MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』
第三十二回目のゲストはGLIM SPANKY
松尾レミーー長野県出身の2人が歩ん
できた、それぞれの地図を巡る

MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第三十二回目のゲストは、GLIM SPANKYの松尾レミ。2人は同じ長野県出身で、地域は違えどお互いに田んぼや山々に囲まれた田舎で育ったという。対談の中で「あそこは何もない町だった」という発言が出る。アフロと松尾は長野の故郷で何を感じ、どんな思いを抱いて花の都は大東京に飛び出したのか。そして、憧れの地で見たものとは。我々はこの対談で2人の歩いてきた地図を巡ることとなる。
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
●「捨てられない物」という名の宝物●
アフロ:勝手なイメージだけど、家にいっぱい物がありそうだよね。
松尾レミ(以下、松尾):そうなんです! 特に、ヴィンテージの洋服がすごいことになってて。洋服を買うことで、自分の好きなカルチャーを手に取れる感じがするし、着ることで当時の空気を纏った感覚になれる。1着1着がすべて宝物だから大変なんです。
アフロ:俺も物は取っておくタイプなんだけど、捨てなきゃどうにもならないから、年1回は心のスイッチをオフにして断捨離する。
松尾:え、すごい! それは私も見習いたいです。
アフロ:それに関しての話をすると、3年前に高橋久美子さんが『捨てられない物展』という展覧会を開いたの。旅先で見つけたパンフレットやお土産を「こういう理由で捨てられないんです」と展示していたのね。それがめっちゃ良かったんだ。
松尾:それは「捨てられない物」という名の宝物ですよね?
アフロ:そうなんだよね。俺は断捨離をした後に『捨てられない物展』を見て、すごく後悔した。
松尾:理由があって捨てられないわけですからね。パンフレットで言うと、私も紙物が好きで、いつか自分でコラージュしてZineを作ろうと思って溜めています。あとはパン屋さんの紙袋や、レトロなお店の包装紙を織って封筒にするとか、そういうのが好きなんですよ。

『MOROHAアフロの逢いたい、相対』

アフロ:俺の友達で機織りをしている人がいて。展示会を開く度に自作のポストカードを送ってくれるんだ。それがしっかりした良い紙質だから、展示会が終わるとハサミで切って栞にしてる。
松尾:それ素敵ですね! 私も真似しよう。しかも、物を再利用することで心の潤いにもなりますね。
アフロ:音楽を作るときも、その感覚がある?
松尾:ありますね。脳内のアイデアを溜めておいて、レコーディングの時とかデモを作る時に生かします。私はパソコンが使えないから、メモとペンでしか曲を作れなくて。ギターの亀本(寛貴)に「この曲のあの感じを入れてみて」「あのウヨウヨしてる音を入れたい」とか、そういう感じで伝えますね。
アフロ:その説明で伝わるのがすごいね。
松尾:多分、私の好きな音や何を聴いているのかを常にシェアしてるから、分かってくれているのかな。なにより、高校から一緒に音楽をやっているのも大きいですね。MOROHAのお二人も高校からの付き合いなんですよね? 高校時代に(MOROHAを)組んでいたんですか?
アフロ:いや、俺は野球部の補欠。UKは既にギターを演奏してて、学校の顔みたいな存在だった。他校にUKのファンクラブがあったんだよ。で、「カッコイイ」とかでUKの写真が出回ってさ。その写真を見たら、後ろの方で俺が顔半分だけ写り込んでた。ある意味、アレがMOROHA結成の瞬間かもしれない。
松尾:ハハハ。今考えたら、すごい写真ですね。
●俺はあの山に「お前なんか、どこにも行けないんだよ」と言われている気がしていた●

『MOROHAアフロの逢いたい、相対』

アフロ:Googleマップで松川高校(※松尾と亀本が通っていた学校)の周辺を見たけど、俺の育った上田と同じぐらい田舎に見えた。山や田んぼに囲まれて、コンビニがかろうじて1軒あるみたいな。
松尾:そうなんですよ。それもあって、地元の風景を描いてるMOROHAの曲を聴くと、自分の故郷と重ねつつ、長野県民である嬉しさを勝手に感じています。私は長野から上京して、今こうして音楽を仕事にしている。そのストーリーと重ねて、すごく心を打たれるんです。
アフロ:俺が育ったのは「特に何もない町だった」とつい言っちゃうんだけどさ。
松尾:私もそうですよ。
アフロ:よくあそこから……ね。
松尾:本当に何も無さすぎて。コンビニも1軒だけですし、信号も3つしかなくて。
アフロ:生まれた時から町にコンビニはあった?
