7月歌舞伎座で出会う、尾上菊之助の
クシャナ殿下と中村米吉のナウシカ 
『風の谷のナウシカ 上の巻―白き魔
女の戦記―』会見レポート

2022年7月4日(月)に歌舞伎座で『風の谷のナウシカ 上の巻―白き魔女の戦記―』が開幕する。2019年12月に新橋演舞場で初演された新作歌舞伎で、歌舞伎座では初めての上演だ。クシャナ役の尾上菊之助とナウシカ役の中村米吉が、作品への思いを語った。
■菊之助が「ナウシカは米吉さんに」と思った理由
初演でナウシカを勤めた菊之助が、今回はクシャナ役となる。
菊之助「三部制という上演時間の制約がある中、どうお見せするか。初演の前半(昼の部)の物語を上演します。スタジオジブリの鈴木敏夫さんからのご提案もあり、松竹さんとお話の上、私がクシャナ役を勤めさせていただくことになりました。そしてナウシカ役には、前回ケチャの役が素晴らしかった、米吉さんに声をかけさせていただきました」
ケチャは、マニ族の娘。菊之助は、初演での米吉の役作りへの姿勢に信頼を寄せる。
菊之助「米吉さんは、役とまっすぐに向き合ってくださいました。とても細かく、熱心に役作りをしてくださり、『ナウシカ』という作品を支えていただきました。再演では、米吉さんの心でナウシカを演じていただくことで、もっと深く見えてくるものがある。私がクシャナを勤めさせていただくことにも、同じ意味があると思っています。キャストを変えることで作品が深まっていくものがある。これは古典歌舞伎でなされてきたことです」
オファーを受けた時の米吉は、「青天の霹靂とはまさにこのこと」な心境だったという。
米吉「思わず、本当に私で良いのでしょうか……と菊之助のおにいさんにお電話をしてしまいました。今も、皆さんの前でお話していることが夢のようです。本日は、少しでも“私がナウシカだぞ”とアピールできるよう、“青き衣”だけは着てまいりました。ますます良い作品となるよう、ただただ精一杯勤めさせていただきます」
米吉が袖を広げてアピールすると、会見の場が笑いに包まれた。
米吉は、初演を次のように振り返る。
米吉「菊之助のおにいさんが、とても分厚い台本の整理から始めていらした姿が印象に残っています。おにいさんは、皆さんからの色々な意見を受け、台本に落とし込み、熟慮に熟慮に重ねてお芝居を進めていらっしゃいました。稽古のたびに台本の差し替えがあったのですが、先輩方が瞬時に適用して、歌舞伎としてお芝居を構築なさっていた姿も刺激的でした。新作歌舞伎には、古典歌舞伎にない不安を感じるものですが、初日が開いた時、そのお芝居に皆の血と汗の結晶を見た気がしました」
今回は、菊之助の長男・尾上丑之助も出演する。
菊之助「丑之助はナウシカが大好きで、再演があれば出たいと言っておりました。こんなにも早く機会がくるとは思いませんでしたが、本人に確認したところ、出たいと。ナウシカと一緒に、金色の野で踊らせていただく予定です」
■真の心で生きれば、人は変われる
『上の巻』となる本公演の副題は、『白き魔女の戦記』。白き魔女とは、クシャナのことだ。
菊之助「クシャナの心情を、生い立ちから含めて描きたいと考えています。ナウシカは、母親に対して複雑な思いを持ちながら育ちました。蟲の声が聞こえる“虫めづる姫”として、周りから奇特な目で見られる部分もあります。それは彼女の純粋さでもあり、その純真さが人々を変えていきます。歌舞伎のモドリの手法が各キャラクターにみられるんです。今回は、ナウシカとクシャナの交差点のようなものを描き、いずれ『下の巻』として、クシャナとナウシカの間におけるそれをお見せできれば」
原作の漫画は、1982年から94年までの13年にわたり連載された。
菊之助「令和元年の初演時、マスクをしなければ生きていけない時代が来るとは想像もしませんでした。多くの方は、戦争が間近に迫っているとも思っていなかったはず。けれども宮崎駿先生は“1980年代から今を見通していたのでは?”と思うほど、ナウシカの世界観が現代に当てはまります。少し殺伐とした今の時代、人のことを考える余裕をもてず、個人主義になりがちなところもあると思います。でも世界がどんなに変わろうと、真の心を持って生きれば、人は変われる。そのような強いメッセージを、作品から感じます。令和4年7月第三部では、その思いを込めて、米吉さんと『風の谷のナウシカ』を作り上げていきたいです」
