INTERVIEW / TOKA Songwriting Camp
小袋成彬が音楽業界で感じてきた違
和感や疑問に対するひとつの答え。『
TOKA Songwriting Camp』始動の背景
に迫る

株式会社TOKA(旧:株式会社Tokyo Recordings)と株式会社フジパシフィックミュージックが今年も『TOKA Songwriting Camp』を開催した。
昨年初開催された同企画は、東京都内の音楽スタジオにアーティストやプロデューサーおよそ20組が集結し、様々な組み合わせでコライトを実施。これまでに6組の作品が発表されている。
DTMの発達/普及に伴い、ここ15年ほどで劇的な変化を迎えた音楽制作の環境。このコライト・キャンプにはすでに欧米を中心とするグローバルなポップ・ミュージックの現場では当たり前になっているコライトという文化を持ち込むだけでなく、自身もアーティストとして日本と海外分け隔てない活動を展開するTOKAの小袋成彬が感じてきた違和感や疑問を解消せんとする大きな動機があったという。
今回は企画の中枢を担うTOKAの小袋成彬と株式会社フジパシフィックミュージックの笠翔馬氏にインタビューを敢行。その背景や狙いについて語ってもらった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Tamami Yanase(https://www.yanasetamami.com/)
小袋成彬が海外のコライトで受けた衝撃
――『TOKA Songwriting Camp』という企画アイディアはどのようにして生まれたのでしょうか。
小袋:アイディアは僕ら(TOKA)からですね。僕もYaffleも海外でのコライト・キャンプに参加していて、そこでは日本では感じられないようなヴァイブスやスピード感を体験することができたんです。お互いのアイディアを出し合って、メロディを作る人、歌詞を書く人、トラックを組み立てる人といったように分業制で作り上げていく。こういった制作方法をどうにか日本に持ち込めないかなと考え始めたのがスタートですね。
――実際に海外でコライト・キャンプに参加して、小袋さんはどのようなことを感じましたか?
小袋:数年前にイギリスでとあるバンドのコライト・キャンプに顔を出したのが初めての体験でした。スタジオには他にもLAなどから数名のプロデューサーが来ていて、あと歌の上手いシンガーもひとりいて。誰かが自然とギターをポロンと弾き始めたと思ったら、また誰かがメロディを何となく乗せ始めて、「え? こんな感じで曲を作るの?」って衝撃を受けました。バンド・メンバーは一番最後に来て、ちょっとレコーディングして帰る、みたいな(笑)。当時はそのラフさに驚きました。
――そういった体験を日本にも持ち込むべく、フジパシフィックさんにお声がけしたと。
小袋:そうですね。フジパさんには〈TOKA〉を立ち上げる前からお世話になっていましたし、実際に音楽を作るクリエイティブ・カンパニーの我々と、音楽出版社のフジパさんで何かおもしろいことができないかなと。
笠:フジパシフィックとしてもコロナ禍になる前から海外作家をお招きしてコライト・キャンプを開いていたのですが、そんなタイミングで小袋さんたちからお話を頂いて。当時は海外からの入国が厳しい状況だったので、日本在住のクリエイターだけでコライト・キャンプを開催してみてはどうかと。そういった話し合いから、このプロジェクトが動き始めました。
――笠さんは普段、フジパシフィックの中でどのような業務を担当されているのでしょうか。
笠:私はYaffleのマネージメントに加え、海外作家のピッチング、コライトのコーディネイトなどを担当しています。例えば、日本のメジャー・レーベルの方から「こういう曲が欲しい」というご相談を頂いた場合は、我々が持っている海外作家のコネクションを駆使して、その要望に沿うような楽曲を集めてプレゼンしたり。また、日本のアーティストさんから「海外で曲を作りたい」といったご相談を受けた場合は、実際に向こうでクリエイター、スタジオなどを手配します。
弊社は昔から海外楽曲の著作権を扱っていることもあり、出版社の中でも海外とのコネクションが特に強い会社だと言えると思います。会長の名前も世界で広く知られていて、海外出張に行くと「Ichi(*)の会社だろ」って言ってもらえて、コミュニケーションが円滑に進むことも多いですね。
*株式会社フジパシフィックミュージック代表取締役会長・朝妻一郎
小袋:笠くんは実際に海外で働いていたこともあるんだよね?
