たなか、Ichika Nito、ササノマリイ
という稀有な音楽センスを持つ3人で
結成されたバンドDiosの内側に迫る

前職・ぼくのりりっくのぼうよみ=たなか、YouTube 登録者数200万人越えの今最も注目すべき世界的ギタリスト・Ichika Nito とボカロやオンライン・ゲーム界隈ともリンクし、ぼくりり過去作も手掛けたトラックメイカー / シンガーソングライター・ササノマリイという、稀有な音楽センスを持つ3人で結成されたバンドDios。6月29日には待望の1stアルバム『CASTLE』をリリース、そして初となる全国ツアーを控える彼らに、初期衝動とも言うべき今の想いを存分に語ってもらった。
──たなかさんは、ぼくのりりっくのぼうよみを辞める決断をしたときも、音楽活動はいつかまたやりたいと思っていたそうですね。
たなか:そうですね。ぼくりりは音楽が嫌になったから辞めるみたいな話ではあまりなかったので、音楽自体との距離感は、自分にとってはそこまで変わっていなくて。普通にやりたいなっていう感じでした。
──ご自身にとって音楽ってどういう存在ですか?
たなか:なんだろう……世界に対する自分の意思表示という側面がすごく強いかもしれないですね。音楽っていろんなフェーズがあるじゃないですか。曲を完成させるときとか、演奏するときとか。そのどれが好きなのかは作り手によって異なるけど、僕は作っているときが楽しいタイプで。それは、自分が感じていることを思うように表現できて、その表現自体が、自分を今まで知らなかった場所に連れて行ってくれるというか。たとえば、何か単語を書いたとして、そこに音階がついただけで、それを書いた段階では想像も付かなかったところに連れて行ってくれる、みたいな。そういうところがすごく好きだし、自分にとって音楽はそういう存在ですね。
──再び音楽を始めるときに、バンドという形態を取ろうと思ったのは、それこそひとりでは想像も付かないようなものを作りたい、見てみたいという感覚からですか?
たなか:バンドがやりたくて人を探していたわけではなかったんですよ。どちらかというと、Ichikaと会って、一緒にやってみたいなと思ったので。バンドという形態になると、ぼくりりのときと差別化できていいよねっていうのは後付けでしたね。
──Ichikaさんは、たなかさんからバンドのお話が来たときにどう思われました?
Ichika:まったく同じタイミングで言ったんですよ。「バンドがしたい」って。
たなか:なんならIchikaのほうがちょっと先だった。
Ichika:そうそう。「バンドせえへん?」「したいと思ってた」みたいな感じで。同じこと考えてたんやなぁって。
──Ichikaさんが、たなかさんとバンドをやりたいと思った理由というと?
Ichika:技術や音楽的なセンスみたいなものが合うのは当然ですけど、やっぱり気心の知れた人、何年も何十年も付き合っていけるような友達と一緒に音楽をやれたらいいなと思っていて。そういうふうになれそうな人と出会えたらいいなと思っていたときに、たなかと出会ったんですよ。出会ったキッカケは友達の紹介なんですけど、ああいう場所ってなんていうの?
たなか:なんか、陽キャの人達の集まりみたいな?
Ichika:そういうところに放り込まれたんですよ。でも、僕ら2人は陰キャなんで、ちょっとしんどそうにしていたら、お互い目が合って。
たなか:あの瞬間の通じ合い方はすごかった!(笑)
Ichika:うん(笑)。これは仲良くなれる!って。
──たなかさんとしても、Ichikaさんとは気心知れている仲でもあるし、ギタリストとしての魅力もあって、一緒にやろうと?
たなか:そうですね。ぼくりりのときは、いろんなトラックメイカーの方と一緒にやるのが基本だったので、統一感の出しようがなかったんですよ。そこを、音のほうでもシグネチャーというか。あきらかに特徴のあるサウンドを組み合わせたらおもしろいんじゃないかなって。そこら辺は、人柄とはまた別の目論見としてはありましたね。
たなか
Ichika Nito
──トラックメイカーのお話がありましたけど、バンドをやるにあたって、ササノさんにも入ってもらおうと。
Ichika:たなかは歌で、自分はギターと、ベースもやるけど、あんまり大人数のバンドをやるイメージがそのときはなくて。最小人数でやるなら、残りのひとりが僕ら以外の全部を担ってくれる人間にしようって。それでコンタクトをとった感じでした。
──ササノさんとしてはお話が来たときにどう思われました?
