「これ相っ当、観たことない作品にな
ると思いますよ!」 ~新作オリジナ
ルミュージカル『COLOR』 浦井健治×
成河インタビュー~

草木染作家の坪倉優介氏が自身の体験を綴ったノンフィクション、「記憶喪失になったぼくが見た世界」がホリプロ製作によりミュージカル化される。出演者は「ぼく」「母」「大切な人たち」の3名のみで、音楽を植村花菜が、脚本を高橋知伽江が、演出を小山ゆうなが手がける話題作。自分自身や両親のことも、食べる・眠るといった感覚さえ忘れてしまった「ぼく」と、「大切な人たち」の二役を分け合う浦井健治と成河が、互いの印象や「能動的に関わっている」というクリエイションの様子を明かしてくれた。
出自の異なる二人の共通項は“天邪鬼”!?
――撮影時から和気あいあいとした雰囲気でしたが、共演は『ビッグ・フェラー』(2014)の一作のみですよね……?
浦井:そうなんですよ。でも成河のことは共演する前から、同世代の中でも飛び抜けて凄い役者として僕は惚れていて。それが共演してみたらかなりフレンドリーで、このツンデレ感というか(笑)、ギャップ萌えにやられています。
成河:僕も共演する前から、健ちゃんの名前は聞いてました。僕は雑食で、どこにでも生える雑草みたいなものだと思っているし、ずっとそうありたいとも思ってるんですね。それで色んなところに顔を出して、ミュージカルの同世代にも会い始めていた時に『ビッグ・フェラー』があって。同世代の中でもね、健ちゃんはちょっと違って、変な奴なんですよ(笑)。
浦井:そう、「大丈夫なのかなコイツ」っていうね。ははは!
成河:いや全然、そういう不安さではなくて(笑)。やっぱり出自ですよね。大きなマーケットとしての“ミュージカル”の俳優たちとも、もちろん僕とも違う。だから思考回路も表現方法も独特で、めちゃくちゃ面白いなあと思ってます。
成河
浦井:確かに成河と僕では、やってきたことが本当に違うよね。僕の中で成河は、“ミュージカルの人”では全くないし。
成河:ないね。そういう意味で言ったら、今回は4人とも出自がバラッバラ。「母」役は劇団四季出身の(濱田)めぐみさんと、宝塚出身の柚希(礼音)さんですからね。
浦井:メエ~!
成河:何それ、分かんない(笑)。
浦井:ひつじ!
成河:あ、出自だから羊か。俺の滑舌が悪いみたいじゃねーか!(笑)「出自」が違うのでね(笑)、面白いなあと思いますよ。

