前島麻由

前島麻由

【前島麻由 インタビュー】
カップリングも含めた4曲は、
ノスタルジーという
テーマが被っている

場を制するような圧倒的な歌声で鮮烈な印象を残すシンガー・前島麻由が、3rdシングル「No Man's Dawn」と4thシングル「story」を2週連続でリリースする。自らを“回顧型”と分析する彼女が、各シングル曲にどんな共通項を見出し、表現していったのかを探った。

ネガティブな感情のほうが
その人の個性が出ると思う

TVアニメ『オーバーロードIV』エンディングテーマである「No Man's Dawn」は、全てを失ってしまった悲しみが描かれた激しさのあるナンバーですが、前島さんがこの曲を受け取った時、どんな印象でしたか?

先に“朝、起きたら自分以外全部何もなくなっていた”というテーマをおうかがいしていたんです。“恋人を失ってしまった”といった特定の何かではなく、自分以外の全てがなくなってしまったという壮大なテーマで、しかも喪失感を静かなサウンドではなく、音に厚みのあるロックバラードになっていて、熱でもって熱がなくなった様子を表現するという。その対極な感じは、むしろ個人的には想いが乗せられると思いました。だから、あまり悩みなく、結構スルッと歌うことができましたね。それこそテーマにより共感できたかもしれないです。私は基本的に“あの頃は良かった”と常に思いながら生きている回顧型タイプの人なので(笑)。“大事なものがなくなってしまった”みたいな歌詞に共感しやすい人間だから、意外と悩みなく歌えて、そこは良かったです。

この歌のように“自分以外の全部がなくなる”というシチュエーションを考えたことはありますか?

感覚的には結構あります。特に子供としてカテゴライズされる年齢から、大人の年齢に移る時にその感情が大きかったです。“幸せ”とか“愛あふれる”とかって、私は子供時代の環境であったり、物であったりにすごく抱いているタイプで。大人になる上での変化は、私にとってあまりいい変化に感じられなくて、“幸せだった時代が終わった”感覚にすごくなったんです。基本的にそれをベースに生きているから、この曲にすごく共感できたのかもしれないですね。

それは何歳くらいの時でしょうか?

高校生ぐらいの時から覚悟し始めて、“大学に入ったら終わるな”みたいな感じでした。大学生活は成人する年齢をまたぐ4年間だから、高校の時からそれが嫌で“大学に上がりたくない”と言っていました。当時の自分の世界は学校だったり友人たちだったりという、実際は狭い世界だったんですけど、逆に私は今よりも子供の頃のほうが“世界は広い”と思っていて。現実問題や社会問題として“世界は広い”と感じることはありますが、体感で世界が広いと思ったり、その広さに胸が躍ったり、キラキラ輝いて見えるようなことは、なんだか少なくなってしまった気がして。子供の頃は狭い世界なはずなのに、世界を広く感じていましたね。“大人のほうが自由だ”という感覚の方もたくさんいらっしゃいますが、私は逆で…。それこそ校則や門限などのいろいろな制約があっても、子供というあの感覚が自由の全てだった感じがしていて。しかも、時を戻せるわけではないので、“もう二度と戻らないもの”というところで、歌詞とリンクした感覚になっていると思います。

子供の頃のほうが世界は広かったという感覚は非常に分かります。未知なことが多いだけに、想像力が膨らむというか。

そうですよね。歳をとったほうがいろいろなことを考えたり、気づきの量も増えるので、それこそ世界にはまだ全然自分の知らない価値観や景色であったり、いろんなものがあるということを頭できちんと理解して考えられるようにはなりますよね。でも、頭でなく心で漠然と広いと感じる、あの感覚は意外とないなと。学校に行って帰っているだけなのに、その世界のほうが広く感じたんですよね。それは自分の中にある自由さとか、担う役割の少なさ、感じたり背負うべき責任の量の少なさだったりと、いろんなものが相まってその体感的な広さになってつながっていったのかなって気がすごくしています。だから、「No Man's Dawn」のAメロなどは、そんなに激情や熱情という感じの雰囲気ではないんです。でも、熱を感じないパートに関しては“切ない”とか“悲しみ”とか喪失感というよりも、ノスタルジーやその温もりを感じるような気がして。私もノスタルジー人間なので、意外とこの曲もAメロが一番好きかもしれません。ノスタルジーから入って、なくなってしまった悲しみが深いからこそ熱が出ている…みたいな。

