日生劇場開場60周年記念 主催公演制
作発表記者会見レポート~オペラとフ
ァミリーフェスティヴァルの2本柱で
「夢の世界を届け続けたい」

日生劇場開場60周年記念主催公演の制作発表記者会見が、2022年6月22日(水)に開催された。
1963年に開場し2023年に60周年を迎える日生劇場が、60周年記念公演ラインアップと記念ロゴを発表した。まず最初に、ニッセイ文化振興財団[日生劇場]理事長の松山保臣が登壇し、「この劇場は開場以来、オペラと児童文化という2つのジャンルに力を入れてきた。本日は名実ともに日本を代表するクリエイターの方にお集まりいただき制作発表会をすることができた。日生劇場はこれからも舞台という非日常的な空間を通じて皆様方に夢の世界をお届けし続けたいと思っている」と語った。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 松山保臣
続いて、60周年記念ロゴが披露された。日生劇場が60年にわたり積み上げてきた歴史を、劇場の象徴のひとつであるらせん階段と右上がりの「60」の数字で表現したというロゴは、劇場のシンボルカラーでもあり劇場内の赤いカーペットを思わせる鮮やかな赤が印象的だ。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 60周年記念ロゴ
公演ラインアップ発表では、オペラ『マクベス』の演出も手掛ける粟國淳芸術参与が各作品を紹介した後、オペラ『メデア』演出の栗山民也、オペラ『午後の曳航』演出の宮本亞門、音楽劇『精霊の守り人』演出の一色隆司、舞台版『せかいいちのねこ』脚本・演出・振付の山田うん、谷桃子バレエ団芸術監督・バレエ『くるみ割り人形』改訂演出・振付の髙部尚子が登壇した。
「NISSAY OPERA 2023」として、オペラは3作品上演される。2023年5月27日(土)、28日(日)に上演されるオペラ『メデア』は、イタリアの作曲家ルイージ・ケルビーニの代表作で、今回が日本初演となる。指揮は園田隆一郎、演出は栗山民也、メデア役には岡田昌子と中村真紀が起用される。日生劇場開場50周年記念特別公演『リア』を演出して以来10年ぶりの日生劇場登場となる栗山は「数か月前、ウクライナの劇場にミサイルが撃ち込まれた。劇場というのは人々が集い、人間や世界について考え学び、そして夢を見る場所だと思っていた。あれ以来、劇場とはどういう場所なのだろう、とずっと考えている。『メデア』は紀元前に書かれたギリシャ悲劇を原作としているが、今もしっかりと息をしている作品で普遍性を感じる。今の日本はすごくわかりやすいことを受け入れる時代になってしまったが、不条理や矛盾に満ちているのが人間の本来の姿だと思う。表と裏、悲劇と喜劇、愛と憎しみ、正気と狂気、これが『メデア』の中心になっている。永遠のテーマを秘めた今作を、皆さんの才能をお借りして心に残る作品にしたい」と語った。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 栗山民也
2023年11月11日(土)、12日(日)に上演されるオペラ『マクベス』は、シェイクスピア四大悲劇の名作をヴェルディがオペラ化したもので、日生劇場でヴェルディ作品が上演されるのは1970年の『ファルスタッフ』以来53年ぶりとなる。指揮は沼尻竜典、演出は粟國淳が務める。粟國は「音楽と言葉という2つの力を合わせることによって、お芝居とは違う舞台表現ができている作品。ヴェルディ初期の作品で、オペラというのは劇であり、歌い手というのは役者でもあってドラマを作れなくてはいけない、言葉と意味をちゃんと表現して、音楽家を喜ばせるよりも台本作家を喜ばせろ、そうでないとこの作品は成立しない、といったことをヴェルディが歌い手に伝えている。演出家としては、あんな難しい歌を歌いながらどうやって歌い手に芝居をさせようかというチャレンジになる」と語った。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 粟國淳
2023年11月23日(木・祝)~26日(日)に上演されるオペラ『午後の曳航』は、戦後ドイツを代表する作曲家ハンス・ヴェルナー・ヘンツェが三島由紀夫の同名小説をオペラ化したもので、指揮はアレホ・ペレス、演出は『金閣寺』に続き三島由紀夫原作のオペラを手掛けるのは2作目となる宮本亞門で、ドイツ語版舞台上演は日本初演となる。宮本は「コロナ禍や戦争が起きている中で、なぜ舞台をやるのか、なぜ我々はそれでも生き続けるのか、何を大切にしているのかなど、世界中の人が徹底的に打ちのめされて考えたと思う。舞台というのは意味があるのかないのか、という問いを深く考えている時期だと思う。でもそこには喜びや感動や生きる希望が必ずあるということで、それでも舞台を続ける意味というものを自分に課して出演者やスタッフたちと最高の物を作っていきたい。僕は三島由紀夫が大好きで『金閣寺』もオペラ化した。三島さんの壮絶な生き方、醜いものも美しいものもすべて出していくという姿に勇気をもらっている。いつかやりたかった今作をできるということで興奮している。作品の内容はとても痛く、恐ろしく、美しい。人間の本質を露骨に表に出しているので、現代人の悩みそのものと言えるかもしれない」と語った。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 宮本亞門