松尾:いえ、私が中学の頃にセブンイレブンができました。
アフロ:一緒だ。俺も中学の時にコンビニができて、当時は店の外まで行列になったんだから。
松尾:それこそファミマが数年前にできて、飯田に(※松尾の地元・豊丘村の隣町)。無印良品グッズを買えるから、ものすごい行列になって。
アフロ:そんな環境の中で、どんな風に育ったの?
松尾:祖父が職業画家みたいな感じで、郵便局員として働きながら日本画を描いてる人だったんです。さらにある親戚は日本画家だけで生計を立てていたので、正月になるとお弟子さんから作品が送られてきて。それを祖父と一緒に見ていましたね。絵の具と筆が身近にあったのもあり、小学生の頃には美大に入ると決意して。中学でアクリル画を始める一方、ロックにもハマちゃって。そこからは絵も描くし歌もやろうと。それで高校はバンドがやれそうな学校を探して入学したんですけど……まさかの軽音部禁止だったんです。
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
アフロ:なんで!? めちゃくちゃ下調べ甘くない? 
松尾:飯田には商業とか工業とか専門的な高校が多くて。そっちに行くと勉強が大変だと思ったので、まずは普通科に行きたいと考えたんです。いざ松川高校に入学したら軽音部がダメで。先生に交渉したら「有志ならやってもいい」と言われて。それで高校1年の5月にGLIM SPANKYを作ったんです。そこから色々あって、その年の秋に1学年上でサッカー部だった亀本先輩がバンドに入ってくれて、今に至ります。
アフロ:有志ということは、部活動としては認めないし部室もあげないけど、やりたいなら勝手にどうぞ、ということ?
松尾:はい。文化祭の時は「自分たちでステージを作るなら、ライブをやってもいい」と言われて。
アフロ:それは松尾さんにとっても、良いことだったのかもしれないね。
松尾:有志となると本気でやりたい人しか集まらないので、逆にやる気になりましたね。あと、飯田に「CANVAS」というライブハウスがあるんですけど、月1で誰でも飛び入り参加ができるんです。そこに出るために、一生懸命練習をしてました。他の出演者はブルースをやるおじさんばっかりで、私たちがステージに立つと「どんなもんだ」という怪訝な表情を浮かべて客席に座っていて、そんな中でライブをやり続けた高校時代でした。だからアウェーとか、怖いと言われる客層とかも全然平気で。逆に、そっちの方が燃える。今となってはあの頃に鍛えられた感じがします。
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
アフロ:ちなみに意識してその歌声なのか、歌ってみたらその声だったのか、それはどうなの?
松尾:記憶にあるのが、オリジナル曲を作って初めてスタジオで歌った時。何組かのバンドでスタジオを使っていたんですけど、その中にお世話になっていたブルース好きのおじさんがいて。私が歌った瞬間に「ちょっと待って! その声はなに?」と言ってくれて。自分ではガラッとなるのは分かっていたけど、そこまで変わったこととは思っていなかったんです。いや、違和感はあったんですよ。合唱曲を歌っていても、どうしてみんなのように透き通ったソプラノが出ないんだろうとか。でも、そんなにおかしいとは思っていなかった。おじさんから「その声は特別な個性だよ」と言われて、初めて自分の特性に気づきました。アフロさんは表現の仕方とか言葉の伝え方みたいなのって、最初から今のスタイルでした?
