曲目も公演数もパワーアップ! 二度
目の『ピアノの森』ピアノコンサート
に向け髙木竜馬にインタビュー「文字
通り"熱い夏” を皆さんと」

一色まこと原作の漫画『ピアノの森』。ショパン・コンクールに挑む若者たちの青春群像を描き出した感動の物語だ。その世界観と名シーンの数々がよみがえるリアルなピアノコンサートシリーズの第二弾が今年も、8月5日(金)から9月25日(日)にわたって全18会場(19公演)で開催される。実際のTVアニメ版で雨宮修平役のピアノ演奏を担当したピアニストの髙木竜馬が昨年に引き続き、その名シーンの数々をピアノ演奏とトークで振り返る。ツアーを前にして髙木本人に意気込みを聞いた。

イープラス presents 『ピアノの森』ピアノコンサート

――昨年の『ピアノの森』コンサートツアーを振り返っての思いを聞かせてください。
ツアーの醍醐味は長い期間で何度も何度も繰り返し同じプログラムで演奏を積み重ねてゆけることにあります。同じ曲目の演奏でも段々と感情が移入されてゆき、また新たな発見や気づきもあり、ツアー最初の演奏と最後の演奏ではまったく違うものになっていくこともあります。一つの作品が弾き込まれ、進化してゆく様を自分自身でも感じ、楽しむことができるのは大きな喜びです。
――テーマ性のあるコンサートということで、普段のコンサートより緊張はしませんでしたか?
やはり緊張はします。むしろ、『ピアノの森』というものを傷つけてはいけないという責任感のようなものも感じていました。ですが、どの会場に伺っても原作ファンの皆さんが数多く来場して下さっていて、行く先々で会場空間がアットホームな空気に包まれていたのは大変嬉しかったです。私自身も同じようにあたたかい気持ちで演奏することができました。
こちらとしても「皆さん、一生懸命聞いてください!」というよりも「一緒に『ピアノの森』の世界を楽しみましょう」というのがあって、「観衆の皆さんと一緒に『ピアノの森』を背景にした物語を進めていく」という特別な楽しみや空気感のようなものも感じられました。
2021年開催の様子(撮影=ジョニー寺坂)
――今回は二回目となりますが、新たに意気込みを聞かせてください
今回は昨年の演奏した数曲に加え、新たに演奏する曲が5曲続きます。ショパンの「華麗なる大円舞曲」からリストの「ラ・カンパネラ」までの連続する5曲です。後半で新曲ばかりが続く構成になったのは偶然なのですが、お恥ずかしいことに、本当に今まで一度もさらったことのない曲ばかりなんです。今回もこのプログラムで事前にレコーディングしたのですが……
――あ、今年も事前に演奏プログラムでレコーディングが行われたんですね。ではツアー中、会場でCDが販売されるわけですね。今回のレコーディングはいかがでしたか。
いや、新しい曲が多かったので結構大変でしたね。去年演奏した曲は長期にわたって弾きこんだ分、さらにいいものが取れたと思いますが、新しい5曲に関してはさすがに一筋縄ではいかないものを感じました。
――大曲ばかりで……特に「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」は、三作品分くらいの規模ですね。
そうなんです。「ラ・カンパネラ」なんて、今の時代、小学生でも完璧に弾きこなす子もいるので、なぜか僕の中で「すぐ弾けるよね~」と思っていたんです。そうしたら、メチャクチャ難しくて……(笑)。
「ワルツ」も「アンダンテ・スピアナート」も「プレリュード第24番」もエネルギーに満ちていますし、そこに「ラ・カンパネラ」と続くのでレコーディングは大変でしたが、演奏会は自分自身でもすごくエキサイティングなものになる予感がしています。
>(NEXT)新たなプログラム。構成の背景は?
――ショパンの「プレリュード第24番」もですが、「プレリュード第13番」の選曲はさらに渋いですね。
「第13番」を選んだのは完全に個人的な好みです。24曲の中で一番好きなんですが、知名度は前奏曲の中では最も低い曲かもしれません。しかしこのプログラムの流れを考えた時に、入れてよかったなと感じています。
――と言うのは?
今回は「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」の後に休憩があるので、後半のプログラムは「プレリュード第13番」から始まります。やはり後半であっても、一曲目はお客様に心を鎮めて頂けるよう一呼吸おける曲をと考えました。その後に続く ”盛り上がる作品ラッシュ” に備えても、この「第13番」は意外と核になるのかなと自分自身でも感じています。
――ショパンの18番的な作品と渋めの作品とのバランスも絶妙ですね。
今回どの曲をやるかというのを(主催の)イープラスの皆様と会議をした際、昨年の内容に引き続いて、どの曲を残し、どのように新しい曲を加えてゆくかということでまず話し合いました。ラインナップのバランスを考えた時、全て新しい曲目とすることでいいプログラムが組めるか、というと「そういうことではないよね……」という意見でまとまり、まずは「英雄ポロネーズ」や「スケルツォ第2番」など、お客様が絶対に心待ちにして下さっているお馴染みの作品を軸に据えることで他の曲目を組み立てていきました。その上で「どこに頂点を持っていき、どこで一回クールダウンして、再び山を築いていくのか」ということを反映し、考え出したのがこのラインナップです。
――エキサイティングという意味では「髙木さんのリストをもう少し聴いてみたい」というのファンの思いはあるかもしれませんね。
今回は『ピアノの森』というコンセプトがありますので、どうしてもショパン作品がメインになってきますが、ショパンという作曲家は、いつどこで聴いても、誰もが素晴らしいと思う曲を数多く残していてくれているので、それらの作品をメインにプログラムを組めるのは、演奏家としてはとても意義深いものがあります。
