たわりながら、いまにも消え入りそうな声で歌うと、スポットライトが生み出した一縷の光の中で歌い始めたのは「さかさまの雨」。ぐちゃぐちゃな感情を表すかのように、静と動を行き来する激情的な演奏が繰り広げられた。
黒木渚
その勢いを増幅させるように始まった「原点怪奇」は、明滅を繰り返す暗い赤と緑の光が、凄まじい勢いで突き進むバンドサウンドが放つ妖しさを極限まで高めていくと、休むことなく「ダ・カーポ」へ。楽器隊が獰猛なアンサンブルを繰り広げる中、黒木は複雑なキメに合わせて頭を振り乱す。シリアスな空気が立ちこめる中聞こえてきたのは、不気味な響きのクワイアコーラスと、黒木の語り。「あれ(光)を手に入れるためなら、私、なんだってやってきた」。黒木の白いドレスに照射された赤黒いもやのような光は、まるで胸の奥底に秘めた感情を炙り出すかのよう。そこからなだれ込んだ「火の鳥」で、轟々と燃え盛る炎のような照明がステージを包み込む中、黒木は衣装を着替えて不死鳥のごとく生まれ変わるという、凄まじい緩急をつけた息つく暇もない展開に、とにかく圧倒させられた。また、この日のライブコンセプトの中に「美しい光」と「心の篭った音」という話があったが、まさにこの2つが要になっていて、楽曲に込められた感情を引き上げていく美麗なライティングも、どれだけ轟音が渦巻く場面であろうと、全楽器の音がはっきりと聴き取れる外音も、とにかく素晴らしかった。
そんな怒涛の展開がひと段落した後のMCで、キーボードが柔らかな旋律を奏で始めると、「これはいいことを話さないといけないやつだね(笑)」と黒木。そして、ライブ冒頭の語りにあった「光と共に生きてきた」というのは、彼女の実体験であることを話し始めた。
黒木渚
黒木が最初にその光を認識したのは、3、4歳の頃。大人たちから将来の夢を尋ねられたとき、大人が喜びそうな職業を答えていたが、なぜかいつも「まぶしい」という感覚があったそうだ。それがあまりにも当たり前のことだったので、自分ではそれが不思議なことだと思ってもいなかったそうなのだが、黒木渚としてデビューした後、2014年、渋谷公会堂のステージで「革命」を歌っているときに、「小さい頃に見ていたあの光は、スポットライトだったんだ」と、唐突に悟る。そこから黒木は、ありとあらゆるものを犠牲にしながら、その眩しく輝く光を追いかけた。しかしある日、その光が目の前から消えてしまっていることに気付く。「2017年ぐらい」のことだった。
黒木渚は、2016年8月に咽頭ジストニア治療のため、音楽活動を休止している。そこから小説家としての活動を本格的にスタートさせ、翌2017年9月には音楽活動を再開しているのだが、その後も思うように回復せず、音楽家としてはあまりにもつらく、苦しい時期を過ごしていた。何度もあの光を取り返そうと様々なイメージを必死で思い浮かべたが、いつまで経ってもその光は戻ってこなった。音楽家として「終わった」と思いながら過ごしていた日々は、きっと想像を絶するほどの地獄で、筆舌に尽くしがたい。しかし、そんな日々の中で、ある気付きがあったという。
黒木「たぶん、強い逆光で目がやられてたのかな。暗いところに目が慣れたら、みんなの姿が逆にはっきり見えてきて。私が光の中に立っていなくても、一人ひとりがきちんと私のことを見てくれているんだということに気付きました。光なんかなくてもいい。新しい目標を見つけて、私はまたステージに戻ることができました。でも、おかしな話なんだけど、ステージに戻ってきたら、『檸檬の棘』のツアー(2020年開催)で、さらに巨大になった光が戻ってきたんです。その現象に名前もないし、意味もわかっていないけど、きっとあの光は、みんなが取り戻してくれたということに私の中ではしています。本当に、光を取り返してくれてありがとう」
黒木渚