アフロ:初めてデモCDを録った時は、首にジャラジャラのネックレスをぶら下げて「プチャヘンザ」と言ってるような「ラッパーはこういうことをやるべきだよね」という、HIPHOPのマナーに則っていた。自分では思っていないことでも「こうしなきゃいけない」というものに取り憑かれていて。でも、それをやっている時は、なんとなく馴染めるけど、褒められはしないんだよね。それから自分の思っていることを書こうと、ちょっとずつ気持ちがシフトしていって。MOROHAをやると決めた時には、アコギとラップなんてどうしたって馴染まないんだから、もっと振り切って自分の思っていることを歌おうと思った。これは長野県あるあるだと思っているんだけど、長野には四方八方に山があるじゃん。その山を都会の人は羨むわけよ。だけど、俺はあの山に「お前なんか、どこにも行けないんだ」と言われている気がしていた。
松尾:うんうん、分かります。
アフロ:「あの山よりもデカくなって、俺は何者かになるんだ」と意気込んで上京して。アコギとラップという特異的なスタイルだったら、もしかしたらあの山の人にも届くような存在になれるかもしれないと思った。これは冷める言い方かもしれないけど、ある意味ではビジネスライクでもあって。このスタイルだったら、低音がないからリリックが聴き取りやすいし、俺の良さとUKが弾くギターのリフの良さだけが浮立つ感じになると思ったんだ。
●「先生たちはみんな味方だから。あんな奴らのことは気にせず東京に行ってこい」●
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
松尾:最初からそこまで考えていたのがすごいですね。山の話と近いことで言うと、私の周りにいた一部の大人達がそうでした。例えば中学の頃は「ウチの子に、バンドなんて絶対にやらせないで下さい」と言っていた保護者がいたし、高校でも町の人たちは「バンドなんてやってどうすんの?」と。美術大学に行くことに関しても「お絵かきをして何になると思ってるの?」とか、結構色々と言われましたね。その度に私は「今に見てろ」と思って。
アフロ:否定されても動じなかったんだね。
松尾:自分がやると決めた時点で、何を言われても心は揺るがなかったです。あとは、学校の先生みんなが、私の味方をしてくれたのが大きかったですね。私、生徒会の副会長だったんですよ。生徒会に入ったら、最初に町の人の前で挨拶をしなくちゃいけなくて。司書さんとか有名な工場の社長さんとか、色んな大人が集まった前で「次期生徒会役員です。これから宜しくお願いします」と挨拶をする。その後、自分の夢や目標を話すコーナーがあったんです。そこで「私は音楽が好きで、今音楽をやりながら美術大学に……」と最後まで言い切る前に、町の人たちがクスクス笑いだして。「何言ってんの?」と馬鹿にされたけど、「でも、私はこれがやりたいんで」と言ってその会は終わったんです。そしたらすぐ職員室に呼び出されて、何を言われるかと思ったら「町の奴らはヒドいことを言ったけど、先生たちはみんな味方だから。あんな奴らのことは気にせず東京に行ってこい」と言ってくれて。確かに、町の大人達が笑っていた時も、学校の先生だけは誰1人も笑わずに真剣に話を聞いてくれていたんです。
アフロ:それはすごくレアケースな気がするな。どちらかと言うと、学校の先生の方が現実的なことを言うものなのに。
松尾:そうですよね。あと、授業も私1人だけ特別の時間割にしてくれたんです。「美大に行きたいんだろ? それなら受験に関係ない授業は受けなくていいから」と言って、一限目に美術、二限目に体育、三限目に美術みたいな時間割を組んでくれて。そのおかげで日本大学の芸術学部に合格しました。そんな感じで、地元は感謝と悔しさが入り混じった場所なんですよ。
アフロ:色々言ってきた人たちが、手の平を返す瞬間もあった?
松尾:ちょいちょいありましたけど、それも全部想像していたというか。悔しい思いをさせられた人たちはめちゃくちゃいるんです。だけど、その人の気持ちさえも変えられる歌を歌ってやる、という気持ちでいました。それは今もそうですね。アフロさんが、音楽で熱い気持ちになったキッカケは何ですか?
