21年前に初演された傑作“ホラー・コ
メディ”が河原雅彦演出で再び! 古
川雄輝主演の舞台『室温〜夜の音楽〜
』観劇レポート

舞台『室温〜夜の音楽〜』が世田谷パブリックシアターで上演中だ。
ケラリーノ・サンドロヴィッチが2001年に作・演出を手掛けた本作は、人間が潜在的に秘めたる善と悪、正気と狂気の相反する感情、恐怖と笑いを織り込んだ“ホラー・コメディ”として絶賛され、第五回鶴屋南北戯曲賞を受賞。記録にも記憶にも残る傑作戯曲からの誕生から21年。今回の上演は、数々の話題作を世に送り出した河原雅彦による新演出版で、古川雄輝、平野綾、坪倉由幸(我が家)、浜野謙太、長井短、堀部圭亮らが出演している。
SPICE編集部は、6月29日(水)14時回を観劇し、その後のアフタートークも拝聴。その様子をレポートしたい。
 撮影:引地信彦

 撮影:引地信彦
舞台は、とある田舎にある邸宅。そこではホラー作家の海老沢十三(堀部圭亮)と娘・キオリ(平野綾)がふたり暮らしをしている。12年前、拉致監禁の末、集団暴行を受け殺害されたキオリの双子の妹・サオリの命日の日に、さまざまな人々が海老沢家に集まってくる。

 撮影:引地信彦

 撮影:引地信彦
巡回中の近所の警察官・下平(坪倉由幸)、海老沢の熱心なファンだと言う女・赤井(長井短)、体調不良を訴えるタクシー運転手の木村(浜野謙太)。そこに事件の加害者少年のひとり、間宮(古川雄輝)が焼香をしたいと訪ねてきてーー。
バラバラに集まってきた登場人物たちだが、それぞれの奇妙な関係性が徐々に浮かび上がり、死者と生者、虚構と現実、善と悪との境が曖昧になっていき、やがて過去の真相が浮かび上がってくる……。

 撮影:引地信彦
 撮影:引地信彦
 撮影:引地信彦
  撮影:引地信彦
確かに“ホラー・コメディ”ではあるのだが、そう簡単にジャンル分けできる作品ではない。「はい! ここ笑って!」というような分かりやすいコメディではなく、登場人物たちが事情/秘密/思惑/下心などいろいろ抱えていて、それゆえの会話のズレや違和感のあるシチュエーションが同時多発的に起こり、それらを見ているのが面白いのだ(=コメディ要素がある)。
 撮影:引地信彦
 撮影:引地信彦
そして描かれる「12年前の事件」は、1988年から89年に実際に起きた「女子高生コンクリート詰め殺人事件」をモチーフとしている。徐々に明らかになる登場人物たちの“素性”を冷静に考えれば考えるほど、ゾッとするような怖さや薄気味悪さを感じる(=ホラー要素がある)。グロテスクな表現も無きにしもあらずだが、そこは脚本の力か、演出の匙加減か、登場人物たちの巧妙な会話劇に集中して楽しむことができるだろう。
 撮影:引地信彦
さて、音楽についても語っておきたい。2001年の初演のときはフォークロック・バンドの「たま」が音楽を担当したが、2003年にたまが解散したことから、ケラ自身も『室温』が再び世に出ることはないだろうと考えていたという。裏を返せば、それほど音楽が大切にされている作品ということ。今回、河原の出発点も「どの役者さんよりも先に、在日ファンクさんとお仕事できないかというところから」だと取材会で明らかにしている。
 撮影:引地信彦
 撮影:引地信彦
オープニングをはじめ、全編を通じて、7人組ファンクバンド「在日ファンク」の生演奏が聴ける。ボーカルの浜野謙太は歌も歌うが、役者としてもがっつり出演している(これが最高に面白い立ち位置!)。登場人物たちが歌で感情を表現するミュージカルとは違うし、多少の芝居と音楽の融合はあれど、バンドはバンド。耳に残るメロディと歌詞だが、それら一つひとつを深く考えすぎると、逆に混乱してしまう気もする。場の空気を変えたり、音楽の役割としては小休止を挟んだりする意味合いが大きく感じられ、ライトに(いや、しかしディープに?)音楽を楽しめるといいと思う。
 撮影:引地信彦
 撮影:引地信彦
配役については、全体的にいい“温度感”で、バランスが取れていると感じた。
 
加害少年のひとりである間宮役を演じた古川雄輝は、自身3年ぶりの舞台出演。序盤「なぜ間宮が主演なのだろう……?」と思うぐらいにはおとなしいポジションにいるのだが、やはり12年前の事件の重みが明らかになるにつれ、その間宮の存在の意味を強めていく。
 撮影:引地信彦
これは間宮に限らない話だと思うが、登場人物それぞれ、その表の顔と“素性”のギャップや感情の起伏の振れ幅は凄まじい。しかし、その大きな落差があっても、無理なく、どこかリアリティすらも感じながら、一人の人物の動きとして見られた(し、それがまた怖い)。
 撮影:引地信彦
この日のアフタートークで、堀部は「(気温が)40度と言われるものすごくの暑い中、ご来場ありがとうございました。まだコロナ禍ですし、そのなかで来ていただいているお客様には本当に感謝をしています」と話した上で「東京は7月10日までやっていますので、ぜひリピーターチケットを」とアピール。
 撮影:引地信彦
 撮影:引地信彦
平野は「自分を戻すのが大変だなと思うぐらい役に没頭して毎日毎日楽しくやっています。それをぜひ皆さんに観ていただきたい。本当に毎日変化していくお芝居なので、これから千穐楽までの間にどう私たちのカンパニーが進化を遂げていくかを観ていただけたら嬉しいです」とコメントし、古川は「7月10日までやっています。トークショーもあと1回あります。またよかったら遊びに来てください」と語った。
 撮影:引地信彦
上演時間は2時間35分(休憩含む)。東京公演は7月10日まで。1日(金)14時公演の後はアフタートーク(古川雄輝、坪倉由幸、浜野謙太、長井短)も予定されている。ぜひお見逃しなく!
取材・文=五月女菜穂

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