笠:はい。2019年にLAの音楽出版社に1年だけ勤めていたので、向こうのコライトの文化や空気感もある程度体感できました。日本だとシングルやアルバムのリリースなど、プロジェクトが決まってから曲を作っていくというパターンが多いと思うのですが、海外ではとりあえず曲を作ってみて、その後にプロジェクトが動き始めるということが多いです。なので、単純にとんでもない量の曲数が作られています。
小袋:もちろん作るだけじゃなくて、その買い手もいて、そして売るマーケットもある。欧米では音楽産業全体が活気溢れているというか、すごく健全に回っているなと感じました。それが羨ましくて、『TOKA Songwriting Camp』を始めたというのもあります。
「文化は変わったのに、システムは残っている」――両者が指摘する問題点
――実際にコライト・キャンプ企画が動き始めてから、準備段階ではどのような話し合いが行われましたか?
小袋:まずはコンセプトを固める必要があるなと考えました。海外のコライト・キャンプではヒット曲を求めている場合がほとんどで、それがスピード感にも繋がる一方で、似たような曲ばかりできてしまうというデメリットもあると思います。ただ、〈TOKA〉としては単純にヒット曲を生み出したいというわけではなくて、どちらかというと新しいサウンドやエッジの効いた作品、何年、何十年後にも愛されているような曲を作ることを掲げていて。『TOKA Songwriting Camp』の特殊な部分はそこかなと思います。なので、ビッグネームというよりかはアップカミングというか、これからシーンで頭角を現しそうな方を中心にお声がけしました。表を作って、「この人とこの人が組んだらおもしろそう」という感じで、フジパさんと話し合いを重ねていきました。
あと、完成した楽曲のプロモーションについても関係者含め事前に話していたのですが、曲ができないことには見えないことが多すぎるので、「とりあえずやってみよう」というマインドで開催しましたね。
――去年は3日間にわたっての開催だったそうですが、期間中はいかがでしたか?
小袋:シンプルに楽しかったですね。コロナ禍であまり人と会えてなかったので、こういう機会を設けてくれて嬉しいって言ってもらえました。コライトに関しては未経験の方も多かったので、上手くいったところもあれば筆が進まずハマらなかったところもあるし、曲はできたけどリリースには至らなかったケースもあります。ただ、やっぱり各組1日だけでは時間が足りないということは強く感じたので、それを改善するべく今年は2日間にわたってセッションを行う組も作りました。
笠:ボツになってしまうケースも、決して失敗とは捉えていなくて。そこで新たな刺激を得られたでしょうし、自分に何が合って、合わないかがわかったりもする。海外のコライトでもポシャるのが当たり前で、実際にリリースされている作品に対して、ボツ曲は何百倍、何千倍にも上ると思います。
小袋:我々の場合は現段階で12組中4組(※インタビュー実施時点)の作品が世に出ているので、打率はかなりいいですよね。イチローでも3割なんだから(笑)。
――(笑)。
笠:まだこれからリリースが計画されている作品もありますし。あと、DaokoさんとYohji Igarashiさんの場合は「escape」という1曲で手応えを感じて、EP制作にまで至って。我々としてもとても嬉しく思います。
小袋:あっこゴリラちゃんも去年のコライト・キャンプで組んだNobuaki Tanakaくんとお互いに練馬出身ということもあって意気投合して、先日リリースされたミニ・アルバム『マグマ I』でも彼と楽曲制作しているみたいです。この企画の根本にある考え方はカルチャーに対する投資であって、コライト・キャンプをきっかけに新しい何かが生まれることはとても喜ばしいことです。
――スタジオでの実際の工程は、それぞれバラバラですか?
