「この時代を生きる、今の自分だから
こそ作れた」ーー極上のポップミュー
ジックを奏でるYMBが、4thアルバム『
Tender』で描いた日常

「もっと早く知りたかった」。思わずそんな言葉を呟いてしまうほどポップネスなバンド、YMB。なんといっても聴き心地の良さが魅力で、美しくもどこか懐かしいメロディーラインとツインボーカルのハーモニー。そっと寄り添いながらもエッジの効いたワードセンス。軽快でさらりと聴けるが、サウンドはグルーヴィー。そんな聴けば聴くほど味わい深くなるアンサンブル、繰り返し耳に入れたくなる豊かなサウンドがYMBならではの心地よさを持つ。6月29日(水)にリリースされた4枚目のアルバム『Tender』は、宮本佳直(Vo.Gt)がここ2年間の暮らしで感じた想いや感情を楽曲に昇華した1枚で、人と人との距離感や関係性が肌で感じられる珠玉の7曲が揃っている。今回は宮本と、いとっち(Vo.Ba)にバンドの成り立ちから今作について話を聞いた。
宮本佳直(Vo.Gt)
宮本が作った音源を、世に出すために始めたYMB
ーー音楽的な経歴をお聞きしたいのですが、宮本さんが宅録をされていたのはいつ頃ですか?
宮本佳直(Vo.Gt):宅録を始めたのは21歳の学生時代ですね。幼稚園から中学校まで一応ピアノは習ってたんですけど、中学から急に野球に目覚めて、中学高校時代は野球に費やしていました。親が楽器をやっていた影響でギターもちょっとは弾けたので、ピアノとギターが弾ける状態で大学に進学して。「そんなに楽器できるんやったらやってみいや」と、大学の友達にMTR(マルチトラックレコーダー)の存在を教えてもらったんです。そこからギターを買って、家にあったピアノも録音しつつ、宅録活動と言えるか分からないですけど、バンドスコアを買ってきて、家で録音してコピーしてました。普通の人はコピーバンドでやるんでしょうけど、僕はMTRで完結してました。
ーー大学で軽音部に入っていたわけでもなかったんですね。
宮本:大学で野球サークルに入ってたんですけど、2回生の時に先輩が抜けてサークルがなくなって。そこからはほんまに家で宅録するのが楽しかったんです。
ーー単純に録音する作業が楽しかったんですか?
宮本:アンサンブルの最初にドラムを打ち込んで、ベースを入れてだんだん和音が重なっていくのと、音源にどれだけ近づけるかトライするのがすごく楽しかったんです。思い返すと、その時のことが今に繋がってるなと思います。
ーー当時は発表もせず、作っているだけの状態だったということですね。
宮本:そうです。徐々にオリジナルも作るようにはなってたんですけど。ちょうどその頃、伊藤さん(いとっち)に出会って。
ーーどんな出会いだったんですか?
いとっち(Vo.Ba):私は高校で吹奏楽部に入っていたんですけど、3つ上の先輩がOB楽団に所属していて。その先輩がみやも(宮本)と友達で、「曲作ってる変な奴いるんやけど」と大学に入学して紹介されました。
ーー吹奏楽部だったんですね。何の楽器をされていましたか?
いとっち:トランペットです。当時、映画『スウィングガールズ』が流行ってたんですよ。で、「バンドカッコ良い!」となり吹奏楽部に入りました。吹奏楽部は高校時代だけだったんですけど、小さい頃に習い事でピアノやチェロをやっていまして。中学校ではバドミントン部に所属していました。