ササノマリイ:断りました。
Ichika:そう(笑)。最初は断られたんですよ。
ササノ:無理だよって。僕自身は制作をするのが活動のメインだし、シンガーソングライターではあるけど、プレイヤーとしてのスキルは持っていなくて。でも、バンドをやるとなると、プレイヤーとしてそこに存在している必要があると思ったから、僕が役に立てる場所はないよっていう気持ちで断ったんですよね。
Ichika:ササマリの当時のバンド像が結構堅かったもんね?
たなか:にべもなく断られたもんね?(笑) こっちとしては、打ち出し方としては一応バンドっていうだけだったから。
Ichika:うん。バンドだろうがユニットだろうが、そこはなんでもよくて。
たなか:良いトラックが作れればなんでもいいっていう感じだったんですけど、そこが全然伝わってなくて、断られちゃったねって。
Ichika:でも、もしかしたら良い素材を送ったらやってくれるんじゃないか?っていう話になって。それでギターのデータを投げてみたら、すごく良い感じのトラックを作ってくれて。そこにたなかが歌を乗せたら、「めちゃめちゃいいね!」って、ササマリのテンションがあがってきて。そこから2曲ぐらいやりとりしているうちにやることになって。
──たなかさんが「音楽のフェーズ」のお話をされていましたけど、ササノさんとしては作ることが好きで、この3人ならすごいものが作れそうだなと思いました?
ササノ:そうですね。まず、頼られるのが好きなんですよ。自分が作ったものを「いい」と言ってもらえるのが好きなので。それに、送ってくれたギターがとにかく素晴らしくて、自分の好きな部類のものだったんですよ。これでいいものが作れたら喜んでもらえるかなと思って、送ったもののウケがめっちゃよかったから、これは楽しいなと思って。これができるのは俺だけでありたい、みたいな。
たなか:かわいい。
ササノマリイ
──打ち出し方はなんでもよかったとのことでしたけど、バンドという響きにちょっと憧れがあったりしました?
Ichika:ありました。
たなか:うん。「バンドやってます」って言いたいっていう。なんかすごく浅い感じで申し訳ないんですけど。
Ichika:Diosのサブテーマみたいなのがいくつかあるんですけど、そのうちのひとつが「青春を取り戻そう」なんですよ。
ササノ:別に公にしていることではないけどね(笑)。
Ichika:うん。やっていくうちに、そういう要素もあったら楽しいよね、ぐらいの感じでしたけど。
たなか:でもなんか、常に学園祭みたいな気分でいるっていうか。テレビに出るときとかいまだにそういう感じかも。
Ichika:分かる。音楽番組にみんなが集まってくるのがなんか学祭みたいな感じ。
──他にもサブテーマってあるんですか?
Ichika:そこは各々あると思うんですよ、このバンドをやる意義みたいなものが。ササマリだったら、ササノマリイ名義の活動の底上げもしたいって言ってたし。
ササノ:そうだね。ちょうど話をもらった時期が、スランプというか、自分のやりたいことがやれているのか、納得できるものが作れているのか、葛藤がものすごくあって。それもあって、自分がうまくいっていない状態で入ってどうするのかっていう迷いも、最初はあったんですけど。でも、やってみたら楽しかったし、一緒にやることによって、精神的なところ、技術的なところ両方含めて、うまくいくのかもしれないと思って、より本気で取り組んでいって。実際にうまく行き始めているので、感謝しかないですね。いまは心身ともに健康なので(笑)。
──大事なことですからね。Ichikaさんのサブテーマというと?
