安野希世乃

安野希世乃

【安野希世乃 インタビュー】
ひと切れのケーキのような
人生の彩りになってほしい

ソロ歌手デビューした記念日から丸5周年の翌日に、待望の1stフルアルバム『A PIECE OF CAKE』をリリースする安野希世乃。楽曲をひと切れのケーキに例え、人生の彩りや潤いになる作品を目指した全12曲は、従来のイメージどおりのやさしさと柔らかさに満ちたものからあっと驚くゴージャス感まで、さまざまな色彩と味覚を備えている。丁寧に、着実に、楽曲を紡ぎ続けてきた彼女の誠実さが結実した一枚だ。

カラフルな楽曲のどれかひと切れでも
貴方に刺さる一曲があればいい

デビュー5周年で初のフルアルバムとは意外だったんですが、ここまで温存してきた理由って何かあったんでしょうか?

以前にプロデューサーさんから“安野さんはバンバン曲を出していく印象ではないんです”と言われたことがあって、私も“分かるな〜”と思ったんですよ。例えば漫画にしても、一年に一冊くらいしか単行本を出さない作家さんを追いかけるのが好きで、それが2巻くらいで完結しても…何なら読み切りでもいい。そのぶん密度が濃かったりもするじゃないですか。私自身そういった“ミニマムの中にしかない美学”を感じる質なので、プロデューサーさんの中にも“安野さんはミニアルバム”という感性があったんじゃないかなと。

それでミニアルバムは『涙。』(2017年7月発表)『笑顔。』(2018年11月発表)『おかえり。』(2019年9月発表)と、すでに3枚も出されているんですね。

その3枚が実は三部作になっていて、ひと区切りしてからシングルだけを出す期間があり、そこからのフルアルバムという流れですね。“A PIECE OF CAKE”というタイトルは漫画で知ったイディオムで、“些細なこと”とか“朝飯前”という意味合いで使われることが多いんですけど、このアルバムでは“ささやかなもの”というニュアンスも強いんですよ。睡眠や食べ物と違って音楽は摂取しなくても死ぬものではないじゃないですか。スイーツだって同じですよね。食べなきゃ死ぬわけではないけれど、多くのパティシエさんたちが技巧を凝らして美しい素敵なケーキを作られている。音楽もひと切れのケーキも人生の彩りであり潤いであって、そんな存在にこのアルバムもなれたらいいな…という想いから、このタイトルをつけさせていただきました。

だから、いろんな曲調やタイプの楽曲が収録されているのでしょうか?

そうです! 色合いの違うカラフルなケーキ=楽曲をご用意したつもりなので、どれかひと切れでもあなたに刺さる一曲があればいいな…というイメージですね。実際の制作では、集めた楽曲を聴いてから思い浮かんだキーワードを私が提示して、歌詞を書いていただいた楽曲も多いんです。例えばリード曲の「世紀の祝祭」にはカーニバルとかラテンなフェスティバル感がサウンドにあったので、“大人の祝祭”“命短し、歌い踊れ”といったワードを出させていただきました。

まさに歌い踊るさまが目に浮かぶような、ビビッドで大胆な楽曲です。しかも、そんな曲をリードに据えることで、従来の“ゆるふわ”なイメージを一気に覆してきたなと衝撃を受けました。

私も“これがリード曲なんだ!?”ってびっくりしました(笑)。でも、初めてのフルアルバムですし、やっぱり今までとは違った一歩を踏み出せる一曲を授けてくださったんでしょうね。言ってみれば“欲”を肯定する楽曲になっていて、音的にもパーカッションが気持ち良くドチャスカやってくれているんですよ。なので、ヴォーカルとしては迫力的にも熱量的にも負けていられないと、もう食らいつくような気持ちで挑みました。

クライマックスには今まで聴いたことのないようなドスの利いた声も入っていて、“おおっ!”と驚いたのですが、あれは狙ったもの?

