『ハワイ・チャンプルー』は
ハワイを中心として
あらゆる音楽を混ぜ込んだ
久保田麻琴と夕焼け楽団の
邦楽史上のマスターピース

中国的音階も意欲的に取り込む

続く、M6「いつの日お前は」やM7「サンフランシスコ・ベイ・ブルース」、さらにはM9「国境の南」やM10「バイ・バイ・ベイビー」など、M5以降もブルースやロックンロールにハワイ音楽を融合させている楽曲を聴くことができるが、M8「上海帰り」はそのチャンプルー具合に最注目しなければならないナンバーではないかと思う。まさに、ごちゃ混ぜなのだ。ここまでくるとスティールギターは入っていて当然として(?)、リズムはレゲエで、サイドギターはスッチャスッチャとカッティングを刻む。ヴォーカルの主旋律は言葉の音符への乗り方からしても和風な印象で、日本のフォークソングや童謡のような親しみやすさがある。木琴の音色がポップに響くとか、ちょっとリバースっぽい音が聴こえてきてサイケ風だとか、後半でドラが鳴らされるとか、細かなアレンジも聴きどころだが、極め付けはやはり中華風音階を取り入れていることだろう。端的に分かる範囲のことを言えば、中華、和風、レゲエ、ハワイアンの融合といったところで、チャンプルーの面目躍如といった気さえしてくる。ごちゃ混ぜとは言ったが、無論、闇雲に混ぜ合わせているような感じはなく、そのアレンジ、アンサンブルはあくまでもスマート。レゲエ調のリズムが根底を支え、主メロは日本風。その主メロのサブ的役割で、中華とハワイアンが入れ替わるように鳴る。そんなふうに整理されている。この辺りも、今さら言うまでもないことだろうが、久保田麻琴のセンスはもちろんのこと、夕焼け楽団を始めとする参加メンバーの確かなテクニックの成せる業であることは言うまでもなかろう。

アルバムのフィナーレであるM11「オー・セニョリータ」はゆったりとした弾き語りと言えるナンバーではあるものの、一旦フェードアウトしてから、ガムランっぽい音とか、不協気味のピアノとか、変な音も含めていろいろと聴こえてくるという妙な仕掛けで終わる。気持ちのいい感じだけではない、収まりがいいだけではない…というクリエイターとしての遊び心だったのだろうか。好みは分かれるところだろうが、フックの効いた感じではある。

もう一度言うけれども、本作のリリースは1975年。ご存知の通り沖縄返還は1972年であるから、その3年後に発売された作品である。今や沖縄が日本であるのを当然のことと受け止めている人がほとんどであって、そこに何ら不思議な感覚を持つ人はいないだろう。だが、1975年当時はどうだったのだろうか。太平洋戦争終結後の間もない時期に生まれた人にとっては、物心ついた時に日本の国に組み込まれた地域という印象だったことは想像できる。沖縄の文化も相当に珍しいものであったろうし、その音楽に至っては完全に未知のものであったに違いない。久保田麻琴ら、1960年代後半の日本のロック黎明期から活動していたミュージシャンたちの中には、音楽的にも宝の山と言えた沖縄に色めき立ったのは極めて自然なことであった。

そうそう、ここまですっかり書くことを忘れていたが、本作『ハワイ・チャンプルー』は細野晴臣と久保田麻琴との共同プロデュースで、細野はドラムも叩いている。細野晴臣もまた沖縄音楽に影響を受けている。今回はそこに触れなかったが、以前、当コラムで『喜納昌吉&チャンプルーズ』を取り上げた際に書いているので、こちらも合わせてお読みいただければ幸いである
■『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』
『喜納昌吉&チャンプルーズ』/喜納昌吉&チャンプルーズ
https://okmusic.jp/news/271978

TEXT:帆苅智之

アルバム『ハワイ・チャンプルー』1975年発表作品
    • <収録曲>
    • 1.スティール・ギター・ラグ
    • 2.ムーンライト・フラ
    • 3.ウォーク・ライト・イン
    • 4.初夏の香り
    • 5.ハイサイおじさん
    • 6.いつの日お前は
    • 7.サンフランシスコ・ベイ・ブルース
    • 8.上海帰り
    • 9.国境の南
    • 10.バイ・バイ・ベイビー
    • 11.オー・セニョリータ
『ハワイ・チャンプルー』('75)/久保田麻琴と夕焼け楽団

OKMusic編集部

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