湖月わたる、珠城りょうら、宝塚OGだ
けの舞台『8人の女たち』出演者が口
を揃えた「卒業生の間で生まれる家族
感」

1950年代を舞台にしたフランスの戯曲で、カトリーヌ・ドヌーヴらによって映画化されたことでも知られる『8人の女たち』。日本でも上演されたことのある同作が新しく生まれ変わり、元宝塚歌劇団トップスターのみで、8月27日(土)〜9月4日(日)にサンシャイン劇場、9月9日(金)〜12日(月)に梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにてストレートプレイでの再演が決定した。出演は湖月わたるをはじめ、水夏希、珠城りょう、夢咲ねね、蘭乃はな、花乃まりあ、そして真琴つばさ、久世星佳の8名。今回は稽古の開始を前に、湖月と珠城、夢咲、花乃の4名へ、作品についてはもちろん「家族感がある」と口を揃える宝塚OGの絆なども訊いた。
湖月わたる
ーー今回、全ての出演者が宝塚歌劇OGという珍しい公演になりますが、オファーを受けた際はどのようなお気持ちでしたか?
湖月わたる(以下、湖月):今回、フランスの有名な戯曲『8人の女たち』を宝塚のOGで上演されると伺った時に「新たなOG公演の幕開けだな」とワクワクしました。私にとっても、とても大きな挑戦になると期待しています。
珠城りょう(以下、珠城):宝塚のOGだけでストレートプレイを上演する、かつどの役も主役になりうるようなキャラクターの強い女性たちの物語の一員として出演できることが、とても楽しみです。皆さんの稽古場での演技を見て学びつつ、女を磨いていこうと思います。
夢咲ねね(以下、夢咲):登場人物が8人だけで、1シチュエーションのみでお話が展開していくので、役者に任せられている作品です。これまで何度も上演されてはいますが、きっとその都度のキャストさんでしか作り得ないもがあって、今回はそのキャストがこの8人。初めて知った時は衝撃で「豪華すぎてどうしよう!」と思いました。皆さんとご一緒できることが純粋に嬉しいです。
花乃まりあ(以下、花乃):私もこの作品に出させていただけると分かった時は、緊張と喜びとが入り混じりました。今も信じられない気持ちで、素敵な先輩方とご一緒させていただけることは本当に嬉しいです。
珠城りょう
ーー同作はクリスマスイブの朝、雪に閉ざされた大邸宅で一家の主であるマルセルが殺されて、全員が容疑者となってしまった家族のお話で、それぞれが持つ秘密を明らかにしていくミステリー作品です。みなさんはどの役柄でご出演されるのでしょうか?
湖月:私はマルセルの妻のギャビーという、映画ではカトリーヌ・ドヌーヴさんが演じられていた役を務めさせていただきます。プライドの高い女性なんですけれども、そんな彼女に潜む繊細な部分も大切に演じていけたらと思っています。
珠城:私はマルセルの妹のピエレットを演じます。映画を観た印象としては、演じられているファニー・アルダンさんの持つ雰囲気がとてもミステリアスで、どこか家族のやりとりを達観して見ていたので、自分が演じるとなった時に……本当に大きな挑戦で……。
湖月:大丈夫よ!
珠城:ハハハ(笑)。頑張らなきゃと思いました。
夢咲:8人のうち、私はルイーズという新人メイドの役を演じます。映画を観た時に、お友達になりたくない女性だなと思ったのですが、その中で演じ甲斐があるところも見え隠れしていたので、早くお稽古で皆さんと一緒に作り上げていきたいですね。
花乃:私はカトリーヌというマルセルとギャビーの次女役を演じるのですが、映画を拝見してお友達になりたいなと思いました(笑)。こんなに明るい人が家の中にいてくれたら、とっても毎日が楽しいでしょうし、彼女の少し野生みのあるような部分とか、私自身が感じた彼女の素敵なところを崩さないように演じていきたいです。
夢咲ねね
ーーご自身の役どころについて、もう少し詳しくお聞かせください。
湖月:8人の女性それぞれが、家族だからこそ言えない、言いたくない秘め事を抱えています。私も事件が起こった日は、ある大きなことを決行しようと思っていて、それを胸の内に秘めているんですけれども。物語の後半にある、りょうちゃん演じるピエレットさんと2人だけのシーンが、彼女にとって一番の山場かなと思っていますので、そこに向けて作り上げていきたいです。私には2人の可愛い娘がおりまして、次女役の花乃ちゃんとは今日会ったばかりですが、もう自慢の娘になりそうです(笑)!