YMB

ーーお二方とも幼少期から音楽に触れて、中学ではスポーツもされて。何だか経歴が似ていますね(笑)。公式サイトのプロフィールにもある、「いとっちさんが宮本さんを外に連れ出した」いきさつは?
宮本:オリジナル曲も作り始めたので、伊藤さんにちょこちょこ聴かせるようになったんですよね。
いとっち:そう。でも、誰に聞かせるわけでもなく、ただ曲がいっぱいある状態だったんです。「この人は何をしたくて、誰に向けてこんなに曲を作っているんだろう」という疑問が沸いて、それなら外に出す活動をした方がいいんじゃないかと。私、バンドも全然したことなかったんですけど、「何かやるか」となったのがキッカケです。
ーーそれでYMBを組んだ?
宮本:その時はまだ2人のアコースティックユニットでした。僕がギターボーカルで、伊藤さんはその時ベースをしていなかったので、カホンを叩きながら歌う、カホンボーカルをしてました。
ーー珍しいですね。
いとっち:かがんだ姿勢では歌えないので、T字型の打面が上についてるカホンを買って、ポコポコ叩いて歌ってました。
宮本:すごい特殊な形してましたね(笑)。
いとっち:みやもの曲をどうやって再現しようかとなった時に、方法が分からなかったんですよ。バンド経験者も周りにいなかったので、試行錯誤してそうなったんやろなと。今思うと不思議ですね。
宮本:漠然とバンドへの憧れがあって、アコースティックユニットでギターを弾きながら歌うだけというスタイルに、あまり惹かれなかったんだと思います。何かしらでリズムを叩きながらやりたかったんですね。
ーー宮本さんは、曲作りだけでなく、歌を歌うのも好きだったんですか?
宮本:実は、僕はそこまでパフォーマンス欲がなかったんです。今はまだちょっとやる気はあるんですけど、やっぱり作ることが好きだったんですよね。もし他にもメンバーがいて、その人たちに丸投げできるなら、僕はプロデューサー的立ち位置でも良かったんですけど、僕らにはそんな知り合いが全くいなかったので、2人でやるしかない状況でした。
いとっち(Vo.Ba)
ーーいとっちさんは宮本さんの音源を世に出すために、カホンを叩いたと。
いとっち:本当に、それだけのために始めた音楽活動です。バンドをやることになって、26歳で初めてベースを触りました。バンドとしては未熟というか、ノウハウも分からないまま始めて。
ーー2019年2月にギターの今井さんとドラムのヤマグチさんが加入されていますね。おふたりが加入する経緯は?
宮本:今は、アフターワーズというバンドにいる、ギターのタミちゃん(タミハル)とドラムの鉄平くん(上野エルキュール鉄平)が前のサポートメンバーだったんですけど、2人がアフターアワーズの活動に専念するため辞めることになって。タミちゃんが「昔から遊んでた友達で、良い子がいるよ。たぶん自分よりも音楽性はYMBに合うと思うから1回会ってみてください」と連れてきてくれたのが、今ちゃん(今井)やったんですよね。で、ドラムのヤマグチヒロキは僕らがドラマーを募集した時に応募してくれて。鉄平くんが「絶対ヒロキさんがいいです」と。
ーーお墨付きを。
宮本:そうです、前のメンバーからお墨付きをもらって2人が加入したみたいな(笑)。
いとっち:音楽性も人柄も、バッチリきたって感じがします。
ーーちなみにバンド名の由来は?
宮本:僕のフルネームが宮本佳直というんですよ。イニシャルがYMで、そのバンドなので「YMB=yoshinao miyamoto band」です。
ーーなるほど。
宮本:ただ、もはや演奏に関してはメンバーに任せてる部分も多いし、僕が作った曲を再現するバンドという意味はだいぶ取れてきて、普通に「YMBというバンド」になってきてますね。
膨大なインプットにより磨かれたメロディーセンス

宮本佳直(Vo.Gt)

