ツユ、第三章の幕開けとなった初の日
比谷野音ワンマンをレポート

ツユ 3rdアニバーサリーワンマンLive『雨模様』

2022.6.12 日比谷野外大音楽堂
昨年11月に行なったワンマンライブ『終点の先が在るとするならば。』で、第二章を締め括ったツユ。そこから約半年間、3人は制作期間に入り、表立った活動をしていなかったのだが、5月に新曲「いつかオトナになれるといいね。」を発表。結成3周年記念日の6月12日(日)に、『雨模様』と題したワンマンライブを日比谷野外大音楽堂にて開催。ツユ初の野外公演で、第三章をスタートさせた。
ツユ
梅雨時真っ只中での野外ライブという、いつ雨が降ってもおかしくない状況ではあったものの、ライブ当日の午後は青空に。暑くもなく、決して寒くもないという抜群のコンディションとなった。ユニット名がツユなだけあって、雨が降ればいいのにと一瞬思ったりもしたのだが、これはこれで最高。場内では、『やっぱり雨は降るんだね』収録のインストナンバー「夏浅し」がリピートされていて、なんとも心地よい空気が漂っている。
礼衣
ライブは定刻通りにスタート。SEとして「秋雨前線」が流れる中、鮮やかな紫陽花と色とりどりの雨傘が飾られた舞台に、まずサポートメンバーの樋口幸佑とKei Nakamuraが登場(なお、マ二ピュレーターは1stワンマンから担当しているあすきーが務めた)。続いて、ぷすとmiroが手を振りながら笑顔で、そして、礼衣は軽くお辞儀をして、手を挙げてステージに入ってきた。1曲目は「やっぱり雨は降るんだね」。雨粒が跳ね上がるような軽やかさはありながらも、憂いに満ちた言葉たちを礼衣が伸びやかな歌声で客席に届けると、続けて「風薫る空の下」へ。ぷすが耳に残るフレーズをつま弾き、miroが身体を左右に揺らしながら鍵盤を弾きあげると、オーディエンスは手拍子をしたり、リズムに合わせて水色の団扇を振ったりと、まさに空の下でツユの演奏を楽しんでいる。
ぷす
miro
ツユの歌詞は、劣等感、葛藤、後悔といった鬱屈した感情が綴られていて、ライブという空間では、それらがより生々しさをもって伝わってくる。それと同時に、ツユの楽曲は、1曲に込められた情報量が多く、かなりトリッキーだ。大胆な曲展開が施されていたり、メロディラインが複雑で符割も細かかったり、ときにはギターも鍵盤も歌以上に激しい演奏を繰り広げたりする。
ツユ
この日のライブは、野外というシチュエーションも手伝って、綴られた言葉はもとより、そんなトリッキーで熱量の高い楽曲たちに高揚させられる瞬間がとても多かった。繰り返されるテンポチェンジと壮絶なハイトーンで聴き手を揺さぶる「デモーニッシュ」や、ダンスミュージック的な意匠を扇動的なライティングがよりアッパーなものにしていた「テリトリーバトル」など、聴きどころのオンパレードだったのだが、特に凄まじかったのが、「あの世行きのバスに乗ってさらば。」から「終点の先が在るとするならば。」を曲間ゼロで繋いだ場面。アレンジの妙はもちろん、歴戦のロックバンドにも引けを取らない勢いで駆け抜けていく様に、とにかく興奮させられた。さらに、この日初出しの新曲も披露。アップテンポで展開も多く、歌いっぱなしの弾きっぱなしというツユらしい曲で客席を盛り上げていた。
ツユ
また、野外というシチュエーションにあわせて用意された楽曲に加え、そのセットリストや演出でも魅了していく3人。miroが奏でる優麗なピアノの旋律に、礼衣が柔らかく歌声を重ねた「梅雨明けの」や、このライブのために作られたという「雨模様」は、瑞々しさのあるサウンドが、空の下というシチュエーションになんとも映える。「忠犬ハチ」では、陽が暮れかけてきた野音の空に、ぷすがエモーショナルなギターを響かせると、そこから続けた「アサガオの散る頃に」の直前では、会場付近にいた鳥のさえずりが聴こえてきて、楽曲が持つ感傷をより高めてくれる。陽が暮れた後、miroのピアノソロからなだれ込んだ「くらべられっ子」では、ステージに設置された白熱電球が灯り、幻想的な空間を作り上げていた。
