猿若町180周年の節目に『平成中村座
公演』が新作歌舞伎を引っ提げて復活
 中村勘九郎、中村七之助が意気込み
を語る

十八代目中村勘三郎が抱いていた「江戸時代の芝居小屋を現代に復活させ、多くの方々に歌舞伎を楽しんでいただきたい」という夢を具現化し、2000年に誕生した平成中村座。舞台と客席が密接な一体感を持ち、江戸時代の芝居小屋の雰囲気を味わえる空間は、国内はもちろんアメリカのニューヨーク、ドイツのベルリン、ルーマニアのシビウ、スペインのマドリードといった各地の観客も魅了してきた。天保13年に中村座をはじめとする江戸三座が相次いで開場し、浅草聖天町が猿若町と称されるようになって180年となる今年、平成中村座が4年ぶりに浅草の地に帰ってくる。2022年10月、11月に行われるのは、宮藤官九郎による新作歌舞伎『唐茄子屋~不思議国之若旦那~』をはじめとする演目。公演に向け、中村勘九郎、中村七之助、松竹株式会社 専務取締役・山根成之による会見が行われた。
山根:コロナ禍により、この2年企画は立つものの中々進められない状況でした。10月・11月にようやく公演を行えることを本当に嬉しく思っています。しかも今年は、江戸時代天保の開拓で江戸三座が猿若町に集まって180年という節目。「平成中村座」は勘三郎さんの熱く深い思いの結晶として2000年に生まれました。今回の大きなポイントのひとつが、平成中村座で初の新作歌舞伎。宮藤官九郎さん作・演出で、浅草近辺が舞台となっている落語の『唐茄子屋政談』をモチーフにした作品を2ヶ月にわたって上演します。とても楽しみな浅草のお芝居になると思いますので、ぜひ楽しみにしてください。
勘九郎:コロナという未知のウイルスと戦う日々の希望・夢は、この中村座を早くやりたいということでした。実現は松竹やフジテレビの皆様や浅草の方々など、多くのお力添えがあってのことですから本当に感謝しています。また、宮藤さんが新作を書き下ろしてくださるということで。まだ本はあがっていませんが、古典落語をベースにした人情喜劇という構想を聞き、これは古典になりそうだと感じました。この状況下でわざわざ足を運んでくださる皆様に楽しんで帰っていただけるよう、一生懸命作っていきたいと思います。
七之助:この浅草の地での中村座2ヶ月公演を行うという嬉しい報告をできること、本当に幸せに思っております。先ほどから話に出ている通り、中村座の計画は何回か立ち上がっていたんです。時間はかかりましたが、皆様に安心して観ていただけるよう、全てのスタッフで一生懸命いいものを作っていく所存です。
宮藤官九郎コメント
2月のコクーン歌舞伎『天日坊』が好評だったので嬉しい半面モヤモヤしました。「けど、あれは脚色ものだし」「けど、オリジナルは賛否分かれちゃうし」「けど、念願の中村座だし好きなことやりたいし」「けど、好きなことやると賛否分かれちゃうし」ぐるぐる考えた末、大好きな古典落語をベースに新作を書くことにしました。『唐茄子屋政談』は吾妻橋から浅草寺あたりの狭いエリアを、若旦那が右往左往する人情噺。吉原の傾城との恋もある。勘九郎さん七之助さんにピッタリです。そこに『不思議の国のアリス』の要素をちりばめ、誰が見ても楽しめる人情喜劇になるはず。ならないとマズい。賛否じゃなくて、好かれたいんです!
中村勘九郎
中村七之助
松竹株式会社 専務取締役・山根成之
ーー浅草の地での公演に対する心境を教えてください。
勘九郎:コロナ前から計画していた公演も中止になっていたので、本当に嬉しいです。ご存知の通り、中村座は江戸の芝居小屋をそっくりそのままワープさせたような小屋。密な空間の中でどうするか話し合いを重ね、今回できるようになったのでとにかく嬉しいですね。
七之助:中止になったことに関しては申し訳ない気持ちでいっぱいですが、再始動して一発目が浅草の地での2ヶ月間の公演というのは、すごく良かったんじゃないかと思います。私たちは10代の頃から浅草公会堂で素敵な役をたくさんやらせていただき、そのおかげで今があると思っています。生まれてからずっとお世話になっている浅草の地での再始動。コロナ禍で浅草公会堂での若手公演もずっと中止になっており、友達の尾上松也などからも早くやりたいと聞いていましたので、若手の悔しい思いも代わりに晴らしたいと思います。世の中も段々と復活してきていると感じますから、浅草の町がもっと活気を取り戻してくれたら嬉しいですね。
ーー脚本が宮藤官九郎さんということですが、いかがでしょう。
勘九郎:役柄としては若旦那が私ですね。2月に再演を行った『天日坊』は(宮藤が)脚本・脚色でしたが、歌舞伎で新作を書いてくれるのは『大江戸りびんぐでっど』以来なので、すごく楽しみです。演出もやってくださるので、中村座の空間を楽しみ、私たちもまだ発見していない魅力を見つけてくれることを期待します。
七之助:20代前半の頃『真夜中の弥次さん喜多さん』で初監督作品に出演して以来ずっとお世話になっています。個人的な意見としては、最近の宮藤さんの脚本は神がかり的な面白さ。コメントは「褒められたい」と弱気なので褒めてあげてください(笑)。個人的に『大江戸りびんぐでっど』は大好きですが、賛否が分かれましたね(笑)。今回は全部「賛」でお願いします。賛になるよう、私たち役者も一生懸命努めます。
勘九郎:宮藤さんは本当に落語がお好きですし、落語から歌舞伎へという作品も数多くあります。それが古典になるんじゃないかと思う理由のひとつ。どんな解釈で描かれるのか。さらに『不思議の国のアリス』が入ってくるわけですから、本当に楽しみですね。
ーー宮藤さんの作品の魅力はどこにあると思いますか?