ーー昔、聴いていた音楽や影響を受けたアーティストは誰ですか?
宮本:僕、中学高校は野球をやってたんですけど、リスナーとしてJ-POPをめちゃめちゃ聴いてたんですよ。特に姉がMy Little Loverの大ファンで。僕も影響を受けて、『evergreen』というアルバムは、たぶん人生で1番聴いたアルバムだと思います。そこからいろんなポップスを聴くようになりました。例えばキリンジとか、日本のシティポップと言われるようなジャンルが昔から好きで。ほかにも流行曲やJ-HIPHOP的なものも吸収しつつと、中高はインプットだけに費やした時間でしたね。そういうところから親しみやすいメロディーを作るようになったのかなと。
ーーいとっちさんはどんな音楽を聴いてこられたんですか?
いとっち:私ね、全然何もないんです(笑)。母親の影響でクイーンを聴いてみたり、ピアノやバイオリンチェロをやっていたので、クラシックはよく聴いてたんですけど、小さい頃はJ-POPを聴いていなくて。今となっては流行りの曲を聴くんですけどね。
宮本:伊藤さんはリスナーの皆さんに近い感覚の耳を持ってるんです。伊藤さんが良いと言った曲は、大体伸びてる気がしてます。
いとっち:マネージャーさんも「伊藤さんが良いと言った曲はやろう」と言ってくれます。メンバーで1番フラットな耳を持ってると思ってくれてるのかもしれない。
ーー宅録の曲をいとっちさんが良いと感じたところから、全てが始まっていますもんね。
いとっち:そうです。メロディーも歌詞の乗せ方もすごく良いなと思って。私、宮本さんが書く歌詞、めちゃくちゃ好きなんですよね。メロディーとよく当てはまって、違和感がない。ここまで違和感のない歌詞とメロディーをつける人も、私の中であまりいないのでビビッときて。
いとっち(Vo.Ba)
ーー宮本さんは曲を作るスピードが早いんですか。
宮本:リリースのために作ろうという感じじゃなくて、生活の中で「今日はなに作ろうか」とやってますね。だから自然に曲が溜まっていくんです。1曲作り出したら、その日のうちに誰かに聴かせたいので、いつも伊藤さんには聴かせるんですけど。1曲に1日以上かけることはそんなにないですね。
いとっち:曲を作るために生きてる感じなんですよ。嫌なことがあっても曲にできるので、「引き出しくれ」とめっちゃ言ってきます。
宮本:(笑)。
ーー曲のネタを?
いとっち:「どんなことを曲にして欲しい?」とか「どんなことあった?」とか。
宮本:これだけのペースで曲を作ってると、自分の中で材料が枯渇してくるというか。だから誰かに求める時はありますね。
ーー宮本さんがリクエストに答えていると。
いとっち:最近は答えてくれへんな。
宮本:そうかな?
いとっち: 「固有名詞使いまくった曲作って」とか。
宮本;僕の求める曲と違うなあ(笑)。具体的なエピソードに当てはめて作るのも楽しいので、やりたいなと思ってる感じです。
その「時」を切り取った、生活から生まれる音楽

いとっち(Vo.Ba)

