数多のミュージシャンが恋に落ちた聖地『エコー・イン・ザ・キャニオン』のドリーミーな5曲

数多のミュージシャンが恋に落ちた聖地『エコー・イン・ザ・キャニオン』のドリーミーな5曲

数多のミュージシャンが
恋に落ちた聖地
『エコー・イン・ザ・キャニオン』の
ドリーミーな5曲

通信障害によりアッツアツの鉄の塊と化したスマホの週間天気予報を何度見ても“これが体温だったとしても外出してはいけないレベル”の最高気温が更新される毎日ですが、皆様いかがお過ごしでしょうか。私は“ウエストコーストロックの聖地”ローレル・キャニオンで誕生した楽曲の数々の秘密に迫るドキュメンタリー『エコー・イン・ザ・キャニオン』を滑り込みで観賞してきました(サントラもあるよ!)。立地はハリウッドのナイトクラブ街から車で約5分。ビートルズに対抗すべく新しい音楽を目指すアーティストたちが鎬を削り、誰かが新しく生み出した作品が他の誰かの創作意欲を刺激するかつての時間と空間に思い馳せるレジェンドたちの瞳の輝きに釘付けになりながら、スピーカーを震わせるドリーミーな音楽に身を預ける至福のひと時を過ごせました。今回はそんな映画から5曲ピックアップします、塩と水を舐めながら。
「It Won't Be Wrong」収録アルバム『Turn! Turn! Turn!』/The Byrds
「Never My Love」収録アルバム『Inside Out ~ Deluxe Expanded Mono Edition』/The Association
「BlueBird」収録アルバム『Again』/Buffalo Springfield
「Somebody Groovy」収録アルバム『If You Can Believe Your Eyes & Ears』/The Mamas & The Papas
「In My Room」収録アルバム『Surfer Girl』/The Beach Boys

「It Won't Be Wrong」(’66)
/The Byrds

「It Won't Be Wrong」収録アルバム『Turn! Turn! Turn!』/The Byrds

「It Won't Be Wrong」収録アルバム『Turn! Turn! Turn!』/The Byrds

まだらの木漏れ日か枝葉のざわめきか、はたまた遠浅で寄せては帰るさざなみかと喩えたくなるほどナチュラルなコーラスワークに肩をゆらりと横に揺らすも良し。2020年代の現在聴いてもなお斬新なコードワークに耳をそば立てるも良し。途端に拍子の変わる構成に目を見開いて今度は体を縦軸に跳ねさせるも良し。およそ“パンチライン”“エモーショナル”とは無縁な静謐さの中、平熱を保ちつつも早鐘を打つ心のありようを隠さない普遍的なロマンスを描いたシンプルな美しさとやさしさにもたれかかりたくなる絶品のフォークロック。

「Never My Love」(’67)
/The Association

「Never My Love」収録アルバム『Inside Out ~ Deluxe Expanded Mono Edition』/The Association

「Never My Love」収録アルバム『Inside Out ~ Deluxe Expanded Mono Edition』/The Association

季節も天気もリスナーの気の持ちようも軽く飛び越え、いついかなる時も穏やかな眠りに誘ってしまう、風のようにとんでもなく自由自在なソフトサイケ。囁きのようなヴォーカリゼーション、残響の中で新たな音が光を浴びて輪郭を作っては重ねられていく軽くて透明なギター、メロディーに鮮やかな影を彩色しながらプリズムの螺旋階段を作っていくピアノ。永遠には少し短くて、ほんの束の間というにはあまりにもドラマティックな幻想がなだらかな勾配をつけながらポンポン浮かんでは消える3分11秒。いつまでも繰り返していたい。

「BlueBird」(’67)
/Buffalo Springfield

「BlueBird」収録アルバム『Again』/Buffalo Springfield

「BlueBird」収録アルバム『Again』/Buffalo Springfield

通信障害によりアッツアツの鉄の塊と化しても音楽は再生してくれるスマホから放たれる逃げ水にも似た音の立体と平面の境目を探りながら酷暑を乗り切る日々だが、戯画的表現と近現代アートの大胆な色使いと筆遣いの分水嶺を行き交うこの曲の中毒性の正体はなんだろう。ピリピリひりついて静電気や鈍痛をイメージさせ、波紋のように広がって形を失っていくギターか、唐突にバトンタッチして劇中劇の如く始まるカントリー調のバンジョーの音色か。しかしながらドラッギーな冷たさではなく、むしろ暑苦しいほどの身体性が漲っている。寝苦しい夜のまとまらない思考を一本の音楽への道筋に変えるサイケデリックロック。

「Somebody Groovy」(’65)
/The Mamas & The Papas

「Somebody Groovy」収録アルバム『If You Can Believe Your Eyes & Ears』/The Mamas & The Papas

「Somebody Groovy」収録アルバム『If You Can Believe Your Eyes & Ears』/The Mamas & The Papas

“いい音楽”とは何か、技術や知識だけでは辿り着けない才能とはどういうものか、複雑で精妙であればいいのか、キャッチーを突き詰めるべきか、結局は好き嫌いで判断してしまっていいのではないか。文章を書き続けているとそういった自問自答の壁に体ごとぶつかって血まみれになるのだが、この”音楽という表現の心地良さ”を抽出して純粋培養したようなコーラスとヴォーカルの圧倒的な説得力の前には、ただひれ伏して踊り狂うしかない。手のひらサイズの平たい画面をぶち破るエネルギッシュで煌びやかな“声”という究極の楽器は、ミラーボールを輝かせる光にも、寝具に沈み込む影にもなる途方もない強さに満ちている。

「In My Room」(’66)
/The Beach Boys

「In My Room」収録アルバム『Surfer Girl』/The Beach Boys

「In My Room」収録アルバム『Surfer Girl』/The Beach Boys

同じく”音楽という表現の心地良さ”を抽出して純粋培養したような楽曲。スローテンポの2分半足らずのソフトロックに、あなたは何を見るだろう。メロウでありながらも決して扇情的ではない、眩く、柔らかなコーラスのリフレインに。黄金色の朝焼けか、薔薇色の夕焼けか、陽炎で歪むアスファルトか、夜の帷に四角い穴を開ける人々の息づかいか。The Beach Boysというアーティストの包容力とキャパシティーの端っこを掴める名曲は、全ての聴き手の心のありようを映し出す鏡であり、既視感と安堵感だけで織り込まれたここではない何処かへと誘う魔法でもある。

TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。

OKMusic編集部

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