そして、「これまでの10年と、これからの10年を込めて歌います」と、届けられたのは「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる」。まさに予測できない濁流のような10年を過ごしてきた黒木渚。力強く跳ね上がるバンドサウンドを背中に受け、取り戻した大きな光と、目の前で輝くたくさんの光たちに向けてギターをかき鳴らしながら力強く歌うと、「この先、何度も濁流がやってきても、それを乗りこなして私達は出会おう! そしたらもう一度、ひとつの音楽になろう!」と叫び、そのまま「革命」へ。ここからはメドレー形式で、まさに濁流のような勢いで曲が繋げられていった。「どんどん濁流がくるよ!」とクラップを求めながら、そのままテンポを上げて繋いだのは「虎視眈々と淡々と」。客席からシンガロングが起こるパートは、感染対策で歌えないために「念じて!」と激を飛ばす。そこからリズムが躍動的になる「カルデラ」の後半部分を繰り広げると、フィードバックノイズが響き渡る中、「私の心臓が止まっても、どうか、私の音楽だけは鳴り続いていますように」と、彼女のデビュー曲である「あたしの心臓あげる」になだれ込んでいった。ときに叫ぶように歌い、演説台の上でギターをかき鳴らす黒木。凄まじい轟音に包み込まれる中、スポットライトを浴びながらギターを高く掲げるラストシーンは、ただひたすらにかっこよかった。
黒木渚
アンコールを求める会場の手拍子が鳴り響く場内に、再び警報のような音が響くと、小走りで戻ってきた黒木は、「黒木渚の世界線の19番目からやってきました、素粒子アイドル・銀河ワプミです!」と挨拶し、「V.I.P.」を披露。この曲は、黒木がシンガーソングライターのこゑだに書き下ろした初の楽曲提供曲のセルフカバー。それもあって、これまでの空気とはまったく違う、アップテンポで超が付くほどポップでキュートに弾けまくるサウンドが印象的で、黒木はアイドル風の振付を踊りながら歌い、間奏ではバンドメンバーもダンスに参加。なんともハッピーな空間になっていた。曲を終えると、最後に披露する曲に合わせて“ロマン”をテーマに、メンバー紹介を含めたMCコーナーへ。2014年にソロになってから、メンツがほぼ固定されているのもあり、黒木自身「バンドという感じでやっているし、ソロシンガーという分類ではあるけど、自分のことはバンドマンだと思い続けている」とのこと。そんなメンバー達による和やかな会話の後、ラストナンバーとして、「ロマン」を届ける。いつまでも途切れることのない夢であり、ロマンを抱えながら生きていくことを噛み締めるように歌い上げた。
黒木渚
バンドメンバーとのトークの後、黒木も自身の“ロマン”について客席に語りかけていたのだが、それは黒木渚としてのこれまでを振り返りながら、これから先のことについての話でもあった。そのエピソードでこのレポートを締めたいと思う。
ギター1本と、赤いドレス1着と、大量の本を持って上京し、家賃4万5千円の極小アパートに住んでいた黒木。その頃からずっと変わっていないロマンは、「武道館に立つこと」だ。それはデビューする前からファンと約束してきたことであり、「武道館にみんなと一緒に行く」というロマンを実現するために、ここまで活動を続けてきた。あれから10年。様々なものを犠牲にしながら活動を続けてきたが、まだそのロマンはえられていない。
黒木渚
黒木「だけど、私はみんなの感性を証明するためにも武道館に立ちたいし、諦めないことが黒木渚の使命なんだと思う。悪あがきして、最後まで諦めない。どれだけバカみたいと言われても、商品的な価値が私になくなったとしても、私は絶対に諦めない。みんなで行きたい。できれば生きているうちに(笑)。100年なんて待ってられないから。私の人生でこんなに多くの人を愛せるとは思いませんでした。この人たちを絶対に連れていくぞと、10年前と変わらず、いや、より強く思っています。ロマンで終わらせない。これからもどうぞ、100年先も応援するつもりで、黒木渚を本命にしてください」
黒木渚

文=山口哲生 撮影=かわどう

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