Ichika:「仲良くなれそうな人間とやりたい」っていう理由とも繋がるんですけど。そこはいろんな国のアーティストと関わっていることもあると思うんですけど、同じ母国語で年も近い人と強固な人間関係を築いていって。それが10年とか20年とか、成熟した先に、そういう関係性の人達と作る音楽は、自分ひとりで作る音楽とどれだけ違うものになるのか?っていうのを知りたかったんです。だから、これはいますぐできることではなくて。何年か経った後、もしかしたらケンカして超仲悪くなって解散していたら無理ですけど(笑)、今の感じで楽しくやっていけて、その先にできる音楽はどういうものなんだろうかっていうのを知りたいっていうのが、自分の中のサブテーマとしてありますね。
Dios
──たなかさんのサブテーマは?
たなか:僕はなんだろう……2つあるんですよ。ひとつは、あとから思い出したときに、すごく楽しかったなって思える記憶を増やしたくて。そう思えることが増えていくにしたがって、自分の人生の彩りそのものが豊かになっていくっていうのは、現状ですらわりと感じることがあるので。もちろんそこにすがりつくと話は変わってくるんですけど。それと、ポップスをちゃんとやりたいなって。そこはサブというかむしろメインですね(笑)。
──ポップスをやりたいと。
たなか:最初は「ちゃんと売れてえぜ!」みたいなところがすごくあって。でも、やっているとどんどん楽しくなってきて、わりと趣味の方向に行ったというか(笑)。
いちか:各々が思う美しい形、音楽を作った方がいいんじゃないか?っていう話も出てたしね。そこは二転三転してるんですよ。
──なるほど。先ほどシグネチャーのお話がありましたけど、これだけ際立った個性を持った3人が集まって、楽曲を作るときにどうやってバランスを取っているんだろうと思ったんですけど。
ササノ:特に何も考えてないんですよ(笑)。
──最初にササノさんがトラックを作るんですか?
ササノ:いや、ほとんどの曲と言えるんですけど、まずIchikaのギターがあって。それをもらって、僕がワンコーラスぐらいの構成を作って、そこで歌が入るか、トラックに合わせてギターを変えていくかというやりとりを何度か繰り返していくっていう。だから、曲の根本にはギターがあると思います。今回のアルバムの中で、僕が最初にトラックを作った曲となると、「Virtual Castle」とか「紙飛行機」ぐらいなので。ただ、それも僕が作ったトラックのデータをIchikaに全部渡して、音の加工とかもやってくれたりしてますね。
──出発地点はギターインストなんですね。
Ichika:そこで尖っているものをササマリがうまく混ぜ込むから馴染むんでしょうね。トラックが先にあって、そこにギターを乗っけると、最終的にイジっているのが僕になるので、まだ分離している感みたいなものがあると思うんですけど。最初にギターを作って、コードとかメロディとか、基本的には全部ある状態のものをササマリが自分の好きなように改造して、うまく混ぜ込んで、その上に歌が乗るから、バランスよくなるんだろうなと思います。
たなか
──2021年3月に「逃避行」を発表されて以降、立て続けに楽曲を送り出してきたわけですが、今回発表されるアルバム『CASTLE』の構想はいつ頃からあったんですか?
たなか:去年の11月ぐらいだったかな。まず、『CASTLE』という仮タイトルを決めたんですけど、パワポで資料作ったんですよ。
Ichika:曲ごとに、“暖炉”とか“舞踏会”とか、テーマがあって。
たなか:それも具体的なリファレンスを出すというよりは、ヴィジュアルイメージぐらい。そういう枠組みみたいなものをざっくり作って、それを2人がいい感じでやってくれたっていう。流れとしてはそういう感じですね。
Ichika:各々がイメージを膨らませていったから、最初のプレゼンのイメージからは結構離れているんですよ。だから、あくまでもとっかかりというか。起点が多すぎると、どこからやればいいのかわからなくなるから、最初にざっくりと範囲が決まっていたっていう。
──でも、なぜ『CASTLE』だったんです?
