『ハワイ・チャンプルー』は
ハワイを中心として
あらゆる音楽を混ぜ込んだ
久保田麻琴と夕焼け楽団の
邦楽史上のマスターピース
「ハイサイおじさん」と
ハワイをチャンプルー
対して、久保田麻琴と夕焼け楽団は、アルバムのテーマ通り、そこにハワイテイストを入れている。やはり注目はギター3本のアンサンブル。バンジョー風のトレモロ奏法、ウクレレっぽくも聴こえるサイドギターの刻み(ウクレレかもしれない)、そしてブルージーなリードギターと、それぞれに異なるジャンルと言っていいようなギタープレイを見事にチャンプルーすることに成功している。テンポは緩やかでゆったりとした感じはレイドバックと言えなくはないけれど、決してダラダラした感じではなく、いい緊張感が続いていく。今回調べるまでまったく知らなかったのだが、同曲は日本のグループ、ダニー飯田とパラダイス・キング(以下パラキン)も「ポッカリ歩こう」の名前で1963年にカバーしているそうである。そのパラキン版はコーラスに独自性はあるものの、サウンド面ではThe Rooftop Singers版から大きくかけ離れていなかったのだが、それはさておきーーこのパラキンは結成当初、ハワイアンソング中心のグルーブだったという。M1のセンスを鑑みれば、おそらくそれも選曲にあたって加味されたのだと想像できる。
ゆったりとしたリズムに乗せてブルースとハワイアンを融合させたM4「初夏の香り」に続くのはM5「ハイサイおじさん」。本作の中心と言っていいナンバーだろう。この楽曲があるからこそ、このアルバムには“チャンプルー”が付けられていると言っても過言ではない。「ハイサイおじさん」は有名な楽曲なので、タイトルを聴けばピンと来る人も多かろうが、おそらく多くの人は1977年のアルバム『喜納昌吉&チャンプルーズ』、その1曲目の収録されたバージョンを思い浮かべるかと思う。だが、M5は『ハワイ・チャンプルー』は1975年発表であるから、そのカバーではない。イントロからしてハワイらしさを醸し出しているスティールギターが聴こえるところとか、エレピを重ねているところとか、あるいは女性コーラスがないとか、その辺は明らかに印象が違うと思うと思うが、おそらく多くの人がテンポ感の違いを指摘するのではないだろうか。
また、『喜納昌吉&~』版に比べるとテンポが緩やかだ。BPMがどうだとかはっきりとしたところは分からないけれど、M5はチャカチャカとした感じはない。圧力も薄いと言っていいかもしれない。『ハワイ・チャンプルー』版は1972年に沖縄のマルフクレコードからシングルリリースされたバージョンをカバーしていると見たほうがいいだろう。マルフク版を聴けば分かるが、同曲はもともとこの程度のテンポ。ダンサブルではあるものの、『喜納昌吉&~』版ほど派手ではない。ただ、M5で言えば、その原曲の持つ適度な緩さがハワイ音楽と絶妙にマッチしている。チャンプルーするには絶好だったのだろう。個人的には…と前置きを強調するけれども、どこか猥雑というか雑多というか下世話というか、そんな空気を感じざるを得ない原曲に対して、M5はすっきりとドライに仕上げている印象はある。『喜納昌吉&~』版と比較すると、その差はさらにはっきりすると思う。プレイヤーの立ち位置の違いがグルーブに表れているのかもしれない。どちらが優れているとかいうことではなく、M5には原曲に最大限のリスペクトを払いつつ、オキナワンもハワイアンもロックも取り込んで新しい音楽を創造せんとする姿勢が感じられるようには思う。