「常に新鮮な気持ちでアルバスを生き
ていきたい」 舞台『ハリー・ポッタ
ーと呪いの子』アルバス・ポッター役
藤田悠&福山康平インタビュー

世界的人気を誇る『ハリー・ポッター』の舞台化、その日本初演のキャストを決める大規模なオーディションで見事にアルバス・ポッター役を射止めた藤田悠と福山康平。役者への熱い思いを抱き大舞台に立つ夢を実現したふたりが語る、本作にかける情熱と決意とは。
──7月8日の初日に向けて現在絶賛お稽古中のおふたり。先んじてのプレビュー公演は6月16日からスタートと、いよいよカウントダウンが始まりましたね。
藤田:稽古に入って今2ヶ月経って……本読みから始まり、立ち稽古をし、稽古場にいち早く稽古用の舞台セットも準備され「あ。こういう感じなんだ!」ってとにかく想像もできなかったようなことがどんどん繰り広げられていて、毎日面白いなぁって思いながら過ごしてきました。そしていよいよ劇場入りしたらもうさらに衣装も照明も……もう全部の要素がドンと揃えられて「イ゛イ゛〜ッ!?」って。
福山:ハハハハッ(笑)。
藤田:(笑)。「やばい、こんなになるんだ!!」と驚きました。それこそもう劇場全体が巻き込まれている感覚が日に日に増し増しになって、本番、そこにお客様が入っていよいよ完成となる。今はしみじみとその時が来るのを待ち構えています。僕はまず福ちゃんが舞台に立っているところを観るんですよね。一緒に頑張ってきた仲間が舞台の上にいて、その前にお客様がいて……その瞬間はもう、普通に泣いちゃうと思います(笑)。
福山:泣いちゃうかぁ。僕も悠と同じようにまず稽古場でできる範囲のことをやっている段階で、すでにもうそこで驚かされることがたくさんあったんですけど、やはり劇場入りしたらさらに段違い! スケール感もそうだし各セクションの完成度も高くて、本当に舞台の魅力が詰まった作品なんだなぁと思いました。僕が先に初日を迎えますし「始まるんだな」という実感は日に日に湧いてきていて、劇場で稽古しながら「ここが満員になるんだ」と想像すると初日がすごい楽しみです。お芝居の面でも稽古を重ねどんどん細かいところが埋まってきている。全体を通して演じることで「あ、アルバスここでこんな感情になるんだ」っていう気づきが日々の稽古でたくさん感じられているので……今までいろいろな作品に参加してきましたけど、これまで以上に実りがある現場を体験しているな、と思っています。
福山康平
──同じ役を演じる同士。お互いの印象はいかがでしょう?
藤田:僕は最初にオーディション会場で見かけた時から福ちゃんのこと覚えてるんですが、少しずつ人数が絞られていく中、もう一人だけ集中が違っていたというか……楽屋でも挨拶もせずに──
福山:したした。挨拶はちゃんとしたでしょ! もお〜っ!(笑)。
藤田:ハハハッ(笑)。はい。してました。そう、だから僕は他の人たちとも普通に話してましたけど、福ちゃんは周りと交わすのも挨拶くらいであとはホントに自分のことに集中している様子だったので印象深かったんです。後でオーディションの時のことを聞いたらやっぱり僕のことも全然覚えてなかったって。
福山:それはホントにゴメン!なんだけど、でもなんかやっぱり……周りの同世代の人たちはガンガン働いている中、自分はコロナ禍ということもあってお芝居もできずにずっと家の中にいる日々。そんな時に受けたのがこの『ハリー・ポッター』のオーディションだったんです。僕もみんなのようにちゃんと社会で働いていくべき歳だし、やるべきことをやらなくちゃっていう強い思いで挑戦していたから……周りのことが全く目に入らないくらいの気持ち、「俺が獲るんだ」っていう強い気持ちしかなくて。で、アルバス役に自分と悠が決まり、キャスト発表に向けたスチール撮影で初めて会って話して、「同い年なんだ。仲良くしてくれそうだな。優しそうでよかった」って思ってやっと安心しました(笑)。
藤田:うん(笑)。
福山:実際、稽古が始まるとすぐ仲良くなれましたし。でもアルバスという役に向かう部分では、お互いちゃんと線を引いて踏み越えない良い距離感というか、Wキャストだからこそやり方を真似するとかではなく、テクニカルなところは共有しますけどそれ以外の役についての細かい部分は……