ツユ
野外公演なのもあり、全編通してとても開かれた印象を受けるステージになっていたが、それを決定づけるものであり、これまでのツユのライブと大きく違ったところとしてあったのが、MCだろう。過去3rd・4thワンマンでは、本編ではMCの時間を設けず、アンコールでようやく、という構成になっていたのだが、この日は「外だし、明るい感じだし、ポップな感じでいこうと思って」と、曲間に挟む形で、かつ、多めに設定したとのこと。「みんなの顔が見えるから緊張すると思ったら、逆に安心した」と、興奮気味に口を揃えるなど、「永遠にしゃべっちゃう」と、なんとも楽しそうに話す3人。また、miroが「実は鍵盤にコガネムシが挟まっている」と、アンコールの最後の最後で告白。どうやら「くらべられっ子」に入る前のピアノソロの時点ではいたらしく、うまく避けながら弾いていたそうだ。それもそれですごい話なのだが、「ホントだ! シのフラットのところにいます」と礼衣が状況説明し、客席の笑いを誘っていた。
ツユ
そんなツユを“変わった”、もしくは“変わってしまった”と捉える節もあると思う。事実、約半年振りの新曲として発表された「いつかオトナになれるといいね。」は、これまでのツユのイメージとかなりかけ離れた楽曲だった。心の鬱屈を吐き出すという点においてはこれまでと変わらないのだが、〈推しぴ〉や〈害悪行為〉といったワードや、〈盲目!信者!〉というコール&レスポンスを想定したであろうパート、電波ソング的な掛け合いを盛り込んだアレンジや曲のテンションに驚いたリスナーも多いだろう。この日のライブでは、ぷすと礼衣の2人編成で披露されたのだが、曲を終えると、開口一番「この曲、大変すぎます!」と叫ぶ礼衣。ぷすは、あまりにも他の曲と差がありすぎて「なんだこの曲!」と笑っていたが、「同じような曲を作っていると気持ちやモチベーションがなんとなく下がってくるから、カウンターパンチを打ちたかった」と、この曲を作った経緯を話していた。第三章の開幕にあわせて、変わっていきたいというよりは、様々な面を見せていきたいという欲求が高まっているのかもしれない。
ツユ
そしてもうひとつ、この日のライブで、「一応メジャーレーベルに所属した」と、ぷすからの報告があった。これまで事務所にもレーベルにも所属せず、完全独立で活動してきたツユだったが、「自分たちの曲がまだ届いていないところにも届けていきたい」と、熟考の末、所属することを選んだそうだ。しかし、レーベルには所属したものの、いまだに事務所には無所属。「つまり、活動の仕方はこれまでと変わらない。基本的に僕らで考えることができる。ただ、僕らが作った音楽をより表に出せる。だから、みんなにとってマイナスなことはない」と、ぷす。状況の説明は丁寧に、それでいて比較的サラっとした口調や温度感だったこともあって、「これまでと変わらない」「マイナスなことはない」というユニットの想いや、そのメッセージがより強く伝わってきた。そして、最後は別れを惜しむように、「ロックな君とはお別れだ」を披露。初の野外公演を締め括った。
ツユ
新しい顔を覗かせた120分のステージになったが、これがツユの新たなスタンダードになるのか、それとも、野外公演というスペシャルなシチュエーションだからそうなったのか。それはここから明らかになってくると思うが、これからも3人が刺激的な楽曲を作り続けることは間違いないだろう。ツユの第三章は、まだ始まったばかりだ。

文=山口哲生 撮影=森好弘

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