《100愛して死んでみろ》のところですね。ここはひと癖あるテイクが欲しいと言われて、10テイク…もっとかな? このひと言のために粘って粘って、最後に出たテイクだったと思います。ちょっとフックがあって、自分でも気に入っているんですよ。

MV も非常に凝っていて、マイクの前で情熱的に歌うゴージャスなショータイムを演出しつつ、パジャマや会社の制服を着ているシーンもあり、多彩な安野さんを楽しめますね。

たぶん冒頭にある《複雑なる私という宇宙へ》という歌詞を拾ってくださったんでしょうね。最初は色の違う3つの空間を行き来して違いを出そうという案だったんですけど、“一日の中でシチュエーションによって変わる3つの私を表現したら面白くないですか?”って会議の時に提案させていただいたんです。朝の私、会社での私、デートの時の私とガラッと衣装も替えて、違う私にメタモルフォーゼしていくという新たなエッセンスを加えさせていただきました。その3人が憧れているのが、4人目のショータイムで歌っている“祝祭の中にいる非日常の私”なんですね。なので、最後は彼女に触発された3人が殻を脱ぎ捨て、抑圧から解き放たれて歌っているんです。

なるほど! それにしても、このラテン感はリリースタイミング的にもぴったりで、さわやかでドライブに似合いそうな「波間に消えた夏」といい、やはり今作は夏っぽい曲が多いなと。

まさに「波間に消えた夏」は人生の夏を表現した曲にしたかったんです。すごく弾けている曲で、聴いた時に“青春だ!”と思ったから、キーワードも“人生の夏を謳歌する”“眩しい盛りを享受する”“イエスを言う”“エールを送る”“海”といったものを提示しました。人の一生は“A PIECE OF CAKE”のようにささやかなものだからこそ、ケーキのようにどの瞬間も味わい尽くそう、どんな感情も肯定して美味しく食べよう…という裏テーマも今作にはあって。なので、この曲では恋をしたり、人との出会いや別れが鮮烈に記憶に刻まれるような青春の時…つまり、人生の夏を切り取りたかったんです。ちなみにアルバムを前後半に分けるとしたらこの曲が後半の始まりなので、逆に1曲前の「Bad Temptation」のアウトロに前半戦が終了するイメージでカウントダウンを入れているんですよ。

ご自身で歌詞を書かれたラスト曲「A piece of cake」では、その“ささやかなもの”に潜む尊さを、シンプルなアコースティックサウンドに乗せて、さらりとさりげなく歌われていますよね。

伝えたいことさえ伝わればいいなと、何気ない日常会話くらいの気持ちで綴らせてもらいました。1コーラス+αくらいしかない短めの曲で、演奏は昨年のアコースティックライヴとビルボードライヴでご一緒したバンドメンバーさんにお願いしたんですよ。ご縁のある方と紡がせてもらった、ちょっとホームメイドな感じの位置づけになっていて、サビの男声コーラスも作編曲の松本良喜さんが入れてくださいました。

曲の最後にローソクを吹き消す音が入ってません?

はい。“アルバムを一周したところで、ケーキの火を吹き消して気持ち良く終わりたいです”とゴリ押しして入れてもらいました! これくらい軽やかな感じで終わると、また頭に戻りたくなりそうじゃないですか。何回でもループして気持ち良くなっていただいて、気が済むまでたくさん聴いていただきたいです。

対照的に「花時雨」は同じ自作詞曲でも古語が満載なのが斬新でした。

これは挑戦でしたね! どっしりとしたバラード曲を一曲は入れたいということで選ばせていただいた曲で、冒頭のコーラスから第一印象で“懐古的な曲だなぁ”と思ったんです。とても旋律が清らかで、過去を振り返っているような情景も見えつつ、暗すぎなくてさわやかさもあって。この曲なら哀しみとか未練とか後悔といったウエットな気持ちを託しても浮上しきれないほどにはならないだろうと思い、詞を書かせていただきました。さっきも言ったように、どんな感情も肯定したかったのでドロドロの歌詞を書く気も満々だったんです(笑)。和の雰囲気だったり“いにしえ”感のある曲だったから、古語辞典とお友達になりながら、今までの自分がやってこなかった言葉の紡ぎ方に挑戦して。ヴォーカルもボソボソと独り言のように歌わせてもらいました。
安野希世乃
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OKMusic編集部

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