尾上右近が描いた和傘のオークション
落札額、岐阜和傘協会“後継職人育成
プロジェクト”に全額寄付へ

歌舞伎俳優の尾上右近が、創業150年・歌舞伎小道具の老舗「藤浪小道具」が主催したチャリティー企画に参加し、自ら描いた和傘のオークション落札額を本企画を主催した「藤浪小道具株式会社」とともに、岐阜和傘協会“後継職人育成プロジェクト”に全額寄付したことがわかった。また、歌舞伎座にて寄付金の贈呈が行われた。
歌舞伎座にて『六月大歌舞伎』(2022年6月2日(木)~27日(月))が上演されている。尾上右近は、第一部で上演している市川猿之助主演の『猪八戒』で孫悟空を演じ、来月の歌舞伎座『七月大歌舞伎』(7月4日(月)~29日(金))では第一部『當世流小栗判官』で万屋娘お駒と岡村采女之助、第三部『風の谷のナウシカ』ではアスベルと口上を勤めるなど、今年は3月以降、歌舞伎座に連続出演し、舞台を盛り上げている。
先月の歌舞伎座『團菊祭五月大歌舞伎』第三部で上演された『弁天娘女男白浪(白浪五人男)』で弁天小僧を演じた右近は、今年創業150年を迎えた歌舞伎小道具の老舗「藤浪小道具株式会社」が主催したチャリティー企画に参加し、弁天小僧が舞台で使うものと同じ和傘に「爆」と「志」を描き入れた。5月の公演期間中には歌舞伎座の地下・木挽町広場で特別展示され、さらに5月21日~27日までの一週間、ネットオークション(ヤフオク!)に出品し、右近の描いた2本の和傘は合計で100万円を超える高額落札となった。
尾上右近は本企画を主催した「藤浪小道具株式会社」とともに、「一般社団法人 岐阜和傘協会」の後継職人育成プロジェクトへ寄付金の贈呈を行った。
この度、「一般社団法人 岐阜和傘協会」平野明宏代表理事、岐阜和傘の普及と後継者育成を支援する「NPO法人 ORGAN」蒲勇介理事長が右近の出演している歌舞伎座を訪問。歌舞伎座の5階・木挽町ホールの松羽目の舞台には、『弁天娘女男白浪』で使用された「志ら浪」と書かれた番傘や岐阜和傘協会の作成した桜や桔梗をイメージした和傘などが色とりどりに飾られるなか、まず始めに、本企画を主催した「藤浪小道具株式会社」野村哲朗代表取締役社長より、「一般社団法人 岐阜和傘協会」平野明宏代表理事に寄付金150万円の目録が手渡され、続けて、平野代表理事より野村代表取締役社長、尾上右近の両名へそれぞれ感謝状が贈られた。

