10代目ピーター・パン吉柳咲良がラス
トフライングへ! ブロードウェイミ
ュージカル『ピーター・パン』製作発
表レポート

2022年夏、ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』が東京・大阪で上演される。
本作は1981年の日本初演以来、子どもから大人まで多くの人々を魅了し続けてきた名作ミュージカル。2021年には、潤色・訳詞をフジノサツコ、演出を森新太郎が手掛けた新演出版が誕生した。続く2022年版では再び森が演出を務め、新演出版がさらにパワーアップして帰ってくるという。
開幕まで残すところあと1ヶ月という2022年6月23日(木)、都内にて製作発表が行われた。その模様を写真と共にレポートする。
冒頭で司会の軽部真一が作品紹介をすると、本公演の主催者を代表してホリプログループ会長の堀義貴から挨拶があった。
軽妙な語り口で製作発表を盛り上げていた軽部さん
ホリプログループ会長 堀義貴
今年、42年目の『ピーター・パン』が帰ってまいります。『ピーター・パン』は毎年夏の恒例ではありますが、ホリプロにとっても初めて本格的に舞台製作をするきっかけになった作品でもあり、これまで脈々と続いてきた演劇製作の原点であり、魂である作品です。歴代のピーター・パンもそうであったように、今年をもってピーター・パン役の吉柳咲良がラストになります。大人になって卒業しなければいけないということは悲しい面もありますけれど、それだけ巣立っていくタイミングであるとも思います。咲良のラストのピーター・パンをぜひ目に焼き付けていただければなと思います。
一昨年より、新たに森新太郎さんに演出をお願いしました。一番最初の榊原郁恵の『ピーター・パン』に非常に近く、原点に立ち返って、さらに現代を加味した非常に深い演出になっています。コロナ禍でみなさん苦労された中で、一時でもネバーランドに旅立てる経験をぜひ楽しんでいただければなと思っています。
ホリプログループ会長 堀義貴
堀が挨拶を終えると、ピーター・パン役の吉柳咲良とウェンディ役の岡部麟(AKB48)による歌唱披露が行われた。この日披露されたのは、劇中のナンバー「ネバーランド」と「飛んでる」の2曲のメドレーだ。
(左から)吉柳咲良、岡部麟
『ネバーランド』ではピーターがウェンディに歌いかけ、宝物と冒険がいっぱいのネバーランドの魅力を伝える様子が活き活きと表現されていた。続く『飛んでる』では、吉柳は今にも空に飛び立ちそうな勢いのある歌声を伸びやかに響かせる。ステージ上を所狭しと右へ左へと駆け回る岡部のウェンディも実に愛らしい。いよいよピーター・パンに会える夏がくるということが実感できる、心躍るパフォーマンスだった。
吉柳咲良
岡部麟
歌唱披露後は、改めて本日の登壇者である吉柳咲良、小西遼生、岡部麟、田野優花、壮一帆、森新太郎(演出)ら6名が姿を見せた。まずは挨拶として、作品への想いや意気込みを一人ずつ語ってくれた。
(左から)田野優花、岡部麟、吉柳咲良、小西遼生、壮一帆、森新太郎
森新太郎(演出)
昨年初めてこの作品に挑むにあたって、40年に渡るホリプロさんの上演の記録映像を観させてもらったのですが、私の心を一番強く感動させたのは初代の榊原郁恵さんのピーター・パンでした。活き活きとしていて無邪気で、私はすっかり心を奪われてしまいました。なので、昨年の稽古中は吉柳咲良に何かある度に「郁恵さんみたいにやれ! 郁恵さんを目指せ!」と言い続けた記憶があります。結果、吉柳咲良は私の想像を遥かに超え、自由奔放で勝手気ままで、それでいて生きる喜びに満ち溢れたピーター・パンを作り上げてくれました。今年はあえて吉柳咲良にこう言いたいと思います。「郁恵さんを超えろ!」と。