――髙木さんご自身にとっても、ショパン作品を毎年ある一つの枠組みの中で弾き上げ、それを積み重ねていくということは、ライフワーク的な意味でも、あるいは勉強という意味でもプラスになるわけですよね。
はい、そう感じています。僕自身は一人の作曲家だけを演奏していきたいという思いや、「あのピアニストはこのジャンルが得意だよね」という印象は持たれたくないですし、今後もドイツ音楽やロシア音楽、またフランス音楽もバランスよく弾いていきたいと考えていますが、ショパンを続けて弾いていくということには大きな意義を見出しています。
そういう意味では、今回のツアーにおいて自分の中の課題として克服すべき点と感じていることが一つあります。先ほども申し上げたように、特に後半で盛り上がる作品が続くので「それらの作品たちをどのようなニュアンスで盛り上げていくのか」ということです。プロコフィエフやラフマニノフを演奏する際のようにパワーを駆使して盛り上げてゆくだけではなく、音色、響き、表情などを多彩に変化させていくことで一つの山を築いていけたらと思っています。
――モチベーションはつねにより高く設定してということですね。
それをある一定の期間で集中して19回続けていけるというのは、僕自身、すごく勉強になりますし、単に「19回演奏会があるツアーを完走した!」という達成感だけではなく、19回を通して何を学べるのかということをしっかりと考えていきたいと思っています。演奏家としてはまだまだ若輩者ですから、つねに学び成長していく必要があると深く感じています。
>(NEXT)友人たちの活躍に「久々にメラメラしている(笑)」
――昨年はショパン・コンクールでリアル『ピアノの森』が繰り広げられたわけですが、髙木さんはそれをどのようにご覧になり、どのように感じ取っていましたか。
一つには友人がたくさん出ていたということがあり、今までのコンクールとは少し違う目線で見て応援していました。昨年のショパン・コンクールを語る上では反田恭平さんの活躍には触れずにはいられないと思います。彼自身も戦略的にかなり考え抜いた結果だと思うのですが、何が素晴らしいかというと、彼自身、演奏家として普段コンサートで弾くようにコンクールのステージを楽しんで演奏し、それが評価された稀有なケースなんじゃないかなと感じています。
それは日本人にとって大きな一歩だと思います。コンクールに向けてスタイルを固めていくというものではなく、それまで演奏会で培ってきた一つの自分のスタイルをコンクールのステージで提示するという新たな次元に踏み込むことができたんじゃないかなと感じました。
――共感が持てましたか。
共感なんておこがましくて……。あの場で自分自身を余すところなく提示して、世界中の観客を熱狂させたという反田さんの偉業には尊敬の念しかないですね。自分ももっと誠実にピアノに向かって、頑張らなきゃと思うような、そういう仲間たちが近くにいてくれるということは本当にモチベーションになり、本当に幸せなことだと思っています。
――昨年のツアー以来、世界的な情勢も大きく変化しました。コロナは今なおですが、局地的な戦争が起き、混沌とした世界情勢の中で演奏家としてはどのような思いを抱いていますか。
私個人としては、演奏家という存在自体、決して作曲家の上に来るべきではなく、やはり作曲家という存在がいて、その作品があるからこそ演奏ができるのだと感じています。演奏を通してその作品が伝えるべきメッセージを伝えることが演奏家の大きな使命なのだと常に考えています。
ただ、そのようなことを考えた時、特にショパンの作品を取り上げてみると、ショパンが生きた時代は、彼の祖国であるポーランドがロシアによって侵略をされ、ショパンもポーランドの人々も戦禍にまみれた人生を送ったわけですし、実際にショパン自身が精神的に追い込まれた中で書かれたものも多数あります。
そういうものを演奏するときは、僕自身の解釈においては、戦争という実像を避けて考えることはできないですし、もし、ショパン自身のイメージの中にその生々しさや残酷さが投影されているのであれば、そのリアルさにフォーカスを充てて演奏することも時には重要だと思っています。それが、たとえ汚い音であったり、プロコフィエフ作品のように不協和のようなかたちになったとしてもそうあるべきだと考えています。
今回のプログラムには、そのような作品は特にありませんが、しいて言うならば「英雄ポロネーズ」はポーランドという国を導いた英雄の物語が投影されたものという解釈もありますので、この作品のイメージにある洗練や高貴さだけではなく、土臭い生々しさも表現してだしていいのかな……と思ったりもしています。そのようなことを考えつつ、平和を願い、少しでも情勢が良い方向に向かっていけるようメッセージを伝えていけたらいいなと思っています。
――初日の浜離宮朝日ホールでの公演、高崎公演はすでに完売のようですよ。
それは嬉しいですね。確かに僕自身、同級生にはもうお子さんがいるので、普段のコンサートだとなかなか声をかけにくいのですが、このコンサートのプログラムですと、家族皆さんでお越し頂けるので、それは本当に嬉しく思っています。価格もお求めやすいものになっていますので、気軽にお越し頂けたらと思っています。
――最後に髙木さん自身のファン、そして『ピアノの森』ファンの皆さんと両方いらっしゃると思いますが、メッセージをお願いします。
昨年のツアーも自分の演奏家人生の中で最も充実した楽しい期間で、本当に素晴らしいツアーとなりました。その際「私たちの地元にも来て頂けたら」というお声も多数頂きましたので、今回は曲目も公演会場も公演数もさらにパワーアップしています。激熱なプログラムが並んでいますので、文字通りの "熱い夏” を皆さまと楽しく過ごせるように努めて参ります。皆様を会場でお待ちしております。
取材・文=朝岡久美子 撮影=鈴木久美子

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