勘九郎:物語のテンポもそうですし、見る人をワクワクさせる構成がありますね。私たちも台本をもらってページをめくるのが楽しいんです。今はYouTubeなどで名人たちの『唐茄子』が見られますし、そこに『不思議の国のアリス』というエッセンスが加わるのが本当に楽しみですよね。
七之助:宮藤さんは古典落語なども大好きでそういった脚本も書けます。また、『天日坊』では作中で「マジか」という現代語が出てきますが、そのセリフが普通に「本当か?」と普通に言うより心に刺さる。それでいて現代語には聞こえない。そのバランスが上手いし、歌舞伎の中に宮藤さんの世界をスッと入れてくる魅力がありますよね。
ーー平成中村座を作った勘三郎さんがお亡くなりになって10年経ちます。改めて、想いを聞かせていただけますか。
勘九郎:平成中村座が始まったきっかけが、父が19歳の時に状況劇場・紅テントで観た唐さんの『蛇姫様』。「これがやりたい、こういう空間でやりたい」という父の夢が詰まった小屋です。古典から新作までなんでもできる空間を作ってくれた父に感謝しないといけません。この浅草の地で、父も大好きだった宮藤さんが脚本を書いてくれて、悔しがるよりもすごく喜んでくれていると思いますね。父がお腹を抱えて笑ってくれるような作品を作っていきたいです。
七之助:なくなって気付くじゃないですが、本当にたくさんの方から「早く復活してほしい」というお言葉を頂戴しました。父が若かりし頃から持っていた夢を40代でえ、国内だけじゃなく海外でも公演を行う背中を見せてくれて、私たちもがむしゃらについていった結果が、お客さまからの言葉につながっていると思います。兄が言う通り父も喜んでくれていると思います。
ーー平成中村座という空間の魅力、ここだからできることとは。
勘九郎:逆に、中村座で挑戦できないものはほとんどないと思います。宙乗りもできますし、すっぽんも迫も廻り舞台もある。例えば歌舞伎座は広いので、貧乏長屋などもすごく立派な家に見えちゃうんですよね。中村座では世話物・庶民を描いた作品にリアリティが生まれます。やりやすい空間だと感じますね。
ーー今後の歌舞伎界に期待することはありますか?
勘九郎:8月の公演から客席も97〜8%までお客様を入れていい状態に戻りますから、若い人や歌舞伎を観たことがない人たちにも観にきてほしいですね。
七之助:役者のことを言いますと、私たちより下の役者たちが舞台に立つチャンスを増やしていきたいですね。今は先輩の芝居を見ることもできていないので、元通りの環境が早く戻ってほしいなと思います。
ーー若手のお話が出ましたが、今回は試演会などの計画はおありでしょうか。
勘九郎:コロナ禍ではまだ難しいんじゃないかということになり、その代わりとして見取狂言の一本を、若手を含めたみんなで作れたらいいなという話をしています。
ーー2ヶ月続けての公演で様々な演目を行います。観てほしいポイントはどこになりますか?
勘九郎:まだ演目など詳しくは決まっていませんが、一番大切にしたいのは、自分達がやりたいものではなくお客様が求めるもの・楽しんでもらえる作品をお届けすることだと思っています。
七之助:宮藤さんが新作を書いてくださるというだけで、本当は大丈夫なんですよね。ただ、素晴らしい芝居があったとしても、時代物があって踊りがあって芝居というのが父のこだわりでした。素晴らしい新作に加えて、先人が築いてきた古典歌舞伎の演目もお客様に知ってほしいという思いがあっての見取狂言。あとは兄が今言った通り、お客様目線で考えて演目を決めていきたいと思います。
(左から)中村勘九郎、中村七之助
取材・文・撮影=吉田沙奈

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