大阪で『七月大歌舞伎』開幕ーー【昼
の部】アクロバティックな演出で沸か
せ、中村勘九郎らが笑いの渦に巻き込
んだ初日公演

関西・歌舞伎を愛する会 第三十回 七月大歌舞伎 2022.7.3(SUN)〜24(SUN)大阪松竹座
大阪の夏の始まりを告げる『関西・歌舞伎を愛する会 第三十回 七月大歌舞伎』が7月3日(日)より大阪松竹座で幕を開けた。中村鴈治郎、中村扇雀、片岡孝太郎、松本幸四郎、中村勘九郎、中村七之助ら東西の人気役者が出演、昼の部では「八重桐廓噺(やえぎりくるわばなし) 嫗山姥(こもちやまんば)」と「浮かれ心中」を上演中だ。
小道具を入れ替えながら、ひとり語りをする荻野屋八重桐(片岡孝太郎)
「八重桐廓噺 嫗山姥」は、近松門左衛門による「しゃべり」と呼ばれる女方のひとり語りが眼目の義太夫狂言。親の仇が実の妹と知り、それを恥じて自害したかつての夫、坂田蔵人時行(幸四郎)の魂が、もとは傾城で今は恋文の代筆をして歩く荻野屋八重桐(孝太郎)の体内に宿り、大力無双となって沢瀉姫(千之助)を奪いに来た太田十郎(中村虎之介)たちを難なく蹴散らすという物語だ。
荻野屋八重桐(片岡孝太郎、左)と腰元お歌(中村亀鶴、右)
義太夫の語りから始まり、花道から荻野屋八重桐の孝太郎が登場。紫と黒が配された着物を粋に着こなし、颯爽とした美しさをまとっている。ある館の前で懐かしい唄を耳にする八重桐が「傾城の祐筆」という売り声を上げると、門の中から中村亀鶴勤める腰元お歌が姿を現す。親しみのあるキャラクターのお歌、亀鶴のユーモラスな表情や動きが和やかな空気を作り出してゆく。
沢瀉姫(片岡千之助)
屋敷の中へと場面が移ると、沢瀉姫の千之助が堂々鎮座。あどけなさと生まれもった格式の高さの両方がにじみ出ており、ぐっと惹きつける。沢瀉姫に「なぜ傾城から紙衣姿の文売りに身をやつしたのか」と問われる場面では、煙草屋姿の元夫の蔵人がそこにいるとは知らず、身の上話を始める八重桐。ひとり語りに加えて身振り手振りも交えてユーモラスに。蔵人を巡って廓で大喧嘩をしたというエピソードでは我を忘れてヒートアップ。そんな姿は現代人と変わらず、より笑いを誘う。
煙草屋源七実は坂田蔵人時行(松本幸四郎)
話は一転、蔵人が親の仇の真実を知り、自害をする場面では会場は水を打ったような静けさに。息も絶え絶え思いを語る蔵人、幸四郎の迫真の演技にくぎ付けとなった。
白菊(中村壱太郎)
虎之介が演じる太田十郎が手勢を連れて花道を勢いよく歩いてくる。沢瀉姫に婚姻を申し込んだ右大将・清原高藤の遣いでやってきた十郎は、彼女を連れ去ろうとする。そこに立ちはだかるは蔵人の妹、白菊(中村壱太郎)。その姿は凛として美しく、勇ましくもあった。
蔵人の魂を宿した八重桐と、太田十郎(中村虎之介)
ここからは蔵人の魂を宿した八重桐が十郎や手勢たちを相手に大立廻り。衣裳や髪などでも八重桐の心情を表しており、その凄みが伝わってくる。手勢たちがとんぼと呼ばれる宙返りをする場面もあり、アクロバティックな演出でも会場を沸かせた。
第二部「浮かれ心中」
第二部は「浮かれ心中」。この作品は1972年の『第67回直木賞』受賞作品である井上ひさしの『手鎖心中』を小幡欣治の脚本、演出で劇化したもの。歌舞伎としては1997年8月に歌舞伎座の『八月納涼歌舞伎』で初演され、十八世中村勘三郎(当時 勘九郎)の栄次郎が好評を博した。
終始楽しそうな栄次郎(中村勘九郎、右)と太助(松本幸四郎、左)
大阪松竹座では2000年7月に上演されて以来、実に22年ぶりの登場となった。天明末期から寛政初期の江戸の街を舞台に、「人を笑わせるのが大好き」という伊勢屋の若旦那・栄次郎が絵草子作者として何とか有名になろうと悪戦苦闘する物語で、今回、栄次郎を勘九郎が勤める。栄次郎の戯作者仲間でともに画策する太助を演じるのは幸四郎。絶妙な間(ま)とテンポで笑わせる二人のコンビネーションが光った。
栄次郎(中村勘九郎、右)と番頭吾平(中村扇雀)
<第一幕 第一場 鳥越之場「真間屋」>から物語が始まる。栄次郎の勘九郎が舞台に出るとパッと周囲が明るくなり、早くも彼のペースだ。扇雀勤める番頭吾平とのやり取りからも江戸の風情が感じられ、物語の世界へ引き込まれる。
三浦屋帚木(中村七之助)
「世間をわっとわかせるようなことをしたい」と考える栄次郎、これから行われるおすずとの婚礼もその一つだ。やがて登場する白無垢姿のおすず。勤めるのは七之助だ。角隠しで表情は見えずとも、可憐なかわいらしさがにじみ出ている。次の<第二場 吉原之場「仲の町」>で花魁・帚木で登場した七之助。花魁道中も威風堂々、そのギャップでも楽しませてくれた。一方、太助はそこで帚木に一目惚れ。一瞬だが見つめ合う太助と帚木。その間、時が止まる。空気が瞬時にして変わるのもおもしろく、それを客席から肌で実感できるのは生の舞台ならではの醍醐味だ。帚木に魅せられ魂が抜けた太助の表情にも注目、コミカルな動きで笑いを起こした。
息子の言動に呆れる伊勢屋太右衛門(中村鴈治郎)と栄次郎(中村勘九郎、中央)、おすず(中村七之助、左)
栄次郎の父、伊勢屋太右衛門は中村鴈治郎。舞台に登場すると、「待ってました!」と言わんばかりの歓迎ムードに沸く会場。放蕩息子を叱り飛ばす太右衛門、表情や言葉の端々ににじみ出る「トホホ……」といった情けなさが一層、おかしさを増幅させた。
鳥越町の町人
世間の注目を集めたい栄次郎は次から次へと事件を起こしてゆく。物語も軽快に進み、終始、笑いが絶えない。終盤では手鎖をつけられた栄次郎が観客を鳥越町の町人に見立てて口上を。見ているこちらはすっかり物語の世界に入り込んでおり、まさに芝居に参加している気分に。それだけに最終的に取った栄次郎の「悪だくみ」は、目撃者の一人になったかのような衝撃が走った。
チュー乗りパレード中の栄次郎(中村勘九郎)
最後はネズミにまたがっての「チュー乗り」で「上方の空を初めて飛んだ」と栄次郎。蜘蛛の糸や紙吹雪、そして三味線や太鼓などのお囃子で「チュー乗りパレード」を派手に魅せた。
取材・文=Iwamoto.K 撮影=福家信哉

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