■米吉、メーヴェで人生初の宙乗りへ
歌舞伎座での上演は、今回が初めて。舞台は、新橋演舞場よりも横長になる。
菊之助「大道具さんと相談し、その特性を生かし、よりダイナミックに原作漫画​の世界を生き生きと蘇らせていけたら。前回は、腐海の場面が評判が良かったと聞いています。今回も、ナウシカの登場シーンにご期待ください。そして米吉さんには、ぜひメーヴェにのっていただきたいです」
米吉にとって初めての宙乗りとなる。
米吉「アニメでも漫画でも、空を飛ぶナウシカは、大変印象的で素敵なシーンとして描かれます。お客さまに喜んでいただけますよう、颯爽と……お見せできるかは分かりませんが、少しでも原作の魅力を現実に持ってこれたら」
会見の時点で、メイクやふん装はテスト中だった。菊之助は「米吉さんのナウシカが、とてもかわいいんです」と笑顔で語る。米吉は、日々、楽屋でメイクテストをし、その写真を菊之助に送っているのだそう。
菊之助「顔の色の薄さや濃さを毎回工夫され、アイラインのぼかしや入れ方を試行錯誤され、今日はこんな感じですと。熱心にこの役に向き合っていただいてることが大変うれしくて。私が演じるクシャナという役は、初演で中村七之助さんが、とても素敵に演じてくださいました。そのお心をいただきながら、私ならではのクシャナを演じていければと思います」
米吉はメイクについて、「いまは絶賛迷子中です」と困ってみせたり「紫吹淳さんにお話をうかがっています」と明かしつつ、テストを重ねている様子をうかがわせる。
米吉「いわゆる歌舞伎らしいお化粧がうまく入るか。現代的過ぎても歌舞伎では乗らなくなります。その兼ね合いが難しいところだなと感じます」
その後に公開されたふたりの扮装写真は、大いに注目を集め好評を博している。SPICEでは、近日、ビジュアル撮影の取材レポートを公開する。
『風の谷のナウシカ』(令和4年7月歌舞伎座)(左から)ナウシカ=中村米吉、クシャナ=尾上菊之助  撮影:永石勝  /(c)松竹
■お互いを映す鏡となり成長できれば
役に向けるまなざしを絶賛された米吉。ナウシカについては「ある意味では夢想家」だと考える。
米吉「話せば分かりあえると考えているところがあり、それが無鉄砲さに繋がっているようです。クシャナを通じて現実も知る。けれども理想とする平和な世界、蟲との共存できる世界を目指して進んでいきます」
そして役作りは「まず菊之助のおにいさんのナウシカが、歌舞伎のナウシカとして目指すところ」だと続けた。
米吉「そこに、いかに自分のエッセンスをふりかけていけるのかも、考えなくてはいけません。でも菊之助のおにいさんと比べ、僕は未熟で経験も浅いです。けれども、それはクシャナとナウシカの関係にも通じるように思います。等身大の自分とおにいさんの関係性を芝居に生かしていけたら」
この言葉を受けて、「私は彼を決して未熟だとは思っていません」と菊之助。
菊之助「まっすぐに役と向き合う米吉さんには、清らかなもの、きらめくものを感じました。芝居への情熱もまた、ナウシカとリンクして感じられます。ナウシカは心の闇を抱えつつ、皆から慕われています。一方でクシャナは、小さい頃に母親が毒をあおり、それを知りながら、気づかないふりを強いられました。兄弟や父親からも命を脅かされる中で育ちます。生い立ちも性格も違いますが、クシャナはナウシカをどこか羨み、また心の中では応援しているとも思います。立場上、親友のようにはなれないけれど、彼女を通して自分も変わりたい。変われるのではないか。そんな期待を抱いているのではないでしょうか」
「クシャナという役を通し、私自身いかに成長できるか。役者は一生修行です。一生成長していきたいと思っています。ナウシカとクシャナがお互いを映す鏡となり、切磋琢磨し成長していけれたらと思います」
菊之助は、穏やかな口調にもたしかな決意を感じさせ、取材会を結んだ。『風の谷のナウシカ ―白き魔女の戦記―』は、歌舞伎座『七月大歌舞伎』の第三部にて、7月4日(月)から29日(金)までの上演。
取材・文・撮影=塚田史香

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