たなか:たまたま通りすがったマンションの名前なんですよ(笑)。なんか、言葉って育てていくのが大事だなと思っていて。ピンポイントでハマったというよりは、適した言葉達が何個かある中から、こいつに決めた!って育てていくというか。だからポケモンと一緒ですよね。何を選んでもストーリーはクリアできるじゃないですか。そういう意味で、僕がたまたま選んだのが『CASTLE』だったっていう。
──確かに“CASTLE”っていろんなイメージが浮かびますね。お城だけじゃなくて、それに付随するような森とか、湖とか、いろんなインスピレーションが自動的に湧くというか。
たなか:そうそう。そういう意味ではいい単語というか。引き出しが広くて、懐が深い。
Ichika:単語によってその上限が違うよね。それこそポケモンと一緒で、1進化しかしない単語もあるし。たとえば“DESK”だったら、まあ、クリアはできるだろうけど。
たなか:そうそう。それなら“COFFEE”のほうがまだ(進化)しそう。
Ichika:そうだね。“CASTLE”は3段進化しそう。
──なんかわかります(笑)。アルバムのテーマが出てきてから作った曲というと?
Ichika:「残像」とか「断面」ですね。「残像」のテーマが“暖炉”だったんですよ。そのテーマからギターのフレーズを作って、トラックを作って、そこで歌詞が乗っかったんですけど、最初にたなかが付けたタイトルが「森に火を放った日」だったんです。
たなか:まあ、木を燃やすって意味では一緒だから(笑)。
Ichika:あと、「断面」のテーマは、“深い森”で。それで深い森っぽいテーマの曲をまず作って、そこからすぐに「断面」になったんだっけ?
たなか:いや、“輪切り”。
ササノ:そうだった。
Ichika:そういう変遷を経ているけど、遠くはないよね。連想ゲーム的になってる。
たなか:むしろそれが楽しいからね。たとえば、BPMは80で、ギターはこの曲のここをリファレンスして、トラックはこうで、みたいな感じで曲が出来たとして、だから何なんだっていう気持ちに僕はすごくなっちゃうっていうか(笑)。漠然とした出発点から、気づいたら全然違うところにいるほうが、自分にとって喜びが大きいですね。
Ichika Nito
ササノマリイ
──アルバムトータルして、メランコリックで美しくて叙情的ですが、それこそIchikaさんってそういうギターを弾かれることが多いですよね。ほとんどの楽曲の発端がギターだからこそ、そういう音世界に自然となっていくところもあるんでしょうか。
Ichika:そこはあると思います。そこでリズム重視の曲ばかり作っていたら変わってくると思うし。あと、各々が美しいものは何かというテーマがあったときに、3人全員がまったく同じではないにしろ、向いているベクトルは近いから、意図せずとも寄ってくるところはありますね。
──たなかさんとしても、メランコリックで美しいものというのは、Diosとして作っていきたいカラーでもあるんですか?
たなか:アルバムを作っていく過程で、自分の意識としては、ポップスからどんどん離れて行ったんですよね。自分達がいいと思うものだったらよくない?っていうふうになっていったけど、完成したら、それこそひとつの“城”ができたなと思って。それができたことで、いつでも戻れる場所ができたから、最近は自分達の価値観を拡張していきたいという気持ちになっていて。もっと分かりやすくなっていける、攻めていけるなってすごく思っているし、次以降はそこをやっていきたいかなって。
Ichika:今回は1stだから詰め込んでいるし、そこから削ぎ落としていったものがポップスにも近くなっていくと思うし。あんまり良くも悪くも計算してなかったもんね?
たなか:それこそ自分が美しいと思うかどうかっていう。
Ichika:うん。そういうものにするための計算やこだわりはすごくあるけど、バズる曲を作ろうみたいな計算はなかったから。
──ササノさんはいかがです?
ササノ:自分としては、自分の好きなものとか、自分の音楽に対する理想像みたいなものが、ものすごく狭いところに確立されてしまっていて。そこに向けて作っていくと全部一緒になってしまうから、自分が今まで避けてきたもの、苦手だったもの、好きだけど作るのがうまくないと思っていたものに挑戦したところもあるんですよ。あと、曲を作っていると、自分が歌っても合わないだろうと思うものって必ず出てくると思うんですけど、それをやっている側面も結構あって。特に「Virtual Castle」にはそういう気持ちがありましたね。
──ササノさん的には挑戦的な部分もあって。
ササノ:そうですね。そこは、どんな曲を作っても、この3人だったらいい形になるという確信があるからできることでもあると思います。
たなか
ササノマリイ
──歌詞に関して、今回の1枚を通して描きたかったものはありましたか?