小袋:基本的にはお任せしているので、僕も自分が参加したところ以外は把握していません。ただ、共通して行うのは、最初の挨拶と契約をきっちり交わすということ。これがすごく大事なんです。
例えば3人でコライトする場合、権利/利益は3等分しましょうという当たり前の契約なんですけど、これが日本だと当たり前じゃなくて。日本で邦楽の著作権を登録する場合、「作詞」「作曲」などを分けて登録する必要があります。その場合、例えばトラックメイカーはアレンジャー扱いとなって、著作権契約上では権利を全然もらえない場合もあります。それっておかしくないですか? 誰でもPCで音楽が作れるようになって、たくさんの音楽家がひとつの楽曲に関わっている今の時代、そんなシンプルに詞と曲を分けられないと思います。僕みたいに作詞しながらメロディを書く人が75%もらえて、トラックを作った人は25%しかもらえなかったり。全ての楽器のアレンジや構成も考えているのに25%ですよ?
――確かにそれはフェアじゃないですよね。
小袋:なんでこうなっているのかというと、昔は楽譜を書ける人が少なかったので、それを担当する人が「作曲」で、そこに歌詞を乗っける人が「作詞」になって、その2つに重きが置かれていた。ただ、そこから何十年も経って、文化は大きく変わったのに、システムはそのまま残っている。これは音楽以外のあらゆる部分でも言える日本のダメなところだと思います。
――今のお話について、音楽出版社としての立場から笠さんはどう考えていますか?
笠:小袋さんのおっしゃる通りだと思います。一概に良い/悪いと言える話ではないので、色々なやり方があることを知った上で従来の契約形態を選ぶのはいいと思うのですが、そもそもこういった海外でのスタンダードを知らないということが大きな問題点だと感じます。昭和の時代に決まった慣習に対して、疑問を持たずにそのまま従っているというか。
アレンジャーも含めて等分する契約だと、もちろん従来の契約形態と比べた場合、取り分が減る人もいます。それも承知の上で、今回の『TOKA Songwriting Camp』に若いクリエイターが参加してくれるというのはとても意義深いことだと思います。このやり方がすぐに日本の音楽業界に普及するかというと、まだまだ時間は掛かりそうだなと感じますが、少しずつでもアクションを起こしていかないといつまで経っても変わらないですし。この取り組みがいいきっかけになれば嬉しいですね。
「新しい価値観や考え方、世界を提示するのがアーティストの仕事」
――今年の開催についてもお伺いしたいです。参加クリエイターの人選は昨年と同じような形で?
小袋:基本的には同じですね。加えて、弾き語りを軸としたスタイルなどはコライトという手法と相性があまりよくないのと、海外にも進出していけそうなサウンドっていう部分を考えていくうちに、昨年よりもダンス・ミュージックやヒップホップ寄りなラインナップになりました。今年の頭くらいからオンライン・ミーティングを重ねて、みんなで作品を聴きながらお声掛けするアーティストとその組み合わせを考えていって。
――昨年同様のコライトに加えて、今年は海外作家による楽曲デモを日本のアーティストへ届ける新たな試み『Demo Pitch Day』も実施されるそうですね。この企画の内容や狙いを教えて下さい。
小袋:海外の作家さんから楽曲を提供してもらうのって、これまでは本当に一部の数字を持っている人たちしかできなかったと思うんです。でも、本来はもっと気軽にできるんだっていうことを知ってほしいし、実際にやってほしいなと思って。
笠:具体的には海外の出版社や、私が現地で繋がったインディペンデントで活動する作家などからデモを集めまして、それをみなさんに聴いてもらおうと考えています。
小袋:デモ音源はアーティストじゃなくて、マネージメントやレーベルのA&Rの方に聴いてもらいます。曲を聴いて手を挙げてくれれば我々がお繋ぎして、リリースにまで辿り着けばいいなと。
笠:実際にリリースまでのプロセスやその後の展開までを考える立場である方に聴いてもらう方が、その次のアクションに進む可能性が高いんじゃないかと考えて、今回はターゲットをマネージメントやレーベルのA&Rの方にしました。ただ曲を聴いてもらうだけでなく、リリースする場合は契約などのお手伝いもします。