アフロ:高校生の頃、村に1軒だけあるコンビニで『Samurai magazine』というストリート系のファッション誌を毎月買っていたの。その最後のページに、パーティスナップという企画があって、都会のクラブで遊んでいる人たちが写っているわけ。それを田舎の高校生だった俺が草っ原に囲まれた公園で読んで「絶対に俺はこっち側に行くんだ」と思っていて。で、18歳で上京すると真っ先にクラブへ行ったわけよ。だけどお金がないから、最初に払うドリンク引換券1枚で、夜10時から朝5時まで遊ばないといけなかった。そこには毎日クラブで遊んでいるようなイケてる連中がたくさんいて。その人たちがいつものノリで遊んでいるのを輪の外から眺めていて。俺はというと憧れの場所に足を踏み入れたけど、ウーロンハイ1杯を一晩かけてちびちび飲んで、楽しくもないのにずっとそこにいたの。クラブへ行くまでは地元の友達と「可愛い子がいたらナンパしようぜ」なんてテンション高く言っていたんだけど、お互いに何もしないまま明け方の道玄坂を2人で歩いてさ。俺が悔しさと恥ずかしさのあまり「全然可愛い子いなかったな」って言ったの。それが俺の中で、ものすごく虚しく響いて。自分が臆病で声をかけられなかったことを、周りのせいにしたと気づいた瞬間に「せっかく東京に来たのに、このまま終わっていくのは嫌だ」と思った。あの時が俺の中でスイッチが入った瞬間かもしれないね。
●どんな挑戦をしても、私が歌えば大丈夫だ●

GLIM SPANKY 松尾レミ

松尾:ああ……良い話ですね。ウーロンハイ1杯をちびちび飲むのも、すごい共感できます。
アフロ:松尾さんは上京して行きたかった場所はある?
松尾:国分寺の「ほんやら洞」という喫茶店ですね。そこは舞台関係者とかカメラマンだったりとか、色んな人が集まってカウンターでよく話をしてるんです。高校生の頃、父親と一緒にそこへ行って「こういうところにカッコイイ人が集まるんだ」と思いながら見てて。上京後もよく1人で「ほんやら洞」に行って、周りの人の話を盗み聞きしながらラッシーを飲んでました。そのあとは近くの「でんえん」というクラシック喫茶へ行くですけど、そこは80歳くらいのおばあちゃんが1人でやっていて。漫画家さんだったり作家さんだったりが来て、そこで作品を書いていたと言われているんです。あとは、ゆらゆら帝国の坂本(慎太郎)さんが看板の絵を描いた「珍屋」というレコード屋に寄って、最後に60sから70sのヴィンテージの洋服が豊富に揃っている「朝日屋洋品店」という、ヒッピーみたいなお兄さんがいるお店に行くんです。当時は本当にお金がなかったので、1着500円のトレーナーとかを頑張って買って。お店のお兄さんに洋服の話をしてもらって、そこから自宅があった所沢に帰る。自分の好きなお店で、そこのムードを感じるのが好きなんです。
アフロ:そのムードの話は、古着を捨てられない理由の根底だろうね。
松尾:そうですね。そこのムードを着るというか。それが昔から大事にしてることかもしれないです。
アフロ:そしたら捨てられなくなるよ。松尾さんにとって洋服を手放すということは、自分が纏っているムードを手放すってことだもんね。
松尾:本当にそう。自分の好きなカルチャーとか、その年代の洋服を買うことが私にとってのセラピーになってる。そして、それを自分の作品に還元するのがルーティンなんです。
アフロ:買う物と表現する音楽性はセットになっているんだ。
松尾:そうなんです。例えば今日着てるのも全部古着なんですけど、そこにバックボーンを見る。それは自分の表現や好みに繋がるじゃないですか。逆に、それがあるからこそ何をやっても怖くない。どんな挑戦をしても、私が歌えば大丈夫だなっていう、自分に対しての信頼は持つようにしています。怖がりなんで、自分の自信を忘れないようにしてる。
アフロ:自信が揺らぎそうになる瞬間はどうする?
松尾:家の中を見渡します。どう足掻いても、ここにある自分の好きな世界は崩れない。家にある物を見渡して「これは変えられんわ」と再確認します。
●本気で「分かるだろ?」と言われた時に、聴く方の意識もガラッと変わる●
MOROHA アフロ
松尾:曲作りのスランプというか、歌詞が出てこないことはありますか? 
