ワッツ・オン・ブロードウェイ?~B
’wayミュージカル非公式ガイド【20
22年夏号】

2021-22シーズンを締めくくるトニー賞の授賞式が6月12日に行われ、秋の新作の開幕日が出揃ったり、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など来年の新作情報もちらほら出始めたりと、2022-23シーズンが本格的に到来しつつあるブロードウェイ。一方で、今年のトニー賞最多5冠の『カンパニー』、ロングラン中の『ディア・エヴァン・ハンセン』や『カム・フロム・アウェイ』など、誰もが日本語版を妄想しそうな作品のクローズも相次いで発表された。日本語版を観て理解が深まった状態で再びブロードウェイ版に臨んで観比べる、という“日本に根を張るおたく”最大の醍醐味は、なかなか味わわせてもらえないようだ…。
さて、劇場閉鎖以降お茶を濁してばかりいたのでもはや誰も覚えていないだろうが、今号よりこの連載本来の趣旨に立ち返り、上演中のミュージカルの日本に根を張るおたく的見どころを紹介していく。大ロングラン作品はコロナ前に取り上げ終えているので、ここからは5月の訪問で観てきた準新作たちを。計10本を季刊ペースで2~3本ずつ取り上げていくとそれなりの時間がかかり、どれがいつ「上演中のミュージカル」でなくなってしまうか分からないため順番に迷うところだが、次回以降のことは都度都度考えることにしてとりあえず、今年のMYベスト及び現時点で既にクローズ発表済の作品から――。

■『MJ ザ・ミュージカル』
あるアーティストの半生を本人の楽曲で綴る“伝記系ジュークボックスもの”の例は枚挙に暇がないが、本人のプライベート面の闇にまで迫り、普遍的な人間像に落とし込んでこそ優れたそれという風潮もあるなか、マイケル・ジャクソンの“特異なアーティスト性”に真っ向からスポットを当てた意欲作。伝説の「デンジャラス」ツアーのリハーサル現場を舞台に、取材に訪れたテレビクルーの目を通して彼の楽曲制作とコンサート演出に懸ける思いを描き出していくのだが、1曲ごとにそれこそコンサート並みに変わる、しかし舞台ならではの、いちいち度肝を抜く演出と音響が作り手のマイケルに対する愛と敬意を物語る。だからといってただショーにはなっていないのは、マイケルの歌って踊るために生まれてきた使命感、そして温かくも茶目っ気あふれる人間性を主演のマイルズ・フロストが見事に体現しているから。観ている間じゅう心の中で「やばい」と叫び続け、一幕ラストで開いた口がふさがらなくなり、帰国のその日まで「ほかの新作を犠牲にしてでも、滞在を延ばしてでももう一度観ようか…」と本気で悩んだ、今年の筆者のベスト中のベスト作!
■『Tina:ザ・ティナ・ターナー・ミュージカル』
一方こちらは、DV夫から逃れて自分の道を歩み始める人間ティナ・ターナーを描く、言葉を選ばずに言えば「よくある(何の変哲もない)」伝記系ジュークボックス。ティナ役のNkeki Obi-melekweの、観ていて「歌うんめー」以外の語彙力をなくすパフォーマンスがほぼ唯一の見どころで、故に日本語版妄想もとりたてて膨らまなかった。ただ逆に言えば、このジャンルには既にそれだけの“フォーマット”が確立されているわけで、ならばぜひそれを使った日本人アーティストの伝記系ジュークボックスが観てみたい。題材となるアーティストと楽曲への思い入れが観る側にあれば、何番煎じだってきっと楽しいはずだ。

■『カンパニー』
かつて日本でも山口祐一郎主演で上演されたソンドハイムの名作の、35歳独身の主人公を女性に置き換え、物語もアップデートしたリバイバル版。発想は面白いし演出もおしゃれでトニー賞5冠にも納得はしているのだが、いかんせんあまりにも(ロンドン発だけど)THEアメリカン・コメディで、これまた日本語版以上にこういう感じの日本オリジナルミュージカルの誕生を切望してしまった。日本ではミュージカル=現実離れした物語みたいなイメージが根強いのか、オリジナル作品でもそうした題材が選ばれがちだが、そういうお金のかかりそうなものは翻訳上演することにして、こういう現実に即した身近で現代的な題材こそぜひ、日本の実情を反映して日本語でミュージカルにしていただきたい。