小袋:コライト・キャンプに限らず、海外の作家と一緒に曲作りしたい人は絶対フジパさんに連絡した方がいいですよ。このインタビュー記事に問い合わせフォーム張っておいて欲しいくらい(笑)。
笠:ぜひ、ご相談ください(笑)。海外アレルギーではないですけど、ハードルが高いというイメージを払拭できればなと思います。
――それこそラップ・ミュージックの世界ではここ日本でも海外プロデューサーからトラックをもらうことも当たり前になっていますし。
笠:そうですね。ただ、シンプルに買い取りで終わっていたり、契約が曖昧なままで、トラブルになったという話もお聞きします。我々の場合はそういったことがないよう、権利関係はきっちりとした上でお繋ぎします。
小袋:そうそう。海外作家と作った曲だと権利関係でややこしいことがいっぱいあるんですよ。
笠:海外作家が参加した曲をJASRACに登録するときに、邦楽でもなく洋楽でもなく、邦洋混在曲という形式になるんです。海外作家が書いた部分は海外の著作権ルールになるので、これを嫌がる会社さん、スタッフさんは多いですね。
小袋:ルールや慣習が全然違くて。例えば、僕は大嫌いなんですけど(笑)、CMのタイアップってあるじゃないですか。あれってアーティストに1円も入らないんですよ。昔はテレビで流れればレコードやCDがバカスカ売れたからこういう構図が生まれたんだと思うんですけど、それが2022年の今もまかり通っている。ただ、海外のミュージシャンが絡んだ楽曲をタイアップで使おうとすると、作家/アーティストとしての権利を放棄しているわけだから当然拒否される。
笠:グローバル・スタンダードな考え方として、そういった部分の権利放棄は基本理解してもらえません。今はメディア・プラットフォームも増えていて、露出することに対しての価値も分散していますし、それぞれに適した対価をお支払いしないと健全とは言えないですよね。
小袋:自分たちを安売りせずに数万円でも数百万円でもいいから、自分たちの価値は自分たちで決めるべきだと思います。さっきの著作権の話もそうですけど、こういった部分を少しずつ整備していって、次の世代が動きやすいようにしたいんです。僕も10年音楽業界にいて、みんな「日本の音楽業界は変わらない」ってボヤいてるけど、具体的なアクションを起こしている人は見たことがない。僕の場合はその答えのひとつがコライト・キャンプだったんですよね。コライトの楽しさを伝えたいだけじゃなくて、グローバル・スタンダードな音楽ビジネスの在り方を元に、次の世代へ向けて整備していきたい。これまで納得がいってなかったことを変えるきっかけにしたい。
――そういった業界に一石を投じる、新たな風をもたらすような施策は、フジパシフィックさんにとってはどのようなメリットや意義があることだと考えますか?
笠:フジパシフィックミュージックとしては様々な部署があるので、私が代表して言えることではないのですが、個人的にはこれまで一緒にお仕事したくても、今お話した旧来のシステムに阻まれて実現できなかったということが何度もありました。なので、グローバル・スタンダートな考えやスタイルが浸透すれば、間違いなく私の業務にとってはプラスに働きます。
笠:あとは、これだけオンラインが発達した世の中なので、いずれは避けては通れない道になると思います。オンラインでのコライトも当たり前になっていますし、洋楽と邦楽だけで分けるのは限界がくるだろうなと。フットワーク軽く海外作家とコラボできるようになれば、単純にいい作品がより多く生まれると思いますし、それは国内音楽シーンが豊かになること、そして出版社としてのメリットにも繋がりますよね。
小袋:メジャー・レーベルの社員さんが「タイアップやめませんか?」って言えるわけはないので、こういうことをアーティストから発信するのも大事だと思うんですよね。僕にとってはこの企画もアーティスト活動の一環なんです。今までになかった新しい価値観や考え方、世界を提示するっていうことがアーティストの仕事だと思いますし、そういう意味では作品作りもビジネスも僕にとっては繋がっているんです。
――『TOKA Songwriting Camp』に関して、今後の展望についてはどう考えていますか?