(左より)一般社団法人 岐阜和傘協会 平野明宏 代表理事、尾上右近、藤浪小道具株式会社 野村哲朗 代表取締役社長

岐阜和傘の普及と後継者育成を支援する「NPO 法人 ORGAN」蒲勇介理事長は、「右近さんのクリエイティビティと和傘職人たちの手仕事で、世界に一本だけの、プレミア感がある傘が出来上がりました。実は和傘に絵や字を描くのは大変難しいことですが、右近さんの描かれた和傘はとてもアーティスティックで、遊び心を感じました。地方の伝統工芸が、職人たちの地味な工程が、華やかな歌舞伎の世界と繋がっていることを知っていただけたこと、そして素敵な形に結実したことに大変感動いたしました。今回の寄付金は、和傘職人の育成に使わせていただきます」と感謝を述べ、「和傘はたくさんの部品を分業して作っていますが、現在ではどの部品の職人もそれぞれ数が少なく、主要な部品の轆轤(ろくろ)を作る職人は現在一人、和傘の骨を作る職人は三人です。岐阜は日本最大の和傘の産地ですので、全国に和傘だけではなく、その部品を供給する責任があります。岐阜に職人がいなくなることは、日本中の和傘がなくなってしまうことに繋がり兼ねません。ここ数年、ありがたいことに職人を志す20代 30代の若い方が出てきていますが、仕事として成立してしっかりと生活できるようになるためにも、なんとか和傘の産地としての責任を果たせるようにしていきたいと思います」。
さらに右近からのメッセージに、「最初はこの世界が楽しみで入ってきても、始めは地味な研修が続きます。そんな職人見習いたちに、右近さんの言葉を伝えたいと思います。若い女性の職人のアイデアで作った桜の形をした和傘が話題になっており、個人の想いが成立する時代に変わってきていることを感じます。そんな新しいキャリアモデルを作っていければ。一方で、様々な用途で使われることよりも、実は最近では一周まわって雨具として使う方が多くあり、和傘を日常的に使うライフスタイルを浸透させていければと思っています」と述べた。
感謝状贈呈(左より)一般社団法人 岐阜和傘協会 平野明宏 代表理事、 藤浪小道具株式会社 野村哲朗 代表取締役社長
藤浪小道具株式会社の野村代表取締役社長は、「本企画の経緯として、元来、和傘の調達に苦労していた背景があります。特に歌舞伎の場合は色や紙の質など、細かい注文が多く、これまでにも和傘を作る段階から入り込んで応援してまいりました。数年前から小道具独自の小物をネットや歌舞伎座地下の木挽町広場で販売していることもあり、本企画の提案者から“まめ番傘”と合わせて、右近さんが描く和傘のアイデアが出ました。このような形で右近さんにご協力いただけたことは本当に嬉しかったです。皆様からの反響やオークションでは想像以上の成果が出て、100万円を超える落札額には大変驚きました。右近さんは本当に多芸ですよね。今回作成した和傘のポストカード販売分を含め、諸経費を引いた全額に弊社からの寄付金を合わせ、150万円を岐阜和傘協会に寄付いたします。弊社は今年で創業150年ということもあり、語呂合わせで150万といたしました。ご協力いただきました皆様に改めまして感謝いたします」と本企画の経緯と感謝を述べた。
感謝状贈呈(左より)一般社団法人 岐阜和傘協会 平野明宏 代表理事、 尾上右近
岐阜和傘協会から感謝状を贈られた尾上右近は、「これまでにも小道具の一つひとつに想いをはせる瞬間はありましたが、どれだけの人たちが関わっているのかはイメージでしかありませんでした。お会いしたことのない方が携わっていることの実感はなかなかありませんでしたが、今回参加させていただいたことでそのことを認識できて嬉しかったです。今回の企画のお話をいただいたのは、日頃お世話になっている小道具さんです。その方の持つお芝居を愛する上での視野の広さ、プロ意識の高さ、そして心意気や情熱、結局は“人と人”なんだなと実感します。だからこそ、困っている人を助けたいという言葉には抵抗があって、助けるつもりではなくて、自分も楽しんでお互いによかったと思えることを目指したい。それが今回、僕が関わった理由です。こちらも楽しみ、その姿をお客様も一緒になって楽しんでいただくこと、結果的にそれを楽しんでくれた方が今回のオークションも楽しんでくれたのだと思います。今は、手間と時間を省くことに飽き始めている時代だと思います。だからこそ、手間暇かけた和傘に注目してほしいですね」と自身の考えを述べた。
また、将来職人を目指す方へ向けて、「とにかく“需要が少ない=ライバルが少ない”のだから、やれば仕事になる、チャンスだぜ、ブルーオーシャンだ!」と持ち前の前向きな明るさで言い放つと、「一代で終わる仕事ではなく、これまで続いてきた仕事に携わることは、大きな縄跳びのなかで一緒に跳んでいる楽しみがあって、自分のあとにも続いていくように仕事をすること、自分がいなくなったあとも賑わっていく意識、それが伝統や受け継がれている輪のなかに入る楽しみだと思います。ひとつの円のなかにいる仲間、同じ輪のなかに入って、一緒に謳歌しましょう!」とメッセージを寄せた。
尾上右近
さらに、来月の歌舞伎座、第一部『當世流小栗判官』について、「11年前は出演もないのに裏で見学させていただいた思い出深いお芝居です。今回、お駒という大役で呼んでいただけることが嬉しい」と述べ、3年前の初演に引き続いて出演する第三部『風の谷のナウシカ』には、「演舞場で初演した新作歌舞伎が、今回、歌舞伎座でどのような形になって楽しんでいただけるのか、自分でも楽しみにしているところです!」と抱負を述べた。

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