あほの坂田。「本当に心を盗まれてる
のは俺の方なんです」 “怪盗”をテ
ーマにした全国ワンマンツアーファイ
ナル・Zepp Haneda公演をレポート

AHO NO SAKATA LIVE TOUR 2022 -Steal your heart-

2022.6.25 Zepp Haneda(TOKYO)
紳士にして冒険家。変装の名人でもあり、夜ごと貴族の城や富豪の邸宅に忍び込んではお宝を盗み出してしまう名怪盗といえば、まず真っ先に思いつくのはフランスの推理小説でありアニメ『ルパン三世』の祖先(という設定)としても知られる『アルセーヌ・ルパン』シリーズの主人公であろう。
そして、そんな名怪盗の名前を少しばかり拝借するかたちで、このたびあほの坂田。が行ったコンセプチュアルなライブツアーにつけられていたのが、最新ソロアルバム『Steal your heart』と全く同じタイトルだったのだ。ここでは、ツアーファイナルとなったZepp Hanedaでのライブの模様をお届けする。
華やかな怪盗を彷彿とさせる軽快な音楽とオープニング動画にはじまり、幕が開くとそこにはあほの坂田。の姿が。スタイリッシュなシルクハットにひらりとしたマント、シックなボルドーカラーのスーツというアルセーヌ感が満載のザ・怪盗仕様で、これには場内に集った“坂田家”(※あほの坂田。のファンの呼称)も大喜び。坂田のイメージカラーである真っ赤な光を灯したLEDペンライトを坂田家の面々が激しく振ることで、その歓喜の想いはステージへと届けられたのである。
あほの坂田。
ちなみに、今宵の1曲目としてパフォーマンスされたのはアルバム『Steal your heart』の最後を飾っていた「盗人タケダケしいなオーイ!」で、これはある意味で意外な選曲だったとも言えるかもしれない。おそらく大半の人々は、アルバム冒頭に収録されていた「チェック・ナイト」がここで演奏されると予測していたのではないかと思われるが、この意表をつく構成そのものが粋なギミックとして作用していたことは異論ないはずだ。
なお、この「盗人タケダケしいなオーイ!」はロックバンド・特撮の大槻ケンヂが作詞、NARASAKIが作曲を手掛けているもので、概要としては2007年のアニメ『さよなら絶望先生』の主題歌「人として軸がぶれている」とほぼ同体制にて作られたことになるのだが、その作風はシュールとコミカルの狭間をつく秀逸さに満ちている印象が強い。そんな独特の世界観を坂田が歌で表現しながら、途中の〈アジトは大船辺りだー!〉という歌詞のあたりでシルクハットを投げ飛ばしてみせた場面は、いきなりのクライマックスシーンであったとも思えたところがあり、ある意味そこだけでもう“勝負はもらった!”感は満載。
あほの坂田。
しかも、ここからは男性ダンサー2人を従えてのダイナミックな見せ方が映えた「迷図」や、女性ダンサーを迎えてのオトナっぽいステージングが粋だった「Remelt」、実は『Steal your heart』の中で唯一のバラードである美旋律曲「Mary」、一転してのアッパーなトーンが場内を沸かせた「RED HOPE」、アルバム冒頭を飾っていただけあってそもそも楽曲としての存在感が強い「チェック・ナイト」と、新譜を中心にした歌・演出の両面で凝った曲たちが目白押し状態で披露されていくことにもなり、オーディエンス側は終始それに圧倒されることになった。
「わたしの名前は、アルセーヌ・坂田。盗めないものはない……!」
というセリフから始まったVTR上映コーナーでは、“門外不出の世界最高ランクを誇るダイヤモンドを博物館から盗むのに必要なパスワードを解読するため”というていで、彼が日本にひとつしかないというインドア・スカイダイビング施設に潜入および初体験するという、なかなかのレア動画が坂田家の人々に良い意味での楽しい息抜きを与えてくれることになった。