小袋:もしコロナ禍がこのまま収まってくれるのであれば、実際に海外の作家/アーティストをお呼びして、日本のアーティストたちとコライトする機会を設けたいです。今は種を蒔いている段階だと思うので、まずは多くの才能ある人たちに機会を提供することを目的に続けられればなと。僕はロンドンに住んでいるので、今後もヨーロッパの作家たちとのコネクションを作って、それを日本に持ち込みたいなと考えています。
笠:今後は〈TOKA〉さんと弊社だけでなく、もし賛同してくださる企業があればどんどん参加してもらって、もっと大きな動きや波を作れたらなと考えています。
小袋:逆にヒット曲を作るぞっていう企画は今後もやらないと思いますね。僕らは本当にカルチャーのため、これからの音楽シーンのことを見据えた企画だと思っているので。
昨年初開催された同企画は、東京都内の音楽スタジオにアーティストやプロデューサーおよそ20組が集結し、様々な組み合わせでコライトを実施。これまでに6組の作品が発表されている。
DTMの発達/普及に伴い、ここ15年ほどで劇的な変化を迎えた音楽制作の環境。このコライト・キャンプにはすでに欧米を中心とするグローバルなポップ・ミュージックの現場では当たり前になっているコライトという文化を持ち込むだけでなく、自身もアーティストとして日本と海外分け隔てない活動を展開するTOKAの小袋成彬が感じてきた違和感や疑問を解消せんとする大きな動機があったという。
今回は企画の中枢を担うTOKAの小袋成彬と株式会社フジパシフィックミュージックの笠翔馬氏にインタビューを敢行。その背景や狙いについて語ってもらった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Tamami Yanase(https://www.yanasetamami.com/)
小袋成彬が海外のコライトで受けた衝撃
――『TOKA Songwriting Camp』という企画アイディアはどのようにして生まれたのでしょうか。
小袋:アイディアは僕ら(TOKA)からですね。僕もYaffleも海外でのコライト・キャンプに参加していて、そこでは日本では感じられないようなヴァイブスやスピード感を体験することができたんです。お互いのアイディアを出し合って、メロディを作る人、歌詞を書く人、トラックを組み立てる人といったように分業制で作り上げていく。こういった制作方法をどうにか日本に持ち込めないかなと考え始めたのがスタートですね。
――実際に海外でコライト・キャンプに参加して、小袋さんはどのようなことを感じましたか?
小袋:数年前にイギリスでとあるバンドのコライト・キャンプに顔を出したのが初めての体験でした。スタジオには他にもLAなどから数名のプロデューサーが来ていて、あと歌の上手いシンガーもひとりいて。誰かが自然とギターをポロンと弾き始めたと思ったら、また誰かがメロディを何となく乗せ始めて、「え? こんな感じで曲を作るの?」って衝撃を受けました。バンド・メンバーは一番最後に来て、ちょっとレコーディングして帰る、みたいな(笑)。当時はそのラフさに驚きました。
――そういった体験を日本にも持ち込むべく、フジパシフィックさんにお声がけしたと。
小袋:そうですね。フジパさんには〈TOKA〉を立ち上げる前からお世話になっていましたし、実際に音楽を作るクリエイティブ・カンパニーの我々と、音楽出版社のフジパさんで何かおもしろいことができないかなと。
笠:フジパシフィックとしてもコロナ禍になる前から海外作家をお招きしてコライト・キャンプを開いていたのですが、そんなタイミングで小袋さんたちからお話を頂いて。当時は海外からの入国が厳しい状況だったので、日本在住のクリエイターだけでコライト・キャンプを開催してみてはどうかと。そういった話し合いから、このプロジェクトが動き始めました。
――笠さんは普段、フジパシフィックの中でどのような業務を担当されているのでしょうか。
笠:私はYaffleのマネージメントに加え、海外作家のピッチング、コライトのコーディネイトなどを担当しています。例えば、日本のメジャー・レーベルの方から「こういう曲が欲しい」というご相談を頂いた場合は、我々が持っている海外作家のコネクションを駆使して、その要望に沿うような楽曲を集めてプレゼンしたり。また、日本のアーティストさんから「海外で曲を作りたい」といったご相談を受けた場合は、実際に向こうでクリエイター、スタジオなどを手配します。
弊社は昔から海外楽曲の著作権を扱っていることもあり、出版社の中でも海外とのコネクションが特に強い会社だと言えると思います。会長の名前も世界で広く知られていて、海外出張に行くと「Ichi(*)の会社だろ」って言ってもらえて、コミュニケーションが円滑に進むことも多いですね。
*株式会社フジパシフィックミュージック代表取締役会長・朝妻一郎
小袋:笠くんは実際に海外で働いていたこともあるんだよね?