藤田:リスペクトしてますね、お互い。
福山:ですね。そういう意味でもすごく心地よい関係で稽古場に居られますし、プライベートではもうめちゃめちゃ仲良くしてるから、ありがたいことに──甘えてます(笑)。
藤田:いやいや、僕も甘えてますから(笑)。
藤田悠
──いい空気感ですね。信頼の気持ちが伝わってきます。
藤田:そもそも稽古場自体がすごくいい空気感なんです。
福山:そう、全体がね。海外チームが「みんなで一体になって創っていこうよ」っていう前向きな空気をすごく作ってくれてるので。
藤田:ポジティブに“抜いて”くれる感じがよりいいのかもしれないです。コミュニケーションは英語ですけど、海外スタッフ陣もそれぞれ国籍も違ってて。
福山:海外はシングルキャストだからWキャストでやるのも日本が初めてなんですよね。それで、向こうから来たスタッフのみなさんもWキャストが同時に稽古していくプロセスに挑戦したいって意欲的に取り組んでくださっていて。「僕らもみんな違う文化同士で試行錯誤しながら創ってるから、それを今度は日本でもやりたい」って言ってくれてるよね。世界初演から6年経ちますが作品自体、そんな感じで日々アップデートし続けています。
藤田:うん、ありがたいですね。でも驚いてましたよ。「日本人は真面目だ」って(笑)。今はプレビューに向けてヘドウィグチームがこうガッと行ってて……
福山:あ、公演順に僕らがヘドウィグチームと呼ばれてて。
藤田:僕はフェニックスチームなんですけど、ヘドウィグが稽古をもう完璧にこなしていて早い段階で場当たりにも入れ、フェニックスも同じペースで場当たりに行けて。このスピードで稽古が進められているのは日本が初めてだって言われました。照明もこっちの方がいいかな?って微調整したり、今も日々細かいところがいろいろ変化中。出来上がっているものをそのままやるわけではないのが素晴らしいなと思います。
>(NEXT)「人生賭けた」オーディション
──日本という新たな場所でカンパニーのメンバーそれぞれが“新しいこと”に挑んでいる。誇らしいですね。福山さんは先ほどコロナ禍に抱いた思いをきっかけに今作のオーディションを受けたとおっしゃっていましたが、藤田さんはどんなきっかけでオーディションを受けたんですか?
藤田:僕も俳優業を続けていくために「人生を賭けた」オーディションでした。大学で学生演劇を始めて、毎日もうそれしかやってないってくらいのめり込んで。やがて周りは就職を決めたりする時期に入るわけですけど、自分はやっぱりそれが受け入れられず、でも親は「そんな俳優をやらせるために大学へ行かせたんじゃない」って気持ちでもうお互いバチバチになっちゃって。そこで「大学を卒業する前になにか一個納得がいく結果を出したなら応援できるけど、そうじゃなければ就職してほしい」と言われたんですね。で、最後の望みを賭けてこのオーディションに応募を。僕、やっぱり演技することが好きなのでどうしてもこっちを続けたいと思ったんです。受かったときは心底安心しました。
──オーディション中になにか印象に残る出来事など、ありましたか?
藤田:これもういろんなところでも言ってるんですけど、スコーピウス役の(斉藤)莉生くんとオーディション終盤の頃にちょっと二人で話をしたんです。「僕も北海道で学生演劇やってるんです」「ほぉ〜」とか。その時雨が降っていて、僕が傘持ってなかったら「僕持ってますから」って傘に入れてくれて、駅までずっとお喋りして。違う役とはいえその時はオーディションを競うライバルでもあったんですけど、結構長い時間話をして「また会えるといいね」って別れました。で、次のオーディション日に始まるのを待っていたら、莉生が来たんです! お互い「うおおぉぉ〜、また会えたね〜っ」って、あの時はちょっと鳥肌立ちました。
福山:ドラマティック〜。いい話持ってるなぁ。
藤田:ハハハッ(笑)。
福山:僕は絶対「傘入って」って言われても断っちゃうからなぁ。
藤田:ほんと?