アフロ:言葉が出てこないことはないけど、作っていて過去曲と同じ内容をただ別の角度からなぞってるだけだな、と思った時は気持ちが冷めちゃうね。例えば、恋をした時、人は詩人になると思うの。歯が浮くようなことを無意識に言ってる。だけど、その瞬間は歯が浮くことだと思って言ってないんだよ。曲を作る時もそれが大事で。
松尾:分かります。例えば「ありがとう」を誰がどう歌うかによって、伝わる力が大きく変わる。GLIM SPANKYの音楽はどんなに普通な言葉やクサい言葉でも、本当にそうだと思って歌えばそれが最高の言葉になると信じているんです。それこそMOROHAの音楽を聴いていると、その力が溢れている。だから心に刺さるし、どんな言葉でもあっても、その一言のパワーが爆発してると思うんです。まさに自分が大切にしてることなので、すごく響きます。
アフロ:クサい言葉を自分がクサいと思ってしまう状況はさ、曲も作れないしダメだよね。そもそも歌を作って人に発表するなんて、その時点でイタい奴なんだから。それを理解してちゃんと行き切ることが大切で。本気で「お前も分かるだろ?」と言われた時に、聴く方の意識もガラッと変わるわけじゃん。それは対誰かにしても一緒。結局、人の挑戦を笑っちゃったり、誰かの失敗に対して自分が気持ち良くなるために冷ややかな目で見たりすると、自分の創作意欲も落ちる。それと俺は悔しさも曲にしてきたけど、過剰に歪んだ悔しさを抱えちゃうと、スランプになるのかもしれない。相手のことを減点方式で見ちゃうとか、そうなるとキツイよね。
松尾:そうなんですよね。それで言うと、1枚目のアルバム(『SUNRISE JOURNEY』)で、いしわたり淳治さんにサウンドと歌詞のプロデュースで参加していただいたんですね。その時、私は業界人が全員敵だと思っていて、プロデューサーという存在もすごく疑っていた。曲とか歌詞に関しても、喫茶店で淳治さんに「これは歌わない」「これだったら私の言葉が生きない」とか、極限までやり合った。そしたら淳治さんがポロッと言ったんですよ。「愛してる、という言葉があるじゃん。おじさんが書いた歌詞だろうがなんだろうが、それを本気で思ってるかどうかは歌を聴けばわかるよね」と。その瞬間にハッとしたんです。それまでの私は、淳治さんが提案してくれたシンプルな言葉を全部否定していた。だけど、自分が本気でそう思って歌えば、どんなフレーズでも最強のパワーになる。何より、どんな言葉でも魂を感じられる歌を歌える人になりたいと思ったんです。それが高校の時に色々言ってきた大人たちにも響く歌を歌いたい、と思った自分と重なった。淳治さんに言われるまでは文学的な歌詞ばかりを追い求めていたんですけど、『SUNRISE JOURNEY』以降はどんな言葉でも歌えるようになりました。
アフロ:同じと言ったらおこがましいけど、俺もどんどん吐く力が強くなってる。経験があったりとか、好きな人が増えたら「好きです」という言葉に奥行きが出るじゃん。それゆえに「好きです」という言葉で全て伝わるんじゃないかと思ったりする。でもライブだと「好きです」だけでもお客に届くんだけど、音源化した時にはどうしても貫通力が足りない気がしちゃうの。だからこそ、前後のレトリックが必要になる。そこの具合をいつもせめぎ合ってるね。一方で矢沢永吉さんの「アイ・ラブ・ユー」とか(忌野)清志郎さんの「愛しあってるかい?」は、シンプルだけど山の先端までビューンと行くでしょ。
松尾:一言で相手の心を突くわけですね。
アフロ:ラッパーも吐く力が強くなってくると、「コレで伝わるでしょ」というところまでバイタリティがいくのよ。ただ、ラップというのは回り道の美学であって、シンプルな言葉ではどうしてもロックに勝てないと思う。例えば、中学生のリスナーがいたとして、まだ奥行きを見通す目がない人たちに対しては、やっぱり言い回しの美しさで届けないと受け取れないんじゃないかなとか。実際に、シンプルな言葉使いをするようになったラッパーのアルバムを20代前半の時に聴いて「言い回し甘くなったな」とか「レトリックを使わなくなったな」とか「年をとるとこうなっちまうんだな」と思っていたんだ。でも、30歳を超えてその音源を聴くと食らったりするんだよね。