笠:はい。2019年にLAの音楽出版社に1年だけ勤めていたので、向こうのコライトの文化や空気感もある程度体感できました。日本だとシングルやアルバムのリリースなど、プロジェクトが決まってから曲を作っていくというパターンが多いと思うのですが、海外ではとりあえず曲を作ってみて、その後にプロジェクトが動き始めるということが多いです。なので、単純にとんでもない量の曲数が作られています。
小袋:もちろん作るだけじゃなくて、その買い手もいて、そして売るマーケットもある。欧米では音楽産業全体が活気溢れているというか、すごく健全に回っているなと感じました。それが羨ましくて、『TOKA Songwriting Camp』を始めたというのもあります。
「文化は変わったのに、システムは残っている」――両者が指摘する問題点
――実際にコライト・キャンプ企画が動き始めてから、準備段階ではどのような話し合いが行われましたか?
小袋:まずはコンセプトを固める必要があるなと考えました。海外のコライト・キャンプではヒット曲を求めている場合がほとんどで、それがスピード感にも繋がる一方で、似たような曲ばかりできてしまうというデメリットもあると思います。ただ、〈TOKA〉としては単純にヒット曲を生み出したいというわけではなくて、どちらかというと新しいサウンドやエッジの効いた作品、何年、何十年後にも愛されているような曲を作ることを掲げていて。『TOKA Songwriting Camp』の特殊な部分はそこかなと思います。なので、ビッグネームというよりかはアップカミングというか、これからシーンで頭角を現しそうな方を中心にお声がけしました。表を作って、「この人とこの人が組んだらおもしろそう」という感じで、フジパさんと話し合いを重ねていきました。
あと、完成した楽曲のプロモーションについても関係者含め事前に話していたのですが、曲ができないことには見えないことが多すぎるので、「とりあえずやってみよう」というマインドで開催しましたね。
――去年は3日間にわたっての開催だったそうですが、期間中はいかがでしたか?
小袋:シンプルに楽しかったですね。コロナ禍であまり人と会えてなかったので、こういう機会を設けてくれて嬉しいって言ってもらえました。コライトに関しては未経験の方も多かったので、上手くいったところもあれば筆が進まずハマらなかったところもあるし、曲はできたけどリリースには至らなかったケースもあります。ただ、やっぱり各組1日だけでは時間が足りないということは強く感じたので、それを改善するべく今年は2日間にわたってセッションを行う組も作りました。
笠:ボツになってしまうケースも、決して失敗とは捉えていなくて。そこで新たな刺激を得られたでしょうし、自分に何が合って、合わないかがわかったりもする。海外のコライトでもポシャるのが当たり前で、実際にリリースされている作品に対して、ボツ曲は何百倍、何千倍にも上ると思います。
小袋:我々の場合は現段階で12組中4組(※インタビュー実施時点)の作品が世に出ているので、打率はかなりいいですよね。イチローでも3割なんだから(笑)。
――(笑)。
笠:まだこれからリリースが計画されている作品もありますし。あと、DaokoさんとYohji Igarashiさんの場合は「escape」という1曲で手応えを感じて、EP制作にまで至って。我々としてもとても嬉しく思います。
小袋:あっこゴリラちゃんも去年のコライト・キャンプで組んだNobuaki Tanakaくんとお互いに練馬出身ということもあって意気投合して、先日リリースされたミニ・アルバム『マグマ I』でも彼と楽曲制作しているみたいです。この企画の根本にある考え方はカルチャーに対する投資であって、コライト・キャンプをきっかけに新しい何かが生まれることはとても喜ばしいことです。
――スタジオでの実際の工程は、それぞれバラバラですか?
小袋:基本的にはお任せしているので、僕も自分が参加したところ以外は把握していません。ただ、共通して行うのは、最初の挨拶と契約をきっちり交わすということ。これがすごく大事なんです。
例えば3人でコライトする場合、権利/利益は3等分しましょうという当たり前の契約なんですけど、これが日本だと当たり前じゃなくて。日本で邦楽の著作権を登録する場合、「作詞」「作曲」などを分けて登録する必要があります。その場合、例えばトラックメイカーはアレンジャー扱いとなって、著作権契約上では権利を全然もらえない場合もあります。それっておかしくないですか? 誰でもPCで音楽が作れるようになって、たくさんの音楽家がひとつの楽曲に関わっている今の時代、そんなシンプルに詞と曲を分けられないと思います。僕みたいに作詞しながらメロディを書く人が75%もらえて、トラックを作った人は25%しかもらえなかったり。全ての楽器のアレンジや構成も考えているのに25%ですよ?