浦井健治、成河

――お互いの出演作で、特に印象に残っているものは?
浦井:僕は『春琴』(2013)ですね。
成河:わ、それは嬉しい!
浦井:あの作品はもう、生涯忘れられないです。とんでもないものを観たって、立ち上がれなくなる経験を初めてしたんですよ。観たことない景色、聴いたことない音ばっかりという空間で、ずっと浸っていたいくらい本当に素晴らしかった。終演後に出演者と面会するために、お客様がいなくなった劇場ロビーで待ってたんですけど、一緒に待っていた青井陽治先生やプロデューサーの方、もうみんなが溜息をついてましたね。
成河:あれは凄い作品だったよね。世田谷パブリックシアターが演出のサイモン・マクバーニーと10年かけて作ってて、僕らが参加したのは初演(2008年)前の最後の1年。
浦井:それでも1年かかってるんだ! そりゃそうだ、あれだけのことをやるんだもんね。
成河:そうそう。演劇製作って、人材とか才能以上にやっぱり環境だなと思うよね。健ちゃんの作品で印象的なのはね、いっぱいあるんだけど、パッと思いつくのは『星ノ数ホド』(2014)。あれは本当に素っ晴らしくて、忘れられないですね。ただ僕、どの作品を観ても共通して「健治すごいな」って思うことが1個あって。
浦井:なに、怖いよ(笑)。
浦井健治
成河:世間の浦井健治評って、けっこう間違ってると思うんですよ(笑)。健治は従順そうに見えて、実はすご~く天邪鬼。「カンパニーとしてあっちに行きたいのは分かってるけど、僕はこっちもやってみたい」ってことを、お客さんには気付かれないレベルで、必ず本番でもやってるんです。もちろん、ダメってなったらすぐやめるんだけど、毎回新しいことを実験してる。そういう役者として貪欲な感覚は、知ってる人少ないんじゃないかなって。
浦井:僕自身、無自覚な部分なんだけどね。成河には見抜かれてる(笑)。
成河:客席から観ててもけっこう分かるんだよ。そこが健治の不思議な良さだと思う。
浦井:そう僕、こう見えて天邪鬼なんです!
成河:まあ天邪鬼ではね、俺も負けてないと思うけど(笑)。
浦井:そうだよ、誰よりも天邪鬼だよ!(笑)
>(NEXT)ノンフィクションを演劇にするための”語り手”
ノンフィクションを演劇にするための“語り手”
――そんなお二人が今回、「ぼく」と「大切な人たち」を役替わりで演じられるわけですが、それぞれどんな役なのでしょうか?
浦井:この間、初めて4人揃ってのリーディングワークショップをやったんです。そこで出た色々な意見をもとに、今また台本が変わって第6稿まで来てるところなので、「大切な人たち」を今の時点で説明するのは難しくて。
浦井健治
成河:新作を作るのってやっぱりすごく大変なことで、今は立ち上げている渦中にあるのでね。要は、主人公である「ぼく」と「母」の話を二人の主観で描くならドラマでやったほうがいいわけで、演劇にするためには“語り手”という第三者が必要。それを「大切な人たち」が担うわけですけど、どの視点でどう語るかを話し合っている最中なんです。
浦井:お客様に橋渡しをする役割が必要なんだよね。それと、楽曲が今回すごく素晴らしいので。コンサートとして上演してもきっと感動できてしまうんですけど、それでは惜しいという話もしています。
成河:そうそう。ドラマでもコンサートでもなく、演劇としてどういう形にするのがいちばん相応しいのかを模索中ということですね。心あるプロデューサーさんが大切に大切に準備してきた作品で、僕らが能動的に関われる風通しのいい環境も作ってくださっているから、“演劇にする意味”を最後まで諦めないで模索していきたいなと。
浦井:まだそういう段階ではありますが、「ぼく」も「大切な人たち」も僕と成河では、それこそ“カラー”が全然違うものにはなると思います。両方観ていただけたら、より深く味わえたり、違う作品を観てるような感覚になったりしてもらえるんじゃないかな。
浦井健治、成河
――記憶をなくした青年が新しい世界を歩み始めるという、物語自体の印象はいかがですか?
浦井:やはり原作がノンフィクションなので、ヒリヒリせざるを得ないというか、お客様にどう伝えられるかという部分で大きな責任を感じます。戻らない記憶と向き合ったご本人の気持ち、それを支えたお母様のお心を思うと涙が出てきてしまうのですが、伝える側がそれだけではいけないし。
成河:僕が原作を読んでいちばん関心を持ったのは、記憶をなくした彼が、僕たちが当たり前だと思っている社会に適応しようとしていく時のズレと軋轢、それでも乗っかっていったっていう過程ですね。僕たちが当たり前だと思ってる社会では、「お腹が空いてるのかどうかも分からないのはつらいだろう」という発想になってしまうけれど、彼がつらかったのはきっとそこじゃないと思うんです。僕らの基準で、彼にとって何がつらいとか可哀そうだとかって話になったら絶対にダメだと思う。
浦井:だから語り手が重要になってくるんだよね。
成河:そう。我々が当たり前に過ごしてる社会は、果たしてすべて正しいのか。そういうことをいちいち考えさせられるなあと思いながら原作を読んだので、演劇としても「可哀そうな人が頑張って克服した話」にならないようにしないといけないと思ってます。