松尾:キャッチする側の感性によって変わることもありますよね。
アフロ:もっと言えばビジネスとして、どこの世代にどう届けるかを考慮しなければいけない。でも、その考えは邪だよね。だから、自分の代わりにそういうのを考えてくれるのがプロデューサーなんだろうなと思う。
●『仮面ライダー』を観ていた子供が、いずれ成長してMOROHAと出会ったら最高だなと思う●
MOROHA アフロ
松尾:自分達の音楽を、老若男女みんなに深く届けるのが今の目標なんです。もちろんメインストリームが伝わる場所と伝わらない場所はある。だけど、どんな曲も裏側にはバックボーンの深さがあって。そういうのを何とかして盛り込んで、手術して繋ぎ合わせてやってる感覚なんです。
アフロ:音源からもそういう道を行ってるのが伝わるよ。
松尾:今は時代の変化と共に、みんなの音楽の聴き方も変わって、ロックがどうあるべきなのかを見つけるのが難しいと思うんですよ。リアム・ギャラガーも最近のインタビューで「ロックは金持ちのやることだ」と言ってて。確かに、誰もがパソコン1台で楽曲制作ができてしまう時代ではある。そんな中でどう付加価値を付けていくべきか。私は、ロックは「ダサい」も「カッコいい」も紙一重だと思ってるんです。それを自分なりの調理の仕方と美学を合わせて、カッコいい部分を伝えたいと思いながらやってきてはいるけど、そのさじ加減が難しいですね。
アフロ:「ロックとは何か」「カッコいいとは何か」が一番の根源だもんね。それこそ最近、松尾さんがカッコいいと思ったものはある?
松尾:エミット・ローズがすごく好きで。「ビートルズの曲に負けてないじゃん」と思うくらい衝撃を受けました。あとは、改めてT・レックスがカッコいいと思ってて。シャッフルで流していた時にふと流れてきて「これ最近の曲だっけ?」となった時にすごいなと思ったんです。時代に関係なく誰の曲かパッとわからなくても、素直にこのサウンドはカッコいいと感じた。そういうのを素材として頭の中に溜めておいて、自分の楽曲の種にしたいなって。あとはジュディ・シルという、私がハマりにハマった女性ミュージシャンがいて。リリースされなかった3枚目のアルバムがあるんですけど、それをエンジニアとして録っていたのがエミット・ローズだったんです。
アフロ:そういうのは不思議と繋がってるんだね。
松尾:そうなんですよ。ジュディ・シルは本当に最高で。彼女はウッドストック界隈の人たちが仲間にいたりと、間違いなく自分のルーツの中にいるんです。
アフロ:そういうのは自分で探し当てるの?
松尾:好きなアーティストの関連音楽を調べたり、周りの人と情報交換をしたりします。あとはジャケ買いが好きで。HMVのサイケデリック・ガレージコーナーに私はよく出没してるんですけど、そこでフォントとか洋服や髪型だったりを見てジャケ買いするんです。特に、フォントの大きさが肝ですね。ジャケットに対しての文字の大きさで、いつの時代の音楽なのかが大体分かるんですよ。その中から自分の好きなジャケットを買います。
アフロ:ジャケットからルーツを感じるというのは、まさにさっきの話と繋がるね。
松尾:そう思うと、やっぱり私は繋がっているのかな。私のガチ趣味は、60sの世に出ていないサイケレコードで。そういう素材はGLIM SPANKYに少し入れてみたりして、それが音楽をやってて楽しいんですよね。
アフロ:今の音楽はずっと残るからさ。今の時代の人が気づかなくても、次の時代の人が気づくかもしれないって思うとロマンがあるよね。俺は仮面ライダー(『仮面ライダージオウ』)の変身ベルトの声を担当したんだけど、それを聞いていた子供がいずれ成長してMOROHAと出会ったら最高だなって思う。そういうドラマに想いを馳せるのが好き。
松尾:子供の頃に聞いた声や思い入れのある声って、自分の血となり肉となってるじゃないですか。大人になってからMOROHAの音楽を聴いて、自分にしっくりくると思ってファンになる子も多いと思います。
アフロ:そこで「仮面ライダーだったからだ!」なんてところまで遡れたら素敵だよね。
●自分にとっての心の支えは、人それぞれにある●
GLIM SPANKY 松尾レミ
松尾:今、GLIM SPANKYは表面的に言えば仕事になっているし、それで自分も生活している。だけど亀本とよく「心の中の感覚は、高校時代の文化祭のままだよね」という話をするんです。