珠城:彼女は常に愛を欲していて、愛というものは何なのかということに囚われている女性です。自分も愛されたいし、誰かを愛していたい。だからこそ自分なりに秘めていたことや、絡まっていたものが、わたるさんも仰っていたギャビーとのシーンで、ひょんなことで一気に解けていってしまうんです。彼女自身も驚いたでしょうし、私も映画を観た時に「こういう展開になるの!?」と思いましたので、皆様にも楽しんでいただきたいです。映画ではセクシーでミステリアスな女性だったので、そのイメージで作っていけるようにしたいと思います。
夢咲:登場人物が適材適所で、全員のキャラクターが濃いじゃないですか。なので、この濃いキャラクターにどう向き合えば良いのかなと不安でした。でもキャストの皆さんを知った時に「キャラクターよりも十分に個性を持っていらっしゃる方々だ! これは絶対に大丈夫、おもしろいものになる!」と実感したんですよね。全員がひとつ秘め事を持っている中で心理戦を繰り広げつつ、ルイーズは秘め事自体をずる賢く切り札に持っているんじゃないかなと思っていて、やっぱり友達にしたくないですね(笑)。男性に見せる顔と女性に見せる顔で違うんだろうなとか、側から見ると横柄な女性だなとか思うからこそ演じるおもしろさがあると思うので、今は楽しみです。
花乃:私はこの個性的なキャラクターを役者として演じられるなら、どの役でも本当に嬉しいと思えるような素敵な作品です。でも母と一緒に映画を観た時に、カトリーヌのことを「小さい頃のあなたにそっくり」と言われて親近感を持っていたので、カトリーヌだったら良いなと思っていました。小さい頃の髪型が一緒だったので、ビジュアルが似ているということでもあると思うんですけど。見所としては皆さんに秘密があって、その役それぞれに意外性が出てくるところです。とっても複雑にできたお話で、すっかり「カトリーヌの意外性はなんなの?」と忘れていると思うんですけど、ぽろっと秘密が明らかになるところが、一番おもしろいところかなと思っています。
花乃まりあ
ーー宝塚歌劇団という女性だけの世界で過ごされてきた皆さん。同作に共感できるところや、OGだけの良さを感じたことなどはありますか?
湖月:宝塚を退団して色々なカンパニーに出演いたしましたが、OGが集結する公演に行くと「まあなんて居心地が良くて、心強くて、楽しいんだろう!」と思います。りょうちゃんと花乃ちゃんは宝塚時代では全く被らなくて、それでも今日会っただけで家族みたいな気分になれるんですよね。すでに母として2人の娘を自慢に思えていますし、私たち卒業生同士だからこそ出せるファミリー感というものをお届けできる、期待を裏切らない作品になるのじゃないかと思います。でも女たちの本音が出てきて、容赦ない言葉を言い合ったりしますので、皆様の想像をいい意味で裏切っていきます。
珠城:わたるさんの仰ったことが全てです。女性の皆さんがご覧になったら、きっと共感される部分がいっぱいある反面、男性が観たらしんどいかもしれません(笑)。でも観て欲しいですね。「女って面倒くさいな」、「本当は心の中でこういうことを考えているんだ」と思われるかもしれません。ですが、ただヒステリックになっているだけじゃなくて、女性の可愛らしい部分は絶対どこかにあるので、今の時代らしく性別は関係なしにどのお客様にもそこを探していただけたらと思います。
夢咲:私は初めての現場だと人見知りしてしまって、打ち解けるのにすごい時間がかかってしまいます。ですが、OGの方々との現場は、共演したことがなくとも一つの絆で繋がる家族のようなものが感じられます。何も取り繕わずにその場にいれて、解き放たれる雰囲気が好きで、今回まさにその現場です。家族感があるからこそ、気を遣わずに挑戦できるので、今回ならではの密度の濃さが『8人の女たち』で出せるんじゃないかと、今すごく楽しみにしています。
花乃:私も皆さんとは初めてお会いさせていただいたり、同時期に在籍していてもほとんど関わりがありませんでした。でも、こうしてお会いして温かく迎え入れてくださるのがやはり宝塚の上級生の方々だなと思います。私は最下級生ですので、ドキドキするところもあるのですが、繋がりやご縁に感謝しつつ、いち俳優としてここに集まれたという喜びと誇りをもって、自らいろんなものを発信していけるようにできたらと思っています。
右から夢咲ねね、湖月わたる、珠城りょう、花乃まりあ
ーー演出を手掛けられる板垣恭一さんは「社会派エンターテインメント」を模索されているとのことですが、この作品が持つ社会性はどこにあると思われますか?