福山:なんか……イヤじゃないですか。まだオーディション終わってないし、もし自分はダメで相手が受かったらって思うと……ね。変なところ負けず嫌いなので。
藤田:(笑)そういうの、いいと思うよ。アルバスっぽくて。
福山:うん。オーディション自体、すごくいいオーディションだったと思います。オーディションなんだけど稽古しているような……僕らの実力を高めて「アルバスとしてこうやったら深まるよね」みたいな視点で「もう1回こここうしてみよう」「あ、すごくいいね。じゃあこっちはこうやってみよう」ってその場で演出してくださるというか。
藤田:そうだったね。
左から 藤田悠、福山康平
──「選ばれる」というよりも「共に創る中で見出していく」感じですね。
福山:多分僕らの人間性を見たいと思ってくれてたんだと思います。芝居を見せるのではなく、もっと楽に、楽にって。「カメラとか意識せず自由気ままにやって」という空気でのオーディションでした。
藤田:結局その時に「アルバスってこうじゃない?」と言ってもらったことが、今も自分の中に生き続けたりもするので……ということはやっぱりいいオーディションだったんですよね。
──ご自身の役、アルバスについてはどういうイメージを抱いていますか? ポッター家の次男、劣等感や反抗心を抱いた思春期の少年。
藤田:基本的にはずっと苦しんでいる。友人のスコーピウスと一緒にいるときは多分楽しいとかポジティブな感情になれると思うんですけど、それ以外はいつも「なんとかこの現状を打破してやる」とか「認められたい」「わかって欲しい」っていう気持ちが結構強いから……演じることはもちろん楽しいですけど、役自身は苦しいんだなって感じるので、その彼の思いが最後、報われるのかどうなのか……と。そこの心情や彼の変化はちゃんと肌感を大事にしながら演じたいですね。
福山:父親との関係、学校の中での立ち位置……すごく普遍的な、僕らも実際に体験したことがあるような気持ちでアルバスを演じているんですけど、僕は宗ちゃん(門田宗大)のスコーピウスと組むことが多くて、宗ちゃんとも「できるだけ自由にやりたいよね。特に二人のシーン」って話しています。今回公演期間も長いですが、その中で新鮮さを失わず、ひとつのシーンでもどれだけ毎回お互い自由にライブ感を持って演じられるかってところを大事にしていきたいと思いますし、僕のそういう可能性を宗ちゃんが引っ張り出してくれている感覚もあるので……役を創るうえでやっぱり一緒に演じる人に感謝しなければな、と思って取り組んでいます。
>(NEXT)三者三様な父・ハリー役 舞台ならではの魔法の世界
──お父さんであるハリー・ポッターを演じる藤原竜也さん、石丸幹二さん、向井理さんの印象は?
福山:僕は先輩俳優の方に現場でお会いした時もフラットにお芝居をする同士という気持ちで接しているのであまり「あ、あの人だ!」ってなることはないんですけど、でもやっぱりいざガッツリお芝居をしてみると……凄い。稽古では僕は(藤原)竜也さんとご一緒することが多いんですが、そのパワフルさ、もうグンッグン引っ張られていく感覚は必死に食らいついていかないと置いていかれてしまうくらいの熱量なんです。そのパワーがアルバスという人物の器をさらに広げてくれているというか、いろんな方向からアプローチしてくれるので、こちらの芝居もどんどん膨らませていける。竜也さんの舞台に挑む姿勢とか常に新たなことにチャレンジしていろんな角度からハリー・ポッターを探ってるんだなって思いを、じかに肌で感じています。すぐ正解に行くことがいいんじゃなく、常にいろんな可能性を追求している姿に「ああ。やっぱり素晴らしいなぁ」と思わされました。(石丸)幹二さんと(向井)理さんはすごく優しくて、いろいろ試行錯誤している時も本当にとてもいいタイミングでアドバイスをくださったりとか、こちらをふわっと緩めてくれる瞬間があるんです。大好きな3人です。
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』(左から)藤原竜也・石丸幹二・向井理
藤田:そうですね。やっぱり舞台上に一緒に立ったら「すごい」なんて思ってる場合ではないし、僕も役者同士として向き合わさせてもらっていますが、そういう意味でも3人とも全然違うんですよ。竜也さんとの稽古は結構アップテンポですね。次々「どうだ?」「どうだっ!」ってやってくるものに「じゃあ僕はこうだ!」って反応していくイメージ。僕は幹二さん、理さんと一緒に稽古することが今は多いんですけど、幹二さんは優しいですね。“毒親”じゃない瞬間もあって、でもやっぱりお父さんで……綺麗です、とても。言葉をひとつひとつ投げかけてくれる感覚もスマートなので、幹二さんとやりとりするときにはつい目を見てしまいます。すごい優しい目をしてるから。でもアルバス的にはそこで「お父さんそんな感じだけどやっぱり僕のこと、わかってないんでしょ?」と思っちゃう。理さんは結構淡々と飄々と喋っていて……日常会話のトーンでのお芝居で、なにか「気張る」というよりも、その場の自然な会話のやり取りの中からちょっとずつ感情が上がっていく、という感覚。みなさんアプローチが全然異なるので自分は自分でそこにどう合わせていけるのかを考えていくのも楽しいですし、「ああやっぱりお芝居って生物なんだなぁ」と思います。
福山:こんなに贅沢な顔ぶれのトリプルキャストなんて……本当になかなかないですよね。改めてすごいなぁ。
藤田:うん。僕らはその贅沢なみなさんを、稽古場の特等席で観ています(笑)。
福山:本当にね(笑)。
福山康平
──では改めて作品の見どころなどもお聞かせください。
藤田:これがね、もうほんっとにすごいんですよ!! 場面転換とかも、「場面転換だけど場面転換じゃない」んですよ。ただ舞台セットを移動させるんじゃなくて、そこでもうなにかを“魅せて”くれる。本当に飽きる瞬間なんてないと思う。通し稽古を見ていても気がついたら「あ、もう1時間経ってるんだ!」って感じで、1時間が体感だと15分、20分くらいに感じます。テンポもいいですし、これはもう絶対面白いですよ!