また、結論から言えばここでのアルセーヌ・坂田ことあほの坂田。は、インストラクターいわく「初心者は普通に飛ぶことさえ難しい」というところを、計13回のチャレンジで翔ぶことをなんとかマスターし、高所に貼られたパスワードを盗み見ることでダイヤモンドも無事にゲット、という流れになっていたことをここに記しておきたい。最初の四苦八苦ぶりを経て、ようやく飛ぶことが出来るようになっていった姿からは彼の内にある向上心も見て取れたような気がして、単に面白いというだけではなくドキュメントな側面もある動画はかなりの見応えがあったと言っていい。
あほの坂田。
「前半はMCがなかったんで、ちょっとここで話そうかな」
大石昌良の作詞曲による痛快チューン「スーパーヒーロー」と、syudouの作詞曲によるヤンデレ感が全開な「キュートなカノジョ」の2曲を後半戦の開幕と同時に歌い上げたあほの坂田。は、ここで場内とのコミュニケーションをはかっていくことになり、彼自身が遂に30歳になったというカミングアウトありきで、挙手制での年齢アンケートをとるという一幕まで繰り広げられたのだが、どうやらこの日は10代から60代までの幅広い年代の方が来場していてくれていたということが判明。
「みなさんは浦島坂田船のクルーであるという方も多いと思いますが、こんなにいろいろな年齢層の方に応援していただいているということで、本当にありがとうございます!」
彼が持つそうした坂田家の人々への感謝の念は、後半戦のステージングにも目一杯に活かされていくことに。特に「えらくてすごい」「神っぽいな」「へべれけジャンキー」の3曲は歌とダンスの両立という面で、よりグレードの高いステージングが遂行されていくこととなっただけに、肺活量やスタミナの点でもそれが一朝一夕でどうにかなるようなものではないことは明らかだった。影なる努力がそこからは見て取れたのは、筆者だけではないだろう。
あほの坂田。
「今日ここに来てくれたみんなのため……いや、これは“きみのため”に歌います」
かと思えば、こう場内に向かって真っ直ぐな言葉を投げ掛けた後にギターを手にとって訥々(とつとつ)と「きみへ」を歌ってもみせた彼は、このあと本編のラストで「未来のあなたへ」を歌う前にこのようなことも口にしていた。
「今回は怪盗というコンセプトで、最初のうちは「みんなの心を盗んでやる」なんて気軽に考えて調子に乗ったりもしてたんですよ。だけど、本当に心を盗まれてるのは俺の方なんですよね。こうやっていつも楽しくやらせてもらってるわけだし。そして、俺はたまに「俺は音楽で世界を変えてやる!」なんていうヤツを見かけると「変えられるわけねーだろ(笑)」って思うような、そのくらい性根が歪んでる人間ではあるんですけど(苦笑)。でも、世界は変えられないとしても、みんなの世界は変えられるんじゃないかなって、そこは本気で信じているところがあるんですよ。何故なら、それは僕自身が“そうだった”からです。みなさんと出会ったおかげで毎日が楽しくて、毎日が輝いてて、もうちょっと生きても良いんじゃないか、長生きしたいなって思えるようになったからなんです。(中略)浦島坂田船で最後にどこにたどり着くんだろう?っていうことも、見届けないと死んでも死に切れないなって思いますしね。だからちょっと、最近は健康に気を遣ってるんですよ(笑)。ほんとに、僕もみなさんの世界がちょっとでも楽しくなるように、これからまた少しでも前向きなものになれるような日々を俺たちが作っていきたいなと思ってます。どうぞ、今後とも坂田と浦島坂田船をよろしくお願いします!」
ちょうど7月からは浦島坂田船のツアーも始まっていくタイミングだけに、あほの坂田。のこの言葉はまさに未来に向けたものとして響いてきた。アンコールの最後に歌われた、ポジティブなトーンの「未完成ユートピア」も含めて、この夜の公演は最終的に素晴らしい大団円を迎えたことになったのではなかろうか。
紳士にして冒険家というよりも、ヤンチャかつオモロイことが好きな青年で、変装よりも歌と喋りが得意なだけに夜ごとネットなどを通じてリスナーたちの心を魅惑してはかっさらっている、アルセーヌ・坂田ことあほの坂田。。彼の次なるターゲットは、さぞや大物であるに違いない。

文=杉江由紀 撮影=小松陽祐(ODD JOB)

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