湖月:難しいですね。女性の生き方であったり、立場的なものというのがその時代背景を感じる要素になるのではないでしょうか。
珠城:今はLGBTQ+などが理解されつつある社会ですが、私は映画を観た時に「1960年代にこういうことを発信しているエンターテインメントがあったんだ」と、とても衝撃を受けました。現代ではいろんな感じ方、受け取り方をされる方がいらっしゃるので、描き方が難しいと思うんですよ。それを板垣さんや皆さんと一緒に、一番いい形で皆様に受け取っていただけるようなものを作っていけたらと思います。女性主体で描かれていることもそうですけど、非常にデリケートな部分だと思うので、作品の内容に関しても簡単に安易に発言できるような内容ではありません。そこを相談しながらみなさんと詰めていけたらいいなと思います。
夢咲:この戯曲が作られた時代は、女性が主張できなかったような世の風潮であったと思います。おふたりのお話を聞いて、年々オープンにはなっていっていますが、「あの時代に、女性だけでこれだけ胸の内を発散して内面の戦いをしたり、吐露したりということがあったんだな」というのは頭に置いておかなきゃなと思いました。その重みというのは確かにあるし、女性だけで主張していくというのも今の時代ならではで、作品とマッチしているんじゃないかなと思います。
花乃:私も映画を観た時に、タブーとされている要素を秘密として抱えてはいますが「それは本当にタブーなの?」という疑問が浮かびました。それをタブー視して、秘密にしなきゃと思ったから、より大きな悲劇に繋がっちゃうというのは、カトリーヌの立場からしても悲しいなと思います。それが社会的にも通ずる部分でしょうか。
湖月:そう思うと、男性社会の世の中でも、この家庭では1人の男性が8人の女性に苦しめられているというのもおもしろいですよね。そんな中でそれぞれが最後にどういう気持ちになるのか、興味のあるところだなと思います。
右から夢咲ねね、湖月わたる、珠城りょう、花乃まりあ
ーーありがとうございます。最後におひとりずつ、改めて同作に対する思いをお教えください。
花乃:お話もおもしろいですし、なんといっても錚々たる先輩方とご一緒させていただいて、とっても華やかな舞台になると思います。大いに期待していただいて、ぜひ劇場に足を運んでいただけたら嬉しいです。
夢咲:豪華な皆様と8人だけで作り上げて、しかも宝塚出身の私たちがミュージカルではなくストレート、つまりお芝居で魅せるということが画期的だなと思います。きっと人間臭いところもたくさん出てきつつ、私たちだからこそぶつかり合えて、そこから生まれる濃くて華やかなもに仕上がるのが私自身も楽しみです。ぜひ劇場に観にいらしていただけたら嬉しいです。
珠城:この作品が、何度もいろんな形で再演されるからには、何か魅力があって意味があるからだと思います。それを私も素晴らしい共演者の皆様と一緒に模索しながら演じていきたいです。また個人的なことではありますが、私は女性なので言い方が難しいのですが(笑)、女性の役を舞台上で演じるのは初めてになるので、自分としては挑戦です。共演する皆様からはいい影響しか受けないと思うので、いっぱいいろんなことを吸収して、自分なりのピエレット像を体現できるように頑張っていきます。
湖月:『8人の女たち』は、宝塚OGが集結する公演としては新しい扉を開ける第一歩のような気がしています。台本をいただいて、皆さんのキャラクターを想像しながら読んでいるだけで「これはおもしろくならないはずがない」と確信しておりますので、ミステリーの世界を皆様に堪能していただけたらいいなと思っています。ぜひ楽しみにいらしてください。
取材・文=川井美波 撮影=吉原朱美

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