――確かにそれはフェアじゃないですよね。
小袋:なんでこうなっているのかというと、昔は楽譜を書ける人が少なかったので、それを担当する人が「作曲」で、そこに歌詞を乗っける人が「作詞」になって、その2つに重きが置かれていた。ただ、そこから何十年も経って、文化は大きく変わったのに、システムはそのまま残っている。これは音楽以外のあらゆる部分でも言える日本のダメなところだと思います。
――今のお話について、音楽出版社としての立場から笠さんはどう考えていますか?
笠:小袋さんのおっしゃる通りだと思います。一概に良い/悪いと言える話ではないので、色々なやり方があることを知った上で従来の契約形態を選ぶのはいいと思うのですが、そもそもこういった海外でのスタンダードを知らないということが大きな問題点だと感じます。昭和の時代に決まった慣習に対して、疑問を持たずにそのまま従っているというか。
アレンジャーも含めて等分する契約だと、もちろん従来の契約形態と比べた場合、取り分が減る人もいます。それも承知の上で、今回の『TOKA Songwriting Camp』に若いクリエイターが参加してくれるというのはとても意義深いことだと思います。このやり方がすぐに日本の音楽業界に普及するかというと、まだまだ時間は掛かりそうだなと感じますが、少しずつでもアクションを起こしていかないといつまで経っても変わらないですし。この取り組みがいいきっかけになれば嬉しいですね。
「新しい価値観や考え方、世界を提示するのがアーティストの仕事」
――今年の開催についてもお伺いしたいです。参加クリエイターの人選は昨年と同じような形で?
小袋:基本的には同じですね。加えて、弾き語りを軸としたスタイルなどはコライトという手法と相性があまりよくないのと、海外にも進出していけそうなサウンドっていう部分を考えていくうちに、昨年よりもダンス・ミュージックやヒップホップ寄りなラインナップになりました。今年の頭くらいからオンライン・ミーティングを重ねて、みんなで作品を聴きながらお声掛けするアーティストとその組み合わせを考えていって。
――昨年同様のコライトに加えて、今年は海外作家による楽曲デモを日本のアーティストへ届ける新たな試み『Demo Pitch Day』も実施されるそうですね。この企画の内容や狙いを教えて下さい。
小袋:海外の作家さんから楽曲を提供してもらうのって、これまでは本当に一部の数字を持っている人たちしかできなかったと思うんです。でも、本来はもっと気軽にできるんだっていうことを知ってほしいし、実際にやってほしいなと思って。
笠:具体的には海外の出版社や、私が現地で繋がったインディペンデントで活動する作家などからデモを集めまして、それをみなさんに聴いてもらおうと考えています。
小袋:デモ音源はアーティストじゃなくて、マネージメントやレーベルのA&Rの方に聴いてもらいます。曲を聴いて手を挙げてくれれば我々がお繋ぎして、リリースにまで辿り着けばいいなと。
笠:実際にリリースまでのプロセスやその後の展開までを考える立場である方に聴いてもらう方が、その次のアクションに進む可能性が高いんじゃないかと考えて、今回はターゲットをマネージメントやレーベルのA&Rの方にしました。ただ曲を聴いてもらうだけでなく、リリースする場合は契約などのお手伝いもします。
小袋:コライト・キャンプに限らず、海外の作家と一緒に曲作りしたい人は絶対フジパさんに連絡した方がいいですよ。このインタビュー記事に問い合わせフォーム張っておいて欲しいくらい(笑)。
笠:ぜひ、ご相談ください(笑)。海外アレルギーではないですけど、ハードルが高いというイメージを払拭できればなと思います。
――それこそラップ・ミュージックの世界ではここ日本でも海外プロデューサーからトラックをもらうことも当たり前になっていますし。
笠:そうですね。ただ、シンプルに買い取りで終わっていたり、契約が曖昧なままで、トラブルになったという話もお聞きします。我々の場合はそういったことがないよう、権利関係はきっちりとした上でお繋ぎします。
小袋:そうそう。海外作家と作った曲だと権利関係でややこしいことがいっぱいあるんですよ。