たなか:最初に出した「逃避行」でも書いたんですけど、僕は、人生は基本的に逃走であると思っていて。何かから逃げることの連続でしかないという。で、逃げるときには、たとえばテーブルの上にいろんなものが乗っているんだけど、その中のひとつしか持っていけない。つまりそれは、喪失の連続でもあるというか。選べなかったものたちがあって、ひとつだけ選んだものが手の中にある。人生はその繰り返しでしかないというのは、自分が世界に対する物の見方の根幹にあるんですけど、それがすごく色濃く反映されていると思うし、アルバムで通底している視点だと思います。
──「試作機」に〈曙光〉という歌詞が出てきますが、ぼくりり時代に「曙光」という曲を作られてましたよね。たなかさんとしても、ひとつの喪失があって、そこから芽生えてきた思いや感情みたいなものが言葉に乗っているのか。ただ、そこに関しては、聴いた人間が無理矢理こじつけようとしている感覚もあるんですけど、実際いかがです?
たなか:聴き手の方がそういうふうに連想していただけるのは、すごく嬉しいというか。それだけ記憶に残していただいているんだなと思って嬉しいなと思いつつ、そこも、人生は逃走の連続で、逃げるときにはひとつしか持っていけないという、自分の価値観が前提にあって。ぼくりりは持っていけなかったから捨ててしまったということは、出来事としてはあるんですけど、それを思い出して書くことは全然していなかったですね。もちろん聴く際にそう思っていただく分には一向に構わないし、解釈は好きに楽しむべき、開かれたものであるべきだと思っているので。
──あと、アルバムを締め括る「劇場」の〈この身体、心までを切り刻んで 歌にしようよ〉という歌詞にグっときてしまって。
たなか:これは、Diosとして頑張って売れるぞ!っていう(笑)、決意表明の歌ですね、端的に言うと。
──〈命を切り売ろう、終わったら綺麗に消えよう〉といきなり歌えるのも潔いですよね。
たなか:やっぱり自分にとってはそういうものでしかないというか。
Ichika:でも、そこも結構変わったんじゃない? 最初の頃は3年ぐらいで売れてすぐにやめようみたいな話だったから。
たなか:確かにね。もちろんずっと表舞台には立っていたいんですけど、物理的なピークみたいなものはあきらかにあるだろうと思っていて。それを分かっている上で、続けていきたいっていう。
Ichika:そのピークもある程度コントロールすべきなんだろうね。精神的な健康のために。
たなか:うん。健やかに生きていきたいですね!
ササノ:そうだねえ。
たなか:だから逆説的というか。エンタメという劇場の仕組みをわかった上で、ちゃんと踊るのが大事なんだろうなって。
──誰かに無理矢理踊らされるわけではなく、あくまでも自分のステップで踊ることが大切であって。
たなか:そうです。能動的に踊って、能動的に退場しようっていう気持ちはすごくあるかなぁ。
──ササノさんとしても、このバンドを続けていくのは、目標みたいなものとしてあったりします?
ササノ:そこは目標という意識もなく、ずっと続いていくんだろうなぁっていう感じですかね。僕は基本的に人見知り体質なんですけども、たなかとはぼくりり名義の頃から一緒にいるとはいえ、Ichikaといるときも僕は自然体でいられるんですよ、珍しく。そういう3人でいるっていうことは、たぶん、僕が大失敗をやらかして、それを繰り返さない限り、この関係は崩れないのかなって(笑)。
Ichika:たぶんね、繰り返しても大丈夫だと思う。結構経験してるというか。
たなか:すごい。フォローと見せかけて、実はあんまりフォローじゃない(笑)。
Ichika:いや、だから何回失敗してもいいってことよ。気にすんなってこと。
ササノ:ありがとう。
たなか:でもそうだと思う。失敗するしね、人間は。
ササノ:だから続けていこう!っていう気持ちではないですね。勝手に続いていくだろうな、楽しいしっていう感じです。
Ichika Nito
──続いていく要因って、楽しいこともそうですけど、Ichikaさんがおっしゃられた「何回失敗してもいい」と思えることがすごく大切ですよね。
Ichika:うん。こうやってササマリが言ってくれたことが嬉しいですよね。僕らに対する信頼があるっていうか。
──それも含めて、いいバンドだなって思いました。1stツアーも決まっていますけど、ライヴもここから定期的にやっていきたいと考えているんですか?