成河

>(NEXT)面白くてヘンテコなものが生まれたら成功!
面白くてヘンテコなものが生まれたら成功!
――ここでひとつ、作品にちなんだ質問を……。くだらなくて恐縮ですが、お二人ならきっと広げてくださると信じて、好きな色を教えてください!
成河:好きな色、好きな色……超難しいね!(笑)
浦井:難しいし、広げようがないですよ(笑)。
成河:1個決めるって、俺はちょっと無理だなあ、しょっちゅう変わるから。
浦井:じゃあ僕は、黒で!
成河:え、ずっと変わらず?
浦井:ううん、今(笑)。今日も黒、着てるし。
成河:だははは! どうしよう俺、着たいものも持ちたいものも、マジでしょっちゅう変わるからな。ほらやっぱり、雑草だからさ!
浦井:雑草ってことは、じゃあ緑かな?
成河:ああもう、稽古着が全身緑だった時とかあるね!
浦井:あるんだ(笑)。
成河:今は全く着たいと思わないけど。僕らって、色を変える仕事ですからね……ってことでどうでしょう?(笑)
浦井:素晴らしい!
成河
――カメレオン俳優みたいなことですか?
成河 俺その言葉、意味が分からない! 俳優がカメレオン俳優じゃなかったら大変だよ。実力派俳優とか個性派俳優とかもそうだけどさ、そうじゃない俳優は何なの⁉ ってなる(笑)。
浦井:それ、佐藤二朗さんも似たようなこと言ってた(笑)。
成河:でしょ? ほんっとにそう思うわ。
――失礼しました(笑)。最後に改めて、意気込みの程をお聞かせください。プロデューサー氏は原作について、「日常にはささやかでキラキラした幸せがこんなにあるんだ、生きることの楽しさを改めて感じる作品」と語っていらっしゃいますが、お二人が目指すミュージカルもやはりそういう作品ですか?
成河:そういうことが一つのテーマとしてあるとは思いますけど、「日常のささやかさって豊かだよね!」っていうのがメッセージだと分かり切ってたら、演劇としてやる必要はないわけで。僕たちにとって日常のささやかさとは何なのかを、目の当たりにできる公演でありたいなと思います。日常のささやかさが本当に素敵なのかどうかは誰にも、少なくとも僕には分かってない。もしかしたら何か無駄なこと、たとえば所有欲とかにこだわっていて、それが自分を苦しめてることだってあるかもしれないし。
浦井:いいこと言うなあ。
成河:本当の意味で日常を見つめて、疑って、まだ気付いていないことを1個1個見つけていく作業が劇場で、お客様それぞれの脳みその中で行われていったら素敵だなと思います。何かが見つかればいいし、見つからなくてもいいし。
浦井健治
浦井:本当その通り。コロナ禍で日常が変わってしまって、色んなことがより分かりづらくなって、分かろうとする気持ちもおざなりになっているような気がします。そんな日常を見つめようとする僕たちは、記憶を失って新しい自分に出会っていく「ぼく」と、ちょっとリンクするんじゃないかと思いますね。
成河:うん、それはやっぱりデカいよね。
浦井:僕らが新国立劇場の小劇場という場所だからできるトライをして、それをお客様に目の当たりにしていただくことで、みんなできっかけをつかもうという気持ちになれたら素敵だなと思います。それと、ミュージカルとして目指すものという意味では、やっぱり楽曲がかなり印象的なので。流され過ぎず、ちゃんと届けられるように、という思いですね。
成河:そうだね、チャレンジチャレンジ! これ多分、相っ当観たことのないものになると思いますよ。あ、これ書いといてね(笑)。今ある情報から想像できるようなものになったらもったいない。面白くてヘンテコなものが生まれたら、それが成功だと思ってます。

浦井健治、成河

【浦井・成河】ヘアメイク:タナベ コウタ
【浦井】衣装協力:REV(Blue IN Green PR 03-6434-9929)スタイリスト:吉田ナオキ
取材・文=町田麻子 撮影=荒川潤

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