今年で(吉柳のピーター・パンが)最後になってしまうのは、私にとってはとても寂しいこと。彼女の輝くようなフライングを見れなくなるのは本当に心惜しいんです。けれども、吉柳はこれまで以上に軽やかに力強く、我々をネバーランドへ導いてくれるはずだと思っています。全ての歌も踊りも演出的な遊びも、、昨年より確実にグレードアップしております。どうかみなさん、ワクワク心を弾ませて劇場へお越しいただければと思います。
森新太郎(演出)
吉柳咲良(ピーター・パン役)
(森さんに)こんなに褒めていただけると思わなかったのでびっくりしているんですけど、やっぱり最後はプレッシャーをかけられました(笑)。今年も頑張りたいと思います。自分では全然最後という感じはしていないんですけど、今年が集大成だからと思って頑張っている部分もあって、よくわからないままフワフワした気持ちで稽古に入ったのですが、本当に楽しくて! 私が子どもでいていいと思える場所はここだと思うので、誰よりも全力で楽しんで、アホなピーター・パンを精一杯演じようと思います(笑)。
軽部「最初は何歳だったんでしたっけ?」 吉柳「最初は13歳でした。今年は高校3年生、18歳になりました!」
小西遼生(フック船長/ダーリング氏役)
去年初めてこの『ピーター・パン』の世界に飛び込ませていただきました。いろんな制約があるタイミングでしたが、この作品は舞台上の人間が客席からエネルギーをもらって演じるものなので、大変なことも乗り越えることができました。その中でも嬉しかったのが、子どもたちの声援や拍手。僕の知り合いの先輩役者さんが子どもを連れて観に来てくれたんですけど、その子は演劇を観るのが初めての体験だったそうで。僕らが舞台上で演じているものを、客席から本当の世界だと思って観てくれている方がたくさんいる舞台だと認識しています。なので、今年は去年以上にキラキラとした世界を、そして咲良の最後のピーター・パンなので、彩れるように僕らも頑張りたいと思います。
軽部「暑くないですか?」 小西「暑いですよ!(笑)」
岡部麟(ウェンディ役)
今年初めてネバーランドへ飛んでいきます! 誰もが知っている夢のような『ピーター・パン』というお話に仲間入りすることができて本当に光栄に思いますし、嬉しいなあと思っています。観てくださる方の中にはいろんな方がいらっしゃって、特にお子さんが『ピーター・パン』を観た何十年後かに、「あ、そういえば昔『ピーター・パン』観たな。そのときのウェンディちゃんがかわいかったな」と思い返してもらえるような、そんなウェンディちゃんになりたいなと思っています。
軽部「歌唱披露はどうでしたか?」 岡部「咲良ちゃんの歌声が本当に透き通っていて! 携帯に録音した咲良ちゃんの歌声を毎晩聞きながら眠りについています。それくらい大好きです。ピーターラブです!」

岡部さんの「ピーターラブ」発言に、思わず笑顔が溢れる吉柳さん

田野優花(タイガー・リリー役)
私は今回初めて参加させていただきます。タイガー・リリーは私の大先輩でもあり、大・大・大好きな宮澤佐江さんが演じていた役です。そのあとを継いで緊張しているんですけども、リスペクトを持ちつつ、佐江さんを超えたいなと思っています。(宮澤さんより)ちょっと身長はちっちゃくなりましたけど(笑)、パワーは佐江さんよりも出せると思っているのでそこは頑張らせていただきたいと思います!