たなか:まあ……そうですね。うん。どうだろう……(笑)。
Ichika:ライヴに関してはぶっちゃけそこまで構想がないんですよ(笑)。目先のツアーはしっかりやろうということは考えているけど、この先、こういうライヴがしたいっていうのはあんまりなくて。
ササノ:そういう意味では、ライヴに今まで憧れがなかったし、理想のライヴ像がないから。
たなか:難しいよね。
ササノ:うん。そこはいまも探っている状態ではあるんだけど。だから楽しみだよね。
たなか:そうだね。ライヴをやること自体は楽しいので。ただ一方でね、正解っていうものがないから。なんか、僕は長いライヴを見るのってそもそも苦手なんですよ。あれは結構選ばれた人向けのコンテンツというか、敷居が高いというか。
──確かに、同じ場所に何時間か拘束されて、ひとつのものを見続ける行為って、言われてみるとそうなのかも。
たなか:そうなんですよ。特にスタンディングとなると、それってすごいことじゃないですか。だから、自分の中ですごく気負っちゃうというか、それを観にきてくれるってすごいことだと思うので。だからお客さんにはすごく感謝してます。
──そうだ。Ichikaさんとしては、冒頭で出てきた「音楽のフェーズ」について、どの行程が好きですか?
Ichika:僕は弾くときですかね。作ったときとまったく同じことはできないけど、いかにそれをリアルタイムで超えていくかというのがすごく楽しいし、聴いてくれている人の反応を生で見れるのも楽しいし。僕は最後が一番好きかも。
たなか:人前で弾くってことが?
Ichika:そう。
たなか:そうなんだ!? おもしろい!
Dios
──いろんな価値観がひとつのバンド内であるのもいいですね。あと、今日のお話の中で「売れたい」という発言がありましたけど、その意味が時期によって変わっている感じがあって。ビジネス的に売れたいのか、アーティストとしての地位を確立したいのか、この先ずっとやっていくために売れておきたいなのか。そこはリンクしているところもあると思うんですけど、いかがです?
Ichika:度合いは違えど、どれも少しずつありますね。
たなか:僕は、なんていうか、すごく傲慢なんですけど、あるべき場所にありたいというか。多くの人に聴いてもらうほうが自然……っていうか、それを自然って言うのヤバいな(笑)。
Ichika:いや、そこは同じだよ。
たなか:なんか、ナチュラルにそう思ってるんですよ。普通にやったら普通に多くの人に届くだろうし、届くための物をちゃんと作っていたら、正当な場所に置かれるだろうから、そうでありたいな、という。
──Ichikaさんも、たなかさんと同じ感覚だと。
Ichika:うん。一緒ですね。正しい評価をされたいよねっていう。それをすごく簡単に言い方にすると、売れたいっていう。
たなか:だから、見返したいっていう感覚でもないんですよ。
Ichika:うん。「フツーにめちゃめちゃいい曲だからみんな聴いてよ」みたいな感じ。
──ササノさんも同じく?
ササノ:そうですね。当初の気持ちで言えば、活動の大きさや知名度でいうと、このなかでは僕が一番その度合いが少ないという自覚があって。でも、こんないい素材が揃っているんだから、それはいいものに決まっているじゃんっていう確信はあったし、いまでこそおこがましいですけど、自分自身が作るものにも自信がついてきて。いい作品になっている自信があるからこそ、それが聴かれないのはもったいないし、聴かれるべきだと思っているし、いや、絶対に聴いたほうがいいって!っていう気持ちになってますね。

取材・文=山口哲生 撮影=大塚秀美

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