福山:体感、結構凄いですよ。アルバスなんて特にフルマラソンみたいな感じで(笑)、バーーッと喋って、バッと着替えて、ババッと出てって、って。だから観ている時もですけどやってるほうの体感も「まだ15分? 20分? 1時間経ってる!」みたいな。
藤田:そうだよね。
福山:あと見どころといえばやっぱり「『ハリー・ポッター』を舞台で現せられちゃうんだ!」っていう驚きですよね。そして「これは舞台でしかできないよね」っていう世界観の広がりと、表現力プラス、観ているお客様の想像力で補っていくのが舞台芸術の魅力でもあると思うから、そういうところもぜひ楽しんで欲しいです。可能ならば映画や原作小説に触れてから来てもらうと、よりこの世界観に没入して楽しめるんじゃないかなぁとも思ってます。
藤田:「こんなことできるんかいっ!」がホントたくさんありますから。他の舞台ではちょっとないくらいに、いろいろヤバイです(笑)。
福山:裏ではお客様が想像つかないようなとんでもないこともたくさん起こっています(笑)。僕ら自身「え、聞いてないよ。そんなことも僕らやっちゃうの!?」って想像以上のことを毎日体験してるので。
藤田:本当にここには舞台芸術のこだわり、みたいなモノがぎっしりとつまっているんじゃないでしょうか。
藤田悠
──お二人のこの興奮した様子を文字だけでは伝えきれないのが残念です! 舞台ならではの魔法の世界と、複雑で奥深い人間ドラマ。劇場でこの物語を体感するのがとても楽しみです。
藤田:やっぱり公演数が多いと疲労も蓄積するでしょうし、立ち位置などテクニカル面で必要な様々なタスクもしっかり守っていかなければいけない。でも芝居をやっているときは限りなく芝居に毎回全集中して生き続けたいので……長い公演だからこそそういう表現の領域に挑戦できるわけだし、それをやり遂げたときに自分自身もひとつ成長できてるんだろうなって今は想像しています。「今日は省エネで」とか守りに入ることなく、毎回本気で本番に臨みたい。その思いはずっと抱いていたいと強く感じています。とにかく常に新鮮に演じていたいです。
福山:僕は……これだけのロングランですからやはり新鮮さを失ってはいけない、ということと、あとはこれまで自分が関わってきた作品でご一緒した方々から本当にたくさんいいところを見て感じて吸収してきたので……それはもちろん今の稽古場でもそうなんですけど、何か少しずつでも自分に今までなかった表現の方法をもっともっとここで試していけたら。これまでの自分の総力戦ですね。また、ここまで同じ役を深められる機会もなかなかないと思いますし、役として、そして一人の役者としてここでしっかり成長していかなくては、と思っています。

◇福山康平
ヘアーメイク:松村南奈 スタイリスト:西脇智代
衣装:セットアップEt baas20,900円(税込)【問い合わせ先:Sian PR(渋谷区渋谷2-2-3ルカビルII2F~4F/03-6662-5525)】
◇藤田悠
ヘアーメイク:森本愛梨 スタイリスト:西脇智代
衣装:パンツAS STANDARD ✕ BIG JOHN8,800円(税込)/Tシャツ AIVER 6,050円(税込)/シャツ LIBERE22,000円(税込)【問い合わせ先:パンツADONUST MUSEUM(渋谷区鶯谷町4-1-B1F/03-5428-2458)/ほかSian PR(渋谷区渋谷2-2-3ルカビルII2F~4F/03-6662-5525)】
取材・文=横澤由香 撮影=岡崎雄昌

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