『ハワイ・チャンプルー』は
ハワイを中心として
あらゆる音楽を混ぜ込んだ
久保田麻琴と夕焼け楽団の
邦楽史上のマスターピース
中国的音階も意欲的に取り込む
アルバムのフィナーレであるM11「オー・セニョリータ」はゆったりとした弾き語りと言えるナンバーではあるものの、一旦フェードアウトしてから、ガムランっぽい音とか、不協気味のピアノとか、変な音も含めていろいろと聴こえてくるという妙な仕掛けで終わる。気持ちのいい感じだけではない、収まりがいいだけではない…というクリエイターとしての遊び心だったのだろうか。好みは分かれるところだろうが、フックの効いた感じではある。
もう一度言うけれども、本作のリリースは1975年。ご存知の通り沖縄返還は1972年であるから、その3年後に発売された作品である。今や沖縄が日本であるのを当然のことと受け止めている人がほとんどであって、そこに何ら不思議な感覚を持つ人はいないだろう。だが、1975年当時はどうだったのだろうか。太平洋戦争終結後の間もない時期に生まれた人にとっては、物心ついた時に日本の国に組み込まれた地域という印象だったことは想像できる。沖縄の文化も相当に珍しいものであったろうし、その音楽に至っては完全に未知のものであったに違いない。久保田麻琴ら、1960年代後半の日本のロック黎明期から活動していたミュージシャンたちの中には、音楽的にも宝の山と言えた沖縄に色めき立ったのは極めて自然なことであった。
そうそう、ここまですっかり書くことを忘れていたが、本作『ハワイ・チャンプルー』は細野晴臣と久保田麻琴との共同プロデュースで、細野はドラムも叩いている。細野晴臣もまた沖縄音楽に影響を受けている。今回はそこに触れなかったが、以前、当コラムで『喜納昌吉&チャンプルーズ』を取り上げた際に書いているので、こちらも合わせてお読みいただければ幸いである
TEXT:帆苅智之