確かにAメロはサビの爆発する感じとは違って、どこか抑えたような表現になっていますね。

これは私の性分なんですけど、ネガティブな感情や感覚のほうが歌に出るというか。ネガティブな感情のほうが、その人の個性が出ると思うんですよね。ポジティブな感情は人と共有しやすいぶん、共鳴し合えると思うんです。でも、ネガティブは“恋人と別れた”みたいな感情ひとつとっても、それを何色で表すかとか、その熱量はどんな感じなのかと細分化していくと、本当に人によって違うだろうなと。私は水色だと思ったものが、もう少し濃い青のほうがしっくりくる人もいると思うし。そう考えると、個性だったり感覚の違いが結構出ると思います。

そして、カップリング曲の「Lights,camera,action」は前島さんのクールなカッコ良さが存分に出ている曲で。こちらはどんなことを大切にして歌われましたか?

この曲は個人的には少し難しかったですね。英語の部分は大丈夫なんですが、洋楽みたいな楽曲の中に混じっている日本語をどうカッコ良く届けるかが課題で。自分で曲を作る時に歌詞が全部英語になってしまうのは、その弱さが出ているというか。日本語を混ぜると、どうもキマらないというのがあって。逆に邦楽的な楽曲の中に英語を混ぜて、その英語がダサく聴こえないというのも課題なのかなと思っています。

「Lights,camera,action」は低音がカッコ良い曲ですよね。

そうですね。特にアニメのタイアップをいただいたりすると、バチっと決まる部分も必要ですし、テーマ的にもいろいろなところでキーが高くなりがちなんですが、私自身の声は結構低いので。その低い部分を出せるというのは、意外と今までの曲を振り返ってもなかった…あったとしても少ない気がしていて。なので、そこも個人的に嬉しかったことでもあります。

最初に弦が入るイントロもお洒落ですね。

そこでオリエンタルな感じになるのは、私もすごく好きです。作曲された方も曲の雰囲気も違うのに、表題曲の「No Man's Dawn」にもストリングスが入っていたりと、ちょっとした共通項がつないでくれていたりもしていて。今回は“この曲はこのカップリング曲”という作り方をしていなかったのですが、自然と“この曲は「No Man's Dawn」のカップリングだな”という気がしていました。新しい試みだったり、今までの自分の曲調にないようなものを今回のカップリングでやらせていただいたりしたにもかかわらず、そう感じるところが面白いなって。

そんな「Lights,camera,action」の歌詞ですが、他の曲に比べていろいろな意味に取れると感じました。

明言を意外としていない歌詞ですよね。“Lights,camera,action”という言葉自体が、ある意味“切り替わり”や“スイッチのオンオフのオン”の部分をすごく感じる言葉だったので、聴いている側がスイッチの切り替わりを感じるような曲にしたいというところで表現はしました。ちょっと低くなる部分などで、ひとつのスイッチが切り替わるというか。曲の切り替わりや入れ替わり、移り変わりのようなものが、この曲における主人公のオンオフみたいなものとリンクすると面白いと思って。「No Man's Dawn」のような心情のリンクというよりは、メロディとテーマのリンクを楽しみたいなと。さらに歌っている私も楽しまないと聴いている人に伝わりにくいんじゃないかというところも意識しましたね。ラップの時に今までと声色を変えるなどして、“はい、今、次のパートに入りました”とか、“次のセクション入りました”といったように、一回一回スイッチを入れてるイメージですね。
前島麻由
前島麻由
シングル「No Man's Dawn」
シングル「story」

OKMusic編集部

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