家族で本格的な舞台芸術に触れてもらうことを目的として1993年よりスタートしたシリーズ「日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2023」では、3作品上演される。2023年7月29日(土)~8月6日(日)に上演される音楽劇『精霊の守り人』は、TVドラマ化もされて話題となった上橋菜穂子によるファンタジー小説の舞台化で、演出はTVドラマ「精霊の守り人」や大河ドラマ「麒麟がくる」の演出を手掛けた一色隆司が務める。一色は「私の周りに、ニッセイ名作劇場(現・ニッセイ名作シリーズ)を見て影響されて演劇の世界に入ったという人が多い。人生を変えてしまうくらいのパワーとエネルギーというものが劇場にはある。「精霊の守り人」は今の時代に何を届けられるのか、届けたいのか、届ける意味があるのか、ということを原作の上橋菜穂子さんとも議論を重ねてきた。何者でもない人が自分の運命に立ち向かいながら、周囲の人を巻き込んでひとつの大きな力となって世界を変えていくという物語なので、人間の持っているエネルギーの素晴らしさへの賛歌だと思ってそれを皆さんにお届けしたい。我々が人間としてどうあるべきかということが問われている時代の中で、未来を担っていく子どもたち、その子どもたちを育んでいる大人たち、すべての世代に劇場から何かを持って帰ってもらえるような作品を目指したい」と語った。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 一色隆司
2023年8月19日(土)、20日(日)に上演される舞台版『せかいいちのねこ』は、画家・絵本作家のヒグチユウコの絵本を舞台化するもので、脚本・演出・振付を山田うんが手掛け、人形劇団ひとみ座の人形とCo.山田うんのダンサーたちの出演で原作絵本の幻想的な独自の世界観を表現する。山田は「ヒグチさんの作品は“絵物語”という独特のスタイル。動き、セリフ、歌、音楽、色彩、美術、小道具といった舞台全体がひとつの大きな生き物のような独特な舞台を作り上げたい。日生劇場は中に入ると「ここはどこなんだろう?」と思わせるような不思議さがある場所。幕が開く前から幕が閉じるまでずっとドキドキが止まらないような、子どもたちにとって新しい劇場体験になるような作品にしたい。主役はねこのぬいぐるみで、人間はほとんど出てこない物語を通じて、幸せとはなんだろう、本物のねことはなんだろう、他人へのあこがれや比較といった、人間のまなざしが描かれている。子どもたち、親御さんたちが語り合えるような、心に残る作品を作りたい」と語った。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 山田うん
2023年8月25日(金)~27日(日)に上演される谷桃子バレエ団『くるみ割り人形』は、谷桃子バレエ団芸術監督の髙部尚子が今回のために“日生劇場版”として改訂演出・振付したものとなり、日生劇場主催のバレエ公演としては初めて子役オーディションを実施する。髙部は「バレエはミュージカルや演劇などと比べて、なかなか敷居が高くて見る機会が少ないという話をよく聞く。そんな中、日生劇場が子どもたちにバレエを見る機会を与えてくださっていることはとてもありがたく嬉しい。この機会にバレエの素晴らしさというものを子どもたちに伝えていきたい。今回は子役のオーディションも行い、子どもたちと一緒に新しい「くるみ割り人形」を作ることができたらと思っている。「心で踊るバレエ団」ということで、団員一同頑張りたい」と語った。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見 髙部尚子
60年という長きに渡り日本の舞台芸術を支えてきた日生劇場の変わらぬ基本理念がよく伝わってくる記者会見だった。会見中でも言及されていたが、コロナ禍や戦争などで世界中が混乱に陥り、舞台芸術も世界的に大きな変革を迎えている。その中にあっても、変わらず舞台芸術を観客に届けるという強い思いの伝わってくるラインアップだ。時代が変わろうとも、変わらない大切なものが劇場にはあるということを、これからも多くの観客に伝え続けてくれることを期待したい。
日生劇場開場60周年記念主催公演制作発表記者会見
取材・文・写真=久田絢子

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