アフロ:有志でやっていた頃のことか。
松尾:はい。たまに忘れそうになるんですけど、その時はお月様を見て思い出します。私は1900年代初頭の文化が大好きで、あの頃のヨーロッパでは月をモチーフにするブームがあったんです。その時に「コティングリー妖精事件」というのが起きて。イギリスのコティングリーという田舎で、写真を撮ったら妖精が写っていたという事件があったんです。小学生の頃にそのドキュメントを見て以来、妖精文化が大好きになりました。サイケデリックロックが好きになったのも、そこから来てるんです。私の中で全部が繋がっている。妖精の文化とかお月様だったりとかを見ると、自分のルーツに立ち帰れるんですよね。
アフロ:この前、ウチのばあちゃんが亡くなったんだけど、下世話なことを言うと和尚さんってしっかり金を持っていくでしょ? もちろんお経を上げてくれるけど、「本当に意味はあるのかな?」と思いながら手を合わせてて。結局それ自体に効果があるとかじゃなくて。みんなが手を合わせて、その場にいることに対して金を払ってると思ったら、割とすんなり受け入れられた。祈ったからばあちゃんが天国に行けるのかは分からないんだけど、でも自分達のための祈りというか。
松尾:中学の頃、友達に誘われて教会へゴスペルを歌いに行ったんです。私は何事も疑ってかかるから、もしも入信を勧められても入らないと決めてて。だけど友達が祈ってる姿を見た時に、その子は祈ることで自分に対してのセラピーになっているんだなと思ったんです。友達の祈りというのは、私にとってロックがそうだし、カルチャーやお月様がそうかもしれない。自分にとっての心の支えは、人それぞれにあると思いますね。
●いくら過去に思いを馳せようが、昔は良かったと思おうが意味はない●
『MOROHAアフロの逢いたい、相対』
アフロ:最後にしたかった話があるんだけど、「古い地図は信じない」(※GLIM SPANKY「風は呼んでいる」の一節)ってめっちゃ良いよね。
松尾:あ、ありがとうございます! 
アフロ:めっちゃ良いんだけど、俺の耳が悪かったせいで違う受け取り方をしてて。
松尾:というと?
アフロ:「ズルい地図は信じない」と歌ってると思ったの。ちょうど音楽をやる中で、自分の気持ちが充実する方よりも、効率を求めそうになった瞬間があってさ。そういう心が揺れている時にGLIM SPANKYを聴いて「ズルい地図は信じない」と聴こえた瞬間に、まさに自分はズルい地図を描こうとしていたことに気づかされた。聞き間違いで恐縮なんだけど。
松尾:いやいや、嬉しいです。私が言いたかったのは、アフロさんの解釈と同じようなことなんですよ。教科書もそうですけど、今まであった道が潰されて新しい道になることが多々あるじゃないですか。行こうと思っていた道がなくなったり、逆に新しい道ができていたり。その中で自分は過去に行くんじゃなくて、新しい時代へ行くしか選択肢はないわけで。いくら過去に思いを馳せようが、昔は良かったと思おうが意味はない。「古い地図は信じない」というのは、これから自分の行くところ=新しい地図になる。そういう気持ちで書きましたね。
アフロ:古い物好きな人がそれを言うところに、面白みがあるよね。
松尾:そうなんです! 昔の物はもちろん好きなんですよ。でも、昔ばかりを振り返って進もうとしないのは嫌いで。「大事なのは時代とかジャンルとかじゃなくて、その中のどこに心を惹かれたのか」というのが自分の骨子になっていると思うので、そこを一番に信じたい。そういう気持ちで私は生きています。
アフロ:そもそも、その人たち自身が「古い地図を信じるな」と言ってたわけだからね。踏み台になることを望んで作られたもの、とも言える。俺らがやってることもそうじゃん。
松尾:うんうん、そうですね。
アフロ:それを目的に曲を作るわけではないけれど、誰かの表現の中に自分の存在が垣間見える時が来たら嬉しいだろうな。他人の人生において自分の音楽がパーツの一つになれている、と思えたら素敵だよね。
文=真貝聡 撮影=大橋祐希

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