【2022-2023シーズンの新作】
*情報は2022年7月1日時点のもの
『1776』9月16日プレビュー開始予定
1969年のトニー賞受賞作をD・パウラス演出でリバイバル。米国独立宣言の裏側を描く。
https://www.roundabouttheatre.org/get-tickets/upcoming/1776/
『Almost Famous』9月13日プレビュー開始予定
映画『あの頃ペニー・レインと』を、監督自身の脚本とT・キットの音楽でミュージカル化。https://almostfamousthemusical.com/
『A Beautiful Noise』11月2日プレビュー開始予定
ニール・ダイアモンドの伝記系ジュークボックス。M・メイヤー演出、W・スウェンソン主演。
https://abeautifulnoisethemusical.com/
Camelot』2023年3月9日プレビュー開始予定
ラーナー&ロウ(『マイ・フェア・レディ』)の古典をリバイバルの名手、B・シャー演出で。
https://www.lct.org/shows/camelot/
『イントゥ・ザ・ウッズ』プレビュー中/8月21日まで
日本でもおなじみのソンドハイム作品。好評を博したコンサート版が期間限定でBWに。https://intothewoodsbway.com/
『Kimberly Akimbo』10月12日プレビュー開始予定
オフの賞を総なめにした話題作がオンに。早老症の女子高生の物語をJ・テソーリの音楽で。https://kimberlyakimbothemusical.com/
『KPOP』10月13日プレビュー開始予定
Kポップシーンの裏側を描くオフ作品がオン進出。『The View Upstairs』の作曲家も参加。
https://www.kpopbroadway.com/
『お熱いのがお好き』11月1日プレビュー開始予定
マリリン・モンロー主演の名作映画をC・ニコロウ(『アラジン』)の演出・振付で舞台化。
https://somelikeithotmusical.com/

【2021-2022シーズンの準新作】
『カンパニー』7月31日まで
ソンドハイムの傑作コメディの、主人公を女性に置き換えたリバイバル。祝トニー賞5冠。
https://companymusical.com/
『ファニー・ガール』
58年ぶりのリバイバル。ロンドンで好評を得たM・メイヤー演出版。R・カリムルー出演!
https://funnygirlonbroadway.com/
『MJ The Musical』
マイケル・ジャクソンの伝記系ジュークボックス。祝トニー賞振付・主演・照明・音響賞!
https://mjthemusical.com/

『Mr. Saturday Night』
ビリー・クリスタル監督・脚本・主演映画の舞台化に本人が主演。音楽はJ・R・ブラウン。https://mrsaturdaynightonbroadway.com/
『ザ・ミュージックマン』
H・ジャックマンとS・フォスターが夢の共演。スターを観る喜びに満ち満ちた2時間半。
https://musicmanonbroadway.com/

『Paradise Square』
『生きる』の作曲家J・ハウランドの新作。19世紀マンハッタンを舞台に人種間の絆を描く。
https://paradisesquaremusical.com/
『SIX: The Musical』
ヘンリー8世の6人の妻がガールズパワーを炸裂させる痛快作!祝トニー賞楽曲・衣裳賞。
https://sixonbroadway.com/
『A Strange Loop』
2022年のトニー賞受賞作。ミュージカル作家を目指す太めでクイアな黒人青年の物語。
https://strangeloopmusical.com/

【ロングラン作品】
■日本で既に上演された/されている作品
『アラジン』
ディズニーアニメが舞台ならではの手法で表現された秀作。魔法の絨毯は本当に魔法。
https://www.aladdinthemusical.com/
シカゴ
『オペラ座の怪人』に次ぐロングラン記録を更新中の名物作。11月には米倉涼子が主演。
https://chicagothemusical.com/
『ライオンキング』
開幕から20年以上経つというのに、未だ入場率がほぼ毎週100%を超える大ヒット作。
https://www.lionking.com/
『オペラ座の怪人』
言わずと知れた世界的メガヒット作。圧倒的な知名度ゆえ、劇場では日本人に遭遇しがち。
http://www.thephantomoftheopera.com/
『ウィキッド』
開幕から15年が経ち、ようやくチケットに多少の余裕が。定期的に観たい傑作。(日本では劇団四季が2023年10月~期間限定上演を発表)
https://wickedthemusical.com/

■日本未上演の作品
『ビートルジュース』
2019年作品の再演。『ムーラン・ルージュ!』でトニー賞に輝いたA・ティンバース演出作。
https://beetlejuicebroadway.com/
『ブック・オブ・モルモン』
2011年のトニー賞を制した、もはや“古典”の領域の傑作。1周回って日本語版を妄想中。
https://bookofmormonbroadway.com/
『カム・フロム・アウェイ』10月2日まで
「911」の日、カナダの小さな町に起こった実話をシンプルだが力強い演出で描く感動作。
https://comefromaway.com/
『ディア・エヴァン・ハンセン』9月18日まで
深遠なテーマをスタイリッシュに描く、2017年のトニー賞受賞作。映画版も話題に。
https://dearevanhansen.com/
Hadestown』
『グレコメ』の演出家が現代的に描くギリシャ神話。2019年のトニー賞で8冠を達成。
https://www.hadestown.com/
『ハミルトン』
近年最大のモンスター級ヒット作。ディズニー+で配信中(日本語字幕付き)。
https://hamiltonmusical.com/
『ムーラン・ルージュ!』
2021年のトニー賞受賞作。原作はB・ラーマン監督の映画。2023年に日本で上演される。
https://moulinrougemusical.com/
『Tina:ザ・ティナ・ターナー・ミュージカル』8月14日まで
ティナ・ターナーの半生を彼女の楽曲で綴る。ロンドンでの好評を受けてBW入り。
https://tinaonbroadway.com/

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