ーー今作『Tender』も、日々ストックされた曲の中から収録曲を選んでいかれたんですか。
宮本:今作は2021年から2022年の自分の生活の中でできた曲から、バンドでやれそうな曲を集めて、17曲ぐらいからオーディションしました。
ーーオーディションにあたって、コンセプトや基準になるようなものはありましたか。
宮本:僕の性質上、曲は日常生活の中でできていくものばかりなので、コンセプト的にまとめるというよりは、自然とその時の暮らしで感じたことを表した作品になります。だから、いちばん時代を表している曲や、「これを世に出したい」とメンバーが思えるような曲をチョイスしています。
ーーなるほど、世相も表していると。「fall」は特にそうですよね。
宮本:今はどうしても、暮らしにコロナが関係するじゃないですか。前作『トンネルの向こう』から、結構コロナを反映した生活の曲を書いていました。前作は直接的にコロナを意識して、コロナに対する不満や考えを曲にしてたんですけど、今作はウィズコロナの生活が当たり前になって、その中で生まれた新しい問題に対して、より具体的に思ったことを歌にしています。だから前作よりも一歩進んだ作品になってるのかなと。あと、僕は結構「fall」を入れられたのが嬉しくて。この曲は歌とベース以外は全部宅録なんです。バンドでできる曲じゃないけど収録したのは、今言いたいことや思ってることがストレートに表れた上で、よくまとまった曲になりました。
ーー4曲目の「SHOCK!!!」は宮本さんのソロ名義で発表されたものを、いとっちさんのメインボーカルで再録されたそうですが、再録にあたり意識したことはありますか?
宮本:前のバージョンは僕の完全な宅録だったので、今回それをバンドで録り直しました。前の方が僕が普段作ってるデモに近くて、つい「聴いていて楽しいように」と思って音を詰め込み過ぎちゃうんですけど、今回はメンバー4人が主体となって、4人で演奏して成立するよう意識してある程度隙間があるアレンジにしました。だからそこまで詰め込まんかったかな。
いとっち:確かに、今回ピコピコ音とかもないもんな。
宮本:歌詞も言葉を詰め込んでますし。バンドバージョンにするに当たって、そこが立つよう余裕を持たせた感じですかね。
ーーいとっちさんは「SHOCK!!!」を歌ってみてどうでしたか?
いとっち:この歌を歌うのが楽しくて、私が「どうしてもやりたい」と言ったんですよ。私、カラオケで詰め込まれた歌詞の曲を5倍速にして歌うぐらい、早口の曲が大好きなんです。デモが上がってきた時から、この曲は歌いたいと思ってて。ピアノが入っているので「YMBじゃ無理や」と言われたんですけど、何とかお願いして。
ーーピアノ弾いたんですか?
宮本:中学校以来のピアノを練習して弾きました。最近はライブでもそのアレンジでやるようになりましたね。
いとっち:ありがとうございます(笑)。
ーー(笑)。今作の中で個人的に好きなのが「似たもの同士」です。メロディーが良すぎて。
宮本:嬉しいです。僕もそうですね。
いとっち:メンバーも周りの人たちも、みんな「似たもの同士」が1番と言ってくれる。
宮本:ただ伊藤さんはあまり……。
いとっち :(笑)。
宮本:「似たもの同士」は、伊藤さんが最近Twitterで描いてるエッセイ漫画のエピソードを見て、僕が思ったことを曲にしてるんです。それもあってなのかな。
いとっち:何かアンサーされたみたいでちょっと悔しい。だから私が推すとちょっと恥ずかしいというのがあります。
ーー歌詞から感じられる登場人物の関係性や距離感が愛おしいなと思いました。
宮本:ツインボーカルにしようと思ったのもそういうところですし、僕的にはすごくよく表せたかなと思ってますね。
宮本佳直(Vo.Gt)
ーーそれぞれがメインボーカルをとる曲があると思いますが、曲のテーマでどちらが歌うかを決めているんですか?
宮本:「似たもの同士」とかは分けてるんですけど、他の曲はそうでもなくて。僕はキーに関わらず作りたいものを作りたいので、Aメロ・Bメロでメインボーカルが入れ替わったりということが起こります。勿論テーマによっては伊藤さんに「歌って」と言う曲もありますけど、どっちが歌うかはそんなにこだわってないかもしれないです。
ーー今作で印象に残っている曲は?
いとっち:私、「ありがとうもいらない」が今作で1番なんですよ。普段ありがとうと言いにくい関係性の人に向けて、みやもが作った歌というのを近くで見て知っているので、それも相まってめちゃくちゃグッとなりました。私、宮本さんの曲を聴いたら泣けるんですね。泣いた順に収録されてるところがあります。
宮本:「ありがとうもいらない」に関しては、具体的に「こう」と言いたくない気持ちがあって、あまり多くを説明できないんですけど、色んな人を当てはめながら聞いてもらえたらいいかなと。多分ピッタリくる人が、皆さんの中にもいらっしゃるんじゃないかなと思ってます。
ーー改めてどんな作品になったと思われますか。
宮本:2021年と2022年、普通に暮らしていて皆さんが感じられることを僕も同じように感じていて。それをストレートに表せた曲たちを集められたかなと。サウンド面も歌詞に関しても、「この時代だからこそ、今の自分だからこそ」作れた作品やなと思います。今こそ聴いて欲しいです。
いとっち:私も宮本さんが作る曲を、その時その時で切り取った生活を定期的に出せたらいいなと思って活動しているので、今年も出来たという想いです。
ーー今作を引っ提げてのツアー『YMB 「Tender」Release Tour “ありがとうのかわりに”』が始まりますね。少し先ですが、ファイナルの9月17日(土)の心斎橋ANIMAに向けての意気込みをお願いします。
宮本:ちょっとマイナスな話ですが、まだお客さんがライブハウスに戻ってきてない感じがして。コロナ前は見に来てくれてたお客さんがいなかったり、ライブに対する考え方の相違というか、お客さんの間でも分断が起きてる感じにすごく閉塞感を感じてるんですよね。そんな状態でも、僕らはコンスタントに活動を続けているので、ANIMAではその成果を出したいし、来てくれたお客さんを精一杯楽しませるライブをしたいです。ライブに来てなくてもYMBを応援してくれているお客さんも沢山いるので、その方々に向けても違う形で発信したいですね。今回は4人でやろうと思ってるので、純粋なYMBを見ていただきたいと思っております。
いとっち:みやもの言う通りです。色んな人がいて当たり前なんですけど、来てくれる人も来てくれない人もありがとうと、私たちは思ってるので。それが少しでも伝わればいいなと思います。
YMB
取材・文=ERI KUBOTA、撮影=ハヤシマコ

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