笠:海外作家が参加した曲をJASRACに登録するときに、邦楽でもなく洋楽でもなく、邦洋混在曲という形式になるんです。海外作家が書いた部分は海外の著作権ルールになるので、これを嫌がる会社さん、スタッフさんは多いですね。
小袋:ルールや慣習が全然違くて。例えば、僕は大嫌いなんですけど(笑)、CMのタイアップってあるじゃないですか。あれってアーティストに1円も入らないんですよ。昔はテレビで流れればレコードやCDがバカスカ売れたからこういう構図が生まれたんだと思うんですけど、それが2022年の今もまかり通っている。ただ、海外のミュージシャンが絡んだ楽曲をタイアップで使おうとすると、作家/アーティストとしての権利を放棄しているわけだから当然拒否される。
笠:グローバル・スタンダードな考え方として、そういった部分の権利放棄は基本理解してもらえません。今はメディア・プラットフォームも増えていて、露出することに対しての価値も分散していますし、それぞれに適した対価をお支払いしないと健全とは言えないですよね。
小袋:自分たちを安売りせずに数万円でも数百万円でもいいから、自分たちの価値は自分たちで決めるべきだと思います。さっきの著作権の話もそうですけど、こういった部分を少しずつ整備していって、次の世代が動きやすいようにしたいんです。僕も10年音楽業界にいて、みんな「日本の音楽業界は変わらない」ってボヤいてるけど、具体的なアクションを起こしている人は見たことがない。僕の場合はその答えのひとつがコライト・キャンプだったんですよね。コライトの楽しさを伝えたいだけじゃなくて、グローバル・スタンダードな音楽ビジネスの在り方を元に、次の世代へ向けて整備していきたい。これまで納得がいってなかったことを変えるきっかけにしたい。
――そういった業界に一石を投じる、新たな風をもたらすような施策は、フジパシフィックさんにとってはどのようなメリットや意義があることだと考えますか?
笠:フジパシフィックミュージックとしては様々な部署があるので、私が代表して言えることではないのですが、個人的にはこれまで一緒にお仕事したくても、今お話した旧来のシステムに阻まれて実現できなかったということが何度もありました。なので、グローバル・スタンダートな考えやスタイルが浸透すれば、間違いなく私の業務にとってはプラスに働きます。
笠:あとは、これだけオンラインが発達した世の中なので、いずれは避けては通れない道になると思います。オンラインでのコライトも当たり前になっていますし、洋楽と邦楽だけで分けるのは限界がくるだろうなと。フットワーク軽く海外作家とコラボできるようになれば、単純にいい作品がより多く生まれると思いますし、それは国内音楽シーンが豊かになること、そして出版社としてのメリットにも繋がりますよね。
小袋:メジャー・レーベルの社員さんが「タイアップやめませんか?」って言えるわけはないので、こういうことをアーティストから発信するのも大事だと思うんですよね。僕にとってはこの企画もアーティスト活動の一環なんです。今までになかった新しい価値観や考え方、世界を提示するっていうことがアーティストの仕事だと思いますし、そういう意味では作品作りもビジネスも僕にとっては繋がっているんです。
――『TOKA Songwriting Camp』に関して、今後の展望についてはどう考えていますか?
小袋:もしコロナ禍がこのまま収まってくれるのであれば、実際に海外の作家/アーティストをお呼びして、日本のアーティストたちとコライトする機会を設けたいです。今は種を蒔いている段階だと思うので、まずは多くの才能ある人たちに機会を提供することを目的に続けられればなと。僕はロンドンに住んでいるので、今後もヨーロッパの作家たちとのコネクションを作って、それを日本に持ち込みたいなと考えています。
笠:今後は〈TOKA〉さんと弊社だけでなく、もし賛同してくださる企業があればどんどん参加してもらって、もっと大きな動きや波を作れたらなと考えています。
小袋:逆にヒット曲を作るぞっていう企画は今後もやらないと思いますね。僕らは本当にカルチャーのため、これからの音楽シーンのことを見据えた企画だと思っているので。

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