軽部「タイガー・リリーといえばアクションですが、その辺の自信は?」  田野「めちゃくちゃ自信あったんですけど、森さんがスパルタ過ぎて! 稽古場で立てなくなったのは初めてでした(笑)」
壮一帆(ダーリング夫人役)
幼い頃からワクワクドキドキして観ていた大好きな『ピーター・パン』の世界。そして歴史ある舞台に初めて立たせていただくということで、次に繋げなければいけない責任感と、それを上回るワクワク感でいっぱいです。楽しみにしていた森さんの演出は、役者仲間から「本当にしつこいよ」と聞いていまして(笑)。稽古場に行ったら嬉しいぐらいのしつこさで、やっぱり役者はMでなんぼだなと思いながら、そのしつこさを喜んでやらせていただいています(笑)。
あとは若者に負けないように、子どもたちを愛して素敵なお母さんを演じることができればなと頑張っています。ついでに言うと、ダチョウ役もやります(笑)。思っていた以上に出番も多く活躍していて、何ならお母さんよりセリフが多いんじゃないかというくらいダチョウ語で喋ることもあります(笑)。観に来てくださった方の心に残るよう、心を込めてダチョウも演じたいと思います。
軽部「お衣装すごくエレガントですね」 壮「ありがとうございます。でもまだ女性に戻って8年目。19年男(役)をやっていたものですから、まだ慣れませんね(笑)」
全員が挨拶を終えると、報道陣からの質疑応答へと移った。
ーー幼少期の『ピーター・パン』にまつわる思い出を、みなさんそれぞれ教えてください。
吉柳:13歳で自分が演じるときに初めて『ピーター・パン』を知りました。私、それまで『ピーター・パン』の物語すら知らなくて、ミュージカルがあることも知らずにこの世界に入ったんです。なので、実はまだアニメーションの『ピーター・パン』をしっかり観たこともなくて……。ピーター・パンという役を自分が演じることで、知ることができてよかったなと思います。
小西:未だに飛べると思っていますけどね、僕は。フック船長をやっていますけど、空を飛ぶものに関しては憧れをいつも持っているんです。一昨日だったかなあ、夢の中でも飛んでいました(笑)。フック船長は空を飛べないんですよ。今でも「なんで?」と思っているくらい飛べることに憧れがあるし、そういう意味で言うとピーター・パンに対して不満もありますよねえ。なぜ僕じゃないんだと(笑)。子どもの頃からディズニーランドのピーター・パンの乗り物も好きでしたし、空を飛ぶピーター・パンには憧れていましたし、憧れています。
軽部:確かに、フック船長はフライングしないですね。
森:選ばれた子どもしか飛べないんですよ。
吉柳:いや、でも、私は森さんにフライングをするときに無理難題を言われてきたので、今年こそ森さんをフライングさせたいと意気込んでおります。
森:昨年、僕をフライングさせようという動きがあったらしいんですけど、あんな危険なものは嫌だと断りました。
吉柳:やっているんですよ、私(笑)。今年は絶対に森さんを飛ばすという気持ちです。大変さをわかってもらわないと!
(左から)吉柳咲良、小西遼生
岡部:子どもの頃に『ピーター・パン』を観て以来、大人になるまで観ていなかったんです。なので物語の記憶が薄っすらとしかなくて、ウェンディ役が決まるまで、ピーターとフック船長はウェンディちゃんのことが好きで取り合いをしているんだとずっと勘違いしていたんです。台本を読んだとき、フック船長は別にウェンディちゃんのことを好きなわけじゃないんだなあって、ちょっとショックを受けました(笑)。
軽部:なるほど。ウェンディとピーター・パンとフック船長が三角関係だと勘違いしていたと。これ、もしかしたら新解釈としてあるかもしれないですね?
森:ないです、ないです(笑)。
(左から)田野優花、岡部麟、吉柳咲良、小西遼生、壮一帆、森新太郎
壮:私は小さい頃にVHSで『ピーター・パン』のアニメをヘビロテするくらい観ていて、初恋の人と言っても過言ではないくらいピーター・パンの大ファン。でも当時の私は、ティンカーベルみたいにウェンディに嫉妬すればいいものを、「ウェンディとピーターがくっつけばいいのに」と思いながら観ていたんですよ。今回の出演が決まって改めて台本を読んだときはすごくシュールな見方をしてしまって、本当に自分は汚れた大人になっちゃったんだなあと(笑)。森さんが「『ピーター・パン』の世界はごっこ遊びだ」とおっしゃっていたのがすごく印象的で、「お父さんやお母さんも子どもたちが演じている」というお話をされていたので、やっぱり子ども心を思い出してやらなきゃいけないんだなと思いました。
田野:この質問がこないときっと一生話すことがないと思うエピソードがあります。海外の実写版の『ピーター・パン』の映画を幼少期に観て、そのピーター・パンに本気で恋したんです。それで、絶対に届くはずもないのにその方に手紙を書いて、勉強机の中にずっと入れていたんですよ。
軽部:かわいいですけど、前フリの割には案外普通のエピソードでしたね。
田野:え、うそ!?(笑)だってこの質問じゃないと、一生話すことないんですよこれ!
軽部:ずっと引き出しに入れていた手紙は今も持ってるんですか?
田野:今は持ってないです(笑)。どこかにいっちゃいました(笑)。
ーー吉柳さんは、いつ頃の段階で今回が最後の『ピーター・パン』になると決めたのでしょうか?
吉柳:今年に入ってから、高校も卒業するしいいタイミングではあるのかなあと思っていました。明確なきっかけがあったわけではないんです。事務所でも「今年で最後だね」という話をしていて、雰囲気的なものか私の気持ち的なものなのかわからないけれど、なんとなく感じてはいました。今年は何よりも楽しむということを心に決めているので、誰よりも稽古場で楽しんでいると思うし、本当に小学生と同じレベルで騒いでいます(笑)。
ーーこの5年間の『ピーター・パン』で1番の思い出は?
吉柳:いろんなことがあったので難しいですね。辛かったのは去年かなあ。演出が変わることで台詞や歌詞が変わったり、元々やっていたピーター・パンの固定概念を180度覆されて、「私が今まで作ってきたものはなんだったんだ」というくらいの気持ちになったときもあったりして(笑)。
森さんが作るピーター・パンって、破天荒だしわがままだし、でも愛おしくてすごくかわいらしくて、放っておけないというか。自分で台詞言ってて面白くなって笑っちゃう瞬間もあったりして、すごく楽しいんですけど体力的に辛かったなと思います。でも、一番楽しかった思い出も去年かもしれないですね。いろんな感情でいっぱいいっぱいになって、でもネガティブな感情ばかりではなく、舞台ってこんなに楽しいんだなと改めて実感しました。辛くも楽しくも、すごく思い出深い1年でした。
吉柳咲良
ーー吉柳さんは先程「フライングで森さんを飛ばしたい」とおっしゃっていましたが、作戦はありますか?
吉柳:フライングの松藤(和広)さんに直談判しに行こうと思います。本当に無理難題を言われたことを私は忘れません。どれだけ辛いか!
小西:去年、ちょっといけそうだったもんね。
吉柳:そうなんです。地方で飛ばそうと思っていたら、地方に森さんがいなかったんですよ! なので、今年は東京公演中に飛ばしてやろうと意気込んでおります。
軽部:森さん、覚悟を決めたほうがいいかもしれませんよ。
森:僕、本当に高所恐怖症なんですよ……(笑)。
本公演でついに『ピーター・パン』を卒業するという吉柳が熱い想いを述べ、この日の製作発表は締めくくられた。
吉柳:今年で最後という実感はまだ湧いていないんです。コロナ禍での中止から1年空けて改めて舞台に立ったとき、お客様のエネルギーを直接感じる場所でお芝居をさせていただくことって、こんなに幸せなんだなと改めて感じました。それと同じくらい、観に来てくださったお客様にそういう気持ちになっていただきたいし、思い出に残る夏になればいいなと思います。いろんな見方ができて、どんな人でも楽しめる舞台だと思っているので、最後ということもありますし……最後という言葉を言うと寂しくなるんですけど……そんな私が5回もやってきたピーター・パンが確実に成長していると思っていただけるように、そして純粋に観てくださった方々の思い出に残るように、全員で一生懸命毎日稽古しています。この夏は『ピーター・パン』を観に来てほしいですし、すごくすごく期待して待っていてほしいです。ぜひみなさん観に来てください。よろしくお願いします!
(左から)田野優花、岡部麟、吉柳咲良、小西遼生、壮一帆、森新太郎
取材・文・写真=松村 蘭(らんねえ)

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